ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
家を追い出された。
より正確にいうとラブリナに連れられるがままに家から出てきたというのが正しい。
なんと言えばいいだろうか。そうだな、失敗。これに尽きる。
言葉選びを間違えたとかじゃない。あの時のやり取りを───思い出がアデルにとってどれだけ大切だったか、それをよく考えるべきだった。
同じセリフでも言う人間が違えば捉え方は当然違う。初対面という状況は同じだったが、ガイド・ルーカスと共に作ってきた思い出がアデルの中で既に積み重なっていた。
俺がしたことはその思い出を踏み躙るのと、同義。アデルが怒っても無理はない。むしろ、当然の反応と言える。
「ガイドちゃん」
外に出て陽の光を浴びて、頬を撫でる風を感じて⋯⋯ようやく自分がバカなことをしたと悟った。遅すぎるくらいだ。
「ごめん、ラブリナ。期待に応えるどころか、怒らせてしまった」
ラブリナは俺とアデルを会わせることで、過去を乗り越えられると思っていた。新しい出会いが、アデルに良い影響を与えると。
結果でいえば失敗だ。良い影響どころか、アデルを怒らせて終わりだ。ラブリナの期待を裏切って、アデルの心を更に傷付けて⋯⋯どうしようもない結果で終わった。
ラブリナに頭を下げる。
大切な仲間を怒らせた。ラブリナから、罵声が飛んできても仕方ない状況だった。けど。
「ありがとう、ガイドちゃん」
「え?」
ラブリナの口から出てきたお礼の言葉に、思考が止まる。なんで、ありがとうって言葉が出てきた?ラブリナの顔を見ると、どこか嬉しそうに笑っていた。
アデルを怒らせたのに、どうして嬉しそうなんだ?
「なんで、お礼を⋯⋯」
「あたしはこの三年間⋯⋯アデルちゃんの悲しんでる姿しか見ていないの」
俺が死んだあの日から、ラブリナはずっとアデルのことを励まし続けた。傍にいて、献身的に彼女を支え続けた。
「久しぶりに、あの子が怒ってるところを見たわ」
「それは⋯⋯」
いい意味なのか?
お礼を言われるようなことなのか? どうしても違うと思ってしまう。
「今頃、ガイドちゃんに対して怒ってるんじゃない。なんだアイツって」
「まぁ、そうだろうな」
実際、ラブリナに連れ出されるまで俺のことをすごい顔で睨んでいたからな。俺が家から出て直ぐにあの怒りが治まるとは思わない。しばらくはムカムカするんじゃないか?
「なら、この瞬間だけは辛い過去のことを忘れているんじゃないかしら」
「⋯⋯⋯⋯」
怒りの感情は、二次感情だと言われている。
悲しみや、不安、傷つきといった一次感情を処理しきれない時に身を守る防衛本能として表に出てくる感情だ。
あの時、アデルが怒ったのはガイド・ルーカスとしての俺とのやり取りを思い出して、悲しみ、傷つき⋯⋯心が耐えられなくなって、身を守るために怒りが表面化してその矛先を俺へと向けたのだと考えている。
悲しんではいるはずだ。その感情を怒りという感情が上書きしているだけ。
「怒りの感情でもいいよ。悲しんで、ずっと辛い思いを溜め込むよりもずっといいわ。怒って気持ちを発散させることが何より大事」
「それにしたって、荒療治だ」
「そうね。けど、あたしが見てきたアデルちゃんはそれすらできない状態だった。感情が悲しみに支配されて、どれだけ泣いてもその想いが晴れることはなかった」
心が過去に囚われてしまっていた。
「幸せだった日々を思い出して、現実との違いに涙して⋯⋯悲しみがずっと繰り返す日々。辛い思いを溜め込むだけ」
「⋯⋯⋯⋯」
「気持ちを吐き出せたらもっと楽になれるのよ。あたしがガイドちゃんにしたように自分の想いを言葉にして乗せるだけでも、気持ちは軽くなる」
アデルはそれすら、出来なかったんだな。辛すぎて、悲しくて、仲間であるラブリナにすら思いを打ち明けられないくらい落ち込んでしまった。
ラブリナは何度も語りかけたはずだ。その心に寄り添おうとしたはずだ。それでも、悲しみの感情で閉ざしてしまった心まで届かなかった。
「アデルちゃんは、自分の感情をようやく吐き出せたと思うの。怒りって感情だったけどずっと落ち込んでいた心を奮い立たせて、ガイドちゃんを許せないって気持ちを前に出した」
「素直に喜べないんだが⋯⋯」
言いたいことは分かるが、どう考えても俺に対する悪印象しか残ってないよな? その怒りだってずっと継続するわけじゃない。
どこかで落ち着いて、スっと静かになった心がまた過去のことを思い出して悲しみに包まれるんじゃないか?
