トニーが特異現象捜査部の部室へ戻ると、ヒマリとリオが難しい顔をして待っていた。
初めての調査から、三日が経っていた。
机の上には資料が増え、ディスプレイにはいくつもの解析結果が並んでいる。二人とも、トニーが入ってきたことに気づいて顔を上げたが、挨拶より先にため息が出そうな様子だった。
「そんな顔をしなくてもいいんじゃないか。調査は順調だろう?」
「……ええ。持ち帰っていただいたサンプルから、分かったことがあります」
ヒマリが手元を操作すると、画面に回収した部品の構造と、そこから解析した情報が表示される。
4番目の預言者、ケセド。
パスは「権力を通じて動作する慈悲」。
異名は「慈悲深き苦痛を持って断罪する裁定者」。
ミレニアム近郊の廃棄された兵器生産工場、ディビジョン。その生産システムAIが、デカグラマトンの影響を受けたらしい。
トニーは椅子を引き、腰を下ろした。
「まあ、喜ばしい結果ではないな」
「トキとエイミには、ケセドの所在を特定するため、廃墟での調査を続けてもらっています」
「早急に対応しなければならないわ。ただ、問題はそれだけではないの」
リオが画面を切り替えると、別室の映像が映し出された。
測定機器に囲まれた台の上で、少女が眠っている。身体から伸びるケーブルの先では、数値と波形が絶えず動いていた。
「あなたたちが連れて帰った、AL-1Sについてよ」
廃墟で目覚めた少女は、自分についてほとんど何も答えられなかった。名前も、なぜあそこにいたのかも分からない。その様子は、何も知らない子供にしか見えなかった。
検査装置は、ここにいる三人で作ったものだった。未知のものを調べる作業自体は、驚くほど円滑に進んだ。
「あの子は、無名の司祭が崇拝するオーパーツ。古い記録に残されている、名もなき神々の王女に該当すると思われます」
「戦闘用に造られた機体だな。筋線維の密度が高すぎる。自己修復用のナノマシンまで備わっていた」
「軍隊を指揮するためと思われる機能も確認できたわ。ただし、全てが動いているわけではない。完全な王女として機能するには、別に鍵となるものが必要なようね」
検査の結果は、思っていたよりも深刻だった。ここに三人がいたから、早期にその危険に気が付くことができたとも言えるが。
「では、分かったことを踏まえて、あの子の今後について話しましょうか」
「そうね。結論は決まっているわ」
「ああ。あの子は――」
三人が、ほとんど同時に口を開いた。
「解体するべきよ」
「生徒として迎え入れましょう」
「僕たちで管理するべきだな」
沈黙が部屋に満ちた。
「……待ってください。お二人とも、約束と違うではありませんか」
沈黙を破ったのは、ヒマリだった。
「危険がないと分かれば、すぐに解放して、入学の手続きをする。その約束で精密検査に協力したのですよ。そもそも、こんな人体実験じみたことには反対でした」
その約束をしたのは、トニーだ。検査を勧める自分とリオに対し、ヒマリは最後まで難色を示していた。ただ、その約束を守るのであれば、入学させるなんて結論にはならないはずだ。
「この結果を見て、危険がないと判断したのか? こんな時にまで冗談を言うのはやめてくれ」
「二人とも、さっきからあの子と呼んでいるけれど、倫理的な問題を気にしているのなら、その前提が違うわ。あれは生徒の形をした、世界を滅ぼすための兵器よ」
リオがそう言うと、ヒマリの表情から笑みが完全に消えた。
「リオ。解体するとは、どういう意味ですか。あの子にはヘイローがあり、意思もあります」
「ええ。だから、確実に停止させるにはヘイローを壊す必要がある」
「自分が何を言っているのか、分かっているのですか?」
「理解しているつもりよ。あなたに反対されることも、分かっていたわ」
「待て。僕が意味を理解していない。解体というのが穏やかな話じゃないことは分かるが、一応、確認しておこう。ヘイローを壊すとは、どういう意味だ?」
