ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
アデルの目がキッ、と鋭くなる。
反射的に答えなくて良かったな。そのまま伝えていたら『ふざけるな』って怒られた気がする。
ただ、なんて言えばいい?なぜ使えるも何も俺の磨いてきた技だからとしか言いようがない。やっていることも単調で、居合切りで敵を切ってるだけだ。
一連の動作を極限まで磨いた結果、切った瞬間が見えなかった⋯⋯なんて言われた事もあるが所詮は技術。アデルのような治癒能力ではない。使おうと思えば誰にでも使える技。
ん?治癒能力?
そうだった!アデルからすればこの話題の方が重要だと思うが、今は人を助けることを優先したい。
「聞きたいことがあるのは分かる。謝らないといけないのも理解している。けど、今はそれを承知でアデルに頼みたい」
「⋯⋯ボクに頼み?」
「そうだ」
怪訝な表情。そんな事よりボクの質問に答えろと内心で思ってそうだな。
「今は俺たちがこいつらの相手をしているが駆けつけるのが遅く、間に合わなかった人がいる。けど、息のある者もいるはずなんだ」
飛びかかってきたArmaを切り裂きながら、倒れている村の人に視線を向ける。手遅れの人もいるが、アデルの治癒能力なら間に合う人もいるはずだ。
「ボクに助けろって言いたいんだね」
「すまない」
大きなため息を吐いたあと、アデルが俺とロビンを一瞥したあと倒れている村人の元へと走っていった。言いたいことは色々あるだろうな。
それは、ロビンも同じか。
Armaと戦いながら俺とアデルのやり取りを気にしていた。いや、より正確に言うなら⋯⋯俺やアデルじゃない、俺が持つ軍刀に意識が向けられていた。
なんでてめぇがその剣を持ってる、なんて文句が言われそうなほど鋭い視線だった。
そんなわけで戦いが終わったら、二人から詰められる気がしてならない。それもまた仕方ないことだ。
とにもかくにも。
「手早く終わらせるとしよう」
俺の間合いに入ったら死ぬと理解したのか、Armaが不用意に飛びかかってこなくなったので自分から近付いて間合いに入れ、Armaが反応する前に首を切って捨てる。
あとは作業のようにそれの繰り返しだ。
攻撃方法の限られている初期個体では相手にはならない。飛び道具や毒などの攻撃が増えてきたら面倒ではあるが、このレベルなら蹂躙して終わり。
終わってみれば、呆気ないものだった。
斧を使っていたとはいえ、苦戦していた身なので間違っても口にはできないがな。
「終わったな」
周囲を見渡しても生きている個体はいない。この村を襲っていたArmaは全て倒したと判断していいだろう。
俺と同じように生き残りがいないか確認し終えたロビンが俺の元へ歩み寄ってくるのか見えた。
「すまない、助かった。ロビンが来てくれなかったら⋯⋯」
助けてくれたお礼を改めて言おうとしたところ、その前にスっと槍の矛先が向けられた。
「礼はいい。それより答えろ。どうしててめぇが、その剣を持っている」
鋭い視線が俺の軍刀に向けられている。返答次第では、そのままことを刺殺する気だな。物騒極まりない。
「そんなことはどうでもいいよ!どうして君が、ガイドの技を使えるかをボクは聞いているんだ!」
ありのままアデルから借りたと言おうとしたところ、件の当事者が別の質問を投げかけてきた。
俺たちの元へアデルが来たということは、村の人の治療は終わったのだろう。彼女のお陰で助かった命があるはずだ。アデルがこの場にいて良かったと思う反面、同時に来るのはやめてくれと懇願したくなった。
そういえば、この二人は接触させて大丈夫なのだろうかと今更ながら思ってしまう。
