久世悠真がその少女を見つけたのは、何の代り映えもない、六月の半ばで梅雨の合間に晴れた、蒸し暑い放課後だった。
「なあ、駅前寄ってかね?」
昇降口で靴を履き替えていると、同じクラスの男子が後ろから声をかけてきた。振り返れば、すでに鞄を肩へ引っかけた友人が二人、いかにも暇そうな顔で立っている。
「何しに?」
「ゲーセン。新しい音ゲー入ったらしいぞ」
「今日はいいわ。昨日ほとんど寝てない」
「また夜更かし?」
「動画見てたら三時だった」
「自業自得じゃねえか」
笑われたので、適当に手を振って別れた。
別に本当に眠くて仕方がないわけではない。家へ帰ったところで宿題をする気もなかったし、おそらく昨日の続きの動画を見るか、ゲームを始めて、また似たような時間まで起きていることになる。それでも今日は妙に寄り道する気になれなかった。
校門を出ると、傾き始めた太陽がまだ強い光を残していた。昼間に熱せられたアスファルトから、むっとするような熱気が上がっている。駅へ向かう道には同じ制服を着た学生が多く、少し先では部活帰りらしい集団が大声で笑っていた。
いつも通りの風景だった。少なくとも、その時までは。
駅前の大きな交差点まで来たところで、信号待ちの人混みの向こうに銀色を見つけた。
最初は、派手な髪をした子供がいると思った。腰近くまで伸びた白銀の髪で、年齢は十二、三歳くらいだろうか。自分より頭一つ以上低い、小柄な少女だった。
服装も妙だった。何と呼べばいいのか分からない。着物とも違うし、巫女服とも違う。白を基調にした古風な衣装を何枚か重ねているように見える。六月の駅前で着るには明らかに場違いだった。
コスプレか何かか。最近は動画撮影でもしているのかもしれない。
「……裸足?」
少女は靴を履いていなかった。白い足がそのままアスファルトに触れている。どう見ても普通ではない。
迷子だろうか。だとすれば警察か駅員に声をかけた方がいい。周囲には大勢の大人がいるし、誰かがすでに対応していてもおかしくない。
しかし、誰も少女を見ていなかった。
一人や二人ではない。何十人もの人間が行き交っているのに、少女へ視線を向ける者が一人もいない。
少女のすぐ横をスーツ姿の男が通り過ぎる。肩が触れそうな距離だったのに、男は少女を避けようともしなかった。
都会というほど大きな街でもないが、他人に関心を持たない人間なんて珍しくもない。変わった格好の子供が一人いたところで、わざわざ声をかける方が少数派なのかもしれない。そう納得しかけたところで、歩行者用信号が赤になった。
少女が道路へ踏み出した。
「え?」
思わず声を漏らした。少女は左右を見なかった。信号も見ない。何の迷いもなく、車道を歩き始める。車の流れが動き出している。右側から乗用車が近づいてきた。
「おい!」
反射的に叫んだ。
「そこ危ないぞ!」
人混みの中で何人かが振り返った。だが少女だけは振り返らない。聞こえていないのか。
車はさらに近づいてくる。
「おいって!」
一歩前へ出た。そして、少女の特徴なんて一つしかないことに気づいて叫ぶ。
「銀髪のお前だよ!」
少女が車道の中央で止まった。
ぴたり、と。
奇妙な止まり方だった。驚いて足を止めたのではない。まるで映像を一時停止したように、歩いていた姿勢のまま動かなくなった。
思わず息を呑んだ。
やがて少女の顔が動いた。ゆっくりと、本当にゆっくりと、こちらへ向く。長い銀髪が遅れて揺れた。その下から現れた瞳は、金色だった。綺麗だ、と思ったのは一瞬だけだった。少女の顔に浮かんでいたものを見て、その感想はすぐに消えた。
少女は驚いていた。信じられないものを目の前に見つけたような――存在するはずのないものが存在しているのを確認したような顔だった。少女の金色の瞳が、自分だけを見ている。
その時、車が少女へ突っ込んだ。
「危な――!」
思わず叫ぶ。車は少女を轢いた。
いや、違う。通り抜けた。
「……は?」
車は速度を落とすこともなく交差点を走り去っていく。運転手はブレーキを踏まなかった。ハンドルも切らなかった。何事も起こらなかったように。
そして少女もまた、何事もなかったようにそこに立っている。身体には傷一つない。衣服すら揺れていない。
頭が状況を理解するまで、数秒かかった。少女は道路を渡った。信号などまるで存在していないように、車が来ても避けない。何台かが身体を通り抜けたが、少女は気にも留めなかった。
やがて歩道へ上がると、人々の間を抜けて、真っすぐ前まで歩いてきた。誰も少女を避けない。肩が重なっても、身体が重なっても、そこには何もないように人々は歩き続ける。
