トニー・スターク先生   作:DRYSUPER

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20.アッセンブル

 足元のリパルサーが光を放ち、トニーの身体が浮き上がった。

 

 校舎の屋根を越えたところで姿勢を変える。地上からは見えなかった敵の配置が、視界に広がった。車両の陰に兵士が集まっている。正面には盾を並べていたが、上はがら空きだった。

 

「アロナ。生徒たちの位置を出してくれ」

 

『はい! 今、表示します!』

 

 視界に印が浮かんだ。シロコたちは校庭の左右へ展開している。便利屋の四人も、敵の後方で動いていた。

 

 その間にいる兵士へ、トニーは掌を向けた。リパルサーレイが盾を弾き飛ばした。兵士たちが空を見上げ、慌てて銃口を持ち上げる。

 

 トニーは横へ流れるように飛び、次の光弾を放った。銃撃は、通り過ぎた後の空を追っていた。

 

「上から撃つとは、卑怯だぞ!」

 

 地上から怒鳴り声がした。

 

「君たちもドローンで撃ってきただろう? お互い様だ」

 

 トニーは高度を落とし、兵士たちの頭上を通り抜けた。

 

 こちらを追って向きが変わった盾の脇へ、シロコとセリカが撃ち込む。隊列が崩れたところを、ノノミの銃撃が押し戻した。

 

 なかなか、話が早くて助かる。今まで襲撃を追い払い続けてきただけに、慣れているのだろう。

 

 もう一度旋回しようとしたとき、後方から大きな音が近づいてきた。顔を向けると、武装したヘリが校舎の向こうから姿を現していた。

 

『こちらアヤネです! 火力支援を開始します!』

 

「武装ヘリコプターなんて持っていたのか?」

 

『はい。燃料代が高いので、普段は動かせないんですが……今は非常事態ですから。先生、少し離れてください!』

 

 トニーが進路を変えた直後、ヘリの機関銃が火を噴いた。

 

 校門付近に固まっていた兵士たちが、一斉に散る。車両の陰へ逃げ込もうとする者を、地上の銃撃が待ち受けていた。

 

「気合の入った支援だな」

 

『さっきまで、好き勝手に撃たれていましたから! 燃料代は、後でホシノ先輩に請求します!』

 

 アヤネの声には、いつになく力が入っていた。操縦桿を握ると、人が変わるタイプなのかもしれない。

 

「それじゃ、ホシノが破産しないように、僕も頑張らないとな」

 

 地上では、重火器を構えた兵士がヘリを狙っていた。

 

 照準が合うより先に、トニーの光弾が武器を叩いた。装備が宙を舞い、兵士もその場へ倒れ込む。

 

 トニーは低く飛びながら、校門へ向かった。

 

 盾を構え直した兵士たちが、こちらを待っていた。その手前で制動をかけ、両足を地面につける。

 

 肩の装甲が開いた。

 

 鋭い音が響くと、兵士たちが身体を折り、銃から手を離した。横へ逃れようとする者に照準を移すと、その兵士も耳を押さえて膝をつく。

 

「先生、後ろ!」

 

 セリカの声がした。

 

 振り返ると、兵士が一人、車両の陰から飛び出してきていた。

 

 トニーは兵士に踏み込み、突き出された銃身を片手でつかんだ。ブラックマーケットでは、相手の腕を押し下げることすらできなかった。だが、今は違う。

 

 銃口を地面へ向け、そのまま相手の手から引き抜く。兵士が呆然とこちらを見た。

 

「悪いが、今日は腕時計だけじゃないんだ」

 

 空いた手を相手へ添え、短く電撃を流す。兵士の身体が強張り、膝が折れた。

 

 戦いは、こちらに有利に進んでいた。

 

 校門の内側にいた兵士は押し出され、銃撃が集中していた校庭にも動ける場所ができた。

 

 便利屋も、校庭から引いてきた敵に攻撃を仕掛けている。ムツキが何かを投げるたびに爆発が起こり、その隙にハルカが前へ出ていた。

 

 理事は逃げる機会を探しているようだったが、カヨコとアルが位置を変えながら、その退路を塞いでいた。

 

 トニーは上空へ戻り、周囲を見渡した。

 

「アロナ。パラジウムは、あとどれくらい持つ?」

 

『残りのエネルギーは、六十二パーセントです』

 

 思ったより減っている。

 

 飛行しながらリパルサーや他の武装を使えば、消耗は早い。しかし、出し惜しみをするほどの余裕もない。

 

 理事が言っていたように、かなりの戦力を集めてきたのだろう。

 