アデルからすればロビンは三回も裏切った裏切り者。ロビンからしても、思うところはあるはずだ。
「おい!邪魔すんじゃねぇよ。今はオレさまがこいつに聞いてんだ。あっちに行ってろ」
「はぁ?なんでボクが裏切り者の君の言うことを聞かないといけないわけ? というより、良くボクの前に顔を出せたね」
「はっ!あいつを見殺しにした雑魚の顔色をわざわざ窺う必要があるか?ねぇだろ!」
俺を挟んで、何やら言い合いが始まった。
バチバチと火花が散っているようにも見える。幸いなことに、お互いに喧嘩っ早くないため直ぐに交戦することなかった。
煽り合っているので、挑発に乗った方が仕掛けたら間違いなく殺し合いに発展する。それはどうにかして阻止したい。
「三回もガイドを裏切って彼の心を傷付けた分際で、今さら見殺しにしたとか⋯⋯どの口が言ってんの?」
「あ?」
───アデルが元気になったようでなによりだ。うん。
数時間前まで泣いていたとは思えないくらいに元気だな。素晴らしいことだ。けど、俺を挟んで殺気をぶつけ合わないで欲しい。
「てめぇらはあいつの近くにいたんだろ?なら、なんであいつは死んでんだよ!てめぇらが弱いからだろ!てめぇらがあいつを護れなかったんだろうが!」
「うるさい!!そんなことはわかってる!ボクが弱かったことも!ガイドを護れなかったことも全部わかってる!!!けど!仲間でもない、裏切り者の君にそれを言われる所以はない!」
「そうか⋯⋯そうか。なら、やっぱりてめぇらはダメだ」
風を切る音がしたと思うと、俺の顔の横を槍が通り抜けていった。殺意が籠っていなかったので、攻撃したわけじゃない。俺の背後にいるアデルへの脅し。
「どういうつもり?」
「見てわかんねぇか?」
ピリッとしたヒリついた空気に変わったのが分かった。ロビンの目が鋭く尖り、俺の背後にいるアデルを睨んでいる。
ロビンの変化を感じ取ったアデルもまた身構えたな。振り返らなくても分かる。なにかの合図があれば二人は動く。
殺し合いが、始まってしまう。
「───ん?」
一触即発の空気の中、不意にあるものが視界に入った。
殺し合いが始まりそうな二人のことを気にかけるべきなのは分かっているが、視界に入ったそれもまた決して無視してはいけないもの。
見えたのは人。それも団体⋯⋯。
距離が遠くてはっきりとは見えないが、村の人じゃない。青い⋯⋯鎧? ということはあの一団はオーストリン王国の騎士団ということになるな。村の救援に来た形か?
それは良いことだ。
───俺たちが、指名手配されている罪人でなければ⋯⋯。
「おい、ロビン」
今すぐに共有しないといけないと判断し、水を差すようでアレだが声をかけた。ある意味で戦いを阻止する口実ができたとも思った。
「あ? てめぇはちょっと黙ってろ。こいつを片付けたら相手をしてやる」
「君が、ボクを殺す前にボクが殺すよ。あの時はガイドが君を逃してあげたけど、ボクはもう⋯⋯甘さは捨てたんだ」
だから、俺を挟んで殺気をぶつけ合うのをやめてくれ。頼むから。
いや、こんなことをしている場合じゃないんだ。ちょっとずつ⋯⋯けど、確実に騎士団は俺たちの方に迫って来ている。
「そんなことより、あれを見ろ!」
語気を強めて言うとイライラした様子で、仕方なくといった風に俺の指さした方をロビンが向く。
「騎士団じゃないか⋯⋯それがどうかしたのかい?」
ロビンに釣られてアデルも同じ方向を見たようだ。そして見たものに対する感想がこれ。ごく普通の反応。
「ちっ!追って来やがったか」
で、こっちが
「追ってきた?」
「そうだ。オレさまはこの槍を取り返すために宝物庫に侵入してきた。派手に暴れたからな。そのまま付いてきたらしい」
なるほど⋯⋯。