自分だけが動けなかった。少女が目の前で止まる。思っていた以上に小さく、頭の位置は自分の胸あたりしかない。
少女はこちらを見上げると、何も言わずにじっと顔を見つめた。
「……何?」
耐え切れなくなって尋ねる。少女は答えない。右へ動いたので、目で追う。すると少女は止まり、今度は左へ動く。それから、目の前でしゃがんだ。
「だから何なんだよ」
少女が立ち上がった。そしてこちらに顔を寄せた。
「近い近い」
とっさに身体を引くと、少女はさらに近づく。鼻先が触れそうな距離で、金色の瞳がこちらの目を覗き込む。その表情には、警戒も羞恥もなかった。虫眼鏡の下の虫でも見るようにこちらを観察している。やがて少女の唇がゆっくりと開いた。
「……妾が、見えるのか?」
ひどく場違いな言葉だった。声は姿相応に高い。だが話し方だけが、妙に古臭い。
「そりゃ見えるだろ。見えてなかったら、誰に話しかけてるんだよ」
彼女は答えなかった。再び右へ移動する。
「いや、だから何なんだって」
言いながら目で追う。左へ移動したので、またその動きを追った。そして今度は背後へ回ったので振り返る。そこで初めて、ほんのわずかに眉を寄せた。
「面妖な」
「それ、俺の台詞なんだけど」
思わず彼女へ手を伸ばした。幽霊なんているはずがない。さっきの車も見間違いかもしれないし、何か仕掛けがあるのかもしれない。だが、その肩を掴もうとした手が、身体を通り抜けた。無言で自分の手を見た。もう一度、今度は慎重に彼女の腕へ触れようとする。指先が腕へ沈み、そのまま反対側へ抜けた。
「何をしておる」
「確認だよ、俺の頭がおかしくなったのかどうか」
「なるほどの」
「納得すんな」
彼女の腕と、自分の手を交互に見る。驚いている様子はない。どうやら、触れられないことの方は彼女にとって当たり前らしい。思わず額を押さえた。
「……幽霊?」
「違うの」
即答だった。
「妖怪?」
「それも違うの」
「じゃあ何?」
彼女はそこで初めて少し考えるように首を傾げた。
「その問いは、そなたの言葉では少々答えにくい」
「便利な答えだな」
「事実じゃ」
少女はまだこちらを見ている。いや、見ているという表現では足りない。観察されている。目の動き、表情、呼吸。何もかも確認されているような、不気味な視線だった。
そこでふと気づいた。自分たちは駅前の人混みの真ん中で話している。当然、周囲には人がいる。なのに誰一人、彼女へ目を向けない。それどころか、彼女の位置など最初から空間であるかのように、人々は身体を通り抜けていく。
近くを歩いていた中年女性を呼び止めた。
「あの、すみません」
「はい?」
彼女を指さす。
「ここに女の子いますよね?」
女性は指先の方向を見る。少女がそこに立っている。
「……女の子?」
女性は怪訝な顔をした。少女が女性へ近づき、真正面に立ち顔を覗き込むが女性は反応しない。さらに、女性の目の前で手を振った。
「おい、やめろ」
「え?」
女性が自分を見る。
「あっ、いや」
少女は今度は両手で大きく手を振っている。
「だからやめろって」
「……私、ですか?」
「違います違います。ほんとにすみません」
女性は明らかに不審そうな顔をしながら去っていった。その背中を見送りながら、銀髪少女が言った。
「そなた、今の者から妙な者と思われたぞ」
ゆっくりと彼女を見る。
「誰のせいだよ」
「妾は何もしておらぬ」
「してただろ」
「しかし、あれには妾が見えておらぬ。ならば妾が何をしようと、あれにとって妾は原因たり得ぬ。妙な者と思われた原因は、何もない場所へ話しかけておったそなたの行動であろう」
「…………」
間違ってはいない。間違ってはいないのが、ものすごく腹立たしい。少女を睨んだ。少女はその視線すら興味深そうに受け止めている。
「……本当に誰にも見えてないのか?」
「そのようじゃな」
「じゃあなんで俺には見えてるんだよ」
彼女はしばらく黙った。金色の瞳がこちらを見上げる。今度は先ほどまでとは少し違う。こちらを観察しているというより、その向こう側にある何かを探しているような視線だった。
「妾が知りたいのじゃ」
異常なのは、自分の方なのかもしれない。そんな考えが頭に浮かんだ途端、急に居心地が悪くなった。銀髪の少女から目を逸らし、駅前の時計を見上げた。いつの間にか、普段ならもう家へ向かっている時間になっている。
「……帰ろ」
「うむ」
「いや、お前は知らんけど」
誰に言い訳するでもなくそう付け加えて、そのまま歩き出した。
