ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
少ししんみりとした空気の中、口火を切ったのは俺。
「アデルとは違うんだけどさ、俺は大切な人⋯⋯両親が亡くなっているんだ」
何気にこういう話をするのは初めてかも知れない。自分のことについて話すことはあっても、自分の弱いところを見せたくないというくだらない男の意地が、話す機会を奪っていた。
どうしても、両親のことを思い出すと悲しい気分になってしまう。それが表情に出て、仲間に心配させるのが嫌で⋯⋯同情されるのが嫌で、話すことはなかった。
アデルに話そうと思ったのはなんでだろうな。共感して欲しいと思ったからか?
「良い人たちだった。周りと比べても浮いてしまっている俺を愛してくれた」
「君も?」
「俺の場合は自分に問題があった。アデルとは違うよ」
辛さでいえば間違いなく前世の両親を亡くした時の方が辛い。心がまだ成長しきる前だったから、両親の死はあまりに重すぎた。
だからといって、この世界の両親の死が軽いかと言われたらそうじゃない。
前世の知識を持って生まれたが故に、普通の子供じゃない俺を⋯⋯それでも愛してくれた。前世でなくした両親の愛を再びこの世界で受け取った。心が救われるような気さえした。
俺は変わった子供だったと思う。言葉を喋れるようになるのは早かったし、歳の近い子供と遊ばずに鍛錬ばかりするようなバカな子供だった。
この世界がヴァルキリー戦記の世界だと気付いて直ぐに、強くなって原作に介入したいという思いで幼い頃から剣を振るって⋯⋯それが周囲からどのように見られるか、よく理解していなかった。
「子供っぽくない子供でさ。幼いころから強くなりたいって気持ちが強くて⋯⋯ずっと剣を振ってるようなバカだった」
「どうして、強くなりたかったの?」
「なんでだろうな、自分でもよく分からない」
現実で会ったこともないクラリスを救うために強くなろうとした⋯⋯そんなことを言ったらイカれた奴だと思われる。実際問題、イカれてるんだよ、俺は。
そういう自覚があるから、言葉を飾って誤魔化そうとする。
「漠然とした、英雄願望があったのかもしれないな」
「そうなんだ」
自分にも思うところがあるのか、アデルが自分の胸に手を添えている。
そうだよな、アデルが旅に出たいって思ったのは村が嫌いだったのもあるが、おとぎ話に出てくる英雄に憧れたのが一番の理由だ。
前世でいう神話に近いお話で、完全無欠の英雄がお姫様を救うなんていうありきたりなお話。でも、娯楽の少ないこの世界では貴重な子供の楽しみだった。
特に村で腫れ物扱いされていたアデルは、歳の近い子供と遊ぶ機会がなかった。必然と一人で遊べることに没頭する。そんなアデルのために両親は本を買ってきて与え、アデルもまた夢中になって読んだ。
誰よりも英雄になりたいという想いが強かったから、もしかしたら俺の英雄願望に共感したのかもしれない。一応、嘘ではないしな。
「両親が亡くなったのは俺が12の時だ。流行病だった。病に伏してから、弱っていく両親を前に自分に何かできないかと必死になった」
俺はただの子供じゃなくて、この世界について詳しく知っている転生者だった。原作知識を使って両親を救えないかと、走り回った。
「けど、子供にできることなんて知れていてな。俺の技術や知識じゃ両親の病気は当然、治せない。だから⋯⋯どうにか見つけた薬師の先生を両親の元へ連れて行った」
原作にも出てくる凄腕の薬師。後にラブリナの師匠ともなる好々爺で⋯⋯この人を連れてきたなら両親も助かると、勝手に思っていた。
「手遅れだった。初期症状の段階ならまだ間に合ったそうだが⋯⋯俺が薬師の先生を連れてきた時には病が身体を蝕んでいて、先生の薬でも痛みを和らげるのが限界だった」
無力だったな。
原作知識があって、身体を鍛えて、剣を振って、同年代の子供より間違いなく強い自信はあったが⋯⋯それでも大切な両親すら救えない。
クラリスを救うって、エンディングを変えるって大きな野望を掲げる前にすぐ近くにいる両親を救えって話だよな。
「結局、両親は亡くなった。最後の最後まで俺のことを案じてくれて⋯⋯愛してるって言ってくれてた。痩せ細った細腕で俺のことを抱きしめてくれて⋯⋯最後に愛情を残してくれた」
二人の最後を思い出すと、胸が締め付けられるよう感覚を覚える。ギュと苦しくなる。
それでも悲しみに塞ぎ込むことはない。
「君は、どうやって立ち直ったの?」
栗色の瞳が揺れている。
