ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:パンデュウ郎
咄嗟に一歩下がると、大振りの拳が顔の前を通過した。
拳にキレがない。
最後に戦った時と比べ物にならないほど体捌きが衰えている。囚人としての生活が著しく身体能力を下げたようだな。
何もない牢屋だ。
ロビンの性格を考えれば何もせずにいたとは思えない。筋力が落ちないように鍛錬くらいはしていたはずだ。それでも、食事から取れるエネルギーが少なければ筋力は鍛えられるどころか徐々に衰えていく。
国の上層部もだってバカじゃない。牢屋に入れても性根が変わらない罪人がいることだって重々承知している。
食事量をコントロールし、体が衰えるように仕向けるくらいはやるだろう。国家転覆を企むような大罪人が相手なら尚更だ。脱獄する気力すら起きないくらい、痩せ干せて動けなくなるまで虐め抜く。
そうして体を動けなくして、心をへし折る。
ロビンが収監された監獄はそのために作られている。
「ちっ、躱されたか。ファンにしては有望だな」
態度は変わらず自信に溢れているが、俺の目には虚勢のようにしか映らない。ボロ切れのような布で上手く隠してはいるが、痩せ細った体で無理をしているな。
「だが、時間がないのでさっさと⋯⋯くたばれ!!!」
拳が再び俺に迫ってくるが、やはりキレがない。スピードもない。
「なにっ───!」
拳の軌道に合わせるようにして手で受け止めれば、ロビンが驚愕して目を見開いた。このまま暴れられても面倒なので、力で無理やり床に抑え込む。
「てっ、めぇ!」
額に青筋を浮かべ怒りを露わにしてキレているが、やはり抵抗は少ない。強敵として俺たちに立ち塞がっていた男とは思えないほど、弱体化している。それが少し寂しかった。
「ぐっ!」
「抵抗はするな、俺もお前の骨を折るまでやりたくない」
苦悶の声を上げながら抵抗していたが、抑え込む力を強めて脅せばようやく大人しくなった。力の差を理解したらしい。
「⋯⋯ファンのくせに、何してやがる」
「先に訂正しておいてやる、俺はお前のファンなんかじゃない」
「知ってるよ、そんなこと」
ぶっちゃけ、ロビンのファンはいないでもない。ここまで突き抜けたクズキャラはゲームでもなかなか登場しないからな。そういうのが好きっていうファンもいた。
それはあくまでも地球の話、ゲーム上でのロビンのこと。この世界でこれだけのことをやらかしたこいつのファンになるっていうイカれた奴は現れないだろう。現れないことを祈る。
「いくつか聞かせろ」
「断ると言ったらどうする?」
「逃げられないように足の指の骨を折る。その後、牢屋に閉じ込めるだけだ」
「はっ!イカれてんな!!暴力で無理やり従わせようってか!とんだクズ野郎だな!」
こいつにだけは言われたくない言葉だ。
「はぁ⋯⋯」
ため息が出た。
出来れば素直に答えて欲しいところなんだがな。脅しとして口にはしたが、拷問紛いのことはしたくはない。クラリスや仲間のためにやらないといけないなら、非情になる覚悟はあるがそれは今じゃない。
「お前に鍵を渡したのは誰だ?この国の人間じゃないな」
「おい、オレさまは答えるって言ったか? 」
諦めて答えてくれないかと期待して問いかけてみたが、ロビンが答えるはずもなく。
「⋯⋯⋯⋯」
さて、どうやってロビンの気を変えるか。関心を得られる話題がなかっただろうかと、黙り込んで思案していると、ロビンの方から『おい』っと話しかけてきた。
「オレさまを解放しろ。金ならやる」
「───は?」
知っての通りロビンは金の亡者だ。
金のためなら仲間を裏切るし、貴族が起こしたクーデターにすら与する。金が何より大好きなこいつは、貯め込むことは好きだが使うことを嫌う。
ゲームにおいても言及はされていないが、さりげなく主人公に支払いをさせる流れにしたり、自分がお金を使わなくて済むように行動していた。
それはこの世界においても同じで、ロビンの方から酒に誘っておきながら基本的に酒の席での支払いは全て俺だ。俺も俺で、ロビンの抑止になったらと気前よく払ってはいたが⋯⋯やはりどれだけ記憶を遡ってもロビンが人に奢ったり、お金を払う姿を見た覚えがない。
「見ての通り今のオレさまは所持品を全て没収されて無一文だ。だが、隠し拠点に帰れば金はある。好きなだけくれてやる。オレさまを解放しろ」
「悪いが、俺はお前を信用できない」
金の亡者であるこいつが解放したとしても俺に金を払うとは思えない。そんなことを言ったか?なんてふざけた事を口にして逃げるに違いない。ロビンという男はそういう奴だ。
なにより、ロビンは俺のことを別人として認識しているだろうが、俺たちはこいつに三回も裏切られている。仲良くしても結局裏切られた。流石の俺でもこいつは無理だって諦めたくらいだ。
「そうか⋯⋯」
オマケにこいつは牢屋を出て早々に俺に殴りかかってきた。その際に口にしていたセリフは一字一句覚えている。2年以上囚人として生活していてもクズなのは健在だ。
口八丁で俺を丸め込もうとしているとみていい。金を払うと、言ってきた時は流石に驚いたが。
⋯⋯金、か。
「逆に、お前が情報を吐けば金をくれてやる。どうだ?」
俺が信じていないように、ロビンもまた俺のことを信じてはいないだろう。自分が情報を吐けばまた牢屋に戻される。それが分かっているからこそ、ロビンは情報を吐かない。
なので、金を出すと言ってもロビンは何も言わないだろうな。
「金ならいらねぇ⋯⋯もう、オレさまには必要ねぇ」
「───は?」
金の亡者とは思えないセリフがまた、出てきた。誰だこいつ、本当にロビンカスか?