「カイザーの兵士は、あとどれくらいだ?」

 

『ええっと……最初にいた数から、半分くらいは減っていると思います。あっ、待ってください。また兵士を乗せた車両が近づいてます!』

 

 視界の端に、接近する車両が表示された。

 

 トニーはそちらへ顔を向けた。道の向こうから、砂煙が上がっている。

 

「景気のいい会社だな。契約を切った相手に、ずいぶん金を使ってくれる」

 

 倒せない相手ではない。だが、倒している間にも次が来る。そのたびに、エネルギーと時間を使わされていた。

 

 ほかの学校へも応援は頼んであるが、すぐに来られる距離ではないはずだった。

 

『先生。また敵の増援が来るみたい』

 

 シロコからの通信が入った。

 

『……ホシノ先輩を、早く追わないと』

 

 トニーは地上を見た。

 

 シロコが遮蔽物の陰から道の先を見ていた。隣のセリカも、落ち着かない様子で銃を握り直している。

 

 ホシノを案じる気持ちが、焦りを生んでいるのはトニーも同じだった。

 

「分かっている。だが、校舎も守らないといけない。焦るだろうが、まずは――」

 

 言いかけて、校門の外へ目を向けた。

 

 増援の一部が、便利屋の方へ回っていた。アルが撃ち返している。その横から、別の兵士が近づき、銃を持ち上げた。

 

 トニーは掌を向けかけたが──その前に、重い銃声が響いた。

 

 敵の砲撃でも、ヘリの機関銃でもない。腹の底に響くような音が、絶え間なく続いた。アルへ近づいていた兵士たちが、次々と倒れていく。

 

 車両の陰へ逃げ込もうとした者も、たどり着く前に地面を転がった。逃げ込めた者も、無事では済まなかった。車体を貫いた弾丸が、その向こうにいる兵士まで押し倒していく。

 

 アルは銃を構えたまま、目を丸くしていた。

 

「た、助かったわ。なかなかやるじゃない。あなたも先生に――」

 

 振り返ったところで、声が途切れた。道路の向こうには、一人の少女が立っていた。

 

 小柄な身体に、不釣り合いなほど大きな銃。長い白髪を揺らしながら、こちらへ歩いてくる。

 

「……ヒナ!?」

 

 アルの声が裏返った。

 

「どうして、あなたたちがここにいるの? アビドスで暴れていたとは聞いていたけど……」

 

 声は静かだった。たった今、兵士の一団をなぎ倒した人物とは思えないほど、落ち着いている。

 

「そ、それは、その……今回は違うのよ! ちゃんと先生から依頼を受けて、学校を守ってるだけで!」

 

「今回は、ね」

 

 短い返事に、アルの顔から血の気が引いていた。

 

 その間にも、ヒナは戦場へ目を配っていた。車両の陰から銃口が出る。すぐに彼女の銃が火を噴き、兵士は姿を引っ込めた。

 

 トニーは思わず、その姿を見つめていた。

 

 シロコたちも、便利屋も強い。それは、何度か一緒に戦って分かっていた。

 

 だが、ヒナは別格だった。こちらが手分けして抑えていた兵士たちを、一人で倒している。それでいて、アルと話す余裕まである。

 

 トニーは校門の外へ飛び、ヒナの近くへ降りた。

 

 噴射を調整し、静かに両足をつける。今度は、地面も膝も無事だった。

 

「君が風紀委員会の委員長か。ずいぶん早かったな。おかげで仕事が楽になりそうだ」

 

 声をかけると、ヒナは銃口を下げずにこちらを見た。

 

「緊急事態と聞いて、急いできた。ほかの部隊は置いてきてしまったけど……あなたが、シャーレの先生?」

 

 視線が、スーツの胸元から金色の面へ動く。

 

「本当に、派手なアーマースーツを着ているのね」

 

「ああ。トニー・スタークだ。顔を見せたいところだが、今はこのままで失礼する」

 

「構わない。イオリから報告を受けているから。チナツが、病院の診断書を出してほしいと言っていたけど……本当に、うちの委員に怪我をさせられたわけじゃないの?」

 

「ああ。それは心配しなくていい。ちょっと撃たれただけだ。病院へ行くほどじゃない。キヴォトスでは、よくあることだろう?」

 

 そのとき、兵士たちが体勢を整えようと動き始めた。

 

 ヒナが銃を持ち上げる前に、トニーは掌を向けた。光弾が兵士たちの盾を叩き、進みかけた足を止める。

 

 ヒナはその様子を横目で見ていた。

 

