ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
───その後ろ姿を見かけたのは全くの偶然だった。
他人の空似かもしれない。
いや、だがこの世界でもその髪色は珍しく俺は彼女以外で見たことがない⋯⋯けど、髪型が違う!そんな言い訳をして尻込みしながらも⋯⋯もしかしたらと、自分がどのように見えているかも忘れて、気付けばその名前を呼んでいた。
───クラリス、と。
その名前に反応して彼女は振り向いた。
陽の光を浴びてキラキラと光って見える白銀の髪。以前は腰まで届くほど長かった髪は、首元にかかる程度の長さしかない。短くなってる。
母親譲りのその髪が宝物だと語り、髪に刃を入れたくないとクラリスは白銀の髪を大切に伸ばしていたのを知ってた。だからこそ、衝撃だった。クラリスの中で心境の変化があったと嫌でも実感して。
そして、振り向いたクラリスと目が合った。
その瞬間、脳を揺さぶられたような衝撃を受けた。それだけじゃない。全身に強い衝撃が走り抜けたようで、その目を見た瞬間に⋯⋯身体から力が抜けていくようだった。
「⋯⋯っ!!」
───目に光がない。
天真爛漫で、キラキラと輝く宝石のような碧眼は暗く濁り⋯⋯焦点が合っているか分からない空虚な瞳が俺を見つめている。
「誰、あなた?」
貼り付けた笑顔。
感情の起伏のない、知ってるはずなのに知らない声。
首を傾げて尋ねてくる姿は、俺の知るクラリスのものとはかけ離れていた。
ヴァルキリー戦記のパッケージを飾るヒロインに相応しい美貌は健在だが、そこにあるはずの明るさは消え⋯⋯どこか影や闇を感じる雰囲気をその身に纏っていた。
───闇堕ち。
嫌な言葉が脳裏が過ぎる。
「わたしを知ってるの?」
言葉がでない。
クラリスを助けるためにこの世界に戻ってきた。彼女を救えるなら大切な仲間たちにガイドとして認識されなくても構わない。
覚悟はしていた。
自分はどうだっていい。
クラリスを救えるならそれでいいと考えていた。
───心が揺さぶられる。
好きな人に
だが、それがどうした?
この苦しみは全て自分自身のせいだ。自己満足で死んで⋯⋯仲間に辛い想いをさせた罰だ。甘んじて受け止めろ。
受け止めろ!
自分が傷付くな!
「知ってる⋯⋯俺は、君を知っている」
情けない。
たったこれだけの言葉を口にするだけで言い淀んでしまう。
変わり果てたクラリスを前にして、罪悪感や自己嫌悪⋯⋯悲しみ、不安、心配、よくない負の感情がいっぺんに押し寄せてくる。
だがな、俺の仲間たちは俺以上に辛い想いをしている。
思い出せ。クラリスが闇堕ちした原因はなんだ?世界を敵に回して暴れ回る未来を作った要因はなんだ?
───俺だ。
ガイドの死だ。
分かっていたはずだ。覚悟をしていたはずだ。心を揺さぶられるな。自分の想いを殺してでも、クラリスを救うために動けよ!
そのために戻ってきたんだろ!!!
