ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
「ここは⋯⋯」
目が覚めると知らない天井が視界に入った。どうやら俺は眠っていたらしい。ただ、自分の足でこの部屋に踏み入れた記憶がない。誰かが俺をここに運んだ?
ダメだな⋯⋯まだ、意識がぼんやりとしている。
思い出せ。この町にやってきてからなにかが起きたはずだ?
『ようやく町に着いたけど、どうする?』
『てめぇらは好きにしてろ。オレ様は情報を集めてくる』
「それなら俺も一緒に行く⋯⋯って、おい!」
町に付いて間もなく、情報を集めてくるとロビンが単独行動を始めた。目的は一緒なので俺も行動を共にしようとしたが、制止の声も聞かずに人混みに紛れてどこかに消えてしまった。
昔からこうだ。ガイドとしてアデルたちと旅をしていた時も、ロビンは今のように単独行動を取ることが多かった。
仲良くなってからは一緒に酒場に行ったりすることは増えたが、基本的に一人で動くことを好んでいた。お世辞にも仲が良いとは言えない面子なだけに、早々にロビンが消えたのも仕方ないだろう。
『相変わらず勝手だね』
『そうだな』
見えなくなったロビンの後ろ姿を見てアデルがため息を吐いた。自分勝手に行動するロビンを咎めるような口調だったな。
『それで、アデルはどうする? 俺は一先ずこの国の情勢について聞き込みをしてくるつもりだが』
王国軍と反乱軍の争いが起きているとは思えないほど、この町はいつも通りだった。アデルたちと一度訪れた時となにも変わっていない。この地を治める貴族が今回の内乱に静観を貫いているのが要因らしい。
ロビンの話では反乱軍が優勢ではあるが、戦力は拮抗しているとのこと。どちらに加担するか、貴族も悩んでいるみたいだな。命運を共にする相手だ。嫌でも慎重になる。
それに戦場となっているのは王都近辺。ボレアス王国の中でも端に位置するこの町は戦火からもっとも遠い。ある意味で一番平和な町かも知れない。
『ボクは先に宿を取って休んでいるよ。流石のボクも今日は疲れたから』
『それは⋯⋯そうだよな』
アデルはほんの数日前まで家に引き篭っていた。身体能力能力もかなり落ちているはずだ。正直にいって俺たちに着いて来れているのが不思議なくらいだ。
特に今日に至っては警備が疎かとはいえ要塞を突破して、飛び降りる場所を間違えれば奈落の底まで真っ逆さまの大地の裂け目を飛び降り、人一人がようやく通れるレベルの暗くて狭い秘密の抜け道を越えた。肉体的にも精神的にも疲労は溜まっているだろう。
町に向かう道中でも早く休みたいなんて、珍しく泣き言を言っていたくらいだからな。流石に無理をさせたと思うので、アデルには先に休んで貰った。
こうして物の見事に一人取り残された俺ではあるが、こういったことには割と慣れていたので特に思うことはない。
急を要する目的がない限りは町では基本的に自由行動だからな。アデルやクラリスといった仲の良いメンバーで固まって動くことはあっても、仲間全員で纏まって動くことはあまりなかった。
ゲーム的なメタで言えばヴァルキリー戦記は仲間キャラが結構多い。章によっては10人近い仲間と行動を共にすることがある。それだけの人数が纏まって動けば普通に邪魔だ。
道を歩くにしても場所を取る。買い物をするにしても他の客に迷惑。そんなわけで物資の確保や情報収集など、仲間たちは役割を決めて各自を行動をしていた。ロビンのように一人を好む人物もいたしな。
それでも少しだけ寂しいなんて思いはある。ガイドとしてアデルと旅をしていた時は今のように一人になることはあまりなかった。
アデルかクラリス、その他の仲間たちと一緒に行動することが多かった。こうして一人で情報を集めに行くなんてこともなかったように思える。改めて以前とは違うと実感してしまう。
『こうして思い出に耽っていても仕方ない。聞き込みをするか』
そんなわけでボレアス王国の情勢について町の住人にそれとなく聞き込みをした。ストレートに聞き回るとどうしても怪しく映るので、日常会話の中でさりげなく聞くようにしている。密偵として疑われると面倒だからな。
聞き込みの際に情報源として便利なのは不特定多数が利用するお店の商人や酒場の店主、宿屋の主人だ。その町に住んでる住人だけでなく、旅人から得た情報も一緒に入手することができるからな。
約一時間ほど、商人を中心に聞き込みを行って内乱のきっかけである公爵が処刑された理由なんかを知ることができた。これは後でアデルに共有しておこう。
ある程度の情報が集まったタイミングで、一度宿屋に戻ろうと思った時。
見覚えのある後ろ姿を見かけた。
「そうだ、俺はクラリスを見つけて」
意識を失う前の記憶が鮮明に蘇る。
気付けば刺された腹部に手を当てていた。記憶が確かなら深くナイフが突き刺さっていた箇所。服の上からとはいえ触れても痛みはなかった。
それでも、俺の中には深く刻まれている。
───クラリスに刺された。
その事実が、あるはずのない痛みを俺に与えた。
「バカだな、俺」
考えが甘かった。
目の前にいるのが俺の知ってるクラリスじゃないって分かっていたのに⋯⋯俺がガイドとして認識されていないとあれだけ痛感したのに⋯⋯。
「救うっていいながら、なにも考えてなかった」
クラリスならって、甘い考えを持っていた。
俺の死で落ち込んでいたアデルのように、話して説得すればクラリスなら分かってくれると⋯⋯浅はかな考えを持っていた。
俺はタマモさまの言葉をもっと重く受け止めるべきだった。その結果が招いた、愚かな結末。
───死ぬはずだった。
───何も出来ず無力なまま。
救う決めた
そうして俺はまた、この世界から消えるはずだった。
「そうか、助けてくれたのか」
俺がいまこうして生き残っているのは⋯⋯。
意識を失う直前のことを思い返していると、バンッと大きな音を立てて扉が開いた。
「良かった!!目が覚めたんだね」
扉を開けて部屋の中に入ってきたのはアデルだ。俺の顔を見て一安心したと言わんばかりに大きく息を吐く。
「あ、大きな音を立ててごめんね」
「いや、それは別に構わないぞ」
急に入ってきてびっくりはしたが、それで文句を言うほど心は狭くないつもりだ。何より、俺がこうして生き延びているのはアデルのお陰だろう。感謝する立場の俺が文句を言うのはおかしな話だ。
「買い物から帰ってきたら窓からロストのことが見えたから、慌てて入ってきちゃった」
「そうなのか⋯⋯」
「うん。一応ボクの
───二日!?
