ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
───大陸北東部に領土を持つボレアス王国は、大陸で唯一雪の降る国だ。雪が一面に積もった幻想的な光景を見て雪の国、あるいは白の国なんて表現されることもある。
この世界も一応地球のように、春夏秋冬の季節の概念はあるが冬の季節になっても気温が下がるくらいで、雪が降るなんてことはない。なぜか、俺の出身国だけ雪が降るという。ゲーム的に言えば国ごと個性を持たせた結果だろう。
それはさておき。
ボレアス王国の国王は名君と呼ばれるような人物ではない。だが、同時に暗君とも暴君とも呼ばれるような人物でもない。いたって普通。いたって平凡。
───平和に平穏に平凡を信条に、いざこざやトラブルを起こさないように細心の注意を払う、事なかれ主義の王様だった。
トラブルや争いを嫌う王様が、公爵を処刑して自ら火種を作るとは思えなかった。
だが、現に公爵は処刑され⋯⋯反乱軍のリーダーとして俺の弟子が反乱軍を率いている。
「何故、公爵が処刑されたか分かるか?」
「そこまでの情報は入ってきてねーな。ただ、数ヶ月前からボレアス王国の国王は病に伏してるって話だぜ」
それが答えだと言っているようなものだな。
国王が病気で倒れて、代わりに国政を握った者が暴走を始めた。よくある話⋯⋯そして、暴走しそうな奴にも心当たりがある。
「そうなると、国王の代わりを務めているのは第一王子か?」
「順当にいけば、な」
「その言い方だと、順当にいってないだろ」
ニヒルに悪うロビンを見て、ため息が出た。当たって欲しくはなかったが、予想通りか。
「オレさまも詳しくは知らないが⋯⋯どうやら、第一王子も病に伏しているらしい。倒れた時期は国王と同じだったそうだ」
完全に盛られてるな。
同じ病にかかった可能性もなくないが、あまりにタイミングが良すぎる。国王と第一王子が同時に倒れて喜ぶのは一人だけ。
「今のボレアス王国の権力を握ってるのは、第二王子のダスト王子か」
「あの好色王子が!?」
俺が口にした名前に対してアデルが嫌そうに声をあげた。いや、まぁ⋯⋯気持ちはよく分かる。
ダスト王子を一言で言い表すなら、クズやカスという言葉が最も適しているだろう。性格は傲慢で卑怯。態度は尊大なわりに能力は低く、優秀な兄と比べられる劣等感から逃げるように女遊びにふける、どうしようない男。
ウロボロスが仕掛けた罠に嵌ると、仲間がこのクズ王子にセクハラされたり、あらぬ罪被せられたりと色々と腹の立つイベントが起こるのだが、それはなんとかして回避した。
それでも完全に関わりを断つことは出来ず、ボレアス王国の国王と面会する時にこのクズ王子とも面識を持つことになったのだが⋯⋯。
うん、今思い返しても腹が立ってきたな。
「なんだ、知り合いか?」
仲間たちとボレアス王国に向かったのはロビンと別れた後だからな。こいつは俺たちの事情は知らないか。
「知り合いなんかじゃないよ!あの王子はね、クラリスのお尻を撫で回したんだよ!武器がないかを確認するなんてふざけたこと言いながら!」
アデルの発言の通り、あのクズ王子はあろうことかクラリスのお尻を触りやがった。俺の殺気に気付いたラブリナが止めてなかったら、間違いなく斬り殺していたな。
いっときの感情で動くことがダメなのは俺もよく分かっているが、流石にあの時は抑えきれなかったからラブリナが止めてくれて助かった。危うく王族殺しの大罪人になるところだった。
その後については俺の代わりというか、仲間たちの代わりに国王自らがクズ王子を殴り飛ばし、クラリスに非礼を詫びたことで場は収まった。
そんな出来事があったわけでクズ王子に対する印象は最悪ってことだ。
「はははは!なんだそんな色欲野郎が権力を握ってんのか!そりゃ国も荒れるだろうさ!」
「他人事みたいに⋯⋯」
ロビンの言葉通りだ。
権力を持ったらいけない者が権力を持ってしまった。今、起きてる内乱の根本的な原因はそれだろうな。
公爵が処刑された理由も、マルテナが反乱軍を率いている理由も分からない。だが、私欲のために武器を握る子ではないと師である俺が一番よく分かっている。
「⋯⋯⋯⋯」
さて、どうする?