「どういうことだ?必要ない?あれほど金に執着していたお前が?」
「⋯⋯どこで知ったか知らないが、随分とオレさまに詳しいな。そうだ、オレさまは金に執着していた。金があれば、金さえあれば幸せになれると思っていた」
俺もロビンが何のために金を集めているかは分かっていない。金がなければ生きていけない。金がこの世の全てだと酒の席で話していたのは覚えているが⋯⋯。
「オレさまは、元奴隷だ」
「なに?」
「ガキの頃に唯一の肉親である妹と一緒に攫われて奴隷として貴族に売られた。6歳の時だ。右も左も分からねぇガキが貴族の癇癪で鞭で叩かれる。ふざけた生活だった」
なんか、語り出したな。
酒の席でも一度も口にしなかったロビンの過去の話。当然、それはゲームでも明かされていない。公式サイトみてもロビンの過去は確認できず、誰も知らないものだった。
「転機が訪れたのはオレさまが12の時。財産目当てで屋敷に賊が押し入ったどさくさに紛れて妹と共に逃げ出した。ようやく自由だと思った矢先に、また⋯⋯妹が奴隷商に攫われた」
みすぼらしい格好をした二人の兄妹が裏路地を歩いているのは、奴隷商からすると格好の的だったとロビンは語る。
「オレさまは直ぐに妹を取り返すため奴隷商の元へ向かった。ガキだったオレさまでも力づくで取り返すのは不可能だと分かっていた。だから、オレさまが買うから誰にも売るなと約束づけた」
「⋯⋯⋯⋯」
「死にものぐるいで金をかき集めた。妹を取り返すために、悪事にだって手を染めた。二年の歳月をかけて妹の購入資金を貯めて奴隷商の元へ向かったオレさまを待っていたのは、無人の鉄格子だ」
奴隷商は最初から子供との約束など守るつもりはなかった。ロビンは、初めて人に
「持っていた金も巻き上げられた。挙句の果てに強盗だとでっち上げられ、監獄へと収監されることになった」
今みたいになっと、ロビンが自嘲する。
「三年ほど囚人として牢屋で暮らして、罪が軽かったのもあって解放された。牢を出て直ぐにオレさまがやったことは奴隷商の殺害だった」
「⋯⋯⋯⋯」
「奴隷商が蓄えた財産全てを奪って、妹を買っていった貴族のことも聞き出した。オレさまとの約束を破って貴族のボンボンに売り払ったのは、オレさまよりも大金出したからだってよ。ははは!ガキながらに、金が全てだって思い知った。金のために人は悪事を働く。金さえあれば権力を手にすることができる。───金こそが全てだと、オレさま理解した」
ロビンの口から出る過去の話が嘘だとは思えなかった。この話が本当であるなら、ロビンの行動に納得がいく。金に執着するのも、人を裏切るのも、金と人に人生をめちゃくちゃにされたからだ。
「貴族のボンボンに飼われていた妹を金で買い戻し、妹と一緒に悪事に手を染めた。容姿の似ていた騎士を殺して成り代わって、城勤めもしたことがある」
あー、なるほど。流麗の騎士と呼ばれていたのは、ロビンじゃなくて⋯⋯こいつが殺した騎士の方か。納得がいった。
ロビンの戦い方は流麗の騎士という異名が付くほど美しいものじゃない。剣の基礎も何もない、殺すことだけを追求した我流。
俺たちと合流したのは、騎士と成り代わったあとか。
「妹以外、誰も信用できなかった」
信用できるのは唯一の肉親である妹と、この世を支配する金という力だけ。
「妹と金さえあれば、良かった」
「他に大切なものはなかったのか?仲間はいなかったのか」
「⋯⋯⋯⋯」
まぁ、ロビンからすれば俺たちは仲間認定には入っていないだろう。こいつの語る通り、大切なものは妹と金。
だからこそ余計に、今のロビンが金はいらないと言ったことが疑問として残る。
「いたが、なくなった」
「なくなった?家族か?」
奴隷商に攫われた時は唯一の肉親は妹だけだった。家族は早くに亡くなっていたことなる。幼い子供にとって、何よりも大切な存在だ。
「違う。⋯⋯死んだのはバカな男だ」
ロビンと目が合った。
深い悲しみ染まった瞳から、一筋の雫が零れ落ちたのが見えた。
「【厄災の魔女】なんかを、くだらない女を救うために命を捨てた⋯⋯バカな男だった」