暗殺教室―透明な殺意―   作:ケーケーケー

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AI利用です


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第三話 赤羽業の時間

 

渚が殺せんせーの触手を一本奪った翌朝。

 

三年E組の教室へ、停学していた生徒が戻ってきた。

 

赤羽業。

 

高い学力と優れた身体能力を持ちながら、問題行動によって停学処分を受けていた少年。

 

業は教室へ入ると、真っ先に渚の席へ向かった。

 

「久しぶり、渚君」

 

「久しぶり、カルマ君」

 

以前と変わらない笑顔。

 

しかし渚は、その笑顔だけを見てはいなかった。

 

歩き方に迷いがない。

 

久しぶりに戻ってきた教室を懐かしむより先に、窓や机の配置を確認している。

 

教室についてではない。

 

新しく現れた暗殺対象を仕留めるために、使える場所を探している。

 

「聞いたよ」

 

業は渚の前の席へ腰を下ろした。

 

「渚君、殺せんせーの触手を一本取ったんだって?」

 

「皆に協力してもらったからだよ」

 

「でも、作戦を考えたのは渚君なんでしょ?」

 

「うん」

 

渚は否定しなかった。

 

業がわずかに目を細める。

 

以前の渚なら、自分の手柄を認めることにも抵抗を見せたはずだ。

 

今も得意げな様子はない。

 

それでも、やったことを必要以上に否定しなくなっている。

 

「俺が休んでる間に、面白くなったね」

 

「そうかな」

 

「前はもっと、自分の考えを隠してたでしょ」

 

「今もあまり変わってないよ」

 

「変わったよ」

 

業は笑ったまま、渚の目を見た。

 

渚も視線をそらさない。

 

穏やかで、敵意もない。

 

それなのに業は、自分の内側まで静かに見られているような感覚を覚えた。

 

「カルマ君も、何か考えてるよね」

 

渚が言う。

 

「どうして?」

 

「教室へ入ってから、殺せんせーが来る扉を何度も見てるから」

 

「久しぶりに会う先生が楽しみなだけかもしれないよ」

 

「それなら、右手をずっとポケットに入れてる理由は?」

 

業の右手が、わずかに動いた。

 

ポケットの中で何かを握っている。

 

音はほとんどしない。

 

けれど、業が歩いたとき、硬い物同士が触れる小さな音を渚は聞いていた。

 

「……気づいてたんだ」

 

「対先生用の弾?」

 

「さあね」

 

業は答えを濁した。

 

渚も、それ以上は尋ねなかった。

 

業が殺せんせーを狙うつもりなら、止める理由はない。

 

同じ暗殺対象を持つ仲間だからだ。

 

そのとき、教室の扉が開いた。

 

「皆さん、おはようございます」

 

複数の触手で教材や出席簿を抱えた殺せんせーが、教室へ入ってくる。

 

業は立ち上がった。

 

「初めまして、殺せんせー」

 

「君が赤羽業君ですね。話は聞いていますよ」

 

「どんな話?」

 

「成績は非常に優秀。しかし、素行には少々問題があると」

 

「随分正直に言うね」

 

業は笑いながら、殺せんせーへ右手を差し出した。

 

「今日からよろしく」

 

握手を求める、ごく自然な動きだった。

 

殺せんせーの触手が業の手へ伸びる。

 

触れた瞬間、触手の先端が激しく損傷した。

 

教室が静まり返る。

 

業の掌には、細かく砕かれた対先生用の弾が貼りつけられていた。

 

「なるほど。対先生用の弾を掌へ仕込んでいましたか」

 

殺せんせーは即座に距離を取った。

 

「暗殺対象の方から触ってくれるなんて、楽でいいよね」

 

業は掌に残った破片を払い落とす。

 

「油断しましたねぇ」

 

「生徒の握手を断れなかった?」

 

「先生ですから」

 

「教師って大変だね」

 

業は悪びれずに自分の席へ戻った。

 

突然の一撃に、教室のあちこちから声が上がる。

 

「いきなり当てたぞ」

 

「カルマもすげえな」

 

杉野が渚を見る。

 

「渚は気づいてたのか?」

 

「うん」

 