これ以上ここにいても仕方がない。彼女が幽霊ではないことも、妖怪ではないことも分かったが、では何なのかと聞けば「そなたの言葉では答えにくい」と返されるだけだ。何より、駅前で誰もいない場所へ話しかけ続けていれば、今度こそ本当に気がふれたやつだと思われかねない。
改札へ向かい、数十メートルほど歩いたところで振り返ると、まだやつがいた。当たり前のように、三歩ほど後ろを歩いている。
「……なんで付いてきてんの?」
「付いてきておる?」
「付いてきてるだろ」
少女は自分とこちらの位置関係を確認するように周囲を見回してから、小さく頷いた。
「確かに」
「確かに、じゃない。もうどっか行けよ」
「何故じゃ?」
「何故って……俺、帰るから」
「それは先も聞いたぞ」
「だからお前も帰れ」
少女はしばらくこちらを見つめた。
「帰る、とは?」
「……家にだよ」
「家?」
「住んでるところ」
「ほう」
何か新しい知識でも得たように頷く。嫌な予感がした。
「一応聞くけど、お前の家は?」
「無いのう」
「じゃあ、普段どこにいるんだよ」
「どこ、と言われてものう」
彼女は少し考えるそぶりをし、頭上を見た。空を見ているのかと思ったが、その目は青空よりさらに遠い何かへ向けられているように見えた。
「そなたの言葉で示せる場所ではない」
「またそれかよ」
「仕方なかろう。そなたらは場所を三つの向きでしか示さぬ」
「……何?」
「気にせずともよい」
「気になる言い方してから気にするなって言うな」
彼女は答えず、再びこちらの顔を凝視し始めた。その目を見てようやく察した。
「もしかして俺についてくる気?」
「うむ」
「なんで?」
「観察するためじゃな」
あまりにも堂々と言われ、一瞬返す言葉がなくなる。
「俺を?」
「そなた以外に何がおる」
「他にもいっぱい人いるだろ」
周囲を指した。改札前には学校帰りの学生も、仕事帰りの会社員もいる。彼女は一度そちらへ視線を向けたが、すぐに興味を失ったようにこちらへ戻した。
「あれらは分かる」
「俺は?」
「分からぬ」
「だから面白いって?」
「そうじゃ」
「珍獣扱いすんなよ」
諦めて改札へ向かうと、彼女は当然のようについてきた。切符もICカードも使わず、自動改札をそのまま通り抜ける。
「お前それ反則だろ」
「何がじゃ?」
「いや……やっぱ何でもない」
ホームに着いても彼女は離れない。ベンチに座れば隣に立ち、電車が来れば一緒に乗り込んだ。
車内はそれなりに混んでいたが、彼女には関係がなかった。乗客の身体が彼女を通過するため、立つ場所すら必要ない。正面に銀髪の少女が立っているのに、その場所へ別の乗客が重なるという光景は、見えている側からすればかなり気味が悪い。
「お前、それ嫌じゃないの?」
「何がじゃ?」
「人と重なってるけど」
「重なってはおらぬぞ」
「いや俺にはそう見えるんだけど」
「そなたの見方の問題じゃ」
「なんだそれ。なんか腹立つな、お前」
彼女は少し首を傾げた。
「腹が立つと、そなたは眉間に皺が寄るのじゃな」
「……だから観察すんな」
「何故じゃ?」
またそれである。何を言っても「何故」と返ってくる。どうやらからかっているのではないらしい。本当に分からないのだ。人をじろじろ見続ければ不快に思われるとか、本人の許可もなく後をついていくのは迷惑だとか、そういった常識そのものを共有していない。
電車を降りてから、試しに一度だけ彼女を撒こうとした。住宅街へ入り、角を曲がったところで走る。次の路地を右へ入り、さらに左へ曲がり、適当な塀の陰に隠れた。
そして十秒待つ。二十秒後、あたりに気配はない。
「……撒いたか?」
「誰をじゃ?」
「うわっ!」
声は正面からした。彼女が塀の上に座っていた。
「いつからそこにいた!?」
「いつから?」
「俺より後ろにいたよな?」
「おったぞ」
「じゃあどうやって先に来たんだよ!」
彼女はまた首を傾げる。
「先とは?」
「……はい?」
「そなたは先ほどから、先だの後だの妙なことを言うのう」
「もういい!」
もう考えるのをやめた。幽霊でも妖怪でもない何かを、徒歩で撒こうとした自分が馬鹿だったのだ。結局、彼女を連れたまま自宅まで戻ることになった。
「ただいま」
「おかえりー」
玄関を開けると、居間の方から母親の声が返ってきた。靴を脱ぎ家に上がるとその横を銀髪の彼女が堂々と通過した。
「おい」
おもむろに振り向く。
「勝手に入るなよ」
「何故じゃ?」
「人ん家だからだよ」
「そなたの家なのであろう?」
「そうだけど」
「ならばよいではないか」