「……初対面でその武装を見たら、私も撃っていたかもしれないわね」

 

「このデザインには自信があるんだがね。中身の方は、もっと自信がある」

 

「冗談を言う余裕はあるみたいで、安心した」

 

 言い終わると同時に、ヒナの銃が火を噴いた。別の方向から前進しかけた兵士たちが、まとめて車両の陰へ押し戻される。

 

 トニーは、その銃と、支えている細い腕を見比べた。シャーレの工房に戻ったら、スーツの防御力について考え直すことになりそうだった。

 

「連れていかれた小鳥遊ホシノを、助けに行くんでしょう?」

 

「ああ。だが、まずはこの校舎からカイザーの兵士を追い出さないと――」

 

「ここは私が引き受ける」

 

 迷いのない声だった。

 

 トニーは道路の先を見た。到着した増援が、車両から降り始めている。ヒナも同じ方へ目を向けたが、表情は変わらなかった。

 

「ほかの部隊も、順次到着する。あなたたちは先に行って」

 

 任せていいのか。そう聞きかけて、トニーは口を閉じた。

 

「頼んだ。助かるよ」

 

 ヒナは頷き返すと、銃を構えて前へ出た。向けられた銃口をものともせず、兵士たちを押していく。

 

「先生、ちょっといい?」

 

 カヨコの声に顔を向けた。

 

 校門脇で、理事が車両のそばに座り込んでいた。すぐ横には、開いたままの車の扉がある。逃げ込もうとしたところを、止められたらしい。

 

 その前では、ハルカが銃を構えていた。

 

「ど、どこにも行かせませんから……!」

 

「抵抗はしないと言っているだろう! 銃口を押しつけるのはやめろ!」

 

「理事は押さえた。私たちで見張っているから、先生たちは連れていかれた生徒を追って」

 

「助かる。そいつには、後で聞きたいことが山ほどある」

 

 理事がこちらを睨んだ。

 

 トニーは軽く手を上げて応じたが、近づこうとはしなかった。今は、この男に付き合う時間が惜しい。

 

 シロコたちへと通信をつないだ。

 

「聞いていたか? ここは彼女たちが抑えてくれる。僕らはホシノの救出に向かうぞ」

 

『ん、場所は分かってるの?』

 

「ああ。アビドス高等学校の、かつての本館だ。その地下に捕らえられている」

 

 ここへ来る前に、アロナが監視カメラの記録などを調べ、居場所を突き止めてくれていた。

 

『早く行こう、先生』

 

 シロコは迷わず答えた。

 

『ヘリを回します! みなさん、乗ってください!』

 

 アヤネの声が通信に入った。

 

 校庭へ降りてきたヘリに、三人が駆け寄っていく。シロコは途中で振り返った。

 

『先生は?』

 

「前を飛ぶ。道案内と、ヘリの護衛だ。途中でもカイザーが待っているかもしれないからな」

 

 トニーはリパルサーを起動した。飛び立とうとしたところへ、慌てた声が飛んでくる。

 

「ちょ、ちょっと待って、先生!」

 

 アルがこちらへ駆け寄ろうとしていた。ヒナの方を一度見て、それからトニーへ顔を戻す。

 

「私たちも、そっちについていった方がいいんじゃないかしら? ほら、救出作戦には優秀な人材が必要でしょう?」

 

「こっちにも必要だ。ヒナと協力して、学校を守ってくれ」

 

「協力……ヒナと……?」

 

 アルの足が止まった。隣で、ムツキが楽しそうに笑っていた。

 

「よかったね、アルちゃん。頼りにされてるよ」

 

「む、ムツキ、今はそういう――」

 

「陸八魔アル」

 

 ヒナに名前を呼ばれ、アルの背筋が伸びた。

 

「私だけだと、校舎を傷つけてしまうかもしれない。ここはいいから、校庭側で兵士を抑えていて」

 

 周囲への被害を気にしなければ、一人でも片づけられる。そう言っているように聞こえた。

 

 アルも同じことを考えたのか、口を開いたまま固まっていた。

 

「報酬は弾む。期待してるぞ、社長」

 

「報酬の問題じゃないんだけど――!」

 

 その続きを聞く前に、トニーは宙へ浮かび上がり、進路へ身体を向けた。背後で、ヘリも高度を上げ始める。

 

 視界に、旧校舎までの道筋が伸びた。

 

 

*

 

 

 砂漠の上を、トニーは飛んでいた。

 

 背後には、アヤネの操縦するヘリが続いている。校舎が見えなくなると、地上には砂に埋もれた道路と、崩れかけた建物ばかりになった。

 