クラリスの手がかりを集めるのが急務ではあるが、事情を知った以上見過ごすわけにもいかない。
「一つ教えてくれ」
「なんだ?」
「王国軍と反乱軍、どちらが優勢だ?」
チラッとアデルを一瞥したあと、ロビンが答える。
「俺が情報を仕入れた時は、反乱軍が優勢だったが⋯⋯聞いた話によるとウロボロスの残党が王国軍に混ざってるとかどうとか」
「そうか」
横を見ればアデルも険しい顔をしている。気持ちは俺と同じだろうな。
どちらが優勢であろうとマルテナが関わっている以上助けようとは思っていたが、ウロボロスが関わっているとなると事は予想よりも大きくなると思っていい。
以前と違ってウロボロスがどう動くか予想がつかない。俺が取った行動が最悪になり得る可能性も⋯⋯。
「ボクはマルテナを助けるよ」
知ってる声がした。
「マルテナにどんな事情があるかは分からない。けど、私利私欲のために武器を取る人物じゃないってボクは一番わかってる!」
───それはゲームで何度も聞いた、仲間を導く主人公の声。
「だから助けるってか?なら好きにしろよ。オレさまたちに関係ない話だ」
だが、その声が届かぬ者も存在する。
俺たちにとってマルテナは仲間だが、ロビンからすればどうでもいい他人だ。そんな他人のためにわざわざ動くような奴じゃない。
それは分かっていたが、できれば俺も一緒にしないで欲しかったな。『えっ』と小さな声を漏らしたアデルが、不安そうな顔で俺を見てから俯いてしまった。
「あ、そっか⋯⋯。君には、関係ない話だったね」
アデル目線で見れば、俺はラブリナの友達ではあるが彼女のようにマルテナのために戦う動機がない。ロビンのように、関係ないと一蹴されるのが普通だ。
特に俺たちのような指名手配犯は、わざわざ内乱の中に飛び込むような面倒事はしない。
全く関係ない、他人ならな。
だが、ここにいるのは俺だ。姿形は別人に見えていようと、ここにいるのはガイド・ルーカスとしての俺だ。弟子が必死に戦ってるのに、関係ないと見捨てる師匠がいるか? いないだろ!
「安心しろ、俺も手伝ってやるから」
「ほんとう!?」
「はぁ!?」
両者の反応は極端だな。パァっと明るい表情で顔を上げたアデルと、信じられない者を見るように目を見開くロビン。
「正気か、てめぇ?」
「ボレアス王国は俺が生まれ育った国だからな。無関係の話じゃない」
それだけだと、協力する理由としては弱いか。アデルはともかくロビンが納得しないな。
「それに⋯⋯亡くなったエドワード公爵に恩がある」
あの人は気にしないでいいと笑うと思うが、俺が両親を病から救うために薬師の先生を探していた時に、協力してくれたのがエドワード公爵だった。
その時はまだ、家督を継いでいなかったが公爵家の嫡男として、俺とは天と地ほどの身分の差があった。ただの平民でしかない俺が困ってるからと、手を差し伸べてくれたお人好しが⋯⋯エドワード公爵だ。
「そのために協力するってか?くだらねぇ理由だな」
「恩人が殺されたってのに動かない方がバカだろ? お前が同じ立場ならそうやって笑うのか?」
「ちっ!」
ロビンの視線がアデルが傍に置いている軍刀に向けられたと思ったら、舌打ちして俺たちに背を向けた。それ以上言うことはないらしい。
「そんなわけだ。俺で良ければ協力するよ」
「ありがとう!!」
こんな風にお礼を言われるようなことではないんだよな。俺も、マルテナを救いたいという気持ちで動いているわけだし。
「はい!」
「ん? あー、そういうことか」
アデルが手を差し出してきたのに対して一瞬戸惑ってしまったが、彼女の浮かべる笑みを見て意図を理解してこちらも手を差し出す。
ギュッと握手を交わした。
「改めて、これからよろしくね!」
「あぁ、よろしく頼む」
ここまでの道中バタバタしているのもあって、こうしてアデルと向き合えていなかった。ちゃんと反省しよう。
というか、まだ軍刀のこととかその他諸々しっかり謝れていないからな。この機会で後腐れがないようにちゃんと謝っておこう。
その前に。
「ただ、内乱ともなると流石に俺たち二人だけでは手が足りない」
アデルに一声かけてから握手していた手を離し、俺たちに背を向けるロビンに話しかける。
すると俺の言葉にゆっくりと、ロビンが振り返った。すごい嫌そうな顔だ。
「手伝ってくれ、ロビン」
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