ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:パンデュウ郎
そう言えばタマモさまは何処に出るとは言ってはいなかったな、うん。
俺が死んだ場所に戻るのか、あるいは俺が生まれた地に帰るのか⋯⋯勝手ではあるが俺に縁のある場所に繋がってるんじゃないかと思ってた。勝手に期待しただけの話なんだけどさ。
それにしたって、牢屋はなくないか?
「は?」
悪い夢を見てるんじゃないかと、瞼を一度閉じて深呼吸を一度する。瞼を開けばそこに広がるのは見覚えのある大地のはずだ。
「⋯⋯まぁ、そうだよな」
現実は無情。
俺の視界に広がる光景は何一つとして変わっていない。正面に映るのは鉄格子。四方八方を取り囲むのは石とレンガで作られた壁。光源として壁に接地された蝋燭が、か弱い光で空間を照らしていた。
誰がどう見ても牢屋である。
「詰んだか、これ」
エデンでのリスタートが牢屋から始まるってなんだよ。そういうゲームの始まり方は確かにあるけどさ、俺に関して言えばなんの罪も犯してないぞ。ただ、この世界に帰ってきただけだ。それだけなのに牢屋に閉じ込められて出られないとか終わってるだろ。
どうするんだ、これ?
少なくとも自分の意思では出られないよな? 看守が気付いてくれたらワンチャンではあるけど⋯⋯、どうやって牢屋に入った?って聞かれた時の返しが思い浮かばない。
気付いたら牢屋の中にいたんです、って言ったところで普通の人は納得しない。囚人の対応をする法の番人である看守なら尚更だ。
「まいったなぁ」
ため息を吐きつつ、この状況を打破するために自分の状態を確認する。既に分かってはいることではあるが、死ぬ前に負っていた傷はないし血の跡なんかも服にはついていない。
生前と同じと考えていいか?姿形はそのままと言っていたしな。
「服も変わってないのは嬉しいな」
姿見がないので全体像は把握できないがアデルとクラリスが選んでくれた服のままだと思う。
とある国の軍服を改造したような黒と赤を基調としたやたらとかっこいい服。俺は必要ないと言ったんだがかっこいいからと付けさせられたマントまで羽織ってる。
原作に出てくるガイド・ルーカスは本当にモブっぽい格好をしていたからな。だから俺には似合わないと抗議したんだが、⋯⋯まぁなんというか、主人公とヒロインの二人に薦められて、褒められたら断れなくて、着ていると満更でもなくなった。
ちなみに俺が着ている服は実は通常版では登場しないもので、ダウンロードコンテンツを買うことで追加されるコスプレ衣装のようなもの。ぶっちゃけ、周囲の装いと比べると浮いているのが分かる。
まぁ、アデルとかクラリスとか主人公パーティーの面々はゲーム的な事情かは不明だが個性的な服を着ているから、まぁ良しとしよう。こんな格好でもこの世界の住人は変な目で見てこないしな。
「ん?」
左腰の辺りを触れると生前使っていた武器がなくなっていることに気付いた。カーチスに造って貰ったお気に入りの軍刀だったんだけどな。死ぬ時に手から離れていたから、なくなったのかも知れない。
俺が死んだ場所に落ちている可能性もあるが、もしかしたら仲間が拾っているかも。
ひとまずないものは仕方ないので武器に関しては後で考えよう。そのまま反対側を確認すると小さな皮のポーチがあるのを確認できた。
「アイテムポーチはそのままか」
これはどういう原理なのか⋯⋯この世界に転生した後でも全く分かってない、何でも入るアイテムポーチだ。これのおかしなところは製作者すら理由が分かっていないこと。
アイテムポーチとして造ったら全部こんな感じなんですよねーって、本当に分かってない感じの口振りだったな。今にして思えばヴァルキリー戦記のそういう設定だから、で決着はつくが理由付けは欲しかったところだ。
一応、アイテムポーチに入れられるアイテムの数に上限はあるから便利ではあるが、万能ではない。
「まぁ、俺のはカーチス特製のだから上限ないんだけど⋯⋯」
流石はヴァルキリー戦記に出てくる最狂の天才。アイテムポーチの改造はもちろん、武器から薬から小道具までなんでも造れる。
原作では敵キャラとして出てきて主人公たちを苦しめるので、敵の手に堕ちる前に助けられて良かった。俺にとっても良き相談相手だったし、損得勘定なしに普通に好きなんだよなカーチス。
っと、今は思い出に浸ってる場合じゃないな。まずはこの牢屋から出ることから始めないと。
ただ、先程まで感じていた絶望感はない。アイテムポーチがあると分かった以上、牢屋から脱出するのは難しくない。
牢屋の鍵なんてピンポイントのアイテムはないが鍵を開ける際に使う違法ツール、ロックピックは所持している。鍵開けのスキルも身に着けているので、なんとかなるだろう。
アイテムポーチからロックピックを取り出して、牢屋の扉を開けるために近付く。
「あれ、開いてる」
牢屋の扉に触れると動いたので、そのまま手で押すと簡単に開いた。
「そうか⋯⋯元々使われていない牢屋か、ここ」
囚人がいるなら鍵はかけているだろうが、俺がいた場所は無人の牢屋だ。なら扉に鍵なんてかける必要はないからな。
どうやって牢屋を出るかなんて、無駄に考えてしまったな。もう少し冷静だったら、直ぐに分かったことなのに⋯⋯。まぁ、何はともあれ牢屋から出れたし看守が来てややこしくなる前に此処を出よう。
ロックピックをアイテムポーチにしまってから、牢屋から出る。
ん?
