ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
「なんというか、警備が疎かだったね」
「そうだな」
事前に掴んでいた通り、長年ボレアス王国の動きがなかったことと夜明け前を狙った完全な奇襲であったため、こちらが拍子抜けするほどあっさりとグラキエス要塞は突破することができた。
ロビンが突破するだけなら作戦なんていらないと言い張るのが分かるほど、杜撰な警備だったと言っておこう。
「オーストリン王国、大丈夫かな⋯⋯あんなので」
「侵入した側が心配するのもおかしな話だけどな」
要塞の入口を見張る兵士が居眠りしていたくらいだ。常日頃から緊張感もなく、ダラダラと与えられた仕事をこなしていたのが嫌でもわかった。
一応、彼らの仕事を擁護するのであれば杜撰な警備をしていたのはあくまでもオーストリン側、つまりは自国側であって⋯⋯ボレアス王国の動きを見張っていた兵士はしっかりと仕事はしていた。
それでもこの世界でも指折りの強者である、ロビンを止めることはできず⋯⋯侵入者として俺たちを認識した時点で無慈悲に処理されていた。
オーストリン王国の兵士は仕事で見張ってるだけ。だからできる限りは殺すような真似はしたくなかったが⋯⋯俺たちと違ってロビンにはそんな甘い考えは存在しないし、ロビンを止める理由にもならない。
一応、俺たちが相手をした兵士には手心は加えたが⋯⋯少なくない血が要塞の中で流れたと言っておく。
「大騒ぎになってるね」
「そりゃそうだろ」
俺たちの目的は要塞の攻略ではない。要塞を突破してその先にあるボレアス王国へと入ることだ。
警備の兵士への対処は最低限に、最速で要塞を出た俺たちはそのまま国境を越え、ボレアス王国の領内へと入っていた。
要塞の兵士たちはようやく侵入者が入ったことに気付いたのか大騒ぎだ。遠くの方から怒声やら悲鳴やら、とにかく多くの人の声が飛び交っている。既に要塞の中には俺たちはいないんだけどな。
「それで、これならどうするの?」
オーストリン王国の国境を越えてボレアス王国の領内に入ったとはいえ、待ち受けているのは地震によってできた大地の裂け目。
元々あった地面が大きく割れて、土地を別つように大きな裂け目ができている。見下ろせば底の見えない暗闇が広がっていた。深さもそうだが、裂け目の幅も広いな。飛び越えて渡るなんて考えは、バカでも思い浮かばない。
この巨大な裂け目の存在が両国にとって線引きともなっている。橋でもかけない限りは両国とも先へと進むことはできないからな。
「この裂け目ってさ、どこまで続いてるの?」
「俺も詳しくは知らないが、人の足で20分から30分くらいは歩かないと裂け目の端にはたどり着かないはずだ」
詳細は語られていないが、およそ2kmから3kmほどこの大地の裂け目は続いている。
俺たちの現在地は大陸の最東部。東にいっても崖があって、その先には海があるだけ。裂け目に沿うように西に20分から30分ほど歩けば、裂け目の端にぶち当たる。
ただし、行く手を阻む断崖絶壁があるのでそこから先は西にも北にも進めないという。
コの字の逆みたいな形で大地が裂けてるからな。穴は飛び越えて進めないし、縦の部分は断崖絶壁で登るのも一苦労。俺たちなら登れないとは言わないが、かなり危険を伴う。
軽くアデルに説明すると、俺と同じように大地にできた裂け目を見ている。
「飛び越える?」
「まぁ、現実的ではないな」
「そうだよね」
このまま大地の裂け目の前で足踏みしていれば、いずれ要塞の兵士たちが俺たちの存在に気付いて駆けつけてくるだろう。そうなると面倒だ。
「前に言ったろ、秘密の抜け道があるって」
「そういえば、そんなこと言ってたね」
俺もその出入口は知っているがあくまでもゲームの知識。やはりここはロビンに先導を頼もうと思ったが姿がない。
「ロビンは?」
「ん?⋯⋯あ、もうあんなところにいる」
一緒になってロビンを探すと小さな人影が西に向かって歩いているのが見えた。俺たちが裂け目の前で会話している最中も一人で勝手に進んでいたらしい。
まぁ、この場合は俺たちが勝手に足を止めたのが悪いのでロビンを責めるのは間違いか? いや、それにしたって少しは待ってくれてもいい気はするが⋯⋯ロビンだしな。
二人で顔を合わせてため息を吐いてから先を進むロビンの元へと走って向かう。
裂け目を確認しながら歩いていたらしく、歩く速度はそれほどだったので直ぐに追い付いた。足音だったり、気配で俺たちが来たことに気付いているだろうが反応すらせずにそのまま足を進めている。
「それで、秘密の抜け道ってどこにあるの?」
「何処とは、明言できなくてな」
地図にここって丸がついてるわけでもないし、分かりやすい目印があるわけでもない。見落としがないように注意しながら裂け目に沿って西へと進む。
「あれだな」
5分ほど歩いたところでようやく例の抜け道を発見することができた。俺より先に見つけていたロビンは足を止めて裂け目を注視している。
「どれどれ?」
