「皆さん、勝手にここへ入ってこられては困るのですが」
リンの一言で、トニーに集まっていた視線が彼女へ向いた。
「連邦生徒会への問い合わせが全部無視されてるから、直接聞きに来たのよ!」
先頭にいた青い髪の少女が詰め寄った。
「首席行政官。私も、現在の状況について説明を求めに来ました」
黒い翼を持つ、背の高い少女が続いた。
「風紀委員長が、納得のいく回答を要求されています」
眼鏡を掛けた少女の口調は落ち着いていたが、こちらも簡単に引き下がるつもりはなさそうだった。
「こちらも、これ以上は返答を待てません」
扉の近くに立つ、銀色の髪の少女が言った。
リンは小さく息を吐いた。
「……面倒な方々に捕まってしまいましたね」
「これも、連邦生徒会長が行方不明になったせいか?」
四人の視線が、一斉にトニーへ戻った。
「……え?」
「それは本当ですか?」
「やはり、あの噂は……」
トニーはリンを見た。
「まだ公表していなかったのか」
「はい。混乱を広げないよう、公表は対処の目途が立ってからにするつもりでした。先生の到着を待っていたのも、そのためです」
「なるほど」
リンは短く息をつくと、彼女たちへ向き直った。
「結論から申し上げると、連邦生徒会は現在、行政制御権を失っています。都市の行政機能を管理するサンクトゥムタワー。その最終管理者である連邦生徒会長が、不在のためです」
リンは説明を続けた。
「認証を迂回する方法を探していましたが、先ほどまで、有効な手段は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか?」
黒い翼の少女が尋ねた。
「はい」
リンがトニーへ向き直る。
「こちらの先生が、解決の鍵になるはずです」
再び、四人の視線が集まった。
「ちょっと待って。この先生はいったい誰なの? 外の世界の方に見えるけど、どうしてここにいるのよ?」
青い髪の少女が、二人の顔を交互に見る。
トニーは答えかけて、彼女の持つ銃へ目を落とした。
「答える前に、一つ聞いていいか。君たちは生徒なんだよな?」
「はい。それぞれ所属は違いますけど」
「どうして全員、銃を持っている?」
近くで見ても、玩具には見えなかった。少女たちが持て余している様子もない。それが、先ほどから気に掛かっていた。
「どうしてって……護身のためですが」
青い髪の少女が、きょとんとした顔で答えた。
「……それだけか?」
「何か問題が?」
「学校に通う子供が全員武装していれば、普通は理由を聞くだろう」
「キヴォトスでは普通ですけど……外の世界では違うんですか?」
「ああ。少なくとも、登校に必要な持ち物には入っていない」
「それで、襲われたらどうするんです?」
扉の近くの少女が尋ねた。
トニーは彼女を見た。からかっている様子はなかった。
「警察を呼ぶ。まさかとは思うが、君たちは銃で応戦するのか?」
「こちらでも通報はします。ただ、到着するまでは身を守らなければなりませんから」
答えは返ってくる。それなのに、聞けば聞くほど話が噛み合わなくなっていた。
眼鏡の少女が、考えるようにトニーを見た。
「先生。もしかすると、身体の丈夫さについて、認識が違うのかもしれません」
「丈夫さ?」
「私たちは、銃弾を受けても、それだけで命を落とすことは滅多にありません」
トニーは彼女の顔を見た。続いて、ほかの三人を。誰も訂正しなかった。
「防弾装備を着けていれば、という話か?」
「いえ。もちろん装備によって負傷を抑えることはできますが、身体そのものが、です」
視線が、少女たちの頭上へ動いた。光る輪は、先ほどから変わらずそこに浮かんでいた。
「君たち全員が?」
「はい」
トニーはしばらく黙って考え込んでいた。
「ご理解いただけましたか?」
「……撃たれても平気な知り合いなら、私にもいる。理解した」
