足元のリパルサーが光を放ち、トニーの身体が浮き上がった。
校舎の屋根を越えたところで姿勢を変える。地上からは見えなかった敵の配置が、視界に広がった。車両の陰に兵士が集まっている。正面には盾を並べていたが、上はがら空きだった。
「アロナ。生徒たちの位置を出してくれ」
『はい! 今、表示します!』
視界に印が浮かんだ。シロコたちは校庭の左右へ展開している。便利屋の四人も、敵の後方で動いていた。
その間にいる兵士へ、トニーは掌を向けた。リパルサーレイが盾を弾き飛ばした。兵士たちが空を見上げ、慌てて銃口を持ち上げる。
トニーは横へ流れるように飛び、次の光弾を放った。銃撃は、通り過ぎた後の空を追っていた。
「上から撃つとは、卑怯だぞ!」
地上から怒鳴り声がした。
「君たちもドローンで撃ってきただろう? お互い様だ」
トニーは高度を落とし、兵士たちの頭上を通り抜けた。
こちらを追って向きが変わった盾の脇へ、シロコとセリカが撃ち込む。隊列が崩れたところを、ノノミの銃撃が押し戻した。
なかなか、話が早くて助かる。今まで襲撃を追い払い続けてきただけに、慣れているのだろう。
もう一度旋回しようとしたとき、後方から大きな音が近づいてきた。顔を向けると、武装したヘリが校舎の向こうから姿を現していた。
『こちらアヤネです! 火力支援を開始します!』
「武装ヘリコプターなんて持っていたのか?」
『はい。燃料代が高いので、普段は動かせないんですが……今は非常事態ですから。先生、少し離れてください!』
トニーが進路を変えた直後、ヘリの機関銃が火を噴いた。
校門付近に固まっていた兵士たちが、一斉に散る。車両の陰へ逃げ込もうとする者を、地上の銃撃が待ち受けていた。
「気合の入った支援だな」
『さっきまで、好き勝手に撃たれていましたから! 燃料代は、後でホシノ先輩に請求します!』
アヤネの声には、いつになく力が入っていた。操縦桿を握ると、人が変わるタイプなのかもしれない。
「それじゃ、ホシノが破産しないように、僕も頑張らないとな」
地上では、重火器を構えた兵士がヘリを狙っていた。
照準が合うより先に、トニーの光弾が武器を叩いた。装備が宙を舞い、兵士もその場へ倒れ込む。
トニーは低く飛びながら、校門へ向かった。
盾を構え直した兵士たちが、こちらを待っていた。その手前で制動をかけ、両足を地面につける。
肩の装甲が開いた。
鋭い音が響くと、兵士たちが身体を折り、銃から手を離した。横へ逃れようとする者に照準を移すと、その兵士も耳を押さえて膝をつく。
「先生、後ろ!」
セリカの声がした。
振り返ると、兵士が一人、車両の陰から飛び出してきていた。
トニーは兵士に踏み込み、突き出された銃身を片手でつかんだ。ブラックマーケットでは、相手の腕を押し下げることすらできなかった。だが、今は違う。
銃口を地面へ向け、そのまま相手の手から引き抜く。兵士が呆然とこちらを見た。
「悪いが、今日は腕時計だけじゃないんだ」
空いた手を相手へ添え、短く電撃を流す。兵士の身体が強張り、膝が折れた。
戦いは、こちらに有利に進んでいた。
校門の内側にいた兵士は押し出され、銃撃が集中していた校庭にも動ける場所ができた。
便利屋も、校庭から引いてきた敵に攻撃を仕掛けている。ムツキが何かを投げるたびに爆発が起こり、その隙にハルカが前へ出ていた。
理事は逃げる機会を探しているようだったが、カヨコとアルが位置を変えながら、その退路を塞いでいた。
トニーは上空へ戻り、周囲を見渡した。
「アロナ。パラジウムは、あとどれくらい持つ?」
『残りのエネルギーは、六十二パーセントです』
思ったより減っている。
飛行しながらリパルサーや他の武装を使えば、消耗は早い。しかし、出し惜しみをするほどの余裕もない。
理事が言っていたように、かなりの戦力を集めてきたのだろう。
