推しの奇妙な冒険 アクアマリンとルビーは砕けない ~幼少期編~ 作:MとPの天使
ウィーン
病院の自動ドアが開いて、一人の男が外に出てきた。
彼の名は、
この病院内で産科医として働いている男である。
そして、彼は今、今日最後の仕事を終えて、帰路についていた。
もっとも、緊急の連絡が入れば、すぐに病院へ戻らなければならない。
産科医という仕事に、「今日の仕事は終わった」という確かな境界はないのだから。
「ついに、か......」
そんな彼が今、思いを馳せていたのは、自身が担当していた患者、患者が産もうとしているこれから生まれてくる双子のことであった。
患者の名前は、
アイドルグループ『B小町』におけるセンターであり、雨宮吾郎の
『嘘はとびきりの愛なんだよ?』
『嘘に嘘を重ねて、どんなに辛いことがあっても、ステージの上で幸せそうに歌う楽しいお仕事!』
『母としての幸せと、アイドルとしての幸せ。普通は片方かもしれないけど、どっちもほしい。星野アイは欲張りなんだ♪』
彼女は、そう語った言葉を胸に、自身が子供を産んだことを
(これが終わったらアイとの繋がりもなくなり、ただのアイドルとファンに戻る。ちょっと裏の面も見えたけど、彼女のカラッとした性格を、むしろ好きになった感すらある.......。彼女の幸せを心から応援―――)
「.........星野アイの担当医だな?」
今後のアイのことを考えていた雨宮の後ろに、街灯にもたれかかっている男が、雨宮に向かって質問をしてきた。
「..........彼女が受信する際は偽名を使っている。病院で見かけたとしても、なんで公表されてない彼女の苗字を知っている?アイの関係者?名前を聞いていいか?」
「......あんた、
街灯の男は、雨宮の問いには答えなかった。
逆に、
「?質問の意味がわからない。一体何を言っているんだ?それに、質問しているのは俺だ。質問に答えてもらいたい。」
「そうか......見えないのか.......じゃあ..!」
その言葉とともに――
ドスッ
「もうお前に興味はない。死ね」
街灯の男が握った赤い槍が、雨宮の腹部を貫いた。
「ッ.....!」
「....」
ドズッ......ブズッ!
街灯の男は無言のまま、赤い槍を雨宮の腹部に、さらに奥へと突き込んだ。
ズルッ...
「ぐッ.....ガ.....ッ!」
街灯の男が槍を引き抜いた。
ドタッ
支えを失った雨宮の体は、その場に尻餅をついた。
「さて、次に私がすることは....」
ザッ!
「
そう言って街灯の男は、回れ右をしてこの場を去ってしまった。
「ま、待て......ッ!」
刺された腹部を押さえながら、無理にでも追おうとした雨宮だが、すぐに思考を巡らせ、思い直す。
(いや.....手負いの俺が追ったところで、体力を消耗するだけだ。傷も悪化する。今の状態じゃ、あいつに追いつくことなんてできない....!あいつを追うよりも、急いで警察に電話を)
雨宮は歯を食いしばり、足を止めた。
(あいつを追うより.....先に警察へ連絡する。今はそれが最優先だ)
そう判断すると、雨宮は震える手でスマホを取り出そうとした。
その――瞬間。
ザッザッ
先ほど逃げていったはずの街灯の男が、雨宮の元へと戻ってきた。
「ああ、それと――」
赤い槍を肩に担ぎながら、街灯の男は愉快そうに続ける。
「私のことは追ってきたほうがいいぜ....?私がこのあと、星野アイをどうするのか....」
街灯の男は言葉にわざと間を置いて、ニヤリと笑う。
「わかんねぇーんだからなぁ〜〜〜」
「.....ッ!」
(今..どうやって俺を刺したのかはわからないが、この男がアイの元へ行ってしまえば、アイだけでなく、高確率で今産もうとしている双子の命も消えてしまう!)
雨宮は刺された腹部を押さえ、歯を食いしばる。
(最悪の場合、付近にいた医療関係者や患者も狙うかもしれない!....やるしかないか....!)
「くっ......!」
苦渋の判断で、雨宮は街灯の男を追うことにした。
(あの男..もしかしてストーカーか?出産も控えたこのタイミングで......)
雨宮は街灯の男を追って木々の奥深くまで入っていった。
「(見失った.....くそ。怪我人にこんな山道走らせやがって.....)ど......どこいった?」
雨宮は息を切らしながら、辺りを見渡した。
しかし雨宮は気づいていなかった。
「「......」」
先ほどの黒いパーカーの男と、街灯の男は、崖の上から黙って下を見つめていた。
その視線の先――
崖下には、雨宮が倒れている。
頭から血を流し、身動きひとつしない。
「.....トドメはお前にやらせた。これで文句はないだろ」
「.....ああ.....」
「なら、今度は私の番だ」
街灯の男は黒いパーカーの男に、一本の
(......あーびっくりした。急に頭まっしろになるから.....なんか足滑らせたみたいだ。もしかしたら....アイが産気づいたかもな.....)
