ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
村に訪れてから5日ほど経過した。積極的に村の人と交流していたのもあって、あっちから声をかけてくれる程度には親交を深めることはできた。
少なくとも初めてこの村に来た時のように見た目だけで不審がられることはない。
「それにしても気付けば5日か」
こんな悠長にしていていいものなのかとふと思ってしまったが、アデルのことを後回しにしてまでやることがないのも事実。
クラリスを探そうにも、ラブリナたちも所在は分からないらしい。俺の墓を一緒に作った後、気付いたらいなくなっていたいたそうだ。
タマモさまから闇堕ちしたと聞かされているので、俺が死んだ影響で間違いなく悪い方へと進んでいるのは確かだ。世界の敵になる前に見つけたいんだけどな⋯⋯。
「今、戻ったわよー」
そうこう考えているうちにガチャっと扉が開いて、胸元を大胆に開くというセクシーな衣装を着たラブリナが帰ってきた。
彼女はアデルの容態を見に行くと言って、朝早くから出掛けていた。逆に俺は特に予定もなかったので、ラブリナが作ってくれた朝食を食べならゆっくりしていたわけだ。
一応、昼からは村の人に手伝って欲しいと言われたことがあるので完全な暇人ではない。
「アデルって子の容態は?」
俺の向かい側の席にラブリナが着いたのを確認して問いかける。
「かなり良くなったわ。一時期は危ないところだったのだけど、採ってきた薬草が効いたみたい」
「そうか」
「今ならアデルちゃんと会っても大丈夫だと思うわ」
どんな顔をして、アデルと会えばいいんだろうな。
色々と考える時間はあったが、俺のせいで悲しんでいるアデルにかける言葉がやはり見つからない。
ガイドとして励ます言葉ならいくらでも浮かび上がる。だが、関係値の出来上がっていない他人としてアデルと接した場合、俺はなんて声をかけたらいい?
ラブリナですら、心に傷を負ったアデルを完全に救えていない。仲間の献身でさえ、それが限界だ。
ガイドでもなんでもない仮面をつけた怪しい男の言葉が、今のアデルに届くだろうか?
いや、違うか。
届くかどうかじゃない、届かせないといけないんだ。アデルが心に傷を負ったのも、悲しみに涙を流すのも、全て俺の責任だろ。
どんなことをしても、俺がアデルを救わないといけない。それが俺の役目なんだと思う。
「分かった。けど、前にも言ったが俺は彼女にとって初対面の人間だ。嫌な思いをさせないか?」
「そうね⋯⋯面識のない相手だから、もしかしたら嫌がるかもしれないわ」
十中八九、会うのを嫌がるはずだ。
落ち込んでる時に、知らない誰かと会いたいとは思わないからな。
「けど、この新しい出会いが大事だとあたしは思うの」
「⋯⋯過去を忘れるためか?」
「いいえ、過去を乗り越えるためよ」
自信満々にラブリナは言い切った。
どういう根拠かは知らないが、ラブリナは俺との出会いがアデルに良い影響を与えると考えているらしい。
ラブリナの期待に応える⋯⋯いや、アデルのためにできることをしよう。
「わかった。会うタイミングはラブリナに任す」
「それじゃあ、ガイドちゃんがそれを食べ終えたら向かいましょう」
思っていたより急だな。
何か急ぐ理由があるのか聞いたが、特に理由はないらしい。
「善は急げって言うでしょ?」
「まぁ、そういうことにしておこう」
残っていた朝食をササッと食べ終えて、ラブリナが食器等の片付けしてから一緒に家を出た。アデルが住んでいる家はラブリナの家の直ぐ横。歩いて数秒で着くような距離だ。心の準備をする時間すらない。
「アデルちゃん、入るわよ」
先に確認を取ってくると言い残してラブリナがアデルの家へと入っていく。残された俺一人がポツンっと突っ立っている状況。なんとなく寂しい気分になった。
「ん?」
待たされること数分。アデルの家の扉が開き、顔だけ出したラブリナから『入っていいわよ』と言われたので、一呼吸入れてから家の中へと足を踏み入れた。
家の造りは一般的なもので、入ってすぐに居間がある。主に家族との団欒やくつろぐスペースではあるのだが、普段から利用していないからかテーブルと椅子があるだけで何も無い寂しい空間だった。
「こっちよ」
部屋を見渡している俺にラブリナが声をかけて、手招きしている。仕切りで隠している居間の奥に、どうやら寝室があるらしい。呼ばれるがままに向かうと、最初にベッドが目に入った。
「彼女が、アデルよ」