「よくねえよ。俺が駄目って言ってる」
「何故駄目なのじゃ?」
「お前、何にでも理由求めるのやめろ」
居間から足音が近づいてきた。
「悠真、玄関で何してるの?」
母さんが顔を出す。少女は母さんの真正面に立っていた。一瞬迷った末、何も言わずに母さんの様子を観察する。視線は銀髪少女を素通りして、こちらへ向いている。
「……母さん。そこに何かいる?」
「そこ?」
母さんが周囲を見た。少女も母さんを見つめている。
「何もいないけど」
「だよな」
「何、怖いんだけど」
「何でもない」
小さく息を吐いた。本当に自分以外には見えていないらしい。
「もう、はやく上がりなさいよ」
「はいはい」
母さんが居間へ戻る。その背中を少銀髪女がじっと見送った。
「今のは?」
「母親」
「ほう」
「俺を産んだ人」
「生殖くらい知っておる」
「言い方がなんか嫌だな」
そのまま廊下へ上がると、彼女も後ろからついてきた。もちろん靴を脱ぐ必要はない。もともと裸足だ。
「とにかく、家の中では変なことするなよ。勝手に物触るとか、人の部屋覗くとか」
「触れぬぞ」
「そういやそうだった」
彼女は壁際へ寄った。そして、そのまま壁の中へ入った。
「あと壁抜けるのもやめろ!」
慌てて追いかける。
隣の居間へ回ると、壁から半身だけ出した状態で止まっていた。
「何故じゃ?」
「気持ち悪いから!」
「壁を通るだけで?」
「俺の目の前でやるな!」
「難儀なものじゃのう」
「お前が言うな!」
母さんがソファから振り返った。
「さっきから一人で何騒いでんの?」
「あー……」
彼女は母さんのすぐ横に移動すると、こちらを見ながら興味深そうに首を傾けている。
「友達と電話」
「スマホ、手に持ってないけど」
「……イヤホン」
「付けてないじゃない」
「じゃあ独り言!」
「大丈夫?」
「俺もそう思う」
母さんは心配そうな顔をしたが、深く追及はせずテレビへ視線を戻した。少女はその横へ立ち、今度はテレビを眺め始めた。
「これは何じゃ?」
「テレビ」
「それは何をしておる?」
「番組流してんだよ」
「何故?」
「何故って……見るため」
「何故見る?」
口を開きかけて止まった。テレビでは芸人らしい男が何かを失敗し、スタジオの出演者たちが笑っている。母さんもつられたように小さく笑った。彼女はテレビではなく、母さんの顔を見た。
「今のは?」
「何が?」
「何故笑った?」
「面白かったからだろ」
「面白い」
彼女はその言葉を確かめるように口にした。テレビへ視線を戻し、同じ場面で笑っている出演者たちを見る。それから母さんを見て、最後にこちらへ視線を移した。
「そなたも、あれを見れば同じようになるのか?」
「面白ければ笑うけど」
「必ず?」
「必ずじゃない」
「では何によって決まる?」
「知らねえよ。面白いかどうかなんて人によるだろ」
「人による」
彼女はまたその言葉を反芻した。そこで初めて彼女がテレビという機械に興味を持っているわけではないことに気づいた。画面よりも、それを見て笑う人間を見ている。いや、人間そのものを見ているというより、人間の反応を見ているのかもしれない。
「お前、人間のこと知らないの?」
「知っておるぞ」
「全然知らなそうだけど」
「構造ならば知っておる」
「構造?」
「そなたらが生まれ、変化し、やがて終わることも知っておる。何を摂取し、どのように身体を維持するかも、おおよそは分かる」
「じゃあ何で笑うの知らないんだよ」
彼女はこちらを見ながら言う。
「知る必要がなかったからじゃ」
あまりにも自然な返答だった。偉そうに言っているわけでもない。ただ、本当にそれまで必要がなかったのだと分かる口調だった。何となく返事をしづらくなり、自分の部屋へ行こうと階段へ向かった。
「悠真、もうすぐご飯だからね」
「分かった」
母さんに返事をする。階段を二段ほど上ったところで、後ろを振り返った。
もちろんついてきている。
「……まだ来んの?」
「うむ」
「いつまで?」
「分からぬ」
「帰る気は?」
「ないの」
「即答すんなよ」
*
結局、夕食になっても彼女はいなくならなかった。食卓には自分と両親が座り、そのすぐ横に誰にも見えない銀髪少女が立っている。机の上の皿を覗き込みながら話しかけてくる。
「これは何じゃ」
「ハンバーグ」
「何故食う?」
「腹減るから」
「何故腹が減る?」
「そこから?」
思わず大きな声が出た。父さんが顔を上げる。
「どうした?」
「いや、何でもない」
彼女はハンバーグを間近から観察している。
「これは他の生物の肉であろう?」