「お前!なに、連れてきてんだ!!」
「うるせぇな!助けてやったんだから感謝しろ!」
「それとこれとは話が別だろ!完全に俺たちを捕まえに来てるじゃねぇか!」
騎士団の先頭を歩いているリーダーっぽい人がこっちを指さしているな。多分、バレた。
こっちに向かって走り始めた。
「ちっ!めんどくせぇ!逃げるぞ」
「仕方ないか」
騎士の数も多いし、彼らは仕事のために俺たちを捕らえようとしているだけだ。罪のない人を殺すようなことはしたくない。
ここはロビンの提案に乗って、逃げるのが吉だな。
槍をしまって、さっと走り出したロビンを追うように数歩走ったところで、大事なことを思い出して立ち止まる。
「悪い!返すの忘れてた!」
一触即発の空気が一転して、急に騎士団から逃げ始めた俺たちに呆気に取られ固まっていた、アデルに向けて軍刀を優しく投げる。
「わわっ!」
急に投げたせいで、アデルが慌てた様子で投げた軍刀をキャッチし大事そうに胸元に抱き寄せた。その後、直ぐにキッと俺を睨んできた。うん、言いたいことは分かる。
「本当ならちゃんと謝って、アデルが聞きたいことにもちゃんと答えるべきなんだろうけど⋯⋯見ての通り俺たちは追われている身なんだ」
「⋯⋯君も、あの裏切り者と同類ってこと?」
「まぁ、そうなるな」
成り行きではあるが、指名手配まで出回っている犯罪者だ。アデルに失望されたかもしれないな。アデルの中の俺への評価は下がる一方だろう。
「また、会えたらその時はちゃんと謝るから。───本当にごめん!」
少し先で立ち止まったロビンが早くしろと言いたげに殺気を飛ばしてきたので、慌てて追いかける。
こんな別れになるとは予想していなかったな。
けど、少なくともアデルはもう一人で立ち上がることができている。俺がいなくなって直ぐに悲しみに塞ぎ込むなんてこともないだろう。ラブリナもいるしな。
軍刀を勝手に拝借した俺に怒って、ロビンと言い合いをして⋯⋯感情をぶつける。それができるくらいアデルは立ち直ってる。もう、大丈夫のはずだ。
「ん?⋯⋯あれ?」
後ろ髪を引かれる思いでロビンを追いかけていると、気付いたらアデルが並走していて、思わず間抜けな声が出た。
「話は終わってないよ。ボクは君に聞きたいことが山ほどあるんだ。逃げて終わりだと、思わないでくれないかな」
「それは悪いと思ってるが⋯⋯一緒にいたらアデルまで⋯⋯」
「そんなことはどうでもいいよ。君が逃げるなら一緒に逃げるだけさ。⋯⋯それより落ち着いたらちゃんと答えると約束して」
絶対に逃がさないと目が訴えかけている。どうやら、アデルも俺達に付いて来るらしい。嬉しいやら申し訳ないのやら、自分でもよく分からない感情に支配されているが⋯⋯。
そうだな。
「分かった⋯⋯ちゃんと話す。約束する」
「絶対だよ。君のこと、全部教えて貰うから」
俺の返答に満足したのか、前を向き『もっと早く走るよ』と俺に一声かけ、アデルが走る速度をあげた。
遠くにあるロビンの小さな背。俺の前を走る、頼もしい仲間の仲間の背。
「⋯⋯あの時と同じだな」
前を走る二人の背中を見て、ふと思った。
───懐かしいな。
アデルと一緒にクラリスを助けた時もウロボロスの構成員に追われて、こんな感じで村を飛び出たっけ?
ゲームの知識と、この世界での経験。
既視感を感じるからこそ、今のこの逃走もある種の始まりじゃないかと思ってしまう。逃げるように村を飛び出て、俺たちの旅は始まった。
「何してるの?モタモタしていると追いつかれるよ!」
チラッと後ろを見て、騎士団が付いて来ているのを確認する。アデルが言うようにモタモタしていたら追いつかれるな。
「そうだな、急ぐか」
───本格的に
次話、満を持してヒロイン登場