そんな中、雨宮はかすかに意識を取り戻していた。
頭から流れ出る血。
全身を襲う激痛。
そして、死の間際にまで追い込まれた身体。
崖の上から聞こえてくる街灯の男たちの声など、雨宮の頭にはほとんど入ってこなかった。
「この矢で、何でも良いから刺してこい。何でもいい。人間でも、猫でも、犬でも、亀でも、ゴミ箱でも、道端に落ちてる紙切れでもいい。とにかくその矢で刺しまくれ。ただし、人間は多めにな」
「..........そんなことして、一体お前に、どんな徳が....?」
黒いパーカーの男は、街灯の男が渡してきた矢を見つめる。
矢は血のように真紅を帯びており、[[rb:鏃身 > ぞくしん]]部には、スカラベのように見える虫のオブジェが飾られている。
この矢が何なのかも分からない。
目の前の男が何を企んでいるのかも分からない。
それに疑問を持った黒いパーカーの男は、街灯の男に質問する。
「お前は何も疑問に思わなくていい。たとえ矢で射抜かれたやつが生きていようが死んでいようが。お前は、何も、疑問に思わなくていい。いいな?わかったな?」
「あ....あぁ....... 」
(どこだ携帯.....暗くてわからん....ていうか体が動かねえ......早く行かなきゃ......約束したからな.......元気な子供を産ませるって....)
早く起きて........
あの子の子供を........
雨宮の体には、もうほとんど力が残っていなかった。
ぼやけていく視界の中、震える手で携帯を探す。
しかしその願いも叶わず、雨宮の意識は静かに途切れた。
その頃病院内では、新たな2つの命が、誕生していた......。
―――
星野アイの出産から数日後、杜王駅前――
駅のホームにて、男と女が話をしていた。
男の髪型は特徴的で、昭和のリーゼントの形にバシッと決められていた。
「いい?学費は出すけれど、家賃はあんたが払うこと。健康的な食事を、毎日3食しっかり取ること。ゲームやおしゃれにかまけてばかりいないで、大学の課題をしっかりやること。それから...」
「わかったわかったって、お袋(汗)」
男の名は、
彼はこれから、東京の大学へ進学するため、電車に乗って東京へ向かうところだった。
隣りにいる女性は、仗助の母親、
「仗助くーん!」
「おーい!仗助ー!」
その時、仗助のもとに、二人の青年が走ってきた。
「おー!康一!億泰!」
背の高い男は
仗助と同じぶどうヶ丘高校卒業の親友である。
「間に合ったー!(汗)見送りに来たよ!」
康一は、そう言ったあと、ポケットから、御守を仗助に渡した。
「これ、京都の北野天満宮で買ってきた
「おお!ありがとよ!康一!大事にするぜ!」
「しかし、まさかお前が東京の大学に行くことに決めただなんて驚いたぜ。わざわざ遠くの大学に行くことにするだなんてよー」
「これから俺の通う大学、東京星命公立大学は、将来警察官になったやつをたくさんだしているらしいんだぜ?だったらよー、ゼッテー行くしかねーだろーがよー」
叔父、
そのため、警察になる前に必要な知識をまず学んでから、警察学校に行くことになっているため、仗助は、その中でも、警察になった人物が多く排出している。東京
「康一も頑張れよ。大学を卒業した後は、承太郎さんの研究を手伝うことにしたんだろ?」
「うん。承太郎さんからも誘われたし、僕も、恩のある承太郎さんのもとで働けたらいいなって思ってたから」
康一は、その時のことを思い出しながら、答えた。
「そういや、億泰。オメーはどうすんだよ」
「俺は、ナリテーもんとかよくわかんねーからよー。とりあえず、家の近くの公立の大学に行くことにしたわ」
「テキトーだなー。億泰。そんなんで大丈夫なのかよ?」
仗助が呆れたように言う。
「大丈夫だって!オメーこそ、勉強サボったりするんじゃあねーだろうな?」
「しねーよ。ボケ」
ポーーーーピーーーー
三人が、何気ない会話をしていると、ついに、仗助が乗る、東京へと続く電車が駅にやって来た。
「...じゃ、行ってくるわ」
仗助はそう言って、電車へ乗ろうと足を踏み出した。
そのとき――
「ちょっと!待ちなさい仗助!」
背後から、朋子の声が飛んできた。
「え!?まだなんかあんのかよ!?」
「当たり前じゃない!一番大事なことよ!」
「何だよ....いちばん大事なことって....」
ギュッ
朋子は、仗助に近寄り、仗助のことを抱きしめた。
「別に毎日じゃなくていいから、たまには電話、よこしなさいよ」
「!......おう」
「うっ....うおっ.....(涙)」
二人のやり方を見ていた億泰は、思わず自分が涙を流していた。
「億泰くん、何も泣かなくっても....」
「うるせー!」
プシューッ
仗助が乗りこむと、電車の扉が閉まり、東京に向けて発車した。
「気をつけてねー!」
「単位落とすなよー!」
康一と億泰は仗助に向かって手を振った。
「おーう!そっちもなー!」
仗助も駅にいる3人に向かって車内から手を振り返した。
そうして、仗助を乗せた電車は、小さくなっていき、杜王駅から、見えなくなっていった.....。
この物語は、フィクションである。
というよりも、
捏造・誇張。
都合の悪い部分は切り落とす。
こんな嘘偽りが、この世では、当たり前のように定着している。
それが唯一無二の親友だろうが、自分の憧れだろうが、大好きな推しだったとしても、例外はない。
その『嘘』が、他人にとってどれほど残酷だろうと、親しい仲の人だろうと、『おはよう』と挨拶を交わすご近所さんだろうと
たった一つの大切なものを守る事ができるのに、変わりはない。
これは、『真実』で襲いかかる敵に、『嘘』で立ち向かう、青年たちの、物語である。