「見覚えがあるな」
数歩ほど歩いたあたりで、この建物の構造が見知ったものであることに気付いた。決して牢屋に投獄されたことがあるわけではない。
ゲームの知識としてこの牢屋を俺は知っている。知識と相違ないか周囲を見渡していると、壁に描かれた模様を発見した。青いバラと交差した剣。あれは、大陸南東部に領土を持つオーストリン王国の紋章だ。
俺はこの場所を知っている。
模様が描かれた壁に近付くと見覚えのある壺が置いてあった。ハニワを無理やり壺にしたような変な形をした壺。
「やはりそうだ、ここはロビンが収監された牢屋だな」
───ヴァルキリー戦記には主人公の味方となる仲間が数多く登場する。
もっとも、物語の進行上で一時的に仲間になる者や離反したりする者もいて、最初から最後までパーティーとして参加するのはクラリスとマルテナの二人だけだったりする。
俺が今、名前をあげたロビンもまたゲームの途中で仲間として加わる。このキャラが、良くも悪くもプレイヤーたちに愛されたキャラだ。
通常プレイをしていると、最後にロビンと敵対した後は行方が分からずじまいで終わるのだが、ダウンロードコンテンツで追加されたロビンが主役のサブストーリーを進めると、その結末を目撃することができる。
「こっちだったと思うが」
記憶を頼りに進んでいく。出口とは真反対。俺がいた牢屋よりも更に奥。
この建物の最奥には重罪人を幽閉する厳重な鉄の扉があるのだが、ロビンが収監された牢屋はこの手前。
「やはり、ここにいたか」
鉄格子越しに見覚えのあるある男の姿が見えた。ここまでの道中に他に囚人を見かけなかったところを見ると、残されている囚人はこいつだけらしい。
まぁ、ここに収監される囚人は特に重い罪を重ねた罪人だけだ。小さな犯罪なら隣にあるもう一つの牢屋に収監される。
つまり、俺の目の前にいる男は重罪を犯した大罪人ということだ。
「あなたは?」
俺に声に反応して男が振り向く。随分と長い間、牢屋に入れられていたせいか俺が知っているロビンと容姿が異なる。面影はあるので、ロビンであるのは間違いないが⋯⋯。
「変わったな⋯⋯」
「はい?」
中性的で女と見間違えるほど美しい顔は、無常髭のせいで見る影もない。艶やかだった金色の髪は伸ばしっぱなしな上にボサボサ。
目も窪んでいた。
俺が死んでから少なくとも3年は経過している。サイドストーリーの時期を考慮しても、2年以上は収監されていたことになる。
オマケにこの建物は、罪人に罪の意識を自覚させるために食事以外は基本的になにも与えない。人との交流さえさせず、孤独の中で罪に向き合わせる。
寝具もないので、必然的に寝るのは硬い床。幸いな事にトイレはあるので牢屋の中に垂れ流すことはないが、現代のようなウォシュレットじゃなくて壺だ。
定期的に看守が取り替えているらしいが、排泄した物が貯まれば当然臭う上に衛生的にもよろしくない。現代だと人権的な問題が発生しそうではあるが、異世界なのノーカンということで。
そんな劣悪な環境に放り込まれれば、流石のロビンも疲弊するらしい。
ボロ切れのような衣服に身を包み、立ち上がる気力すらないロビンの姿を見ると哀れに思うかも知らないが、こいつの場合はほとんど自業自得だ。同情する必要はない。
まぁ、なんだかんだ嫌いではないんだよな、こいつのこと。
ゲームとしてプレイヤーが出会うロビンなら嫌い寄りのキャラではあるが、この世界でロビンの人なりを知っているからこそ嫌いになりきれない。
「看守の方ではないですよね?」
「まぁ、見ての通りだ」
オーストリン王国の兵はフルアーマーではないが、鎧を身に着けている。それは看守も同じだ。その知識を持っているなら服装を見れば、看守かどうから一目で分かるだろう。
「なら、演技をする必要もねーか」
俺が看守じゃないと分かるや否や、弱々しかった姿はどこへやら。床にゴロンと寝転がって、不敵な笑みを浮かべる男が目の前にいる。
「それで、このロビンさまになんの用だ?」
ヴァルキリー戦記の公式が行った人気投票で堂々の29位。
仲間キャラでありながら前人未到の3度を裏切りを行うことで強烈なインパクトを残し、ネットの隣人たちに玩具にされた愛されるカス。
「別にお前に用事があったわけじゃない」
「は?」
そしてサイドストーリーにおいて、とある要人と関わりを持ち⋯⋯今現在、国家転覆罪の容疑で収監されている。
───ロビン・フィデリティ。
「なんだ、用事もないのにオレの元にきたってことは⋯⋯オレさまのファンか?」
通称、ロビンカス。