俺が思っていたよりも長く俺は意識を失っていたらしい。外傷が原因か、あるいは精神的なものか⋯⋯後者だな。傷はアデルが治してしてくれた。思っていたよりも強いストレスを受けていたらしい。
「心配させてすまない」
「本当だよ!宿でゆっくりしてたら、急にロビンが血塗れの君を抱えて帰ってきたんだ!流石のボクでも焦ったよ、もう!」
眉を寄せてプンプンと怒りながら、俺が寝ていたベッドにアデルが腰掛けた。近くまで寄ってきたアデルがナイフが刺さっていた箇所に触れた。既に痛みはない。アデルのお陰ですっかり完治している。
大丈夫だと伝えると服の上から確かめるように触っていた手が離れていく。キッと強い目でアデルに睨まれた。どうやら怒ってるらしい。
「分かってる!?あと少し遅かったら本当に死んでたんだよ!ボクと君を助けたロビンに感謝しなよ」
傷の方も思ったより深かったらしい。アデルがここまで強く言うくらいだ⋯⋯本当に危なかったんだろう。また、助けられたな。
「本当にすまない⋯⋯いや、助けてくれてありがとう」
「うん⋯⋯」
傷を癒してくれたアデルもそうだが、あの時ロビンが来てくれなかったら間違いなく俺は死んでいた。アデルの話では俺を抱えて宿屋まで来たらしいが⋯⋯。
「ロビンは?」
この場いないロビンのことが気になってアデルに尋ねる。助けてくれたことを感謝したいのもそうだが、直前のクラリスとシノビのやり取りを思い出したからだ。
もしかしたら俺を助けた後⋯⋯ロビンがクラリスとシノビに⋯⋯。
「ロビンはここにはいないよ」
「無事、なのか?」
「うん?なにを心配してるかは知らないけどロビンならピンピンしてるよ。知ってると思うけど簡単に死ぬような奴じゃないし」
この場にはいないが、一先ずロビンが無事であると知って安堵した。
仲間が生きていることに対する安心か、あるいはクラリスが仲間を手にかけていないことに対する安心か⋯⋯両方だな。
「そうだ。ロビンから伝言を預かってるからそのまま伝えるね」
「伝言?」
「うん」
直接、俺に言わずにわざわざアデルに伝言を頼んだ? ロビンがなぜそのような回りくどいことをするんだと思いはしたが、伝言の内容を聞いてから判断するか。
「一応言っておくけど、ボクは言われたことをそのまま言ってるだけだからね!間違ってもボクが言ってるわけじゃないよ」
「わかった」
わざわざアデルが自分の発言じゃないと、先に言っておくくらいだ。俺を気遣うような優しい言葉ではないな。
「えーとね、ううん!」
声の調子を確認するようにアデルが発声し、真っ直ぐに俺を見る。
「オレさまの伝言を聞いてるバカに告ぐ。目が覚めたら北にある酒場まで来い。油断して死にかけるような雑魚に話がある⋯⋯だってさ」
思っていたより言葉は荒くない。もっと罵声されるかと身構えていたんだがな。
それと喋っているのがアデルなので、どうしても受け取り方が柔らかくなる。無理して強い口調で喋ってるのが良く分かるから。
「わかった。後で酒場に向かえばいいんだな」
ロビンが指定した酒場はまだ足を踏み入れたことはないが、場所は分かっている。
「そうみたいだね。そこの酒場はロビンの知り合いがやってるみたいで、今はそこを寝床にしてるみたい」
「だから事前に言っていたのか」
町につく前にオレさまの分の部屋は取らなくていいと言っていたのはそれが理由だろう。俺たちの世話になりたくないからだと勝手に思っていたが見事に違った。
「伝言は以上か?」
「頼まれたのは今ので全部かな」
今ので全部となると、ロビンの要件までは分からないな。わかったのは指定された場所だけだ。わざわざ場所を指定しているあたり、人に聞かれたくない話の可能性は高いが。
クラリスのことか?
多分、そうだと思う⋯⋯。
「あ、そうだ。伝言とは関係ないんだけど、ボクがロストの傷を治してる時にロビンが君に文句言ってたよ」
「なんて言ってた?」
意識のない俺に対して文句を言うくらいキレていたことになる。それこそ伝言よりも汚い言葉が飛んでいるかも。
「えーとね⋯⋯『
───え⋯⋯。