「だったら、殺せんせーに教えなかったの?」

 

「教えたら、暗殺にならないから」

 

渚の答えを聞き、殺せんせーが触手を止めた。

 

「渚君。先生を守ろうという気持ちはないのですか?」

 

「僕たちの目的は、殺せんせーを暗殺することですよね?」

 

「それはそうですが、少しくらい担任を心配してもよいのでは?」

 

「怪我をしても再生できると思っていたので」

 

「冷静すぎませんか!?」

 

教室に笑いが起こる。

 

その中で業だけは、渚を静かに見ていた。

 

握手の仕掛けに気づきながら、渚は止めなかった。

 

かといって、作戦へ勝手に加わろうともしなかった。

 

仲間の暗殺を邪魔せず、結果を観察する。

 

以前よりも明確に、渚は暗殺者の立場から物事を考えていた。

 

     ◇

 

最初の握手は成功した。

 

だが、その後は違った。

 

業は授業中も休み時間も、様々な方法で殺せんせーを狙った。

 

対先生用ナイフを目立たない位置へ隠し、何気ない会話の途中で攻撃する。

 

罠をわざと発見させ、その回避先へ次の攻撃を用意する。

 

最初から一撃で仕留めようとはしていない。

 

殺せんせーが避けることを前提に、二手目、三手目まで組み立てていた。

 

それでも、警戒した殺せんせーには届かない。

 

攻撃へ移る直前。

 

業の視線がわずかに変わる。

 

指先に力が入る。

 

呼吸が浅くなる。

 

ほんの小さな変化を殺せんせーは見逃さなかった。

 

放たれた弾を避け、突き出されたナイフをかわし、そのうえで授業まで続けている。

 

「惜しかったですねぇ、業君」

 

殺せんせーが対先生用ナイフを避ける。

 

「今の攻撃は、先生の注意を黒板へ向けた点までは良かった。しかし、ナイフを抜く直前に右肩が動いていましたよ」

 

「暗殺対象が攻撃の欠点を教えてくれるんだ」

 

業は笑った。

 

「親切だね、殺せんせー」

 

「教師ですから」

 

「それじゃ、次は直してくるよ」

 

業の声には、まだ余裕があった。

 

だが、渚は気づいていた。

 

攻撃を避けられるたびに、業が次の手を出すまでの時間が短くなっている。

 

一つの作戦を検証するより、すぐに別の攻撃へ移っている。

 

業は焦っていた。

 

殺せんせーを殺せないことではない。

 

自分の攻撃が、殺せんせーの余裕を崩せないことに。

 

「カルマ君」

 

昼休み。

 

渚は旧校舎の外にいた業へ声をかけた。

 

「何?」

 

「隣、座っていい?」

 

「もう座ってるけどね」

 

渚は業の隣で弁当箱を開いた。

 

業も買ってきたパンの袋を開ける。

 

しばらくの間、二人は何も話さず昼食を取った。

 

先に沈黙を破ったのは業だった。

 

「渚君は、あいつを怖いと思う?」

 

「殺せんせー?」

 

「うん」

 

「怖いよ」

 

渚は迷わず答えた。

 

「月を壊して、マッハ二十で動く相手だから。怖くない方がおかしいと思う」

 

「でも、触手を切ったんでしょ?」

 

「怖いことと、暗殺できないことは別だから」

 

業がパンを持ったまま、渚を見る。

 

「俺は怖くないよ」

 

「そう思おうとしてるんじゃなくて?」

 

業の笑みがわずかに薄くなる。

 

「結構言うね、渚君」

 

「ごめん」

 

「謝るなら言わなきゃいいのに」

 

「でも、間違ってるとは思わないから」

 

渚の口調は穏やかだった。

 

業を挑発するつもりはない。

 

ただ、観察して気づいたことを伝えている。

 

「カルマ君は、殺せんせーを殺したいだけじゃないよね」

 

「他に何があるの?」

 

「殺せんせーが、本当に先生なのか確かめようとしてる」

 

業は答えなかった。

 

渚は業の停学について、詳しい事情までは知らない。

 

上級生へ大怪我をさせたこと。

 