秘密の抜け道がどのようなものか気になっていたアデルが、同じように裂け目を覗き込む。
「水⋯⋯いや、川かな?」
「いや、正確に言えば巨大な水溜まりだ」
大地の裂け目は底が見えないほど深く、見下ろした先には暗闇が広がってはいるんだが⋯⋯ 俺たちが見ている大地の裂け目は実は一部分だけ底が見える箇所がある。
大地が繋がっているのか、その箇所だけ盛り上がっているのかは不明だがそこには確かに地面がある。窪みになっているのか、水も溜まっている。
「見てわかると思うが、飛び降りられない高さじゃない」
「え?」
俺の顔と裂け目の先を交互に見たあと、正気かと言わんばかりにアデルが俺の顔を見た。眼力が強過ぎて睨んでいるように思うほどだ。
「疑う気持ちは分かるが、あの先に秘密の抜け道があってな⋯⋯飛び込むつもりなんだが、どうする」
アデルが躊躇う気持ちも良く分かる。
もう一度、大地の裂け目を見下ろすとほんの一部分だけ地面が見える箇所があるが、それ以外は底の見えない暗闇だ。見えている地面だって、それなりに深い位置にある。
俺たちが飛び降りる先は当然見えている地面。そこにピンポイントで飛び降りられなければ、暗闇の中に消えていくことになるだろう。
一応、その先は海へと繋がる川らしいけど⋯⋯高さが高さなだけにタダではすまないだろうな。
「これ以外に、道はないの?」
「一応、このまま西に進めば断崖絶壁にぶち当たるから⋯⋯そこを登るくらいか?」
一度オーストリン王国へと戻って他の要塞を突破するなんて方法もあるが、グラキエス要塞よりも兵士の数は多いし⋯⋯ボレアス王国側もこちらを注視しているはずだ。
強行突破でオーストリンの要塞を越えた俺ちをボレアス王国側が歓迎するとは思えない。
「⋯⋯わかった、飛ぶよ」
アデルが覚悟を決めたようなので、兵士たちがここに駆けつけて来る前に飛び降りるとしよう。
「俺が先に飛び降りる。安全を確認したら合図するから、飛び降りてくれ」
「うん⋯⋯」
明らかに顔が引き攣っているアデルに笑いかけてから、もう一度裂け目を見下ろして着地地点を確認する。まぁ大丈夫だろ。
位置を確認しているとロビンが近寄ってきた。顔が険しいな。
「情報だと外に繋がる穴があるはずだ。確認してこい」
「はは、了解」
情報として知っていても高さが高さだけにこいつも尻込みしてるんだなと、ついつい笑ってしまう。
「おい、オレさまは別にビビってるわけじゃ」
「行ってくる」
ロビンの言い訳を背中で聞きながら、俺は飛び降りた。
「ようやく出口か」
大地の裂け目に飛び降りて、その先にある秘密の抜け道をひたすら進むことで無事に外に出ることができた。
「死ぬかと思ったー」
ようやく生きていることを実感出来たと言わんばかりに、アデルが腕を広げて陽の光を浴びている。
「思ってたより大変だったな」
「情報屋は後で必ず絞める」
思っていたより水深が深く危うく溺れかけたとか、秘密の抜け道が真っ暗で進むのに苦労したとか色々と想定外の出来事はあったが、こうして無事に出れたなら万事良し。
ロビンが情報源に対してキレているが触れない方がいいだろう。どの道、他に選択肢はなかったし。
「落ち着いた今だから聞くんだけど、秘密の抜け道って結局なに?」
「あれはオーストリン王国とボレアス王国の両国の兵士が掘った穴だ」
「ほえ?」
実は俺たちが飛び降りた場所には外に繋がる穴が二つあった。片方はボレアス王国、片方はオーストリン王国の領内に繋がっている。
よくある話だが、敵国同士にも関わらず二人の兵士は恋に落ちてしまった。国境を挟み、それぞれの要塞で睨みあいながらも、密かに会っては愛し合っていた二人。だが、ある日悲劇が起きた。
言わずと知れた地震で、二人の間は物理的に離れてしまった。その当時は両国が争い合っていたのもあって気軽に会うことなどできない状態だった。それでも愛し合う二人は、どうしても会いたくて穴を掘った。
「それがあの穴ってこと?」
「そういうことらしい。その後、オーストリン王国の兵士はボレアス王国に亡命⋯⋯二人は老いてなお昔のように情熱的に愛し合っているそうだ」
「へぇ、いい話だね」
「そうだな」
───これが、男同士の恋愛話でなければな。うん。
知らぬが仏。わざわざ言う必要はないだろう。
この穴の存在は掘った当人である二人しか知らない。つまりは原作においてこの二人から話を聞き、抜け道を知ることになるのだが⋯⋯頬を染めたおじいちゃん二人の話はなかなかなインパクトが強かったな、うん。
それはさておき。
「さて、無事にボレアス王国には入れた。ひとまず近くの町に向かおう。このまま北上したところにあったはずだ」
「うん、それじゃあ行こうよ!」
「そうだな、情報屋は後で殺そう」
マルテナを助けるためにボレアス王国へと入った俺たちは、ひとまず休息と情報を集めるために近くの町へと向かった。
そこで俺は予期せぬ再会を果たした。
「クラリス!」
───クラリス・カラミティ。
俺がこの世界で、誰よりも救いたいと願った最愛の人。
「誰、あなた?」
彼女は光を映さない空虚な瞳で、俺のことを見つめていた。