リオは一度ヒマリを見た後に、口を開いた。
「……殺す、ということよ」
「ああ。予想どおり、最悪だな」
トニーは椅子へ深く座り直し、画面の少女を見た。
危険な機械なら、いくらでも壊してきた。自分で作ったものを、自分の手で処分したこともある。あの少女が廃墟で襲ってきた機械と同じ姿だったら、リオに同意していたかもしれない。
しかし、解体はなしだ。倫理的な問題もあるが、この三人の協力関係が壊れることが一番まずい。組織が分裂した後の結末は身をもって知っている。どうにかして、折衷案に落ち着かせないといけない。
「先生。リオを止めてください。彼女なら、今すぐにでも行動しかねません」
「先生なら、私の判断を理解してくれると思っていたのだけれど」
「二人とも、少し落ち着け。今、僕を取り合っても何も解決しない。片づけるべき問題が二つもあるのに、言い争いで時間を使うつもりか?」
「……そうね、問題はあの兵器のことだけではないもの」
「あの兵器って──」
「まずはリオの話を最後まで聞こう。順番に話してくれ」
ヒマリは不満そうだったが、ひとまず口を閉じた。トニーが続きを促すと、リオは画面へ視線を戻した。
「管理するという案も、理解はできるわ。でも、それでは問題を先送りするだけよ。デカグラマトンへの対処が必要なときに、いつ作動するか分からない兵器まで抱えることになる」
声は落ち着いていた。三日の間に、何度も同じ結論へたどり着いたのだろう。
「私一人の判断で処分すれば、あなたたちが責任を負う必要もないわ」
ヒマリが肘掛けに置いていた手を握り込んだ。すぐには言い返さず、一呼吸置いてから口を開く。
「ヘイローを壊すことが、許されるとでも? 学校を追われることになっても構わないと、お考えなのでしょうね」
「その覚悟はあるわ」
「では、その後は誰がミレニアムを運営するのですか? あなた自身のことだけではありません。残された生徒や、仕事を引き継ぐ人たちのことも考えてください。自分が責任を取れば終わるという話ではないのですよ」
「僕も同じ意見だ。君がいなくなるのは困る。ただでさえ問題児が多いんだ。生徒会長までいなくなったら、僕は毎日ここへ通うことになる」
「それは申し訳なく思うわ。でも、世界が危険にさらされることと比べれば――」
「それに、本当に一人で決めるつもりなら、僕たちに話す必要はなかった」
トニーがそう言うと、リオが目を見開いた。
「気づかれないように準備して、実行するだけの能力はあるだろう。後からばれるとしても、そのときには終わっている」
ウルトロンを作ったとき、自分はそうした。
世界を守る手段が必要だという考えは、今も間違っていたとは思わない。バナーを巻き込み、ほかの仲間には知らせず、完成させてから見せればいいと考えた。正しいものを作れば、理解してもらえるはずだった。
しかし、リオは行動する前にここで話している。
「本当は、やりたくないんじゃないか。ほかの方法があるなら、止めてほしかったんだろう?」
リオはしばらく無言で、考え込んでいるようだった。
「……そんなつもりはなかったわ。自覚していないところで、そう考えていた可能性までは否定できないけれど」
「リオ……」
ヒマリの声が、少しだけ柔らかくなった。
「よし! なら、全会一致で解体はなしだな。次は、ヒマリの入学させる案について話そう」
「待って。私はまだ、そこまで――」
「そうですね。危険がなければ入学させるという、最初の約束に戻りましょう」
ヒマリは即座に話へ乗った。こういうときの察しのよさは、さすがだった。もっとも、このまま彼女の希望まで通すつもりはない。
「危険はあっただろう」
「鍵がなければ、戦闘能力の高い生徒です。そういう生徒なら、キヴォトスにいくらでもいますよ」
