ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
変なフラグが立った気もするが、やはり胸騒ぎはない。ラブリナなら大丈夫だろうという信頼があるからだろう。懸念が一つあるとすれば、ラブリナに何も言わずにアデルを連れて村を出てきたことか?
刺客をぶっ倒して村に戻ったら、面倒を見ているアデルがいなくて⋯⋯なんだったら俺もいない。俺が同じ立場なら、間違いなく何かあったと察して心配する。心優しいラブリナなら尚更だ。
ただ、なんでだろうな。根拠の無い直感でしかないが、ラブリナにはまた直ぐに会えるような気がした。
「なに笑ってるんだ⋯⋯」
「いや、大したことじゃない。それより、認めてるんだな⋯⋯ラブリナのこと」
「強さを過小評価した者から死んでいく、それが世の常だ。あんななりだが、ラブリナは強い。少なくとも⋯⋯このオレさまよりな」
ラブリナを自分より強いと認めてはいるが、自分が上だと物語っているような獰猛な笑みをロビンは浮かべていた。
あくまでも現時点の自分よりは強い、そう言いたいんだろうな。全盛期なら自分の方が強いと思ってるに違いない。
「さて、他になにか聞きたいことはあるか? 」
また槍をクルリと回した。
会話の最中にロビンが何度も行う動作な分、どうしてもその何気ない動きに意識が向いてしまう。ただの手遊びのような動作なのか、あるいはこの行動すら意味があるのか⋯⋯。
考えても埒が明かないか。
「話はそれだけだったのか? ターゲットを殺せとお前に頼んだだけか?」
「まぁ、組織のことを色々と言ってはいたが⋯⋯あれは泥舟だ。帝国のおかげで活動出来ているだけのな。今では乗る価値すらない。前のように組織を束ねる頭がいれば話は別だが」
「あくまでも残党が集まっているだけってことか」
ウロボロスのボスや、幹部の多くを打ち破ったのは俺たちだ。激しい戦いで亡くなった者も、消息が分からなくなった者も多くいる。その結果、ウロボロスは以前のように組織としての形を保てずに瓦解した。
その残党たちが、今もウロボロスを名乗り
「数少ない生き残りの幹部たちは、残党どもは見捨てて今は帝国に仕えてるって話だ。厄介なのはどちらかといえばそっちだろ」
「そうだな」
元々、ウロボロスと帝国は協力関係にあった。組織が瓦解して行き場を失った人員たちが、帝国にそのまま流れるのはおかしな話ではない。帝国も強力な戦力をそのまま召し抱えれると喜んで受け入れるはずだ。
逆を言えば、今も尚ウロボロスを名乗り⋯⋯残党として行動している者たちは新しい道を進めなかった者たちということだ。今も亡きボスに心酔し、ボスが掲げた野望のために動いているかも知れない。
ウロボロスの最大の障害となった俺たちのことを深く憎み、命を狙うのは至極自然な考え。ただ、トップのいない烏合の衆は良いように使われるのがの世の常。
「安心しろ、少なくとも今はあの連中の話に乗る気はない」
「今は?」
なんとも安心出来ない言葉だ。文字通り、今はウロボロスに協力しないだけ。利害が一致することがあればその限りではないかもな。
ため息が出た。
「一つだけ助言しておいてやる。オレさまにとってはどうでもいい話だが、ボレアス王国の内乱に介入するなら急いだ方がいいぜ」
また手癖のように槍を回した後、ロビンがニヤリと笑う。背中に冷たいなにかが伝った。
「ウロボロスの残党の話では、内乱を掻き乱すために帝国からアネモネが派遣される予定らしい」
───アネモネ。
アネモネ・パンデミック。
どちらかと言えばその名前より通称の方がヴァルキリー戦記のプレイヤーには記憶に深いだろう。
手段を選ばないえげつない方法で主人公たちを追い詰める姿から付けられたその名は───外道ピエロ。
「事の重大さが分かったなら、急ぐぞ」
話を無理やり切り上げられた気がしないでもないが、事の重大さは俺も重々承知している。
「穏便に済ませるつもりだったが、急ぐなら強行突破だな」
このまま北上して国境を越えるとなると必ずグラキエス要塞にぶち当たる。当然、警備の兵はいる。