「そうだけど」
「それを細かくし、形を整え、熱を通し、再び味を加えるのか」
「なんで急に説明が生々しくなるんだよ」
「悠真?」
母さんが怪訝そうに見る。
「独り言」
「今日多くない?」
「ちょっと疲れてんだと思う」
「早く寝なさいよ」
「そうする」
箸を動かすと彼女はその様子をじっと見ていた。しばらくするとその視線が皿から離れた。
父さんが仕事の話をして、母さんが相槌を打ち、自分が適当に返事をする。少女は三人の顔を順番に眺めていた。父さんがくだらない冗談を言い、自分が鼻で笑う。その瞬間、彼女の目がこちらへ止まった。
「今、笑ったのう。何故じゃ?」
「父さんがくだらないこと言ったから」
「テレビを見て笑うのとは違うのか?」
「まあ、そんな変わんないんじゃねえの」
「だが、そなたは先ほどテレビでは笑わなかった」
「面白くなかったから」
「これは面白かった?」
「ちょっとだけな」
彼女が父さんを見て、もう一度こちらを見る。その金色の瞳には何かを理解した様子はなかった。代わりに、さらに疑問が増えたようだった。
彼女はもう料理をほとんど見ていなかった。家族と話し、返事をし、時折笑うこちらの顔だけを長い間黙って観察していた。
「……そんな見んなよ」
黙ってハンバーグを口へ運んだ。
「そなた」
小さな声で言う。
「何だよ」
「妾を見ておる時と、あれらを見ておる時では、少し顔が違うのじゃな」
おもわず箸を止めた。
「……そう?普通だろ。相手によって話し方くらい変わるし」
「そういうものか」
「そういうもんだよ」
納得したように頷いた。結局夕食が終わるまでずっと、彼女の視線はこちらから離れなかった。
食器を流しへ運び、母さんに「今日はもう部屋行く」と声をかけても、その少し後ろには銀髪の少女がいる。階段を上がっている間も、部屋へ入って鞄を床へ放り投げても、やはりそこにいた。ベッドへ腰を下ろし、あらためて彼女を見た。
「……暇なの?ずっと俺見てるけど、飽きない?」
「何故飽きる?」
「いや、俺そんな面白いことしてないだろ」
「面白いぞ」
即答された。
「どこが?」
「そなたは先ほど、父親と話しておる時と母親と話しておる時で、声が少し違っておった」
「そう?」
「友人と話しておった時も違った」
思わず顔を上げた。
「友達?」
「数刻前に話しておった二人じゃ」
「……あの時からいたの?」
「おったぞ」
「嘘だろ」
今日の放課後を思い返した。昇降口で友人と話し、ゲーセンへ誘われ、それを断った。そこに少女がいた記憶はない。
「どこにいた?」
「そなたの近くではない」
「じゃあ何で知ってんだよ」
「見ておったからじゃ」
「どこから?」
「どこと言われてものう」
彼女は困ったようでもなく首を傾げた。
「そなたは随分と『どこ』を気にするのじゃな」
「普通気にするだろ」
「妾にはあまり意味がない」
一瞬質問を続けようとしたが、どうせ説明されても理解できない気がしてやめた。彼女の口からは時々、意味の分からない言葉が出てくる。三つの向きでしか場所を示さないとか、先や後という言い方が妙だとか。どれも冗談として言っているようには見えない。その度に、この銀髪少女が自分とは全く違うところから来た何かだという感覚だけが強くなる。
「とりあえず、俺風呂入ってくるから」
「ほう、風呂か」
「だから、ここで待ってて」
「何故じゃ?」
「…………」
思わず彼女を見つめる。嫌な予感がした。
「いいから。ここにいろよ」
「うむ」
返事を聞いてから、着替えを持って一階へ降りた。脱衣所へ入り、扉を閉める。ようやく一人になれた。
「はあ……」
今日一日で、一週間分くらいため息をついた気がする。服を脱ぎ、洗濯籠へ入れる。その途中だった。
「それは何をしておる?」
「うわあっ!」
反射的に壁際へ飛び退いた。脱衣所の壁から、彼女が半身だけ出している。
「何してんだお前!」
「おぬしを見ておる」
「出てけ!」
「何故じゃ?」
「風呂入るから!」
「それは先ほど聞いたぞ」
「だから出てけって!」
彼女は本気で理解できないらしく、金色の瞳を瞬かせた。
「妾がおれば入れぬのか?」
「入れない!」
「どうしてじゃ?」
「……お前、マジで言ってる?」
おもわず頭を抱えた。
「人が服脱いでるところを勝手に見るな」
「何故じゃ?」
「恥ずかしいから!」
「恥ずかしい」
彼女はその単語を初めて聞いたように繰り返した。
「それは何じゃ?」
「そこから!?」
「知らぬものは知らぬ」
「……人に見られたくないことがあるんだよ」
「何故?」