「カイザーの兵士は、あとどれくらいだ?」
『ええっと……最初にいた数から、半分くらいは減っていると思います。あっ、待ってください。また兵士を乗せた車両が近づいてます!』
視界の端に、接近する車両が表示された。
トニーはそちらへ顔を向けた。道の向こうから、砂煙が上がっている。
「景気のいい会社だな。契約を切った相手に、ずいぶん金を使ってくれる」
倒せない相手ではない。だが、倒している間にも次が来る。そのたびに、エネルギーと時間を使わされていた。
ほかの学校へも応援は頼んであるが、すぐに来られる距離ではないはずだった。
『先生。また敵の増援が来るみたい』
シロコからの通信が入った。
『……ホシノ先輩を、早く追わないと』
トニーは地上を見た。
シロコが遮蔽物の陰から道の先を見ていた。隣のセリカも、落ち着かない様子で銃を握り直している。
ホシノを案じる気持ちが、焦りを生んでいるのはトニーも同じだった。
「分かっている。だが、校舎も守らないといけない。焦るだろうが、まずは――」
言いかけて、校門の外へ目を向けた。
増援の一部が、便利屋の方へ回っていた。アルが撃ち返している。その横から、別の兵士が近づき、銃を持ち上げた。
トニーは掌を向けかけたが──その前に、重い銃声が響いた。
敵の砲撃でも、ヘリの機関銃でもない。腹の底に響くような音が、絶え間なく続いた。アルへ近づいていた兵士たちが、次々と倒れていく。
車両の陰へ逃げ込もうとした者も、たどり着く前に地面を転がった。逃げ込めた者も、無事では済まなかった。車体を貫いた弾丸が、その向こうにいる兵士まで押し倒していく。
アルは銃を構えたまま、目を丸くしていた。
「た、助かったわ。なかなかやるじゃない。あなたも先生に――」
振り返ったところで、声が途切れた。道路の向こうには、一人の少女が立っていた。
小柄な身体に、不釣り合いなほど大きな銃。長い白髪を揺らしながら、こちらへ歩いてくる。
「……ヒナ!?」
アルの声が裏返った。
「どうして、あなたたちがここにいるの? アビドスで暴れていたとは聞いていたけど……」
声は静かだった。たった今、兵士の一団をなぎ倒した人物とは思えないほど、落ち着いている。
「そ、それは、その……今回は違うのよ! ちゃんと先生から依頼を受けて、学校を守ってるだけで!」
「今回は、ね」
短い返事に、アルの顔から血の気が引いていた。
その間にも、ヒナは戦場へ目を配っていた。車両の陰から銃口が出る。すぐに彼女の銃が火を噴き、兵士は姿を引っ込めた。
トニーは思わず、その姿を見つめていた。
シロコたちも、便利屋も強い。それは、何度か一緒に戦って分かっていた。
だが、ヒナは別格だった。こちらが手分けして抑えていた兵士たちを、一人で倒している。それでいて、アルと話す余裕まである。
トニーは校門の外へ飛び、ヒナの近くへ降りた。
噴射を調整し、静かに両足をつける。今度は、地面も膝も無事だった。
「君が風紀委員会の委員長か。ずいぶん早かったな。おかげで仕事が楽になりそうだ」
声をかけると、ヒナは銃口を下げずにこちらを見た。
「緊急事態と聞いて、急いできた。ほかの部隊は置いてきてしまったけど……あなたが、シャーレの先生?」
視線が、スーツの胸元から金色の面へ動く。
「本当に、派手なアーマースーツを着ているのね」
「ああ。トニー・スタークだ。顔を見せたいところだが、今はこのままで失礼する」
「構わない。イオリから報告を受けているから。チナツが、病院の診断書を出してほしいと言っていたけど……本当に、うちの委員に怪我をさせられたわけじゃないの?」
「ああ。それは心配しなくていい。ちょっと撃たれただけだ。病院へ行くほどじゃない。キヴォトスでは、よくあることだろう?」
そのとき、兵士たちが体勢を整えようと動き始めた。
ヒナが銃を持ち上げる前に、トニーは掌を向けた。光弾が兵士たちの盾を叩き、進みかけた足を止める。
