ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
アデルの家を出たのは妙な胸騒ぎを覚えたから。本音を言えばアデルが落ち着くまで傍にいたかった。
だが、これまでの経験で心に影が落ちるようなこの嫌な感覚を無視していけないことを知っている。大抵の場合、厄介事だ。
以前であればこの感覚にも説明がついた。俺が嫌な予感や胸騒ぎを覚える時は原作イベントが殆どだった。敵襲や不幸な出来事の前触れの時に、心がザワついていた。
ゲームの知識を持っているから不安に思って、このような感覚に陥るんだと考えていたんだが⋯⋯どうやら違うらしい。
「⋯⋯ん?」
不意に感じた視線。反射的に振り返った先にいたのはトーマスさん?
「逃げた⋯⋯」
俺と目が合った瞬間に背中を向けて逃げ出した。明らかに不審な動きだ。素直に追いかけるべきか? だが、動きがあからさま過ぎる。
まるで、俺を釣ろうとしているような動きだ。
チラッと後ろを振り返ったトーマスさんが笑ったのが見えた。追い掛けて来いよと、挑発しているようだ。
「釣られてみるか」
備えるにしても情報がない。どの道後手に回るのは変わりない。なら、明らかに不審な動きをする、トーマスさんを取り逃す方が面倒だ。
通さがっていく背中を追って走り出す。
「早いな」
こちらも全力で走ってないとはいえ、距離が縮まらない。ふくよかな体型からは想像できないくらい軽快な走り。
時折、振り返って俺が付いて来ているかどうかを確認している。間違いなく釣りだ。
「どこまでいく?」
すでに村を出て数百メートルは走っている。
相も変わらず距離は縮まらない。俺も全力で走っているが、それでも見失わないように付いていくのがやったとだ。
───何者だ?
この時点でただの村人ではないのは明白。走りに自信があるわけではないが、この俺でもついて行くのがやっとのレベル。
誘われるがままに追い掛けているが、これで良かったのか?そんな疑問が浮かんだタイミングで、不意にトーマスさんの足が止まる。
みるみるうちにトーマスさんとの距離が縮まるが、まるで喜べない。振り返ったトーマスさんのニヤケヅラが答えだった。
「ふはは!マヌケが釣れたな!」
両手を広げ、楽しそうに笑うトーマスさん。俺を釣れたのがよほど嬉しかったらしい。すぐ近くまで駆け寄ってきた俺を前にしても、身構えることなく楽しそうに語る。
「あの筋肉ダルマは村にいない!不確定要素であるお前さえ誘いだs⋯⋯ぐふっ!!」
あまりに無防備だったので、そのまま距離を詰めて腹に一発。受け身を取ろうとしたトーマスさんの腕を掴んで引き寄せ、そのまま顎を殴り抜く。
手応え的に、これで終わりだろう。
「悪い⋯⋯敵と悠長に会話をする気はないんだわ」
地面に倒れたトーマスさんに話しかけたが、やはり反応はない。先の一撃でちゃんと意識が飛んだらしい。
足を止めて俺に話しかけてきたトーマスさんには本当に申し訳ないが、足止めのための無駄話に付き合う気はないんだよな。自分で敵だって自白してたし、不意打ちしてもこちらは悪くないだろ。
「なにより隙だらけだったのが悪い」
この世界の敵キャラあるだが、やたらと話が長い。その話に律儀に付き合っていたら足止めのための時間稼ぎだった、なんてこともよくあった。無駄話に付き合っても肝心の情報を落とさないことが多いからな、こういうタイプは。
原作の展開においては知識として知っていたので時間稼ぎをしようとする敵キャラをトーマスさんよろしく、不意打ちで倒したりもした。仲間にドン引きされたけどな。
けど、俺から言わせれば敵を前に隙を晒しているのが悪い。
「急いで戻らないとな」
念の為、動けないようにアイテムポーチから取り出したロープでトーマスさんを縛ってから村に向かって駆け出す。
───筋肉ダルマ⋯⋯おそらくラブリナのことだろう。彼女がいないタイミングで、なおかつ不確定要素の俺を誘い出す。
狙いはなんだ?
一月ほど村で生活して分かったが、これといって特徴のない村だ。希少鉱石が採れるわけでもない。高値で取引される工芸品があるわけでもない。至って平凡などこにでもある村の一つ。
その上、トーマスさんはおそらく諜報員だ。どこの国かは判別はできていないが、こんな乱暴な手段を取る国は限られてくる。
───ローマシア帝国。
「なら、狙いはアデルか」
帝国の野望を阻止するために動いたのは俺たちであり、リーダーとしてみんなを纏めていたのは主人公であるアデルだ。休戦協定を結ばせ、世界から一時的に戦争をなくした立役者。影響力のデカさを考えても、帝国からすれば目の上のたん瘤だ。
アデルが弱っているうちに消そうと動いたわけか。となると、帝国もまた野望のために動こうとしていると考えていい。
「急ぐか」
全力で走れば直ぐに村が見えてきた。遠目で見ても異常は⋯⋯。
「っ───!!」
村を襲う人の姿はない。帝国の兵士もそこにはいない。
だが、村を襲う生物は確かにそこにいた。俺はゲームの知識でその生物が何かを知っている。姿を見れば、名前すら直ぐに解答できるレベルだ。
だが、その生物は⋯⋯この世界では、存在しないはずのもの!なぜ?
