ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
第三者から見た自分がどう映ってるか、自分で把握できていないのがかなり不味い気がするな。指名手配書のお陰で外見は何となく想像はできているが⋯⋯。
というか、え? 俺ってそんな風になってるの?
「どうしたの、急に顔をペタペタして」
「いや、ちょっとな」
自分の顔を触って見れば分かるがそこにあるのは素肌だ。仮面が付けてあるように見えるのはあくまでも俺以外の人だけ。
だから飲み食いするとなってもわざわざ仮面を外す必要はない。というより、実際にない物を外しようがない。そこまではまだいい。
問題なのは俺以外の人間には当たり前の食事光景が、仮面に吸われていくように映っているということ。うん、ホラーじゃないか!
待て待て待て。
俺はこの日に至るまで、ロビンやラブリナと一緒に食事を取ってきたぞ⋯⋯なのにアデルに指摘されるまで一度もそのことを気付かないのは如何なものか!
いや、うん⋯⋯多分、デリケートな部分だからって触れなかった優しさだよな。ラブリナに関してはそういう気遣いができる人物だから納得はできる。
ロビンならもっと早く踏み込んできそうな気もするが⋯⋯いや、裏の世界に長くいる人間なら不用意に干渉はしないか。煽る行為はするが、なんだかんだ線引きはしっかりしている。
俺が同じ立場なら、好奇心はあるが本人が話してくれるまでは待つ選択をするだろう。この世界においては
変わった人間がいないわけではない。
「一応、話しておくか」
「その仮面のこと?」
「そうだな」
遅かれ早かれ、共に行動するなら俺の事情については話しておく必要がある。ロビンはともかく、アデルなら⋯⋯ある程度話しても問題はないんじゃないかと思った。
「アデルには、俺が仮面を被っているように見えているよな」
「うん!⋯⋯違うの?」
俺の顔をジッと見て、アデルが不思議そうに首を傾げた。
「人にはそう見えているんだが、俺の認識としては仮面は被っていないんだ」
「⋯⋯⋯⋯」
アデルに何言ってんだこいつって目で見られてる。
その目をやめてくれ⋯⋯心にくるから。変なことを言ってる自覚はあるけど、嘘じゃないんだ。
「手でこうして触れば、素肌の感触がある。指で抓ると痛みも感じる。仮面の上からならできないことだろ?」
目の前で実践してみるが、アデルの表情は変わらない。相も変わらず、何言ってんだと言わんばかりに冷めた表情で俺を見ている。
だから、その目をやめてくれ。
「つまり、君の認識では仮面は被ってないけどボク達には仮面があるように見えてるって言いたいんだね?」
「信じられないかも知れないけど、一応事実なんだ」
顎に手を置いてアデルが少し考える素振りを見せた。と思ったら、急に近寄ってきて俺の顔に手を伸ばしてきた。
反射的にその手を振り払おうと右手が動いたが、アデルの行動に殺気がないことと何をしたいか⋯⋯その意図を汲み取ることができたので受け入れることにした。
アデルの指先が俺の頬を叩く。コツンコツンと無機質な音がして、そこに伝わる人の指の感触が俺にはなかった。
「仮面、被ってるよ」
つーっと人差し指がそのまま俺の顔を撫でるが、感触はない。まるで薄い膜のようなものの上から撫でられているような⋯⋯。
何かが、本当にそこにあるのか?
俺には見えてないだけで、実際に仮面を被っているのか?
俺が触ってもそこには何もなかった。だが、アデルが触るとまるで俺との接触を隔てるように何かが存在する。
「外せないの、これ?」
考え事をしていると、アデルが急に顔を掴んできた。だが、やはり痛みはない。感触もない。俺の肌ではない何かを掴んでいるよう⋯⋯っ!!!
「っ!!いでで、いたい⋯⋯痛いっ!」
顔が引っ張られるような痛みに流石に声が出た。実際に指で掴まれているわけでもないのに、顔の皮を持っていかれるような感覚⋯⋯。
「まるで顔に張り付いてるみたいだね、外せないや」
パッと手を離したアデルが興味深そうに俺の顔を見つめている。慌てて顔を触るが、やはりそこにあるのは素肌だ。アデルが言うように顔に張り付いた仮面なんてものは存在しない。
───認識させないためか?
顔が見えなくても、手の感触が分かれば人によってはその人の顔の造形が分かる。それをさせないために、世界が拒んでいるのか?