ヒナはその様子を横目で見ていた。
「……初対面でその武装を見たら、私も撃っていたかもしれないわね」
「このデザインには自信があるんだがね。中身の方は、もっと自信がある」
「冗談を言う余裕はあるみたいで、安心した」
言い終わると同時に、ヒナの銃が火を噴いた。別の方向から前進しかけた兵士たちが、まとめて車両の陰へ押し戻される。
トニーは、その銃と、支えている細い腕を見比べた。シャーレの工房に戻ったら、スーツの防御力について考え直すことになりそうだった。
「連れていかれた小鳥遊ホシノを、助けに行くんでしょう?」
「ああ。だが、まずはこの校舎からカイザーの兵士を追い出さないと――」
「ここは私が引き受ける」
迷いのない声だった。
トニーは道路の先を見た。到着した増援が、車両から降り始めている。ヒナも同じ方へ目を向けたが、表情は変わらなかった。
「ほかの部隊も、順次到着する。あなたたちは先に行って」
任せていいのか。そう聞きかけて、トニーは口を閉じた。
「頼んだ。助かるよ」
ヒナは頷き返すと、銃を構えて前へ出た。向けられた銃口をものともせず、兵士たちを押していく。
「先生、ちょっといい?」
カヨコの声に顔を向けた。
校門脇で、理事が車両のそばに座り込んでいた。すぐ横には、開いたままの車の扉がある。逃げ込もうとしたところを、止められたらしい。
その前では、ハルカが銃を構えていた。
「ど、どこにも行かせませんから……!」
「抵抗はしないと言っているだろう! 銃口を押しつけるのはやめろ!」
「理事は押さえた。私たちで見張っているから、先生たちは連れていかれた生徒を追って」
「助かる。そいつには、後で聞きたいことが山ほどある」
理事がこちらを睨んだ。
トニーは軽く手を上げて応じたが、近づこうとはしなかった。今は、この男に付き合う時間が惜しい。
シロコたちへと通信をつないだ。
「聞いていたか? ここは彼女たちが抑えてくれる。僕らはホシノの救出に向かうぞ」
『ん、場所は分かってるの?』
「ああ。アビドス高等学校の、かつての本館だ。その地下に捕らえられている」
ここへ来る前に、アロナが監視カメラの記録などを調べ、居場所を突き止めてくれていた。
『早く行こう、先生』
シロコは迷わず答えた。
『ヘリを回します! みなさん、乗ってください!』
アヤネの声が通信に入った。
校庭へ降りてきたヘリに、三人が駆け寄っていく。シロコは途中で振り返った。
『先生は?』
「前を飛ぶ。道案内と、ヘリの護衛だ。途中でもカイザーが待っているかもしれないからな」
トニーはリパルサーを起動した。飛び立とうとしたところへ、慌てた声が飛んでくる。
「ちょ、ちょっと待って、先生!」
アルがこちらへ駆け寄ろうとしていた。ヒナの方を一度見て、それからトニーへ顔を戻す。
「私たちも、そっちについていった方がいいんじゃないかしら? ほら、救出作戦には優秀な人材が必要でしょう?」
「こっちにも必要だ。ヒナと協力して、学校を守ってくれ」
「協力……ヒナと……?」
アルの足が止まった。隣で、ムツキが楽しそうに笑っていた。
「よかったね、アルちゃん。頼りにされてるよ」
「む、ムツキ、今はそういう――」
「陸八魔アル」
ヒナに名前を呼ばれ、アルの背筋が伸びた。
「私だけだと、校舎を傷つけてしまうかもしれない。ここはいいから、校庭側で兵士を抑えていて」
周囲への被害を気にしなければ、一人でも片づけられる。そう言っているように聞こえた。
アルも同じことを考えたのか、口を開いたまま固まっていた。
「報酬は弾む。期待してるぞ、社長」
「報酬の問題じゃないんだけど――!」
その続きを聞く前に、トニーは宙へ浮かび上がり、進路へ身体を向けた。背後で、ヘリも高度を上げ始める。
視界に、旧校舎までの道筋が伸びた。
*
砂漠の上を、トニーは飛んでいた。