それを理由に、担任から見捨てられたこと。

 

その程度しか聞いていない。

 

それでも業が殺せんせーへ向ける目は、単なる暗殺対象を見るものではなかった。

 

どこかで、裏切る瞬間を待っている。

 

教師を名乗る存在が、結局は自分を見放すことを証明しようとしている。

 

「殺せんせーが逃げたり、僕たちを傷つけたりしたら、やっぱり偽物だったって思えるから?」

 

「想像に任せるよ」

 

業は食べ終えた袋を丸め、立ち上がる。

 

その靴には、運動場とは違う湿った土がついていた。

 

旧校舎の裏。

 

崖へ続く道にある土。

 

渚はその意味を考えた。

 

殺せんせーは生徒を傷つけない。

 

生徒が危険に陥れば、必ず助ける。

 

業が次に狙うのは、その性質だった。

 

「カルマ君」

 

立ち去ろうとする業を、渚が呼び止める。

 

「次の作戦、自分を使うつもり?」

 

業の足が止まった。

 

「どうして?」

 

「殺せんせーが、生徒をどこまで守るか確かめてたから」

 

「渚君は、俺を止める?」

 

「止めても、カルマ君はやるよね」

 

「たぶんね」

 

「なら止めない」

 

業が振り返る。

 

「随分冷たいんだ」

 

「殺せんせーなら助けられると思ってるから」

 

渚は業の目を見る。

 

「でも、カルマ君が考えてる方法では、殺せんせーを殺せないと思う」

 

「やってみないと分からないよ」

 

「うん」

 

渚も否定しなかった。

 

「だから、自分で確かめた方がいい」

 

業は数秒間、渚を見つめた。

 

やがて何も答えず、旧校舎へ戻っていった。

 

     ◇

 

放課後。

 

業は一人で旧校舎裏の崖へ向かった。

 

殺せんせーも、その後を追う。

 

渚は二人から距離を取り、木々の陰を進んだ。

 

作戦を邪魔するつもりはない。

 

だが、業が自分の命を使おうとしている以上、何が起きるのか見届ける必要があると思った。

 

崖へ着いた業は、縁に立っていた。

 

足元の先には、急な斜面が広がっている。

 

落ちれば無事では済まない高さだった。

 

「今日は随分しつこく先生を呼び出しますねぇ、業君」

 

「二人きりの方が、邪魔が入らないから」

 

業は制服のポケットへ片手を入れている。

 

中にあるのは、対先生用の銃。

 

殺せんせーも、その存在には気づいていた。

 

「殺せんせー」

 

「何でしょう?」

 

「生徒が危ない目に遭ってたら、助けるんだよね?」

 

「当然です。先生ですから」

 

「じゃあ、これでも?」

 

業が後方へ体を倒した。

 

崖の向こうへ姿が消える。

 

同時に、ポケットから対先生用の銃を抜く。

 

殺せんせーが助けに近づいた瞬間、至近距離から撃つつもりだった。

 

殺せんせーは崖の下へ急降下する。

 

業が銃口を向ける。

 

しかし殺せんせーは、業の体へ直接近づかなかった。

 

複数の触手を大きく広げ、網のように組み合わせる。

 

広げられた触手が業の体を遠くから受け止めた。

 

業と殺せんせーの間には、銃弾を避けるための距離が残されている。

 

業が引き金を引く。

 

放たれたBB弾は、全て殺せんせーに避けられた。

 

作戦は失敗した。

 

業は触手で作られた網の上から、殺せんせーを見上げる。

 

殺せんせーは業を崖の上へ運び戻した。

 

「先生が直接抱き止めると思いましたか?」

 

「普通、生徒が落ちてきたらそうするでしょ」

 

「業君が銃を隠していることは分かっていましたからねぇ」

 

「だったら、放っておけばよかったのに」

 

「そのようなことはできません」

 

殺せんせーの声から、普段の軽さが消えた。

 

「業君。先生を殺すために、自分の命を使ってはいけません」

 

「俺が勝手に落ちただけだよ」

 

「先生が助けると分かっていたから飛び降りたのでしょう」

 

業は否定しなかった。

 