抜けていた力が戻ってくるのを感じる。大丈夫だ、やれる。
「俺は君にずっと会いたかった」
真っ直ぐにクラリスを見つめて、思いの丈をぶつける。ガイドとして認識されないのは分かってる。赤の他人しか見えていないのも分かってる。それでも俺は、君を救いたい。
「そうなの?⋯⋯⋯⋯あっ」
俺の言葉に首を傾げていたクラリスが、何かを思い出すよに声を出した。感情の乗っていない平坦な声だ。
俺のことをジッと見て貼り付けたような笑みをクラリスが浮かべる。
変わり果てた姿を見るのが辛くて⋯⋯けど、どこか影を感じるその姿すら愛おしくいと想うほど、クラリスが好きなんだと改めて実感した。
「あなた、ロビンと一緒に指名手配になっていた人ね」
「それは⋯⋯その通りだけど」
今の俺は特徴的な狐の仮面を付けている風に見えている。それが指名手配の犯人だとすれば印象に残るだろう。
「ふふ、なら悪人さんね」
口元に手を当ててクスクスと笑う。けど、その笑い声にすら感情は乗っていない。昔の自分の所作をただ真似しているだけのような笑い声。
「そうなるかな? 君もオーストリン王国にいたのか」
あの手配書はオーストリン王国にしか出回っていない。俺が指名手配されていると知っているということは、クラリスもまたオーストリン王国にいたということになる。
捜しものは身近にある、なんて言うが⋯⋯そのまさかだ。灯台もと暗し。探していたクラリスは実は近くにいた。
必死に探そうとしていたのに、こんなに近くですれ違っていたのか。
「わたしのことはロビンに聞いたの?」
「いや、違う」
「そう⋯⋯」
会ったこともない人物が自分を知っているのなら、共通の知り合いから聞いたと考えるのが自然だろう。
クラリスも、今目の前にいる人間が
「彼も近くにいるの?」
「ロビンのことか?⋯⋯それなら、一緒に行動してるから近くにはいるが」
どうしてロビンのことをそんなに気にするのだろうか? 浮かんだ疑問に思考を巡らせている間に、クラリスが俺に近寄ってきた、
足音と一緒に知っている匂いがして、そこで彼女が直ぐ目の前にいることに気付いた。
手を伸ばせばクラリスに触れられるような距離。
俺に対してフフッと笑った彼女に心を許した瞬間。
「───っ!!!!」
腹部に鋭い痛みが走った。
反射的に飛び退いて、痛みが走る箇所を見るとそこにはナイフが深く刺さっていた。
なぜ?
いったい誰が?
そんなことは考えなくてもわかることだ。それでも信じたくなくて。受け入れられなくて。
痛みよりも、ずっと心が痛くて⋯⋯。
「なぜ⋯⋯」
動揺から出た声。
顔を上げれば冷たい瞳で俺を見つめるクラリスの姿がある。
「ごめんなさい。今は大事な計画を実行している途中なの」
「⋯⋯計画?」
嫌な汗が背中を伝う。
それが痛みによるものなのか、嫌な予感が過ぎって伝ったものなのかは俺にも分からない。けど、クラリスの言う計画が⋯⋯良くないことだということは俺にも直ぐわかった。
止めないといけない。
クラリスを、世界の敵なんかにしてはいけない。
「ぐっ!!」
痛みを堪えて、クラリスに近寄ろうとした時⋯⋯頭に衝撃が走った。
誰にか後ろから殴られたのだと、認識して間もなく俺の身体は地面に倒れていた。
ナイフが深く突き刺さる。
「ぐっ!!⋯⋯っっ!」
痛みで絶叫しそうだ。
苦しくて、痛くて、辛くて、けどそれ以上に闇に堕ちようとするクラリスを止められない自分に憤りを覚えた。
「ロビンが近くにいるそうよ」
「そうでござるか。なら拙者の配下を使って探るとしよう。計画の邪魔をされる前に始末するでござるよ」
聞き覚えのある声と口調。俺の背後から聞こえた声の正体は俺の目に見えていないが、誰が俺を殴ったのかは判明した。
───シノビ。
ウロボロスに所属する幹部であり忍者のような格好、一人称とござる口調が特徴の人気キャラ。見た目が良い、声が良い、戦い方がかっこいいの三拍子によって敵キャラでありながら人気投票でも高順位に位置していた。俺たちと戦って生き延びた数少ない幹部の一人。
敵だったはずのシノビとクラリスが話している?まるで仲間のように、ロビンを殺すために会話をしている。
苦しい。
腹部に刺さったナイフよりも、ずっと痛い。心を何度も刺されているようだ。
「この者はいかがするでござる。放っておいても長くないでござるが」
「そうね」
痛みで、薄れていく意識。
必死に顔を上げて、そこにあるクラリスの顔を見た。
───冷たい目が、俺を見下ろしている。
「邪魔になる前に始末しておいて」
「御意」
嗚呼⋯⋯そうか、君はもう戻れないところまでいってしまったのか。
冷たい言葉に心が拒否しても頭が嫌でも理解してしまう。
「お主に恨みはないでござるが、これもまた不運な運命であったと諦めるでござるよ」
すぐ近くで足音と一緒に、剣を抜く音が聞こえた。
「クラリス⋯⋯」
「さようなら」
───なにもできないまま、このまま死ぬのか。
クラリスを救えないまま、俺は終わるのか?
「そいつから離れろ、厄災の魔女」
不意に聞こえたロビンの声を最後に、俺の意識はそこで途切れた。