そして、上体を起こした状態で俺を見つめる栗色の瞳と目が合った。赤い万華鏡のような模様の入った特徴的な瞳。
思っていたより顔色が良い。ロビンのようにやつれている様子もない。しっかりと食事は取れていたらしい。目鼻立ちの整った主人公らしい美少年⋯⋯いや、美少女か。
髪は最後に見た時よりも長くなっているな。セミロングくらいか?髪型こそ違うが女主人公の髪の長さと同じくらいだ。少しボサボサで、それが俺の知るアデルによく似ていた。
大変失礼だが、胸に膨らみはない。髪が伸びた分女性のようにも見えるが⋯⋯単純にアデルの髪が伸びただけのようにも取れる。ゲームの知識があるせいで、どうしても認識に邪魔が入る。
まぁ、ラブリナがわざわざ嘘を言うとは思えないのでアデルは女の子なんだと思う。そう思って接しよう。
「君が、ラブリナが言ってた新しい友人?」
───アデルだ。
そこに居たのは紛れもなく俺の知っている親友の姿。
目の下に濃いクマはあるが⋯⋯表情は明るく、初対面のはずの俺に明るく笑いかけてくれた。
正直、拍子抜けした。
勝手ではあるが、もっと酷い状態を想像していたので⋯⋯俺の知っているアデルがそこにいて戸惑っている。なんて反応したらいいか、自分でも分からない。
「ガイドちゃん」
「っ───」
心配するようなラブリナの声でハッと我に返る。ラブリナだけじゃない、アデルもまた俺のことを心配そうに見ている。
「すまない、ラブリナから聞いていた話と違っていたから」
嘘偽りのない本音だ。ラブリナの話ではアデルは落ち込んでいると聞いていた。俺の死を引きずって、泣いていると⋯⋯。
いや、よくよく観察すれば確かに涙を流した跡がある。
「ん、どういうことラブリナ?」
「最近のアデルちゃんは元気がないって言っちゃって」
「あー、そういうことか。見ての通り元気だよ。心配する必要がないくらい。だから、君もボクのことを心配しないでいい」
違う。
明るく振舞ってるだけだ。
涙を隠して、悲しみを隠して⋯⋯気遣われないように気丈に振舞ってるだけ。
ラブリナに視線を向けると、小さく頷いた。
「わかった。⋯⋯そう言えば名乗ってなかったな。ガイドだ。よろしく頼む」
表情に変化はない。貼り付けたような笑顔を浮かべたまま、アデルは口を開く。
「ラブリナの友達らしいから覚えておくよ。けど、何を言われたかは知らないけどボクのことは気にしなくていい。ラブリナと仲良くやりなよ」
言葉の裏からボクに関わるなと、強い拒絶が感じ取れた。
俺の知ってるアデルとは違う。多分、心に余裕がないんだ。自分のことで精一杯で、人を気にする余裕がない。だから、自分から遠ざけようとしている。
これが仲間なら、対応は違っただろうな。ラブリナのように気心の知れた間柄なら、自分の弱さを見せたかも知れない。
けど、今の俺はガイド・ルーカスじゃない。ラブリナが連れてきた見知らぬ人間に過ぎない。心を許す以前に関わりを持ちたくないってなるのが自然。俺が同じ立場なら、そうする。
仮面をつけた怪しい男と落ち込んでる時に関わりたいか? 答えはNOだ。なんというか、怪しい話を持ち掛けられそうな、そんな不安すら感じるだろう。
ただ、仲間であるラブリナが連れてきたというのもあって、失礼な対応は出来ないので今のやり取りに繋がったとみていい。
ラブリナに視線を向けると心配そうに⋯⋯だが、どこか期待するような表情で俺を見ていた。アデルと会話をして欲しいってことか。
さて、どうするか。想定していた状況と違うし、明らかに歓迎されていない。初めてアデルと会った時よりも、悪い状況でのファーストコンタクトか。
「なにか?」
何を言おうか悩みながらアデルの顔を見ていると、不機嫌そうに眉が寄った。当然の反応だ。
「いや⋯⋯」
これを言って大丈夫だろうか? そんな不安を感じながら、思ったことを口にする。
「
初めてアデルに会った時、俺は同じ言葉を口にした。まるでナンパみたいな出会い方だったな。
あの時のことは今でも良く覚えている。『綺麗だと思う?ボクもそう思ってるんだ』って嬉しそうに笑うアデルと、交流が始まったきっかけだからな。
俺とアデルを結び付けた言葉。
もしかしたら、今のアデルにも届くんじゃないかと思って口にしていた。
「っ───」
───変化は劇的。
悲しみ、困惑、そして怒りへと感情が移り変わっていくのが感じ取られた。思っていた反応と違うと思った時には、すでに遅かった。
「今すぐ出ていけ!!ボクは、君が嫌いだ!!!!」
───あれ?