「理由なんていちいちねえよ!」
声を荒げても彼女は驚きもせず、ただこちらを見ている。
「俺が嫌なの。分かった?」
「妾が見ておることの何が嫌なのじゃ?」
「だから!」
言い返しかけたが、少し考える。少女に悪意がないことだけは、ここまで付き合っていれば分かった。嫌がらせで覗きに来たわけでも、からかっているわけでもない。本当に分からないのだ。
一度息を吐いた。
「俺が嫌だって言ったら、それ以上やらない。そういうのでいいんだよ」
「全部理由が分からなくても、俺が嫌だからやめろって言ったら、やめてくれ」
「妾が納得しておらずとも?」
「そうだ」
彼女が少しだけ目を細めた。笑ったわけではない。だが、何か新しいものを見つけたような表情だった。
「そなたの意思そのものが、理由になるということか」
「……まあ、そんな感じ」
「ふむ」
こちらを見た。そして壁から身体を抜き、脱衣所の外へ出た。
「分かった。妾はここに入らぬ。しかし、妾には壁がない」
「意味分かんねえよ」
「そなたが言う『ここ』がどこまでか分からぬ。故に、見えぬ位置におればよいのであろう?」
「……とにかく俺から見えないところにいて」
「承知した」
彼女の姿が壁の向こうへ消えた。
そのまま数秒待った。
「……いる?」
「おるぞ」
当然のように壁の向こうから返事が来た。
浴室に入ってシャワーを浴びている間も、妙に壁の向こうが気になった。覗かれている気はしない。そもそも彼女にとって「覗く」という行為が成立するのかも怪しい。しかし少なくとも、自分が嫌だと言ったことで彼女は外へ出た。そこだけは意外だった。もっと自分勝手な存在だと思っていた。
風呂から上がり、着替えを済ませる。脱衣所の扉を開けると、彼女は廊下に立っていた。
「お前、ずっとそこにいたの?」
「うむ」
「暇じゃない?」
「そなたが出てくることは分かっておった」
「まあ風呂なんだから出てくるだろ」
こちらの顔を見る。
「そなたは今、先ほどより機嫌がよい」
「風呂入ったからな」
「風呂に入れば機嫌がよくなる?」
「人による」
「またそれか」
彼女は小さく呟いた。
「何だよ」
「そなたらは、同じ構造を持ちながら随分違うのじゃな」
「構造って言うなよ。人間だよ」
「人間という構造であろう」
「……やっぱお前、なんか腹立つな」
さっきと同じようにこちらの顔を見る。
「今も皺が寄った」
「実況すんな」
二階へ戻る。時刻は九時を過ぎていた。机の椅子へ座り、スマホを手に取った。友人からメッセージが届いている。
『新作クソむずい』
続けてプレイ中の画面写真が送られてきた。それを見て小さく笑う。
「それは何じゃ」
「友達」
「その板の中におるのか?」
「スマホな。いない。メッセージ来ただけ」
「文字で会話をする?」
彼女がスマホを覗き込む。
「便利じゃの」
「お前がそれ言う?壁抜けたり瞬間移動みたいなことする奴に便利って言われてもな」
「妾は瞬間移動などしておらぬぞ」
「じゃあ今日どうやって先回りしたんだよ」
「先回りという考え方が違うのじゃ」
「だからそれを説明してくれよ」
彼女は少し考えるそぶりをした。
「例えばの」
「うん」
「そなたは紙の上に一本の線が引かれておるとして、その線の上に住むものを想像できるか?」
「……まあ」
「その者は線の前と後ろしか知らぬ。じゃが、そなたは紙の上を自由に見られる」
「……うん?」
「線の上の者からすれば、そなたの移動は奇妙に見えるであろう」
少しわかってきた。
「つまり?」
「説明しても理解できぬということじゃ」
「途中までそれっぽかったのに投げんなよ!」
彼女は平然としていた。
「そなたの理解できる言葉へ落とすと、必ずどこかが間違う」
「……お前、本当に何なんだ?」
今まで何度か聞いた質問だった。幽霊か、妖怪か。そんな分類をしたいわけではない。彼女が何を見て、どこから来て、なぜ自分だけが見えるのか。それを知りたかった。
「そなたらの言葉で最も近いものを探すなら」
「うん」
「……神、かもしれぬ」
思わず固まった。
「神?」
「近いだけじゃ」
「神様なの?」
「違う」
「今神って言っただろ!」
「だから近いだけじゃと言うておる」
「なら、幽霊でも妖怪でも宇宙人でも神でもない?」
「そうじゃな」
「じゃあ何なんだよ!」
彼女は考え込むように少しだけ上を見た。
「そなたらは、己が認識できるものに名を与えすぎる」
「それは悪かったな」
「悪いとは言うておらぬ。名を付けることで扱えるものもある」
再びこちらを見る。