優しいアデルのことだ。俺の話を聞いて感情移入してしまったんだろう。苦しそうで、悲しそうで⋯⋯それでいて、理解できないと言いたげに彼女は俺に聞いた。
───大切な人が死んで立ち直れるわけがない。
涙が零れそうな瞳が、俺にそう訴えかけていた。
「時間が解決したのもあるが、俺には目的があったからな。そのために、ずっと落ち込んでるわけにはいかなった」
前世の記憶がある分、精神的に成熟していたのもある。流石に一月くらいは両親の死を引きずったが、このままじゃダメだと奮起した。
クラリス救うという目的があったからこそ、立ち直れたのが大きいか。
「それに、俺がずっと悲しんでいるところを亡くなった両親も見たくないだろ? だから安心できるように前を向こうって思った」
「強いね、君は」
絞り出すような声で呟いたアデルがギュッと自分の手を握りしめた。
「ボクはまだ、あの日の感覚が忘れられないんだ」
震える声。
「ベッタリとこの手についたガイドの血が⋯⋯、冷たくなっていく手の感触が」
震える体が、アデルをより小さく見せた。
「そこにあった陽だまりが、消えていく感覚が⋯⋯ずっとずっと忘れなくて」
───アデルが泣いた。
栗色の目から大粒の涙を流し、俺の前でアデルが泣いていた。子供のように声を上げて。
ガイド・ルーカスだったなら、抱き締めて落ち着くまで傍にいただろうか。優しい声をかけて、アデルの心を慰めただろうか。
「⋯⋯っ⋯⋯」
バカじゃないから、それをすべき事じゃないと分かっている。親しい間柄でもない人間にそれをされて、嫌がることも分かってる。だから何もできない。泣いているアデルを前にしても、俺は見ていることしか出来ない。
あまりに無力だと思った。
「泣いていい。たくさん泣こう」
下手だな、俺。
慰めの言葉すらろくに出てこない。
「その想いは無駄じゃない⋯、その声も、その想いも、きっとアデルの大切な人に届いているから」
俺が、ガイドだって言えたらどれだけ良かったか。嫌になるな、本当に。
「いまはたくさん泣こう。また、
◇
気付いた時にはあいつはいなかった。
ガイドのことを思い出して、あの日のことを思い出して、胸が張り裂けそうなくらい強い悲しみや、苦しみ、絶望感で自分の
仲間でも、友達でもない⋯⋯むしろ、嫌いだった人の前で子供みたいに泣いてしまった。
───不思議な人だ。
嫌いだったはずなのに、気付いたら心を許してた。壁を作っていたのに、何もなかったみたいに乗り越えてきて⋯⋯。
───優しい声だった。
言葉も違う。声も違う。言ってる相手も違う。なのにどうして、彼を見ているとガイドが重なるのだろう。
ガイドが傍にいるような、温もりを感じるんだろうか。
「恥ずかしいところ、見せちゃったな」
顔を合わせるのが恥ずかしいくらい、たくさん泣いた。けど、そのお陰かは分からないけど今は心がスッキリしている。
『俺がずっと悲しんでいるところを亡くなった両親も見たくないだろ? だから安心できるように前を向こうって思った』
───強い人だと思った。
大切な人を亡くしても、大切な人を悲しませないために立ち上がることができる人。
辛そうな声だったのに、彼はちゃんと前を向いていた。
ボクがずっと、悲しんでいたらガイドも辛いのかな。こんなボクの姿を見ているのが、悲しいのかな?
「⋯⋯っ───」
ガイドの笑顔が好きだった。
優しく笑いかけてくれる顔が好きだった。
陽だまりみたいに傍にいると暖かいガイドのことが大好きだった。
「ボクも、前を向かなきゃ」
いつまでもボクが悲しんでいたら、ガイドはきっと笑顔になれない。ボクのことを見たガイドが、ボクの好きだった笑顔を浮かべられるためにも⋯⋯ボクも前を向かなきゃ。
「お礼、言わないと」
ボクがもう一度頑張ろうって思えたのは、同じ傷を───痛みを知っている彼の言葉がボクの心に届いたから。
「謝らないと」
あんなにボクのことで親身になってくれた人に、ボクは酷いことを言ってしまった。毎日毎日嫌いだって。
次に会った時はちゃんと謝ってお礼を言おう。
「ん?」
ガチャっと扉が開く音がした。バタバタと忙しない足音が響く。
次に会ったら言おうって決めてたけど、いくらなんでも早すぎる。まだ心の準備ができてない。
足音が近付いてきて姿を表したのは、思っていた通りの狐面の男。ボクのことをチラッと見たあと、彼は壁にかけてあったガイドの形見の剣を掴んだ。
───え?
「悪い、これ借りるぞ」
そのまま走り去っていくバカの後ろ姿を見て、ふつふつと込み上げてきた感情に従い立ち上がる。
───前言撤回。殺す。