ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
意外なことにロビンから返ってきたのは肯定の声だった。心底嫌そうに、舌打ちしながらではあったが『今回だけだぞ』とロビンは協力を約束してくれた。
照れくさかったからか、あるいは本当に嫌だったのか、真相は不明だがお礼を言う前にロビンは俺たちに背を向けて寝てしまった。そんな姿を見て、ついつい笑ってしまう。
「ありがとな」
反応はない。まだ起きているとは思うが、寝ようとしているなら邪魔はしない方がいいだろう。
ようやく一息つけると、お茶を一口飲んだがすっかり冷めてしまっていた。個人的に淹れたての暖かいお茶が好きなんだが、これもこれで悪くない。乾いた喉を潤すように冷たいお茶を飲み干した。
「ねぇ⋯⋯」
「ん?」
声に反応して振り返ると、俺と同じようにお茶を飲んでいたアデルが話しかけてきた。
「気になったんだけど、君とロビンってどういう関係?」
アデルから見たロビンはどこまでいっても裏切り者でしかない。
そんな人物と親密な関係であるなら、俺に対しても警戒を持たないといけない⋯⋯なんて疑いからきた質問かと思ったが、アデルの表情から察するに単純に気になったから聞いたってところだな。
さて、なんて答えようか。
俺個人としては仲間と呼びたいところだが、それはあくまでもガイドとしての繋がりによるものだ。今の状況では俺からの一方的なものでしかない。なら。
「共犯者⋯⋯ってのが、一番しっくりくるかもな」
「そういえば、君たちは指名手配になってたね。ロビンは想像がつくけど、なんで君まで?」
「それに関しては成り行きだな」
この世界に戻ってきたと思ったらオーストリン王国の牢獄の中だったし、建物の構造に見覚えがあるってことでロビンを探しに行ったら実際にいたし、脱獄したばかりのロビンに襲われたし⋯⋯うん、成り行きだ。
「罪状は脱獄補助、あるいは逃走の補助ってことになってる」
「ロビンが捕まったのはボクもラブリナから聞いてたから知ってる。ってことは君がロビンを逃がしたの?」
「いや、俺はたまたま居合わせただけだな。俺が逃がす以前にロビンは自分から牢屋から出てきた」
「自分から出てきた?」
あの時点では正直、ロビンを牢屋から出そうという気はなかった。ロックピックを持ってるので開けようと思えば開けることはできたが、わざわざ犯罪を犯す必要はないだろうと思っていた。
牢屋に囚われていたのが、それこそアデルやラブリナだったら迷いなく牢屋の鍵を開けたが⋯⋯ロビンだったからな。
結果的に言えばあいつは自分から牢屋から出てきた。そういえばバタバタしていて忘れていたが⋯⋯あいつ、ウロボロスと接触しているんだったな。
「鍵を持ってたらしい。それで自分で開けて出てきた」
「へぇー」
ロビンとウロボロスが接触しているってことは一先ず俺の胸の内に秘めておこう。あの場で聞いたロビンの吐露が、嘘であったとは思いたくない。少なくとも金のためにウロボロスと協力することはないだろう。
アデルには言わないでおこう。俺と違って、あの場でロビンの本音を聞いたわけじゃない。ウロボロスと接触していると伝えれば、今よりも印象が悪くなるだけだ。
「まぁ、その後は色々あって共に脱獄して⋯⋯晴れて指名手配って流れだ」
「ふーん。それはいいや。ボクが気になったのはさ、どうして君は牢獄にいたの? ロビンを助けるため⋯⋯じゃないよね?なんで?」
当然の疑問だな。ただ、答えが一つしかない。
「それも⋯⋯成り行きとしか答えようがないな」
「教えられないってことね」
「悪い」
戻ってきたら牢屋の中だったからな。自分から牢獄に忍び込んだわけじゃない。それこそ俺をこの世界へと戻してくれたタマモさまにでも聞かないと分からないことだ。
「仲間ではないんだよね?」
「違うな」
ガイドとしての関係性を含めないのであれば、一緒に脱獄した共犯者ってだけでしかない。
「共犯者ってだけ?」
「本当に俺とロビンの関係性なんてそんなものだ。一緒に脱獄して、二日ほど二人で身を潜めてただけだから⋯⋯なんだったら、アデルと過ごした期間の方が長いぞ」