「じゃが、妾にはまだ、そなたらが使える名がない」
「じゃあ名前も?」
「名?」
「お前の名前」
彼女は沈黙した。
「…ないの?」
「必要がなかった」
「マジで?」
「うむ」
「誰かに呼ばれたりしないの?」
「誰か?」
その一言で、思わず口を閉じた。彼女は不思議そうにこちらを見ている。考えてみれば、確かにそうだ。誰にも見えず、誰にも触れられない。少なくとも今日一日、彼女を認識した人間は自分以外に一人もいなかった。なら、名前を呼ぶ相手もいない。
少しだけ居心地が悪くなった。
「ずっと誰にも見えてなかったのか?」
「そなたの言う『ずっと』がどの範囲かによるが」
「人間がいる間だったら」
「うむ」
「一人も?」
「おらぬな」
何でもないことのように答えた。そこに寂しさや悲しみはなかった。長い間孤独だった人間がする顔ではない。そもそも彼女にとって、誰かに見られないことは不幸ですらなかったのだろう。
無意識に彼女を見つめていた。
「今日、俺に声かけられた時、お前驚いてたな」
彼女がわずかに首を傾ける。
「妾は驚いておったのか?」
「自覚なかったの?」
「自分の感情など、正確には知らぬ」
「……は?」
「だが」
金色の瞳が、まっすぐこちらを捉えた。
「そなたが妾へ声を向けた時、それまでにはなかった変化があった」
彼女は少し考えた。けれど、答えは出なかったらしい。
「まだ分からぬ」
「自分のことなのに?」
「自分」
彼女はその言葉を繰り返した。
「自分、か」
それまでの会話で初めて、ほんの少しだけ言葉に迷ったように見えた。彼女は自分の手を見た。白い指を眺めながら、その輪郭を確かめるように掌を裏返す。
「妙じゃの」
「何が?」
「分からぬことが増えてゆく」
彼女は手を下ろし、そしてこちらを見た。
「そなたを見つけてから、妙なことばかりじゃ」
「見つけたの俺なんだけど」
「妾からすれば同じことじゃ」
「全然違うだろ」
「そうかの」
そう言って、またこちらを観察し始めた。その視線は相変わらず無遠慮だった。こちらが動けば追い、表情が変われば確かめ、声を出せばその反応を見る。変わらず珍しい現象を観察している様子だった。
「……なあ」
「何じゃ」
「お前、これからどうすんの。いつまでここにいる気?」
「決めておらぬ」
「じゃあ今夜は?」
「ここにおる。何か問題でもあるのか?」
「問題しかない」
時計を見ると、もう十時近い。明日も学校がある。昨日は三時まで起きてしまったし、今日はさすがに早めに寝たい。だがそのためには、目の前にいるこの正体不明の存在をどうにかしなければならない。
「俺、そろそろ寝るんだけど」
「知っておるぞ。一定時間、外界への反応を低下させるのであろう」
「なんだそれ」
「間違っておるか?」
「間違ってないけどさ」
ベッドを指さした。
「だから、寝てる間くらいどっか行っててくれない?」
「何故じゃ?」
「またそれかよ」
「風呂の時とは違うのであろう?」
「まあ……」
寝顔を見られたくないというほどでもない。家族と旅行へ行けば同じ部屋で寝ることもあるし、学校行事なら友人と同室になることだってある。ただ、見知らぬ少女に一晩中観察されるなんて、普通は落ち着かないだろう。
「寝てる間ずっと見られてたら落ち着かないだろ」
「眠っておれば分からぬのではないか?」
「そういう問題じゃない」
「では、どういう問題なのじゃ」
「……お前さ」
「うむ」
「本当に『見られる』ってこと気にしたことないんだな。人から見られてると、気になるんだよ。ずっとこっち見てる奴がいたら、何だろうって思うし。嫌な時もある」
「先ほどの風呂のように?」
「まあ、それもそう」
「妾は見られても何も思わぬ」
「というか、今まで誰にも見られたことなかったんだもんな」
口にしてから、少しだけ言い方が悪かった気がした。だが彼女は傷ついた様子もなく、ただこちらを見返している。
「そうじゃな。見られる、ということ自体を考えたことがなかった」
誰にも見られなくて寂しい。そもそも、彼女にはそんな発想そのものがなかったのだ。
「でも、そなたは今も妾を見ておるのじゃな」
「そりゃ見てるけど」
「何故じゃ?」
「目の前にいるから」
「目の前におれば見る?」
「普通はな」
質問が止まった。何か難しいことでも考えるように眉を寄せる。
それ以上何も言わなかった。深く追及する気にはならず、スマホを充電器につないだ。
「とにかく、俺は寝る」
「うむ」
「電気消すぞ」
「妾には関係ない」
「そうですか」
