ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
31.偽物
追手に追われていた俺たちは街道から外れ大きく迂回する形で北上していた。騎兵はいなかったようなので追手の騎士たちを撒くのは割と簡単だったな。
騎士が装備している鎧は防御力は高い反面、機動力がどうしても劣ってしまう。どう考えても追跡任務に向いていない装備だ。
まぁ、此処に来るまでにロビンが暴れたようなので軽装で追うという選択肢がなくなったのかもしれないな。重装備ならともかく、軽装でロビンの一撃を受ければ良くて重症、当たり所が悪ければ即死だ。
あるいは指名手配の確保にそれほど労力を費やしていないか、だな。 俺たちの確保に躍起になっているなら騎兵を連れてくるはずだ。今回俺たちを追いかけてきたのは全て歩兵。
言い方は悪いが、やる気を感じない。俺たちが舐められているのか⋯⋯まぁ、どっちにしろ都合がいいのは確かだ。
「この辺まで来れば、ひとまず大丈夫だろう」
先行していたロビンが立ち止まり、振り返りざまに俺たちに言う。付いてきていることに気付いてはいただろうが、俺の横にいるアデルを見て露骨に嫌な顔をしたな。
変に隠さない方が分かりやすくて助かりはする⋯⋯。
「ここはレゾ遺跡だね」
到着した場所を見渡しながらアデルが口にする。釣られるように周囲を見渡すと見覚えのある石造りの遺跡が目に入る。
アデルを見ると額に青筋が浮かんでいる。やっぱりキレてる。
「よくもまぁ、ボクを此処に連れて来ようと思ったね」
「はぁ?勝手に付いてきたのはてめぇだろうが。 誰も来いとは言ってねぇぞ」
アデルが遺跡を見て怒っているのにも理由がある。この遺跡は一度俺たちが訪れたことがある場所であり、ロビンが俺たちを裏切った因縁深い場所。
この場所に来るきっかけとなるのは変装したウロボロスの刺客がロビンに告げた一報───『妹が攫われた』というものだったな。
事前知識で知ってはいても最初から人質役とウロボロスが結託しているため、どうやっても防ぎようがないのでこれはストーリー通りに進めるしかなかった。
攫われた妹を助けるためにアデルたちと一緒に遺跡に向かうと、ロビンの妹とウロボロスの幹部が待ち受けているわけなんだが⋯⋯とても良い演技で怯える妹のために、ロビンが俺たちに武器を向けるわけだ。
お察しの通り二回目の裏切りだ。
まぁ、その後は色々あって妹の救出に成功してロビンと共にウロボロスの幹部を倒して決着ってなるんだが⋯⋯。
言わなくてもいいのに、三回目の裏切りの際に人質役の妹もグルだったと暴露したことで、ロビンのためにと必死に戦ったアデルたちの想いが無下にされる形となる。
当然のように、信頼は地に落ちた。
戦ってロビンをぶっ飛ばしたからといって、その時の苛立ちが完全に消えるわけではないからな。
まるで思い出させるように、この地に連れてきたことでアデルがブチギレているわけだ。
ロビンからすれば勝手に付いてきたのはアデルの方なので言い分としては分かるんだが、チラチラと後ろを確認してアデルがいるのを把握しているんだから、場所を選べと言いたい。
なぜ、わざわざ地雷を踏みに行く真似をする? アデルに喧嘩を売ってるのか。
「面の皮が厚いね、君は」
「はっ!関係ねぇのに付いてきたてめぇに言われたくねぇよ」
あまりの空気の悪さに、ため息が出た。
「落ち着け二人とも!口論している間に⋯⋯ほら、そろそろ日も沈むぞ」
「⋯⋯分かったよ」
また言い争いから殺し合いにでも発展されたらたまらないので、二人の間に割って入ると意外なほど素直に二人とも引いた。どちらも嫌々ってのが一目で分かるくらい睨み合ってるけどな。
「ひとまず野営の準備をしよう」
「わかった、ボクも手伝うよ」
ロビンは手伝うとは言わなかったが、遺跡の近くに転がっていた枯れ木を集めているところを見ると野営の準備はしてくれているらしい。
「それじゃ、俺はこっちで準備をするから頼めるか」
「わかった!」
パチパチと焚き木が音を立てて燃えている。既に日は沈み、夜も更けようとしている。
あれほど言い争いをしていた二人だが、野営や夕食の準備の際は危惧していた衝突もなくテキパキと動いていたな。二人の間に会話は全くなかったわけだが⋯⋯。
諸々の片付けも終わり、ひと休憩ということで焚き木を囲んで寛いでいるわけだが、ロビンは俺たちと話す気はないと言わんばかりに背を向けて横になっている。