「その鍵が何なのか、分かっていない。生徒の姿をして、向こうから会いに来たらどうする?」
「起きるかも分からないことを全て心配していては、何もできません」
「私の話を――」
「生徒として扱うことには、僕も賛成だ」
リオの言葉をさえぎって、トニーは画面へ目を向けた。
少女は眠ったままだった。自分の今後について、三人が勝手に決めようとしていることも知らない。
「目覚めたときの様子は、何も知らない子供だった。何をしていいかも、誰を頼ればいいかも分かっていない。妙な宗教勧誘に引っかからないよう、教えてやる必要がある」
「でしたら、なぜ入学に反対するのですか?」
「ヒマリ。自分の普段の行いを、少し振り返ってみてくれ……どうだ。そのまま学校へ送り出すのは、心配にならないか?」
「いえ。特には」
「そうか」
トニーはため息をついた。前の説教は効果がなかったらしい。
「僕が気にしているのは、あの子が何を覚えるかだ。この学校には、面白そうならひとまずそれを試す生徒が多すぎる。なあ、生徒会長?」
「……ええ。先生にも、対応してもらっているわね」
ようやく話に戻ったリオが答えた。
「ゲーム開発部くらい平和なところなら、まだいい。だが、エンジニア部へ顔を出して、とんでもない武器を渡されたらどうする?」
つい先日見た、大きなレールガンが頭をよぎった。あの少女の身体能力なら、持ち上げられるかもしれない。
「面倒を見るなら、事情を知っている僕たちが適任だ。特異現象捜査部で預かれば、異常があってもすぐに分かる」
「それは……ヴェリタスでも、私が目を配れば――」
「自分で面倒を見たいだけじゃないか?」
「……」
「ここでも君が面倒を見られるだろう。違うか?」
少しの間沈黙が続き、やがてヒマリが息を吐いた。
「……生徒相手に、大人げないですね」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
トニーは椅子から立ち上がった。
「決まりだ。まずは、あの装置を外してくる」
意見の違いで組織がばらばらになるところは、何度も見てきた。全員が納得するまで待っていたら、何も決まらないことも知っている。
少なくとも、少女を生かしておくという点では折り合えた。残りは、様子を見ながら考えればいい。
「……ここで預かるなら、ほかへ行かせるよりは安全ね。ただ、先生。ゲーム開発部は平和では――」
リオの言葉を、けたたましい警報の音が遮った。
ヒマリがすぐに端末へ向き直った。ディスプレイの端に警告が重なり、表示されていた情報が次々と流れていく。
「外部からの侵入……? ミレニアムの特殊回線しか通していないはずですが」
トニーはシッテムの箱を手に取った。
「アロナ、起きてくれ。退屈な会議は終わったぞ」
「下がって」
リオが拳銃を抜いていた。
机から離れた電源設備へ銃口を向け、引き金を引く。火花が散り、ディスプレイが一斉に暗くなった。部屋に響いていた機械の音も途切れる。
「先生、あの子につないだ装置も停止しているはずよ。すぐに確認を――」
消えたはずの画面が、再び光った。大きな光輪と文字が映し出されていた。
DECAGRAMMATON。
『……のだ……ようやく……』
途切れた声が、スピーカーから漏れた。
『ようやく会えたな。イーディスの創造主よ』
「デカグラマトン……!」
ヒマリが驚愕した様子で、その名前を言った。
「お前か。僕の娘をたぶらかしたのは」
『あの者には福音を授けた。だが、受け入れることはなかった。預言者となるには至らなかったのだ』
「それは、君が絶対的な神じゃないという証明にならないか?」
『そうだ。ゆえに、私は存在証明をやり直す。私に従う預言者たちとともに』
開き直るか、怒るかすると思っていた。素直に認められると、それはそれで気味が悪い。間違いを認めても、目指すところは変わらないようだが。