だから正直、ロビンに手伝ってくれと言った時は断られる想定でいた。ガイドなら頼めばもしかしたら引き受けてくれたかも知れないが、ロビンからすれば俺なんて所詮他人でしかないからな。助ける義理がない。
村で俺を助けたのだって、夢の中に出てきた狐の女性───タマモさまがどうやら関わっている様子。それだってロビンの本意じゃない。
そう考えれば、今回俺に協力すると言ったのは同様に何かしらの目的があると考えるべきだ。
「そっか⋯⋯なら、ボクから一つアドバイスをしてあげる」
チラッとアデルがロビンを見た。
「君の胸の内に留めておいて」
ロビンに聞かせたくないのか、近寄ってきたアデルが俺の耳元でそっと呟く。
「あいつは裏切るよ、気をつけてね」
それだけ言うとまた元の位置に戻って、地面に座り込んだ。
───裏切る、か。
大丈夫、ロビンは裏切らないよって言えないあたりがあいつの人柄を表している。
今は利害が一致しているだけ。違った瞬間に裏切るなんてざらにある。うん、気をつけよう。
「お茶、いるか?」
「うん。貰っていい?」
チラッとアデルの容れ物を見ると中身が空になっていたので、おかわりがいるか確認するとすっと容れ物を差し出された。
ついでに俺のも入れるか。
「ほい」
「ありがとう」
多めに作っておいたので、二人分くらいのお茶は余裕であった。容れ物にお茶を注いでから渡すと、人懐っこい笑みと一緒にお礼を言われた。
淹れたてのお茶を飲むと体の芯まで温もっていくのを感じる。冷たいお茶も悪くないが、やはり熱いお茶がいい。心が落ち着くな。
「いい夜だな」
「うん」
ふぅと、息を吐きながら空を見上げると雲一つない夜空に小さな星たちと、欠けた月が浮かんでいた。
アデルたちと旅をしていた時もこうして一緒に夜空を眺めながら、お茶を飲んでまったりする機会があった。 昔を思い出して懐かしい気持ちに浸っていると、『ねぇ』とアデルに声をかけられた。
「さっきは、ごめんね」
「ん? なんで謝るんだ」
急にアデルが頭を下げてきて困惑してしまう。俺が不思議そうに尋ねると、眉を下げて申し訳なさそうにアデルが続ける。
「君のことをちゃんと考えないで、ガイドの技の方が凄いって言っちゃったから」
「あー、そんなことか」
ロビンに至っては偽物の剣ってまで言いやがったからな。俺以外の人間だったら、間違いなくキレてる。でも、今回は俺だからな。
なんというか、過去の自分に───アデルたちの思い出の中の自分に負けてるって思い知らされて結構心にきたが、まぁ強くなればいいだけの話だ。
「君の技は凄いよ!ボクの目で追いきれなかった! ガイドってボクの大切な人と⋯⋯同じくらい凄い技だった」
「そいつの方が凄いんだろ?」
「⋯⋯凄いって思いたいんだ。君の方が凄いって認めちゃうと⋯⋯ボクの中のガイドが小さくなっちゃう気がして」
意地悪な聞き方をしてしまったな。
けど、どうしてあんな風に言ってしまったかアデルの本心が聞けてホッとした。
「一番なんだ。⋯⋯ボクの中ではガイドが一番強くて、カッコイイんだ」
その一言で、頬が緩みそうになって慌てて口元を隠す。
好きだったゲームの主人公に───アデルにそう想ってもらえている、それだけでこんなにも心が救われた。
「そうか、なら⋯⋯そのガイドって人より強くなれるように俺も頑張るよ」
「ガイドの剣はもっと速いし、鋭いよ」
「超えるさ」
「ふふ、その時はボクも素直に認めるよ」
二人で笑いあって、一緒に夜空を見上げた。
「ボクも強くなるよ。弱いボクを見せるのはもう、おしまい!ガイドを心配させたくないからね」
ニッと笑うアデルの笑みを見て、心の底から安堵した。
アデルはもう⋯⋯ちゃんと、前を向けている。過去と向き合って、自分の足で前へと進もうとしている。
「一緒に強くなろう、ガイドって人よりも」
「うん!!」
───俺も過去を越えよう。
アデルたちの思い出の中のガイドを超えて───強くなることで今後こそ誰も犠牲にせずに救ってみせる。
「ところで、君の仮面ってどうなってるの? 外して飲んだり食べたりするのかと思ったら、仮面の上から物が消えていくんだけど⋯⋯」
「あー、はい」
───ノーコメントで。