ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
翌日、アデルの元へと向かった俺が最初にとった行動は誠心誠意謝ることだった。
土下座して、頭を下げて、ひたすら自分の発言について詫びた。本当に悪かったと、何度も謝った。
返ってきたのは『ボクは君が嫌いだ』『二度と顔を出すな』なんて、言葉だったな。嫌そうな顔が印象的だった。
それで心が折れてアデルと会わなくなったら、彼女の印象は最悪なままで終わる。嫌いな存在として認識されたまま終わる。それは寂しいし、正直悲しい。何より救いがない。
アデルには悪いが、俺は割と諦めが悪い男だ。
ゲームのエンディングに納得できなくて、自分が死んででもクラリスを救おうとした。その上、今度こそみんなを救おうとこの世界に戻ってきた。諦めの悪さはピカ一だ。
二度と会いたくないと面と向かって言われても、その翌日には平然と顔を出した。『バカじゃないのか』と罵倒もされた。
それでも会いたいから来たと言えば、嫌いだってまた言われた。その上で俺とは話したくないとアデルは口を閉ざしていた。
だから、俺から一方的に話しかけることにした。返事は期待していない。俺が話す内容をただ、アデルに聞いてもらうだけ。
会話の相手は赤の他人じゃない。ゲームの主人公であり、共に旅をした大切な仲間だ。アデルが好きな物も趣味もなんだって知っている。話のタネは尽きなかった。
嫌なそうな顔をしていたが、多少の興味はあるのか話を遮って『出ていけ』と言われることはなかったな。大抵の場合、話し終えたタイミングで『もういいだろ。出ていけ』と追い出されていた。
嫌い相手であるにも関わらず、優しい対応だと思った。
決まった時間に会いにいって、嫌いだって言われて、会いたくないって言われて、それでもめげずに一方的に話しかける。そんな日々が数日は続いた。
なんだかんだ根がいい子であるアデルは、いつまでも無視するということができなかったらしく、俺の話に反応するようになった。
ちょっとした会話のやり取りが生まれると、俺も嬉しくなって色々と話してしまった。テンションが上がったのがアデルにも分かったらしく鬱陶しいと、ストレートに言われたな。
どこか懐かしさを感じる言い方だった。
関係性は以前のように親しいものじゃない。まだ嫌いだって明言されるような間柄。それでも言葉を交わすくらいは、進展した。
この関係性を壊さないように。アデルの思い出を傷付けないように、慎重に話題を選んで会話する。
気付けばアデルと再会してから一月近く経過していた。
毎日会って、他愛もない話をして。アデルに出て行けと言われて追い出される日々。
最初の頃に比べれば表情に変化が出てきたし、話にだって相槌を打ってくれる。話の内容によっては質問だってくる。追い出されるまでの時間も確実に伸びている。
けど、俺はまだアデルの笑った顔を見ていない。俺とのやりとりが楽しいと思って貰えていない。まだまだ、自分に至らないところがあると実感した。
「難しいな、仲良くなるのは」
「そうかしら?たった一か月で随分と仲良くなっている気がするわよ」
ラブリナが作ってくれた朝食を食べながら、思ったことを愚痴ってしまう。
どうしても比較してしまうんだろうな。ガイド・ルーカスとしてアデルと仲良くなった頃と⋯⋯。
「気付いてる? ここ最近、アデルちゃんも明るい顔が増えたのよ」
「そうなのか?」
俺と一緒にいる時は仏頂面なことが殆どだ。体調面でいえば良くなっているのは間違いない。、目の下のクマは気付いたらなくなっていたし、涙の跡も見えなくなった。
俺との交流で、少しは心に余裕が出来たってことだろうか?
