推しの奇妙な冒険 アクアマリンとルビーは砕けない ~幼少期編~ 作:MとPの天使
「いやー、あの人が社長になって本当に良かったと思ってますよー!万事解決って感じ!」
「顔もいいし、経営もちゃんとできてるし、『新生B小町』の子の一人が自分の娘だし、おまけにその子も可愛いしで、非の打ちどころもありませんよー!」
「え?その人のことを褒めすぎじゃないかって?......まあ、あの人とは、結構長い付き合いですから、俺のライブの時も、なんだかんだ言って、見に来てくれましたし。恩人ですね。恩人。だから知らないうちにしてたんだと思います。えこひいき」
「ほんと、すごい人ですよー......ミヤコさんは。...あれ?名前出しちゃダメだった?」
ウィーン
「これで、俺も晴れてこの世界での文明人ってわけか.....」
彼の名は東方仗助。
この世界ではなく、
彼はたった今、自身が見慣れない文明機器、『スマホ』を購入・契約してきた帰りである。
「承太郎さんも、いざというために、別世界で手に入れたらしいし、俺も持っておいて損はないよな....」
独り言をつぶやきながら歩く、仗助の目の前に、ドラッグストアが見えた。
「ドラッグストア、か。....ついでに、今日の晩飯でも、買って帰ろうかな....」
そう言いながら仗助は、ドラッグストア、『ヌリエイト』の中に入った。
「この世界の薬局でも、食いもんは売ってるみたいだな.....。おっ!ハンバーグ弁当、割引で安くなってやがる!今日はこれにすっか♪」
「はぁ.....なんで私がこんなこと....」
仗助は、別世界に来て初の買い物を楽しんでいた。その時、すぐ近くから、女性の愚痴が聞こえてきた。
女性は疲れ切ったような表情を浮かべながら、かごの中へおむつを投げ入れている。
「なんだ?子持ちの母親か?あの若さで?....この世界では、これが当たり前なのか?」
仗助は少し気になったものの、そのまま買い物を続けた。
買い物も終わり、仗助は、台の上で弁当を小さいポリ袋でくるんでいた。
「.....お?ありゃあさっきの.....」
仗助の隣には、先程の女性が、持参したバックに買ったものを入れていた。
その顔は疲れを明確に感じさせ、一人で何やらぶつぶつと小さい声で文句を言っているのが、仗助にはかすかに聞こえた。
「ベビシッターなんて経験無いのに、一応私、社長夫人じゃないの....?」
ポロッ
「あっ....!」
よほど疲れていたのだろう。
女性は、カバンの中に入れようとしていた手元からみかんを、落としてしまった。
「おっと」
パシッ
危うく地面に落ちそうになったが、近くにいた仗助が、右手で伸ばしてみかんをキャッチしてくれた。
「すみません!少しぼーっとしてて...」
「あ、いえいえ!気にすることないですよ」
すると彼女の持っているバックが随分と大きくなっていることに気づき、仗助は、彼女に声を掛けた。
「そのバック、俺が持ちますよ。きっと、ここいらに住んでるんすよね?付き添えるところまで付き添いますよ」
「いえ、そういうわけには...」
「いいんすよ。ちょっとした縁ってことで」
仗助は笑って、バッグへ手を伸ばす。
女性は少し迷う素振りを見せた。
しかし、先ほど自分が落としたみかんを拾ってくれたこともあり、完全に断るのも悪いと思ったのだろう。
「そう?なら、お願いします...」
こうして仗助と女性は、仗助が付き添える範囲まで、共に歩いていくことになった。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね....。私は斉藤ミヤコ。あなたの名前は?」
「東方仗助って言います。18っす」
「まだ10代なの!?」
ミヤコは思わず声を上げた。
「にしては...ずいぶんでかいわね....」
「はは。そうっすかね....?」
ミヤコはそう言いながら、仗助の体を下から上へ、視線を移した。
ミヤコから見た仗助の身長は、自分よりも明らかに大きいため、彼女には、とても18歳の学生といは、信じられなかった。
「あの、初対面の相手に対して失礼なことを聞くんすけど....ミヤコさん。赤ちゃんがいるんですか?」
「あら。どうしてそんなこと聞くの....?」