 視界に表示された進路は、まだ先へ伸びていた。

 

 そのとき、地上の建物に赤い印がついた。

 

 崩れかけた壁の陰から、車両が一台出てくる。荷台に据えられた銃が、ゆっくりとこちらへ向いた。

 

「アヤネ、右へ避けろ!」

 

 トニーが進路を変えた直後、銃弾が空を走った。

 

 背後のヘリも機体を傾ける。さっきまで飛んでいた場所を、いくつもの弾が通り過ぎた。

 

『こっちにもいます! 建物の間から、兵士が……!』

 

 アヤネの声とともに、ディスプレイの赤い表示が増えた。

 

 道を塞ぐように車両が並び、建物の屋上にも兵士がいる。こちらを待っていたらしい。

 

「こんなところに待ち伏せしていたのか。ここを社員旅行に選んだ奴は、センスがないな」

 

『ん……これから、いい場所になるから……』

 

 通信から、シロコの沈んだ声が聞こえた。

 

「……いや、すまない。ちょっとした冗談だ」

 

 トニーは高度を下げ、先頭の車両へ光弾を放った。

 

 機銃が吹き飛び、荷台の兵士が身を伏せる。

 

 だが、その隣から別の銃口が持ち上がった。

 

 自分だけなら、速度を上げれば抜けられる。しかし、ヘリを置いていくわけにはいかなかった。

 

「アヤネ。いったん下がってくれ。僕が道を開ける」

 

『はい! でも、先生も気をつけてください!』

 

 トニーはさらに高度を落とし、地面すれすれを飛んだ。

 

 砂埃を巻き上げながら、車両の脇を通り抜ける。銃口がこちらへ集まったところで上昇し、旋回して兵士たちの頭上へ回った。

 

 掌の照準が、一台の車両に重なる。

 

 その瞬間、横から飛んできた何かが、車両の手前へ落ちた。

 

 爆発が起きて、車両が慌てて方向転換した。

 

 トニーも慌てて噴射を強め、上昇した。足元を砂と破片がかすめていく。

 

「何だ、今のは?」

 

 続けて、もう一発。

 

 今度は車両へ命中した。爆発とともに車体が横転し、砂が高く噴き上がる。

 

 トニーは弾が飛んできた方へ顔を向けた。

 

 道から少し離れた場所に、車両が停まっていた。その後ろには牽引式の榴弾砲が据えられ、生徒たちが忙しく動いている。

 

 見覚えのある制服だった。

 

「トリニティか」

 

 応援に駆けつけてくれたらしい。駄目もとで連絡してみた甲斐があった。

 

『先生、ご無事ですか!』

 

 通信から、聞き覚えのある声がした。砲のそばで、一人の少女が大きく手を振っている。

 

 頭には紙袋。額には「5」。

 

「……ヒフミ。その紙袋は捨てなかったのか」

 

『あ、これは、その……!』

 

 少女が慌てて紙袋を押さえた。

 

『い、今はファウストと呼んでください!』

 

「分かったよ、ファウスト。ずいぶん大きな買い物をしてきたな。今度は何の限定品だ?」

 

『買ったんじゃありません! これは学校の備品です!』

 

 答えてから、彼女は少し声を落とした。

 

『先生からお話を聞いて、お手伝いできないか、ナギ……先輩に相談したんです。それで、急いで準備をして、ここに来ました』

 

 砲の周りでは、生徒たちが次の射撃の準備を進めていた。

 

 兵士がこちらへ狙いを定めるより先に、再び砲声が響く。車両の間で爆発が起こり、隊列が大きく乱れた。

 

『ただ、その、正式に戦いに来たということにはできなくて……私たちは、牽引式榴弾砲の屋外授業をしていることになっています』

 

「なるほど。ずいぶん実践的な授業だな」

 

『は、はい。ですから、私たちはここで授業を続けます。先生たちは、その間に先へ行ってください』

 

 紙袋の少女が、進路の先を指した。

 

 カイザーの兵士たちは、砲撃への対応に追われていた。ヘリを狙っていた銃口も、今は地上へ向いている。

 

 トニーは、もう一度ヒフミを見た。

 

 ブラックマーケットで、ぬいぐるみを抱えていた少女だった。銃を向けられ、おどおどしていた顔も覚えている。

 

 今も、堂々としているとは言い難い。それでも、生徒たちの先頭に立って、ここまで来てくれた。

 

「助かるよ。今度あの鳥を見かけたら、写真でも撮って送るとしよう」

 