部屋の照明を落とすと、暗闇の中、窓から入る街灯の光だけが薄く室内を照らした。彼女の銀髪が、その光を拾ってぼんやり浮かんでいる。
「……なんか怖いな。暗い部屋に銀髪女子が立ってるの」
「妾は何もしておらぬぞ」
「分かってるけど」
そのまま布団へ入った。彼女はベッドの脇に立っている。
「ずっとそこにいるの?せめて座れば?」
「何故?」
「いや、疲れるだろ」
「疲れぬ」
「……便利だな」
枕へ頭を沈める。
「おやすみ」
「それは何じゃ」
「寝る前に言う挨拶」
「なぜ挨拶する?」
「知らねえよ。そういうもんなの」
「ほう」
「だから、おやすみ」
「おやすみ」
たどたどしく返ってくる。そのまま目を閉じると、どっと疲れがきた。肉体的というより、精神的にだ。朝起きた時には、今日のこと全部が夢だったらいいと、そんなことを考える。けれど夢にしては長すぎるし、何より少女との会話を細かく覚えすぎている。
明日起きても、まだいるのだろうか。彼女が動いた気配があるので目を開けてみた。
「……近い」
いつの間にかベッド脇へしゃがみ込み、こちらの顔を覗き込んでいた。
「そなた、眠っておらぬではないか」
「寝ようとしてたの!」
「目を閉じておったから眠ったのかと思った」
「そんな一瞬で寝られるか」
「そういうものか」
「あと顔近い」
少しだけ後ろへ下がる。
「今何してた?」
「見ておった」
「だから、それやめろって」
「眠ってからならよいのであろう?」
「よくない」
「何故じゃ?」
「……もういい」
説明する気力がなくなった。反対側を向き、布団を頭まで被った。これなら少なくとも顔は見えない。
「それでは妾が見えぬぞ」
「見えなくしてんだよ」
「妾が見えると眠れぬ?」
「今はな」
「そうか」
今度こそ静かになった。しばらく待っても話しかけてこなかったので、ようやく力を抜いた。
今日は変な一日だった。明日はどうなるのだろう。このまま彼女は学校にも付いてくるのだろうか。さすがにそれは困る。教師の前で話しかけられても返事なんてできないし、今日だけですでに両親から相当怪しまれている。
幽霊でも妖怪でもなく、神に近いが神でもない。名前すらない。考えれば考えるほど意味が分からなくなってくる。意識が沈んでいく直前、もう一度だけ少女のことを考えた。誰にも見えない存在で、自分だけが見える。今までそんなものが本当にいたとして、自分は昨日までまったく知らずに生きていた。自分に見えていなかっただけで、この世界には他にも何かいるのだろうか。
色々考えているうちに、いつのまにか意識を手放していた。
*
夜中に一度、目が覚めた。別に喉が渇いたり、トイレへ行きたくなったわけでもなかった。
視線の先には暗い天井が見える。それから昼間の出来事が一気に戻ってくる。おもむろに横を見ると、銀髪の少女がカーテンの隙間から差し込む月明かりを背に、こちらに視線を向けていた。妙に静かな姿だった。眠っている間、ずっとそうしていたのだろうか。
「……まだいる?」
寝ぼけた声で尋ねる。
「うむ」
「今、何時……?」
「知らぬな」
枕元のスマホを見る。
二時十三分。四時間ほど眠っていたらしい。水でも飲もうかと思ったが、起きるのが面倒でやめた。
「お前、寝ないの?」
「寝ない」
「ずっと起きてんの?」
「そなたの言う意味では、そうじゃな」
「疲れない?」
「疲れぬ」
「……ほんと人間じゃないんだな」
「最初からそう言っておる」
「言ってないだろ。何なのか聞いても誤魔化してばっかで」
「誤魔化してはおらぬ」
「似たようなもんだよ」
少女がこちらへ歩いてくる。
「また寝るか?」
「たぶん」
「そうか」
ベッドの脇まで来た。半分閉じかけた目で彼女を見る。
「……なあ」
「何じゃ」
「昼からずっと俺についてきてるだろ。観察したいってのは聞いたけどさ」
「うむ」
「俺が寝てる間なんて、そばにいても何も面白くないだろ」
「そうでも無いぞ」
「別のところ行くとか」
「何故じゃ?」
眠い目を擦った。
「なんでずっと俺のそばにいるの?」
彼女はすぐには答えなかった。金色の瞳がこちらを見て、何かを確かめるようにほんの少し目を細めた。
「そなたは今も妾が見えておるのじゃな」
「見えてるよ」
「明日も見えておるか?」
「知らないけど……たぶん」
「そうか」
それだけ言って黙った。何を確認したかったのかは分からない。
「で?」
「何じゃ」
「なんでいるの?」
もう一度聞いてみる。彼女はしばらくこちらを見つめていた。自分もよくわからない何かを確かめているような顔だった。
やがて静かに口を開いた。
「そなたが妾を見るからじゃ」