「大変だと思うけど、仲良くしてあげて」
「言われなくてもそうするつもりだ」
もう一度、アデルと仲良くなりたいという思いもある。ガイドじゃなくてもいい。俺の死で悲しむアデルを救えたら、それでいい。
欲を言えばアデルと一緒に笑い合える日がくることを望んでいる。
「そういえば、これから出掛けるんだったよな?」
「そうね。ストックしていた薬草がなくなりそうだから、ガイドちゃんと出会った森に採りに行くつもりよ」
昨日の夜、ラブリナから言われたことを念のため確認しておく。細かいことではあるが、認識の違いあった時に困るのは自分だからな。
「手伝いは不要か?」
「そうね。昨日言ったとおりよ。あたしのことは構わないから、アデルちゃんと一緒にいてあげて」
「わかった」
付いて行っても役に立つか怪しいところではあるしな。ゲームの知識で知っていることはあるが、薬草の見分け方のように専門的なことになるとどうしても知識不足が目立つ。
ラブリナに言われるがままに採取しても違う物を採っていたなんてこともあったしな。それでも一人で薬草を採るよりは効率的ではあったから、必要なら手伝うつもりでいた。
ラブリナからすれば、慣れた作業ではあるのでそれよりもアデルのことを優先して欲しいらしい。
「今日もこの後、アデルちゃんと会うんでしょ?」
「その予定だ。最近はお昼くらいまで一緒にいても追い出されなくなった」
「良かったわね」
まだまだ時間はかかりそうだが、少しずつ仲良くなれればそれでいい。
それから雑談を交えながら食事を終え、俺はアデルの家へ。ラブリナは薬草を採るために準備をしてから家を出た。
念の為補足しておくが、家の出入りは一応アデルから許可を得ている。ある程度仲良くなったころに『明日もまた来てもいいか』と、尋ねたら『勝手にすれば』って言葉と一緒に鍵を渡されたからな。
「おはよう」
「また来たの?」
いつものようにアデルに会いに行って挨拶すれば、面倒くさそうな表情で返事が返ってきた。このやり取りにも慣れたものだ。
「昨日来るって行っただろ」
「物好きだね」
ため息を吐いているアデルを尻目に、部屋の隅に置いてあった椅子を運んでアデルの近くに腰を下ろす。ここまでが最近の流れだ。
「ねぇ⋯⋯」
今日は何を話そうかと、話題を考えていると珍しくアデルから話しかけてきた。
「どうした?」
「君はどうして、ボクに構うんだい? 嫌いって何度も言ってるのに」
ここ一か月で少なくとも百回以上はアデルに嫌いだって言われたな。普通の人なら、最初の数回で身を引くだろう。嫌われているって分かっているなら無理に交流する必要はないからな。それがお互いのためだ。
俺がおかしいだけなんだよな。俺はどうしてもアデルと仲良くなりたかった。悲しんでるアデルを救いたかった。だから、嫌いって言われても、会いたくないって言われても交流を続けた。
「放っておけないって思ったからかな」
「ラブリナにお願いされたから?」
「それは違うな」
ラブリナにアデルのことを頼まれなくても、俺から申し出ていたはずだ。大切な仲間を救いたいって思うのは当たり前のことだ。
「過去の自分を見ているような気がしたんだ」
「君が?」
不愉快そうに眉を顰めたな。アデルの機嫌が悪くなる前に言葉を続ける。
「俺も大切な人が死んで⋯⋯どうしようもない喪失感に苛まれることがあった」
俺は両親を亡くしている。アデルのように好きな人とは違うが、大切な家族を失った。それは前世の世界でもそうだし、この世界でもそう。
「何もやる気が起きなくて、大切な人の死が受け入れられなくて⋯⋯ずっと心がモヤモヤしててさ、悲しくて塞ぎ込んでいた」
「ボクみたいに?」
「そうだな」
中学生の時に両親は事故で亡くなった。車で信号待ちしていたところを正面からトラックが突っ込んできた⋯⋯。即死だったと聞いている。
その当時の俺はまだ精神的にも幼くて、両親の死を受け入れるにはまだ未熟だった。今のアデルのように毎日のように泣いた。家にあったはずの温もりが消えたことに気付いて、泣き叫んだ。
ラブリナのように支えてくれる祖父母がいたから、俺はどうにか立ち直ることができたと思う。
ヴァルキリー戦記にハマったのも、ちょうどその頃だったか。辛い現実から逃げるように、ゲームをしていた覚えがある。
夢中になってゲームをして現実を忘れて、楽しいって感情を思い出して⋯⋯心に余裕ができたところで、俺もようやく両親の死と向き合うことができた。
それでも辛いのは変わらない。やっぱりたくさん泣いた。けど、どれだけ悲しんでも両親が戻ってこないのはわかっていた。
両親の死を受け入れて、大好きな両親の分まで生きないといけないと思った。
「辛いよな、大切な人が死ぬのは」
「⋯⋯うん」
アデルが悲しそうに肯定した。
「似ているなって思ったから、放っておけなかった。⋯⋯アデルと一緒じゃないのは分かってる。気持ちの重さも違う」
「⋯⋯うん」
「その悲しみを俺が背負うこともできない。けど、大切な人を失った辛さは分かるから、吐き出す相手にはなれるんじゃないかなって」
この世界の両親は病気で亡くなった。流行病だった。前世と違って、精神的にも成長していたから両親の死を受け入れることはできた。
けど、やっぱりどれだけ歳をとっても大切な人の死は辛いものだ。
「気が向いたらでいいからさ、アデルの口から話してくれないか? 君の大切な人のこと」
「うん」
俺、なんだよな。
アデルにとって大切な人は⋯⋯。
───バカな男でごめんな、アデル。
今度はちゃんと、救うから。