ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
パチパチと音を立てて燃える焚き木を眺めていた。いつまでもこうしていたらダメだということを頭で分かっているが、行動に移せない。
夜も深まっている。アデルが言っていたように早く寝ないと明日に響く。そんなことは自分でもよく分かっているが、どうしても眠気がこない。
旅行に行った日にテンションが上がって寝れないガキじゃないんだからと、自分を笑って⋯⋯考え事から思考を切り離そうとしたが、結局また戻っていた。
───ロスト。
アデルが呼んだその名前が、不思議と俺の名前だと認識できた。それがきっと、俺以外の人間に聞こえてる今の俺の名前。
「どういうこと⋯⋯だろうな」
なぜ、今回は俺はその名前を認識できたんだ?
これまではその名前は全てガイドと聞こえてきた。俺を俺として認識出来ないまま、ラブリナやロビンは俺をガイドと呼んでいた。
彼らが俺をガイドと呼んでいないのは会話のやり取りでわかっていた。どのような名前に聞こえているか、俺も気になっていたくらいだ。
その名前を唐突に知ることになった。
アデルはハッキリと口にしたな、俺を見て『ロスト』と呼んだ。それが彼らに聞こえるの俺の名前なのは間違いない
なんで急に聞こえるようになったんだろうか。これまで俺の名前を呼んだのはラブリナと、ロビン⋯⋯その他にも村で一月お世話になった人、彼ら全員が俺をガイドと呼んだ。
アデルに名前を呼ばれたのは実はいうと今回が初めてだ。アデルだから、その名前が聞こえた?
ないとは、断言できない。アデルはこの世界における主人公だ。特別な存在であるアデルなら⋯⋯いや、違うな。
俺の認識だ。
アデル以外のみんなはずっとガイドとは違う名前を───ロストと俺を呼んできたはずだ。その名前を
今回俺がその名前を認識出来たのはなぜだ?
「認めたからか」
ガイド・ルーカスは既に死んでいると。
この世界にいる俺はガイド・ルーカスじゃないと、そう認識したからその名前が聞こえたのか?
「そういうことなんだな⋯⋯」
ロスト───失う、か。
この世界にはもう
「それでも、救いたいって気持ちに変わりはない」
それくらいで心が折れるなら、とうの昔に諦めれている。あの道を引き返して自分に都合のいい夢を見ていたさ。
「待っててくれ」
夜空に浮かぶ小さな星が力強く煌めいた気がした。
多少の眠気が残るぼんやりとした意識で、俺は朝を迎えた。上体を起こして周辺を見渡すと、焚き木の火が消えていることがわかった。少し肌寒いと感じたのはそのためか。
「アデルは⋯⋯まだ寝ているか」
寝袋モドキにくるまって俺より先に睡眠に入った彼女はまだ睡眠を甘受していた。
寝るのが遅かった俺が悪いのが大前提にあるが、こうも気持ち良さそうに寝られるも少しばかり妬ましく思ってしまう。俺ももう少しだけ寝てもいいか?いや⋯⋯。
「ロビンが、いない」
アデルから視線を外し、周囲を見渡してもそこにいたはずの人影がない。一瞬頭の中に過ぎった嫌な想像が、僅かに残っていた眠気を吹き飛ばす。
俺たちを置いて一人だけでどこかに行った?目的のためであればロビンならそれくらい平然とするだろうが⋯⋯。
「道具は置いてある⋯⋯」
ロビンが寝ていた付近には彼のアイテムポーチが転がっている。複数所持しているならその限りではないが、これから北上して国境を越えようとしているロビンには必要な物資も多い。
アイテムポーチを忘れた、なんてヘマは流石にしないだろうから俺たちから離れて何かをしていると考えるべきだ。
直ぐに怪しいと思ってしまうのは悪いところだな。これで本当にロビンが後ろめたい事をしてなかったら、ただただ申し訳ない気分になるだろう。
「少し探すか」
意識して人の気配を探ると遺跡から少し離れた位置に人の気配がある。⋯⋯二つ、だな。一つは見知ったもの⋯⋯もう一つは俺も知らないものだ。
「当たるのかよ」
片方はご存知の通りロビンだ。なんでこうもあからさまに怪しい行動をしているんだ、あいつは⋯⋯。気付いてしまった以上、確認はしておくべきか。
眠っているアデルを起こさないように足音を殺して移動する。
人の気配はまだ、変わらずに遺跡の外にあるな。いや、一つが離れようとしている。完全に離れてしまう前に、姿だけでも確認したい。
素早く遺跡を出て人の気配がする方へと走る。その際もできるだけ足音を殺すのを忘れない。
「⋯⋯あれは」
槍を片手に持つロビンの後姿と、遠ざかっていく何者かの人影は確認できた。思っていたより離れていくのが早い⋯⋯手練だな。既に距離が離れていて外見的な特徴は視認できそうにない。少し、遅かったらしい。