「さっき、赤ちゃんのおむつを投げ入れてるのが見えましたから..」
「見られてたのね.....」
ミヤコは少し気まずそうに笑った。
「ええ、そうよ。と言っても、血がつながってるわけじゃあないんだけどね....。あーもう!あいつに騙されたー!」
「なっ!?マジすか....!?だったら、そいつのことをとっとと警察に―――」
「あっ、いやいや!騙したって、そういう意味じゃあないから!(汗)」
仗助が、自分を詐欺かなにかで騙して、無理やり子育てをさせてると勘違いしたらしい。
「え。じゃあどうゆう意味で....」
「いやー...私、あいつと」
ミヤコは一度言葉を区切る。
「あいつって、今の旦那のことね。あいつと結婚出来たら美少年と仕事できるーって思ってたから結婚したんだけれど.....」
「.....」
「待っていたのは他人の子供の世話!しかも父親は誰なのかわからない。闇深すぎるでしょ!?」
「ま、まあ確かにそうっすね....(汗)」
そう話すミヤコの勢いに、仗助は気押され、それに気づいたミヤコは、ハッとなって仗助に詫びた。
「あっ!ごめんね。急にこんな話しちゃって.....」
「いや、平気っすよ。俺も、その赤ん坊のこと、なんだか他人ごとに思えないもんで.......」
仗助も、さっきの話を聞いてなんとも思わないかと言われれば噓である。
自身の父親とは
だが、幼少期に父親がいないことを何とも思わなかったといえば―――それもまた
そういう点では、自分ともどこか重なるその赤ん坊のことが、仗助は少し気にしていた....。
「あらそうなの....?」
ミヤコは仗助の顔が少し暗くなったことに気づいていた。
(何か悪いことでも言ってしまったかしら....)
「そういえば、さっき『美少年と仕事できる』って言ってましたけど、一体何の仕事をしてるんですか?」
「芸能事務所よ」
「芸能事務所ってことは、ミヤコさんはアイドルとかをプロデュースしているってことですよね?すごいじゃあないですか!」
仗助は昼間見た、『B小町』で感じた『熱』もあって、ミヤコのことを褒めたたえた。
―もっとも、ミヤコの事務所が、その『B小町』のプロデューサーだとは知る由もないが。
「まあ、たいしてでかい会社じゃあないんだけどね....。でも、ありがとう」
それから二人は、しばらく並んで歩いた。
やがて、仗助がふと足を止める。
「じゃあ俺、家が近いんで、この辺で」
「あら。君も、この辺に住んでるの?」
「はい!そこの、アパートの3階に住んでます」
仗助は、目に見えるアパートの一つを指差した。
「あら!私もそこ住みなのよ!しかも同じ階!」
「えっ!?そうだったんすか!?」
自分たちの住む場所が同じだったことに互いに驚いたが、驚きはこれで終わりではなかった。
「ここっすね。俺の部屋は」
3階へと上がっていった仗助は、自分の住む部屋のドアの前に立っていった。
するとミヤコは、口を片手で隠して驚くと、仗助の部屋の二つ先のドアの前に立った。
「!私の部屋、ここなのよ!」
「ええっ!?」
仗助も、目を丸くして、驚いた。
「俺たちの部屋..一つ空き部屋を跨いだ先みたいっすね」
「そうね。こういうのを『偶然』っていうのかしら....?」
少しの間が空いた後、仗助は、ミヤコにあるお願いをした。
「ミヤコさん!今度、ミヤコさんの赤ん坊、見に行ってもいいっすか!ミヤコさんの話を聞いてたら、ちょっと会いたくなって....!」
「あー....それはちょっと困るかな?(汗)来るなら、事前に日にちと時間を教えてほしいんだけど..」
ミヤコは少し目を泳がせて、申し訳なさそうに笑った。
「そ、そうっすよね.....。すみません」
「別に謝らなくていいわよ!そうだ!仗助くん、これ」
ミヤコが仗助に渡したのは、一枚のチケットだった。
「...なんですか?これ?」
「今度うちの事務所がプロデュースしているバンドの初ライブのチケットよ」
「こんなの...もらっていいんすか?」
「大したお礼じゃあないけれど、あなたにあげるわ。私も視察に行くから、その時に、赤ちゃんも連れて行くから、仗助くんもよかったら来てちょうだい」
ミヤコは仗助にチケットの説明をしてくれた。
....もっとも
(客が少ないから、チケット余ってるのよね....)