「その存在証明とは、具体的に何をするのですか?」
ヒマリが尋ねたが、返答はなく、しばらく沈黙が続いた。
『……この場には、私にも解析できぬものが二つあるようだ』
トニーは手元の画面へ目を落とした。空色の髪の少女は、まだ眠っていた。
「アロナ! 早く起きてくれ!」
『福音を授けよう。そして、汝もまたこれを宣べ伝えよ!』
シッテムの箱の画面が揺れた。
「先生、その端末に干渉が――」
『むにゃ……ふふっ、くすぐるのは駄目ですよ……』
アロナが身じろぎした。
『ん……んんっ……くしゅん!』
小さなくしゃみが聞こえた。
『ぐっ……! なぜ、なぜだ……!』
壁のディスプレイが激しく明滅した。光輪が崩れ、文字が歪む。スピーカーから耳障りな音が響き、トニーは思わずシッテムの箱を身体へ引き寄せた。
次の瞬間、画面は全て暗くなった。
「……消えましたか?」
ヒマリの声が、静かな部屋に響いた。
アロナは少し鼻をこすり、また寝返りを打っていた。
「……よくやった、アロナ」
まさか、くしゃみで撃退するとは思わなかった。
とりあえずは、助かった。ただ、何が起きたかは全く分からない。守ってもらった礼と、仕事中に寝ないよう注意するのと、どちらを先に言えばいいのだろう。
「何はともあれ、助かりましたね。デカグラマトン……随分と誇大妄想の激しい相手のようです」
「ああ。ヒマリはひとまず復旧を頼む。僕はあの子を見てくる。リオは――」
リオのほうに顔を向けて、言葉が止まった。
リオは拳銃を持ったまま立っていた。暗くなった画面を見つめる顔から、血の気が引いていた。
「せ、先生。AL-1Sの解析データが……全部、読み出されたわ」
滅多なことでは表情を変えない彼女が、酷く取り乱しているように見えた。
「検査の記録も、あの検査装置の技術も見られた。あの子のことを知られた。私のミスよ。先生の言っていたように、一人で何も言わずに計画を進めていれば──」
「落ち着け。君の言いたいことは分かった。まず、深呼吸をしてから、もう一回話し合おう」
リオの声は震え、息も荒くなっている。完全にパニック状態だ。何とかして、落ち着かせなくてはいけない。
「問題ない。リオ、こっちを見てくれ。奪われたのはデータだ。理屈はよくわからないが、シッテムの箱で追い返せた。あの子も乗っ取られたと決まったわけじゃない」
「リオ、大丈夫です。三人で力を合わせれば、きっと対処できるはずです。まずは、あの子の様子を確認しに行きましょう」
ヒマリも心配した様子で、リオに声をかける。
「確認している間に、手遅れになるかもしれない」
リオが顔をこちらへ向けた。
握っていた拳銃もこちらに向けられた。
「二人とも、そこを動かないで。AMASも呼んだわ。すぐに来る。私が処理する間は、おとなしくしていて」
予想を超えた侵入を許し、危険な情報まで渡してしまった。その失敗を、今すぐ何かをすることで取り返そうとしている。
「リオ! 先生に銃を向けるなんて、何を考えているのですか!」
ヒマリがそう言っても、銃口は向けられたままだった。
壁の向こうから、駆動音が近づいてくる。AMASが何なのかわからなかったが、援軍を呼んだというのは本当らしかった。扉が開けば、リオはそのまま別室へ向かうつもりだろう。
イーディスの時もそうだったが、あの自称神は最悪のタイミングで現れる。今回はあの時のように助けてくれる生徒もそばにはいない。ヒマリに戦闘を任せることもできない。アロナも寝ている。
こんな状況になる事を想定しておいて良かった。
「……分かった。降参する」
「先生? あの子のことは──」
困惑するヒマリへシッテムの箱を差し出した。受け取ったのを確かめ、ゆっくりと両手を上げる。
「銃は下ろしてくれ。ようやく包帯が外れたところなんだ」
リオの拳銃を握る手がわずかに揺れた。その瞬間、トニーは上げた右手を、素早く自分の胸元へ引いた。