「おい、なにコソコソ見てんだ」
それでいて、隠れて様子を窺っていたことを直ぐにロビンに察知された。俺の隠密が拙いのもあるだろうが、こればかりはロビンを褒めるべきだろう。柱が死角になっているので見えないと思っていたんだがな。
「今のは誰だ?」
バレた以上コソコソ隠れる必要はないと、そのまま歩み出てロビンの元へ向かう。もちろん、こいつが答えるとは期待していない。
「前に話した、ウロボロスの残党だ」
なん、だと。
ロビンに接触していた人物がウロボロスの残党だったことに驚いた⋯⋯というよりも、素直に話したことにびっくりした。ロビンなら、お前に話す義理はないと冷たく突き放すと思っていたんだが。
「⋯⋯なに、驚いてんだ」
「いや、話してくれると思っていなかったからな」
俺も正直な感想を述べると、ロビンが不機嫌そうに舌打ちした。
「話す内容の線引きくらいはオレさまもしている。てめぇに見られたから話すんじゃねぇ、話しても問題ないから話すだけだ」
「そういうことか」
判断は難しいところではある。ロビンの言葉が、どこまで本当かどこまでが嘘か、おれには見分けることができないからな。それが出来るなら生前に、ロビンの本音に気付けた。
俺が鈍いというよりも、自分を隠すことにロビンが長けている。
「牢獄で話した内容を覚えているか?」
「金を払うから、ロビンの力を貸せってやつか」
「そうだ。脱獄に協力した見返りに仕事を受けろと言ってきた」
あの場にウロボロスの残党はいなかったが、ロビンが牢を出る際に使用した鍵はウロボロスが用意した物だと後から聞いた。看守の兵に変装してロビンに接触してきたとも。
「何を頼まれた?」
「人を殺せと言っていたな。ウロボロスを瓦解させた忌々しき連中をオレさまの手で殺せと命令してきた」
ロビンが遺跡を見た。建造物を見ているわけではないだろう。その中にいる人物を見据えているはず。
「アデルか?」
「ターゲットには入ってるらしいが、オレさまに頼んだのは別の奴だ」
違うのか? だが、今の口振りではウロボロスがアデルを狙っているのは間違いない。忌々しき連中、とまで言っていたのならターゲットはアデルだけじゃない、俺たちの仲間全員か。
どうやらウロボロスの野望を阻止して、組織が瓦解する原因となった俺たちのことを相当恨んでいるらしい。
「ちょうどオレさまたちが向かう先に、ターゲットがいるらしい」
「ボレアス王国にいるターゲットとなると⋯⋯マルテナだな」
俺とアデルの二人が、マルテナを助けようと話していたのをこいつは聞いていたはずだ。その上でこの発言は、流石に挑発していると受け取るぞ。
ロビンがマルテナの命を狙うなら、俺も流石に許すわけにはいかない。
「そう逸るな、受けたとは言ってねぇだろ」
「その言葉を俺に信じろと?」
「信じるかどうかは好きにしろ。ただ、オレさまが仕事を受けてやる理由もないと知っているはずだ」
牢獄でのやり取りを思い出せと暗に言ってるな。金なんてどうでもいい。今のロビンが気になっているのは、俺が命を捨てて護ったクラリスにその価値があるかどうか。
こいつの目的は、クラリスを見定めること。
「こうして話しているのも、くだらねぇ邪推をされたくないからだ」
「邪推か⋯⋯」
だから、ロビンが言うと何が嘘で何が本当か分からないから困るんだよな。
「オレさまにとっては既にどうでもいい連中だ。連中から聞いた情報が聞きたいならそのまま話してやる」
「なら、教えてくれ」
「連中が言うには既にターゲットの一人は片付いたそうだ。組織としても力を取り戻しつつある。だから協力しろと俺に迫ってきた」
まるで手遊びするように槍をクルリと回す。
ロビンにとっては本当にどうでもいいことなのだろう。話す態度に緊張感はない。だが、話す内容は聞き捨てならないものだ。
「片付いた⋯⋯殺したってことか」
「さぁな、連中も明言はしてなかった。アデルを狙ったタイミングでもう一人のターゲットにも刺客を送ったそうだ」
ロビンがまた槍をクルリと回した。
「ターゲットの名前はラブリナ・ブロックハート」
その名前を聞いた瞬間、俺の中で押し寄せてきていた不安が消し飛んだ。
もしかしたら仲間が殺されたかもしれない。そんな良くない想像も何もかも、その名前一つで消えていく。
「最近組織に加入した新人が、作戦通りにラブリナを倒してきたなんてほざいていたが⋯⋯」
ロビンが嘲笑した。
「雑魚が倒せるわけねぇだろ、あの筋肉ダルマを」
言葉が汚いので同意はしたくないが、まぁ無理だな。俺もラブリナを倒せるとは思えない。それこそ