分からない。本当にどういう仕組みか分からない。その辺の説明をしっかり聞いておくべきだったな。
「もう一度言うけど、ちゃんと仮面は被ってるよ。けど、君には見えないんだよね」
「そうだな」
「⋯⋯本当っぽいね」
急に引っ張ってごめんねと、謝った後アデルが俺の横に座った。
「ひとまず、君の言うことを信じることにする」
「疑ってたろ?」
「うん。何言ってんだろこの人って思ってた」
素直に認められるとグサッとくるぞ。他人ならともかく、仲間であるアデルにそういう風に思われるのが一番くる。
「実際に仮面はあったしね⋯⋯けど、引き剥がせなかった。付けてるとかじゃない⋯⋯そこにある物みたいに絶対に取れないって、触ってみてわかった」
「だから、信じることにした?」
「うん。仮面に吸われるように飲食物も消えていったしね。⋯⋯変わった体質だね、君」
ふふふっとアデルが笑った。
変わった体質の一言で片付けていいことか、それ。
まぁ、化け物と認識されて拒絶されてないのでひとまず良しとするか。他人にどう見られているかは、改めて意識した方は良さげだな。
「君のそれは、生まれつき?」
特異体質の人間イコール
「いや、生まれつきじゃない。ここ最近だな」
「最近なの?」
「そうだな」
この世界に戻ってきてからだから、一月前くらいか。本当に直近だ。
「なにか、あったの?」
「色々とな」
「それも話せない、ってこと?」
アデルからすると俺も大概怪しい人間だな。謎が多いというか、話せないことが多いというか⋯⋯うん、話せそうなことはここら辺でちゃんと話した方がいいな。
「そうだな、信じるかどうかはアデルに任せて⋯⋯少しだけ話してもいいか」
「うん、教えて」
俺自身がガイド・ルーカスだって伝えることができるのが一番手っ取り早い。けど、残念ながらそれはできない。自分の名前を名乗ってもアデルたちには別のように聞こえる。
見た目も、声も、姿形も、名前も、俺であると認識できないように阻害される。
はたして、この認識の阻害はどのレベルのものなのか⋯⋯。
「俺は一度、死んだ人間なんだ」
もし、この言葉がアデルに届いているなら⋯⋯今は分からなくとも点と点が繋がるように、俺だって気付いてくれるかもしれない。
「えっと⋯⋯」
けど、どうやらこの世界はそんな甘くはないらしい。
俺の言葉を聞いて、申し訳なさそうに首を傾げるアデルの姿が甘い考えだと嘲笑っているようだった。
「ごめん、君の声が急に途切れて聞き取れなくて⋯⋯なんて、言ったのかな?」
「そう、か⋯⋯」
───タマモさまが言っていたじゃないか。
世界にとってガイド・ルーカスは既に死んだ扱いなのだと。死んだ人間が蘇るなんて本来の世界ではありえないこと。
ここにいるのはガイド・ルーカスじゃない。だから、俺はこの世界に存在していられる。そういうことじゃないか?
「悪い、なら話せそうにないかな」
「⋯⋯⋯⋯」
「話したいけど、話せないというのが正しいか」
仮面といい、この発言いい⋯⋯本当に怪しさしかないな。自分でも笑ってしまいそうだ。
「ワケあり、みたいだね」
「そういうことになる」
「ふぅ⋯⋯付いてくるの失敗したかなー」
ロビンを見て、もう一度俺を見て深く息を吐いたアデルが笑いながら口にする。
アデル目線で見ると、この場にいるのは三度も仲間だった自分を裏切った裏切り者と、謎が多く自分のことをろくに話さない仮面の不審者。誰がどう見ても失敗だろ。
「今ならまだ、間に合うんじゃないか?」
距離もあったから騎士たちにアデルの顔を見られたわけではない。あの場には意識のある村人もいなかった。今なら戻っても俺たちの共犯者とは扱われないだろう。
「付いてくよ。マルテナを助けたいし⋯⋯君が悪い奴じゃないって事だけはなんとなく分かるから」
「ありがとう」
アデルの笑顔が、今の俺には眩しいな。
何も話せないことが、本当に申し訳なくて罪悪感が募っていく。
こんな俺を悪い奴じゃないって言い切ってくれて⋯⋯本当にありがとう。
「さてと、そろそろ寝ないと明日に響くよ」
「わかってる。けど、俺はもう少しだけ火の番をしてるよ」
寝た方がいいのは分かってるが、気分的にまだ眠れそうにないからな。
「なら、無理だけはしないようにー」
地面にそのまま寝転がっているロビンと違い、アデルはカーチス特製の寝袋モドキをアイテムポーチから取り出して、もそもそと寝る準備を整えていた。
「おやすみ、アデル」
何気なくかけたありきたりな言葉。その返事もまた平凡なものだった。
「うん、おやすみ⋯⋯