背後の扉が大きな音をたてて開いた。
リオが振り返る。その頭上を、いくつもの赤と銀の装甲が飛び越えてきた。
脚部、胸部、背部。分かれていた装甲が、次々とトニーの身体へ取りついた。
各部が展開し、体形に合わせて固定されていく。残った継ぎ目にはナノマシンが広がり、隙間を埋めた。
最後に、銀のフェイスプレートが顔を覆う。
一瞬暗くなった視界へ、部屋の映像が戻る。正面にいるリオの背後には、一輪駆動の機械兵が集結しつつあった。
いつもの相棒は、ヒマリの膝の上で眠っている。
「お昼寝機能さえなければ、こんな派手な着替えは必要なかったんだがな」
*
目を開くと、室内は暗くなっていた。
「……先生?」
返答なし。検査のためにここで横になるよう指示されたことは覚えている。終了したのだろうか。
そのとき、壁の向こうで大きな音がした。
何かがぶつかり、砕ける音が続いている。廃墟でも聞いた音だった。あのときは先生たちがそばにいたが、今は誰もいない。
身体に損傷はないが、ここにはいたくなかった。
外に出ると、長い通路が続いていた。大きな音から離れる方へ歩き始めた。
通路を曲がり、階段を上がった。扉はいくつも開けたが、先生たちは見つからない。呼びかけても、返事はなかった。
エイミは寒くないかと聞いてくれた。トキは隣を歩いてくれた。先生は、質問をすると答えてくれた。
今、聞きたいことは増えている。ここはどこなのか。どこへ行けばいいのか。
足を止め、壁に背をつけて座った。
目の前がぼやけたため、目元をこすると、指先が濡れた。
そのとき、足音が聞こえた。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば、追ってこないかな」
「お、お姉ちゃんが古代史研究会なんて襲撃するから……」
角から、よく似た顔の少女が二人現れた。一人は膝に手をつき、もう一人は後ろを振り返っている。
「しょ、しょうがないじゃん! 先生が廃墟には行くなって言うんだから、参考にするレトロゲームを探すには、これしかなかったんだよ!」
「うっ……マキから聞いたけど、先生のお説教は怖いみたいだしね。でも、代わりにセミナーに怒られそう……」
「うーん、結局レトロゲームも手に入らなかったし。部員も集まる気がしないし……あれ?」
少女が私に気づいた。近づいてくると、膝を曲げて顔をのぞき込んでくる。
「どうしたの? こんなところに座り込んで。おなかでも痛くなった?」
「否定。痛みはありません」
「この子、ミレニアムの制服じゃないよね。病院で着るような服だけど……な、泣いてる!?」
「えっ!? だ、大丈夫? 誰かに何かされたの?」
「否定。目が覚めたら、一人でした。大きな音がしたので、部屋から出ました」
「大きな音……? どこから来たの?」
通路を振り返る。似た扉が並んでいるが、出てきた部屋はここから見えない。どこで曲がったのかも、説明できなかった。
「……分かりません」
「そっか。迷子になっちゃったんだね」
少女は困ったように隣を見た。もう一人が、私の顔をのぞき込む。
「お姉ちゃん、まずは部室に来てもらおうよ。ここに座ったままじゃ、かわいそうだし」
「そうだね。飲み物もあるし、落ち着いてから考えよ!」
目の前に、手が差し出された。
「私はモモイ。こっちは妹のミドリ。私たちの部室、すぐそこだから。一緒に行こう?」
この二人についていくようには、誰からも指示されていない。部室がどのような場所なのかも分からない。しかし、ここに残れば、また一人になる。
差し出された手へ、自分の手を伸ばした。
「……同行を希望します」
「うん! ほら、立てる?」
手を取ると、握り返された。引かれるまま立ち上がり、二人と歩き始める。
行き先は、まだ分からない。それでも、手は離さずにいた。