視界の先にいるのは赤い毛皮が特徴のオオカミ。記憶にある個体より一回り大きいか?人工的に作られた鉄の爪が四本の足に装備されているのが確認できた。
「
ヴァルキリー戦記の舞台は西洋ファンタジーに近いが、RPGでお馴染みのモンスターや魔物といった敵は登場しない。
代わりに出てくるのが動物を改造して生み出された生物兵器───Armaシリーズ。Armaはラテン語で武器、防具、兵器、戦争等の意味がある。名前通りの生物、というわけだ。
ゲームにおいては固有の名前がついてるのはボスキャラだけで、多くはArma a1 のように記号のような名前が付けられている。aが初期シリーズで、zに近付くほど後期となり性能が高くなる。
同じシリーズを強化されると後ろに付く数字が増えたりするが、よくあるモデルチェンジなので、深く考える必要はない。それはともかくとして。
どうしてArmaシリーズがここにいる? あれを作れる人間はこの世界でただ一人。
世界最高の頭脳を持つ天才にして、奇人。世界観に合わないオーバーテクノロジーを持つマッドサイエンティスト。
───カーチス・パラノイア。
俺の親友だ。
ヴァルキリー戦記においてカーチスという男は最初から最後まで主人公たちの敵として登場する。本人のスペックは頭脳に極振りしてるので、決して強くないのだがカーチスが作り出す生物兵器に手を焼いたプレイヤーは多かったはずだ。
特に終盤にかけて登場するx、y、zの個体はハメ性能も高く蛇蝎のごとく嫌われていた。麻痺とか毒とか、状態異常を強いてくる敵が嫌われるのは世の常である。
話を戻そう。
幼い頃から並外れた頭脳を持つ天才であったカーチスは、孤独であった。思考のレベルや感性が周囲と著しくずれ、話を共有し合える相手がいなかった。天才すぎるが故に、実の両親でさえカーチスのことを理解出来なかった。
それでも人々の役に立つ発明品を作りたい!そんな優しい想いでカーチスは発明品を作り出したが、時代の先を行き過ぎた発明品を普通の人には理解できなかった。
なによりまずいのは他人から奇行に走っているようにしか見えなかった点。普段のおかしな言動も相まってカーチスは自然と周囲の人間から距離を置かれた。
───世界を憎んだ。
どうして天才であるカーチスさまが誰にも理解されない。どうして凡人どもはカーチスさまを煙たがる!
───許せない。
いつしかカーチスの中には世界へ向けた憎しみが生まれ、時を同じくして大陸制覇を掲げるローマシア帝国の皇帝がカーチスの頭脳に目をつけた。
帝国はカーチスの頭脳を利用するため。カーチスは世界全土に自分の偉大さを知らしめるため。両者は利害関係となり、強大な敵として主人公たちの前に立ち塞がる。
人の役に立ちたい、そんな優しい想いが孤独という毒に蝕まれ憎しみに変わってしまった。
俺はカーチスのことを知っていた。だからこそ、この世界に転生してカーチスを救いたいと心から思った。彼は最初から世界を憎んでいたわけじゃない。孤独が彼を世界の敵にした。
俺がやったことは単純だ。孤独だったカーチスに手を差し伸ばし、傍にいた。それだけだ。彼が作った発明品は現代の物に近いのもあり、それがどういう性能か直ぐに分かったのも大きかった。
俺が発明品の使い方を理解していると分かった時のカーチスの嬉しそうな顔は今でもよく覚えている。
最初は敵に回ると厄介だから、こちら側に付けようと、そんな打算からからくる始まりだったが⋯⋯カーチスと俺は意外と波長が合うらしく、気付いたらお互いのことを親友と豪語する関係性になっていた。
この世界で一番の親友は誰かと聞かれれば、即答でカーチスと答える。大切な存在になっていた。
「俺のせいか⋯⋯」
先も話した通りArmaシリーズを作れるのはカーチス以外に存在しない。
そしてこの世界では帝国に所属する前に俺とカーチスが出会ったことで原作が変わり、本来なら悪の科学者として立ち塞がるカーチスは味方として俺たちに協力してくれた。
それ故に、厄介な敵となるArmaシリーズは一度たりとも俺たちの前に現れることなかった。だが。
「カーチス⋯⋯」
存在しないはずのArmaシリーズが、今俺の目の前にいる。それは即ち。
───