「ねぇ、約束覚えてる?」
嫌そうな顔でロビンを一瞥した後、アデルが俺に尋ねてきた。
「落ち着いたらちゃんと答えるって、話だよな」
「うん」
ほんの数時間前にした約束なので流石に忘れることはない。これで覚えてないなんて言ったら、アデルの好感度は地の底だろうな。
「それで、なにが聞きたい?」
「君が使ってた技についてだよ。あの技は練磨一閃と言って、ボクたちの仲間が使っていたものなんだ」
「そうか」
練磨一閃は俺以外にも弟子であるマルテナと、アデルも一応使えるな。
前も言ったが所詮は居合術だ。特別な素質がなければできない技術じゃない。誰でも使える。
「ボクは、君の剣が見えなかった。切り終えた瞬間しかボクの目で捉えることができなかった」
「見えなかった?」
「そうさ!認めたくはないけど、君の剣はガイドと瓜二つなんだ!」
それはおかしい⋯⋯。
俺と長く一緒にいたアデルは他の誰よりも俺の剣を間近で見ていた。最初こそは今の発言の通り目が追いついていなかったが、ゲームにおける物語終盤頃には俺の剣が見えていたし、剣で受け止めることもできていた。
俺の技術は衰えてはいないが、成長もしていない。つまり⋯⋯。
「はっ!それは単にてめぇが弱くなっただけだろうが!?」
「っ───」
首だけ振り返って、嫌味ったらしい顔でロビンが笑う。
「どれだけ実戦から離れてた?どれだけ戦いから目を背けてきた?くく、 言わなくてもてめぇの目を見たら分かる───ずっと引き篭ってたんだろ、あいつの死を引きずってよぉ!」
「ロビンっっ!!」
「落ち着け!」
ロビンの煽るような言葉と共にアデルの表情の変化を感じ取り即座に動く。
アデルが剣を抜いてロビンに飛びかかろうとしたので、背後から慌てて抑えた。彼女が女性であることを考慮して、触る位置には注意した。
離して!とアデルが暴れるが言葉通りに離してしまったらそれこそ殺し合いが始まってしまう気がする。
「落ち着け⋯⋯」
「っ!」
───やはり、力が弱くなってる。
まぁ、そうだよな。ラブリナが体調面を管理していたのでロビンのようにやせ細るようなことはなかったが、やはり筋肉は衰えている。
それでも俺たちの逃走に即座に対応して付いて来れるだけの体力と筋力があるのだから流石は主人公と褒めるしかない。だが、全盛期とは程遠い。
「お前もだ、ロビン」
「あん?」
「わざわざアデルを煽るような真似をするな。それにお前も人のことを言える立場じゃないだろ」
俺がロビンの発言を咎めれば不機嫌そうに舌打ちした。
弱体化という意味ではアデルよりもロビンの方が深刻だろう。やせ細った状態から肉をつけて、筋肉を取り戻すのは簡単なことじゃない。
「無理して強行したんだろ、お前」
「⋯⋯⋯⋯」
「体力、限界なんだろ? 」
「ちっ!」
ロビンが顔を背けた。
こいつが横になっているのは体力が尽きて、立つのもままならないからだ。以前のロビンなら追手を完全に撒くために、一晩くらい優に走って逃げた。
それをせずにこの遺跡で立ち止まったのは俺たちへの配慮じゃない。そもそも、そんな配慮するような奴じゃないからな。単純にこいつに限界がきただけだ。
人の前では弱いところを見せないところは変わってないが、注視すれば筋肉が疲労で震えているのが分かる。
「もう、大丈夫だな?」
「うん⋯⋯」
ギリッと歯を食いしばる音がした。怒りを無理やり抑え込んだ感じだな。
抑え込む力を緩めても、ロビンへと向かう様子はない。もう大丈夫と判断して、アデルから離れる。
念の為にと、二人の間に立つ形で様子を見ているがアデルは寝転がってるロビンを睨むだけでやはり動く様子はない。
「てめえの考えを否定しておいてやる」
「は?」
俺たちに背を向けたまま、吐き捨てるようにロビンが呟く。
「そいつの剣は
ロビンから僅かに感じた怒りは、誰に対して向けられたものだ?
「あいつの剣はもっと速い、もっと鋭い!そんな偽物の剣じゃねぇんだよ!!!!」
───本物なんですが?
「⋯⋯そうだね」
「え!?」
俺は何一つ変わってないのに偽物と言われて動揺していると、ロビンの発言にアデルが同意して更に動揺してしまう。
「ガイドの剣はもっと凄かったから」
こいつらの中の俺ってどういう存在なんだよ⋯⋯。
───鍛えよう。
謎の敗北感に苛まれ、もっと強くなろうと心に誓った。