『はい! 楽しみに待ってます!』

 

 返ってきた声が、少し明るくなった。トニーはヘリへ通信をつないだ。

 

「アヤネ。彼女たちが授業をしている間に抜けるぞ」

 

『了解です! ファウストさん、ありがとうございます!』

 

 ヘリが高度を上げた。

 

 窓際から、シロコが手を振っていた。いつの間にか、あの青い覆面を被っている。

 

 紙袋の少女も、両手を上げて振り返していた。

 

 トニーは進路へ身体を向けた。

 

 また一つ、借りが増えた。

 

 返すためにも、まずは全員で帰らなければならない。

 

 

     *

 

 

 砂の向こうに、古い校舎が見えてきた。

 

 今のアビドス高校よりも、ずっと大きい。長く連なる建物の窓はところどころ割れ、外壁には砂が積もっていた。

 

 だが、入口へ続く道には新しい車両の跡が残っている。

 

『あそこが、昔の本館です』

 

 アヤネの声がした。

 

「入口の近くへ降ろしてくれ。僕が先に行く」

 

 トニーは高度を落とし、校舎の前へ着地した。

 

 少し遅れて、ヘリが降りてくる。巻き上がる砂の中からシロコたちが降り、最後にアヤネも端末を手に駆け寄ってきた。

 

 四人とも、目は校舎へ向いていた。

 

「ここに、ホシノ先輩が……」

 

 セリカが銃を握り直した。

 

 トニーは入口へ顔を向けた。扉の片側が開いている。その奥は薄暗く、外からでは様子が分からなかった。

 

「僕が前に出る。離れすぎないでくれ」

 

 シロコが頷き、すぐ後ろへついた。

 

 校舎へ足を踏み入れると、靴底で砂が鳴った。広い玄関ホールだった。正面には階段があり、その両脇へ廊下が伸びている。

 

 奥で、金属の触れ合う音がした。

 

「止まれ!」

 

 柱の陰から、銃口が向けられた。

 

 一つではない。階段の脇や廊下の入口にも、カイザーの兵士たちが待機していた。

 

 トニーは掌を上げた。背後でも、四人が一斉に武器を構える。

 

「小鳥遊ホシノを迎えに来た。通してもらえるかな」

 

「武器を下ろせ! それ以上動くな!」

 

「それはこっちのセリフだ。武器をおろして、ここから出ていけ」

 

 兵士は答えず、銃を構え直した。

 

 トニーは視界に映る配置を確かめた。正面だけなら、まだ対処できる。だが、左右の廊下に何人いるかまでは分からない。

 

 そのとき、背後で低い駆動音がした。

 

 シロコが振り返る。

 

「先生、後ろ」

 

 入口の外を、何かの影が横切った。挟まれたか。

 

「ノノミ、入口を見てくれ」

 

「はい!」

 

 トニーは正面へ掌を向けたまま、身体を半分だけひねった。

 

 開いた扉の向こうから、機体が滑り込んできた。

 

 

 ドローンだった。

 

 

 一機が玄関を抜け、天井近くへ浮かび上がる。その後ろにも、別の機体が続いた。

 

「また、ドローン!?」

 

 セリカが声を上げた。

 

 トニーは舌打ちをこらえた。

 

 カイザーは、今もトニーにドローンの制御を奪われると思っているはずだ。その危険を承知で、戦闘用のドローンを増やすことはないと考えていた。

 

 どうやら、見込みが甘かったらしい。掌の照準を、新たに入ってきた機体へ動かしかける。

 

 そこで、正面の兵士が銃口を揺らした。

 

「おい、あれは何だ?」

 

「こっちに来るなんて聞いてないぞ」

 

 兵士たちも、ドローンを見ていた。こちらを狙い続ける者と、頭上へ銃を向ける者に分かれている。

 

「ん。あれは先生が呼んだ援軍?」

 

 トニーは機体を見直した。

 

 入口から差し込む光が、装甲を照らした。

 

 赤と金。見慣れた、自分の選ぶ色だった。

 

 機体の下部に、機関銃はない。代わりに取りつけられた円形の装置が、淡い光を帯びている。

 

 トニーは自分の掌と、その銃口を見比べた。

 

 よく似ていた。似ているというより、同じものを使っているように見える。

 

「……イーディスか」

 

 よりにもよって、こんなタイミングで出会うことになるとは。

 

 そのとき、視界の端に、短い通信が届いた。

 

『せ、先生! イーディスさんから通信が届いています!』







ヒナがキャプテン・マーベルすぎる。
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