背後には、アヤネの操縦するヘリが続いている。校舎が見えなくなると、地上には砂に埋もれた道路と、崩れかけた建物ばかりになった。
視界に表示された進路は、まだ先へ伸びていた。
そのとき、地上の建物に赤い印がついた。
崩れかけた壁の陰から、車両が一台出てくる。荷台に据えられた銃が、ゆっくりとこちらへ向いた。
「アヤネ、右へ避けろ!」
トニーが進路を変えた直後、銃弾が空を走った。
背後のヘリも機体を傾ける。さっきまで飛んでいた場所を、いくつもの弾が通り過ぎた。
『こっちにもいます! 建物の間から、兵士が……!』
アヤネの声とともに、ディスプレイの赤い表示が増えた。
道を塞ぐように車両が並び、建物の屋上にも兵士がいる。こちらを待っていたらしい。
「こんなところに待ち伏せしていたのか。ここを社員旅行に選んだ奴は、センスがないな」
『ん……これから、いい場所になるから……』
通信から、シロコの沈んだ声が聞こえた。
「……いや、すまない。ちょっとした冗談だ」
トニーは高度を下げ、先頭の車両へ光弾を放った。
機銃が吹き飛び、荷台の兵士が身を伏せる。
だが、その隣から別の銃口が持ち上がった。
自分だけなら、速度を上げれば抜けられる。しかし、ヘリを置いていくわけにはいかなかった。
「アヤネ。いったん下がってくれ。僕が道を開ける」
『はい! でも、先生も気をつけてください!』
トニーはさらに高度を落とし、地面すれすれを飛んだ。
砂埃を巻き上げながら、車両の脇を通り抜ける。銃口がこちらへ集まったところで上昇し、旋回して兵士たちの頭上へ回った。
掌の照準が、一台の車両に重なる。
その瞬間、横から飛んできた何かが、車両の手前へ落ちた。
爆発が起きて、車両が慌てて方向転換した。
トニーも慌てて噴射を強め、上昇した。足元を砂と破片がかすめていく。
「何だ、今のは?」
続けて、もう一発。
今度は車両へ命中した。爆発とともに車体が横転し、砂が高く噴き上がる。
トニーは弾が飛んできた方へ顔を向けた。
道から少し離れた場所に、車両が停まっていた。その後ろには牽引式の榴弾砲が据えられ、生徒たちが忙しく動いている。
見覚えのある制服だった。
「トリニティか」
応援に駆けつけてくれたらしい。駄目もとで連絡してみた甲斐があった。
『先生、ご無事ですか!』
通信から、聞き覚えのある声がした。砲のそばで、一人の少女が大きく手を振っている。
頭には紙袋。額には「5」。
「……ヒフミ。その紙袋は捨てなかったのか」
『あ、これは、その……!』
少女が慌てて紙袋を押さえた。
『い、今はファウストと呼んでください!』
「分かったよ、ファウスト。ずいぶん大きな買い物をしてきたな。今度は何の限定品だ?」
『買ったんじゃありません! これは学校の備品です!』
答えてから、彼女は少し声を落とした。
『先生からお話を聞いて、お手伝いできないか、ナギ……先輩に相談したんです。それで、急いで準備をして、ここに来ました』
砲の周りでは、生徒たちが次の射撃の準備を進めていた。
兵士がこちらへ狙いを定めるより先に、再び砲声が響く。車両の間で爆発が起こり、隊列が大きく乱れた。
『ただ、その、正式に戦いに来たということにはできなくて……私たちは、牽引式榴弾砲の屋外授業をしていることになっています』
「なるほど。ずいぶん実践的な授業だな」
『は、はい。ですから、私たちはここで授業を続けます。先生たちは、その間に先へ行ってください』
紙袋の少女が、進路の先を指した。
カイザーの兵士たちは、砲撃への対応に追われていた。ヘリを狙っていた銃口も、今は地上へ向いている。
トニーは、もう一度ヒフミを見た。
ブラックマーケットで、ぬいぐるみを抱えていた少女だった。銃を向けられ、おどおどしていた顔も覚えている。
今も、堂々としているとは言い難い。それでも、生徒たちの先頭に立って、ここまで来てくれた。