彼らはただ、警備をしているだけなので時間はかかるが見つからないように潜入して穏便に済ませるつもりだった⋯⋯けど、外道ピエロが来るってなると流石に手段は選んでいられない。
あのピエロに掻き乱される前に、マルテナと合流したい。
急ぐといっても人の足の進行速度には限界がある。ゲームのようにマップを簡単に移動できるわけではない。
なにより、追手から逃れるように整備された道から外れて北上しているわけだ。当然、道は歩きにくい悪路となる。急ぐ気持ちはあったが、一旦の目的地であるグラキエス要塞に到着するまで数日を要した。
「大きいねー」
俺たちの視線の先には、オーストリン王国の国境線沿いに長く伸びたバカデカい要塞が存在する。地震が起きるまではこの要塞にも大きな意味があったので、見ての通り立派な造りである。
「見かけだけだ。中にいる兵は他と比べれば十分の一程度の少数だ」
それでも十分に驚異となるだけの数はいる。万が一にもボレアス王国が攻めてきた際に、応援が駆けつけるまで防衛できる最低限の数はいると聞いている。
もっともここ十数年、ボレアス王国側からの怪しい動きがなかったため要塞を護る兵の気は緩んでいるそうだ。一体全体、どこでそんな情報を入手してくるのか⋯⋯聞いても教えてはくれないだろうが気になって仕方ない。。
「それで、この要塞はどうやって越えるの?」
「あ?そんなの決まってるだろ」
要塞を見ながらアデルが口にした疑問に答えるように、ロビンがアイテムポーチから白銀の槍を取り出した。
明らかな戦いの準備に、アデルの顔が引き攣る。
そんなアデルにお願いするのは大変申し訳ないが、流石の俺も無手で要塞に突っ込むほど蛮勇ではないのでアデルが持っている軍刀をもう一度貸して欲しい。
「悪い、軍刀貸して貰っていいか」
「⋯⋯此処に来るまでに嫌な予想はしてたけどさ」
ブツブツと文句を言いながらも、ガイドの形見である軍刀を俺に手渡してくれた。
「貸してと言っておいてアレだが、いいのか?」
「ボクにその軍刀は使いこなせないからね。飾られているよりも使われる方がガイドも喜ぶ」
ただし、と語気を強めて俺を指さす。
「壊したら怒るよ。───大事に使ってね」
「わかった。大切に使う」
これでひとまずの武器の心配はいらなくなった。アデルもまた、俺たちの意図を察したのかアイテムポーチから相棒であるロングソードを取り出している。
あの武器はゲームで入手するのはなかなかに苦労するんだが、この世界では割と簡単に手に入って拍子抜けしたんだよな。人脈の大切さが良くわかった。
「それで、作戦はどうする?」
「あん? 要塞を落とすならともかく、ただ突破するだけの行動に作戦が必要か?」
誰にも見られずに、あるいは応援を呼ばれる前に⋯⋯そんな縛りもなくただ要塞を越えるだけなら複雑な作戦は確かにいらない。それにしたって、どこから侵入するかとかは話し合わないか?
横にいるアデルも呆れた様子でロビンを見ている。
「付いてくるの失敗したかな、完全に犯罪だよこれ」
「何を今更言ってんだ。オレさまたちと行動を一緒にしてる時点で共犯だ」
やれやれとアデルがため息を吐く。
こんな風に巻き込まれるのが初めてならアデルももっと文句を言っただろうが、良くも悪くも俺たちはこうした騒動に巻き込まれ続けてきた。
一言で言えば、慣れた。
「一気に突破するぞ。先導は中の構造を把握しているオレさまが行う。てめぇらは雑魚の相手をしながら付いてこい」
俺もグラキエス要塞の造りを知らないわけではないが、あくまでもゲームの知識。どこまで構造が一緒か分からない以上、ここはロビンに任せるのが正解か。
「なんで要塞の構造を知ってるのさ」
「はっ!答える義理はねぇ」
いつものロビンだな。
クルリと槍を回した後、アデルにこれ以上言及されたくないのかロビンが俺たちに一言もなく要塞に向かって走り出した。本当に勝手な奴だな。
ため息を吐いたアデルと目が合う。
「行くか」
「うん」
要塞を警備している兵士たちには申し訳ないが、押し通らせて貰う。命までは取らないから許してくれ。