「助ければ、その隙を狙える。助けなければ、先生は生徒を見捨てる存在だと証明できる」

 

殺せんせーは業の意図を言葉にする。

 

「どちらへ転んでも、自分が正しいと思える作戦です」

 

業の表情から、少しずつ笑みが消えていく。

 

「先生を信用していないのは構いません。先生は地球を破壊すると宣言している生物ですから」

 

殺せんせーは続けた。

 

「ですが、最初から相手が裏切ると決めつけていては、相手が何をしても見ることができません」

 

「先生らしいこと言うんだね」

 

「先生ですから」

 

「俺の前の担任も、最初はそう言ってたよ」

 

業は低い声で答える。

 

「成績が良ければ、多少問題を起こしても構わない。俺の判断なら間違いないって。でも自分の立場が悪くなった途端、俺を切り捨てた」

 

殺せんせーは言葉を挟まない。

 

業が話し終えるまで待った。

 

「だから先生が嫌いなのですか?」

 

「嫌いだよ。どうせ都合が悪くなれば、生徒を見捨てるから」

 

「では、先生が業君を見捨てるかどうか、卒業まで確かめてください」

 

業が顔を上げる。

 

「それまでに、業君は何度でも先生を殺せばよい。そして先生は、何度でも業君を教育します」

 

「地球を壊す化け物のくせに?」

 

「地球を壊す予定と、担任を務めることは別です」

 

「意味分からないよ」

 

「先生も時々、そう思います」

 

しばらくの沈黙の後。

 

業は小さく息を吐いた。

 

「今日は俺の負けでいいよ」

 

「勝ち負けの問題ではありません」

 

「でも、暗殺は失敗した」

 

業は対先生用の銃をポケットへ戻す。

 

「次はもっと上手くやるよ」

 

「ええ。ただし、自分の命を危険へさらす方法は禁止です」

 

「考えておく」

 

素直に従うとは言わない。

 

それでも業は、もう一度崖へ近づこうとはしなかった。

 

木々の陰から様子を見ていた渚も、静かに息を吐いた。

 

     ◇

 

「そこにいるのでしょう、渚君」

 

殺せんせーが木々へ向かって声をかける。

 

渚は隠れていた場所から姿を現した。

 

業は驚くより先に苦笑した。

 

「ついてきてたんだ」

 

「うん」

 

「俺の作戦、殺せんせーに教えた?」

 

「教えてないよ」

 

「先生は最初から、業君の銃に気づいていました」

 

殺せんせーが答える。

 

「だってさ」

 

渚は業を見る。

 

「それで、俺の作戦が失敗することも分かってた?」

 

「助けるときに、直接近づかないとは思ってた」

 

「どうして?」

 

「殺せんせーは速いけど、わざわざカルマ君の射程へ入る必要はないから。触手なら、離れた場所からでも助けられる」

 

「だったら先に言ってくれてもよかったのに」

 

「言っても、カルマ君は信じなかったでしょ?」

 

業は少し考えた。

 

「まあ、信じなかったね」

 

「だから自分で確かめた方がいいと思ったんだ」

 

渚の声には、責める響きも誇る響きもなかった。

 

業の性格を理解し、それに合った方法を選んだだけだった。

 

「渚君も随分性格が悪くなったね」

 

「カルマ君ほどじゃないよ」

 

「本当に言うようになったなぁ」

 

業が笑う。

 

その笑みは、朝に教室へ入ってきたときよりも僅かに自然だった。

 

「それにしても」

 

業は渚の手元を見る。

 

「本当に何も持ってないんだ」

 

「何のこと?」

 

「俺と殺せんせーが話してる間に、渚君なら何か仕掛けると思った」

 

「今日はカルマ君の暗殺だから」

 

渚は即座に答えた。

 

「僕が途中から手を出したら、カルマ君の作戦じゃなくなるよ」

 

「触手を取ったから、余裕?」

 

「そうじゃないよ」

 

「じゃあ、どうして?」

 

「カルマ君がどんな暗殺をするのか、見たかったから」

 

渚は業の攻撃を邪魔しなかった。

 

成果を横取りしようともしなかった。

 

標的が同じでも、暗殺の機会まで奪うつもりはない。

 