銃弾が通じない相手なら、仲間にも敵にも心当たりはあった。ただ、目の前の少女たちまでそうだとは思ってもいなかった。
「その知り合いたちが普通に学校へ通っているところは、想像したことがなかったが」
「先生のお知り合いって、どんな方なんですか?」
青い髪の少女が眉を寄せた。
「説明すると長い」
「そもそも、先生がどなたなのかも、まだ聞いていません」
黒い翼の少女が話を戻す。
「ああ。私の番だったな」
トニーは姿勢を正して自己紹介する。
「トニー・スタークだ。キヴォトスには今日来た。先生と呼ばれたのも、今日が初めてだ」
「こちらのスターク先生は、連邦生徒会長が特別に指名した方です」
リンが補った。
「行方不明の生徒会長が指名した先生……? ますます分からなくなってきたんだけど」
「私も、その会長には会ったことがない」
「それ、大丈夫なんですか?」
トニーが答えるより先に、リンが口を開いた。
「先生は本来、連邦生徒会長が立ち上げた連邦捜査部、シャーレの担当顧問としてこちらへ来る予定でした。部活という形を取っていますが、実態は超法規的な権限を与えられた機関です。すべての学園から生徒を受け入れることができ、各自治区でも、学園の枠に縛られず活動できます」
「会ったこともない私に、その権限を? ずいぶん信用されたものだな」
「なぜ、これほどの権限を持つ機関を設立したのか。その真意は、私にも分かりません」
失踪した会長に聞かなければならないことがまた増えた。
「シャーレの部室は、ここから約三十キロ離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、会長の指示で、地下にある物を保管しています」
「さっき言っていたオーパーツか?」
「はい。先生にお渡しするよう、指示されています。それを起動できれば、サンクトゥムタワーへアクセスできるはずです」
自分がここへ来ることを知っていた人物が、自分のために残した物。それを調べれば、自分が呼ばれた経緯についても何か分かるかもしれない。
「分かった。まずはそこに行けばいいんだな」
「はい、これからシャーレの部室へご案内します」
リンは端末を取り出してどこかへ電話をつないだようだった。
「モモカ。シャーレの部室へ直行するヘリが必要なんだけど」
端末からホログラムのようなものが浮かび、桃色の髪の少女が映し出された。どこか気の抜けた様子でこちらを見ている。
『シャーレの部室? ああ、外郭地区の?』
「そう。すぐに手配を――」
『そこ、今大騒ぎだけど』
「大騒ぎ?」
『矯正局から脱走した生徒が暴れてるの。周りの不良も集まって、戦場みたいになってるよ』
青い髪の少女が顔をしかめた。扉のそばでは、銀髪の少女が黒い翼の少女と視線を交わしている。
『連邦生徒会に恨みがあるらしくてさ。巡航戦車まで持ち出してるみたい』
「……それで?」
リンが先を促す。
『シャーレを占拠しようとしてるみたいだよ。あそこも連邦生徒会の建物だからね。何か大事なものでも置いてあるの?』
モモカと呼ばれた少女は別の方へ顔を向けた。
『あ、先輩、お昼のデリバリーが来たから。また連絡するね』
「モモカ、待っ――」
映像が消えた。
リンは端末を静かにしまった。怒りによるものなのか少し身体が震えている気がする。周りの四人も同情の目を向けている。
「学生の抗議運動にしては過激だな」
「……少々、問題が発生しましたが。対処は可能です。先生は必ずシャーレへ送り届けます」
「強行突破するつもりか? 言っておくが、私の身体は君たちとは違う。撃たれれば死ぬ」
スーツがあれば、取れる手段はあった。今は、その一つも使えない。
「ええ。ですので──」
リンが顔を上げ、四人の少女を見渡した。その顔は笑顔だったが隠し切れない感情がにじみ出ているようだった。
青い髪の少女が眉をひそめる。
「……何? どうして私たちを見るの?」
「ここにいる皆さんに、ご協力をお願いしましょう」