「期待していた反応ではなかったけど⋯⋯今のガイドちゃんなら会うだけで、アデルちゃんの気持ちを引き出せると思うわ」
「敵意だろ、それ」
今の俺はアデルにとって、敵と認識されているだろう。嫌いな相手、腹の立つ相手、敵意を向けて怒りをぶつける相手にはちょうどいい対象。
気持ちの発散という意味ではいいかもしれないが、アデルに敵意を向けられて怒られるのは⋯⋯俺も辛いぞ。
いや、まぁ⋯⋯こうなったのは俺のせいだからな。甘んじて受け入れるべきなのか。
「また会えばいいのか?」
「ガイドちゃんが良ければ、ね。」
溜め込んだストレスの発散、か。
───怒ることで、感情をぶつけることで、溜め込んだストレスやモヤモヤを解消することができる。心がスっと軽くなる。
それで少しでも悲しいって気持ちが晴れるならいいんだけど⋯⋯上手くいかないような気がしてならない。
「大丈夫、心配しなくていいわ。あなたなら、アデルちゃんと仲良くなれると思う」
「⋯⋯まぁ、俺なりに頑張ってみるよ」
第一印象は最悪。関係性は他人以下の敵認定。ここから仲良くなれるか? 自信はないな。
まぁ、やれるだけやってみるとしよう。
◇
───嫌いな奴ができた。
ラブリナが連れてきた新しい友人だという、狐の仮面を被った顔の見えない男。
ボクにとってどうでもいい存在だった。ボクに構わず、ラブリナと仲良くしていればいいと思った。
どうしてボクに会わそうとしたのかすら分からない、興味も湧かない他人。
『綺麗な目をしているって思っただけだ』
その一言が、そいつの口から出てこなければ⋯⋯。
嫌いだ。
大嫌い。
そいつにとって何気ない一言であっても、ボクにとって⋯⋯大切な思い出が上書きされるような、踏み躙られるような感覚を覚えた。お前なんかが口にしていい言葉じゃない。
『綺麗な目をしているって思ったんだ。そうやって隠す必要なんてないだろ、俺はその目が好きだぞ』
その一言で、ボクとガイドの関係は始まった。その一言があったからボクはガイドって人が好きになった。
───村の人たちから目が気持ち悪いと言われた。
───両親からは気にしなくていいと言われた。
ボクは自分が嫌いになった。村の人に嫌われている自分が。両親を気遣わせているボク自身が嫌いだった。
こんな目で生まれてこなければ良かったって思った。
───ガイドに出会わなければ、ボクはこの目をずっと憎んで、嫌いなまま生きていた。
ガイドと出会ったから、ボクはこの目が好きになった。ボクの目を見て綺麗って褒めてくれて、ボクの目が好きだって言ってくれた。だからボクもこの目が綺麗だって思えた。
好きな人が褒めてくれたから、好きになれた。
───許せない。
ボクの大切な思い出と同じように、そいつはボクの目を褒めた。顔も隠して、不安そうな目で思ってもない言葉を口にする。それがどれほど腹立たしいことか、そいつは分かっていなかった。
───嫌いな奴ができた。
そいつは毎日のようにボクの家にやってくる。会いたくない。嫌いだって何度も言ってもボクに会いに来る。
───嫌いだ。
ガイドの真似事をする薄っぺらい男。
ラブリナから聞いたボクの話で、ガイドの話で、ボクの気を引こうとするどうしようもない嫌な奴。
どうして、こんな奴とラブリナが友達なのか理解できなかった。
どうして、こんな奴と毎日話をしているのか理解できなかった。
どうして、こんな奴と会っているんだろう。
どうして、こんな奴と話して心が動かされるんだろう
どうして⋯⋯。
───嫌いになりきれないんだろう。
「嫌いだ」
今日もまた、そいつはボクの家にやってくる。
それを楽しみにしている、ボクが嫌いだ。