業はその答えを気に入ったようだった。

 

「どうだった?」

 

「最初の握手はすごかったよ」

 

「崖の方は?」

 

「殺せんせーを狙うより、先生として試すことを優先してたと思う」

 

「手厳しいね」

 

「でも、それがカルマ君の目的だったんでしょ?」

 

業は答えなかった。

 

否定もしなかった。

 

三人は旧校舎へ向かい、山道を歩き始める。

 

しばらくして、業が渚へ尋ねた。

 

「ねえ、渚君」

 

「何?」

 

「今の渚君と俺なら、どっちが強いと思う?」

 

「何で比べるかによるよ」

 

「喧嘩なら?」

 

「カルマ君」

 

迷いのない答えだった。

 

腕力。

 

反射速度。

 

実戦経験。

 

正面から戦えば、業の方が強い。

 

渚はその事実を正確に理解している。

 

「暗殺なら?」

 

渚は少し考えた。

 

「暗殺なら、戦う前に決めたいかな」

 

「答えになってないよ」

 

「カルマ君が僕を敵だと知って、向かい合った状態から始めたら、それは暗殺じゃなくて戦いになるから」

 

「なるほどね」

 

業は面白そうに笑う。

 

「なら、渚君に敵だと気づかれないように狙えばいいんだ」

 

「僕も同じことをするよ」

 

二人の会話を聞き、殺せんせーの触手が落ち着かなく動いた。

 

「クラスメイト同士で暗殺を計画しないでください!」

 

「対先生用の武器なら人間には効かないでしょ?」

 

業が言う。

 

「そういう問題ではありません!」

 

「冗談だよ、殺せんせー」

 

「業君の冗談は冗談に聞こえません!」

 

殺せんせーの抗議を聞きながら、業と渚は並んで歩く。

 

性格も、暗殺の方法も異なる二人。

 

業は標的の意識へ強引に入り込み、予想外の手段で守りを崩す。

 

渚は標的の意識から静かに外れ、気づかれないまま急所まで近づく。

 

どちらかが、もう一方より劣っているわけではない。

 

得意とする暗殺が違う。

 

その違いを、二人はこの日初めて理解した。

 

     ◇

 

その日の夜。

 

烏間は防衛省へ提出する報告書を作成していた。

 

赤羽業。

 

初回の接触で、殺せんせーの触手へ損傷を与える。

 

攻撃性、判断力、応用力、いずれも極めて高い。

 

一方で、自分の安全を軽視し、標的との勝負へ固執する傾向あり。

 

その記録の隣には、以前に作成した潮田渚の項目がある。

 

渚は業ほど身体能力が高くない。

 

業のように大胆な行動へ出ることも少ない。

 

しかし、業の罠へ真っ先に気づき、崖での作戦まで事前に予測した。

 

それでいて、必要がないと判断すれば動かない。

 

手柄を求めず、標的が自分の射程へ入るまで待つことができる。

 

二人は似ていない。

 

それでも暗殺者として、どちらも極めて危険だった。

 

烏間は報告書へ一文を書き加える。

 

――赤羽業と潮田渚。両名が協力した場合、単独時とは異なる対策が必要。

 

だが、すぐに手を止めた。

 

これは政府へ提出する報告書だ。

 

生徒たちを暗殺者として評価することは、自分の役目でもある。

 

それでも彼らは、まだ中学生だった。

 

暗殺の才能だけで将来を決めてよいはずがない。

 

烏間は先ほどの一文を残したまま、その下へ新たに記す。

 

――才能の利用だけでなく、教育と精神面の成長を優先すること。

 

その方針は、殺せんせーも同じはずだった。

 

三年E組には、二人の危険な暗殺者がそろった。

 

だが彼らがこの教室で学ぶべきことは、誰かを殺す方法だけではない。

 

自分の命を捨てないこと。

 

仲間を利用するのではなく、信頼すること。

 

そして、自分の才能を何のために使うのかを選ぶこと。

 

赤羽業の復帰によって、三年E組の暗殺はさらに鋭さを増した。

 

同時に。

 

殺せんせーの教師としての仕事も、これまで以上に難しいものとなった。

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