「助かるよ。今度あの鳥を見かけたら、写真でも撮って送るとしよう」
『はい! 楽しみに待ってます!』
返ってきた声が、少し明るくなった。トニーはヘリへ通信をつないだ。
「アヤネ。彼女たちが授業をしている間に抜けるぞ」
『了解です! ファウストさん、ありがとうございます!』
ヘリが高度を上げた。
窓際から、シロコが手を振っていた。いつの間にか、あの青い覆面を被っている。
紙袋の少女も、両手を上げて振り返していた。
トニーは進路へ身体を向けた。
また一つ、借りが増えた。
返すためにも、まずは全員で帰らなければならない。
*
砂の向こうに、古い校舎が見えてきた。
今のアビドス高校よりも、ずっと大きい。長く連なる建物の窓はところどころ割れ、外壁には砂が積もっていた。
だが、入口へ続く道には新しい車両の跡が残っている。
『あそこが、昔の本館です』
アヤネの声がした。
「入口の近くへ降ろしてくれ。僕が先に行く」
トニーは高度を落とし、校舎の前へ着地した。
少し遅れて、ヘリが降りてくる。巻き上がる砂の中からシロコたちが降り、最後にアヤネも端末を手に駆け寄ってきた。
四人とも、目は校舎へ向いていた。
「ここに、ホシノ先輩が……」
セリカが銃を握り直した。
トニーは入口へ顔を向けた。扉の片側が開いている。その奥は薄暗く、外からでは様子が分からなかった。
「僕が前に出る。離れすぎないでくれ」
シロコが頷き、すぐ後ろへついた。
校舎へ足を踏み入れると、靴底で砂が鳴った。広い玄関ホールだった。正面には階段があり、その両脇へ廊下が伸びている。
奥で、金属の触れ合う音がした。
「止まれ!」
柱の陰から、銃口が向けられた。
一つではない。階段の脇や廊下の入口にも、カイザーの兵士たちが待機していた。
トニーは掌を上げた。背後でも、四人が一斉に武器を構える。
「小鳥遊ホシノを迎えに来た。通してもらえるかな」
「武器を下ろせ! それ以上動くな!」
「それはこっちのセリフだ。武器をおろして、ここから出ていけ」
兵士は答えず、銃を構え直した。
トニーは視界に映る配置を確かめた。正面だけなら、まだ対処できる。だが、左右の廊下に何人いるかまでは分からない。
そのとき、背後で低い駆動音がした。
シロコが振り返る。
「先生、後ろ」
入口の外を、何かの影が横切った。挟まれたか。
「ノノミ、入口を見てくれ」
「はい!」
トニーは正面へ掌を向けたまま、身体を半分だけひねった。
開いた扉の向こうから、機体が滑り込んできた。
ドローンだった。
一機が玄関を抜け、天井近くへ浮かび上がる。その後ろにも、別の機体が続いた。
「また、ドローン!?」
セリカが声を上げた。
トニーは舌打ちをこらえた。
カイザーは、今もトニーにドローンの制御を奪われると思っているはずだ。その危険を承知で、戦闘用のドローンを増やすことはないと考えていた。
どうやら、見込みが甘かったらしい。掌の照準を、新たに入ってきた機体へ動かしかける。
そこで、正面の兵士が銃口を揺らした。
「おい、あれは何だ?」
「こっちに来るなんて聞いてないぞ」
兵士たちも、ドローンを見ていた。こちらを狙い続ける者と、頭上へ銃を向ける者に分かれている。
「ん。あれは先生が呼んだ援軍?」
トニーは機体を見直した。
入口から差し込む光が、装甲を照らした。
赤と金。見慣れた、自分の選ぶ色だった。
機体の下部に、機関銃はない。代わりに取りつけられた円形の装置が、淡い光を帯びている。
トニーは自分の掌と、その銃口を見比べた。
よく似ていた。似ているというより、同じものを使っているように見える。
「……イーディスか」
よりにもよって、こんなタイミングで出会うことになるとは。
そのとき、視界の端に、短い通信が届いた。
『せ、先生! イーディスさんから通信が届いています!』
ヒナがキャプテン・マーベルすぎる。