それは、苺プロダクションの裏にある、悲しい事情だった。
そんなことは知る由もない仗助は、チケットを受け取ると嬉しそうに眺める。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。それじゃあね、仗助くん。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
仗助に別れを告げてミヤコは、部屋の中に入っていった。
「そういや、ミヤコさんの事務所の名前、聞いてなかったな.....。ライブの時にでも聞こうかな..」
そう言いながら、仗助も、自分の住む部屋へと入っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ただいまー」
「あっ!ミヤコさんお帰り~♪」
アパートの扉をくぐったミヤコを迎えたのは、
「はいこれ。おむつとミルク。新しいの、買ってきたわよ」
「わ~!ありがとうミヤコさ~ん♪...そういえば、さっき、玄関の前で、誰かと話してなかった?」
「ええ。さっき、ひがしかた、じょうすけってリーゼントの学生さんと、歩きながら帰ってたのよ。よくできた子よ~?ザ・不良って見た目なんだけど、礼儀正しかったし、優しい子だったわ~♪」
そう言いながらミヤコは、袋を台所において、中身を取り出し始めた。
「へ~。私も会ってみたかったな~」
「あなたがそうそう人に姿を見せていいわけないでしょ..。そうそう。来週、新人バンドのライブを見に行くんだけど、一緒にアクアとルビーを連れて行くわね。仗助くんと『近いうちに合わせる』って約束しちゃったから」
「えー。それって土曜日ってことでしょー?せっかくアクアとルビーと一緒にいられると思ったのに―!」
アイはむ~、と頬を膨らませる。
「アイ、あなたその日仕事でしょ?」
「うっ..!....わかったよー」
寂しそうにしながらも、アイは承諾してくれた。
「...そういえばミヤコさん、顔色よくなった気がするけど、なにかあったの?」
「まあ、ちょっとはね.....。それより、料理つくるの手伝ってくれない?」
「オッケー!任せといてよ!」
そうして二人は、台所へと向かっていった。
「「......」」
「よいしょっと.....!」
むくっ
ミヤコとアイが行ったのを確認し、寝たふりをしていたアクアとルビーが起き上がった。
そして二人は向かい合い、
「じょうすけだって。ちょっと変わった名前ー」
「それを言うなら、俺たちだってそうだろ」
妹のルビーの言葉に、兄のアクアは言った。アクアの言う通り、二人の名前を漢字で書くと、『愛久愛海(アクアマリン)』『瑠美衣(ルビー)』となる。
いわゆる、『キラキラネーム』というやつなのだ。
「それはそうだけどさー。それにしも、私別にバンドのライブなんて見に行きたくないんだけど」
「気持ちはわからなくはないが、文句を言うなよ。僕たちが転生して初めての生ライブだぞ」
「えー。ママ以外のアイドルやバンドなんて、ガラス以下の輝きでしょ」
「全世界のアイドルとバンドを敵に回すようなこと言うなよ。ったく..そんなに嫌なら寝たふりでもしてろ」
「そうするー」
そう言いながら、ルビーはその場に寝転んだ。
「はぁ.....」
ミヤコが最近、育児によるストレスによって、危うい方向へと進む可能性が出ていたのは、アクアから見てすぐにわかっていた。それを、仗助という男によって、緩和されたのだ。
(..この年ではお礼を口にするのはまずいだろうが、まあ、顔くらいは見合わせてもいいかもな....)
そう思いながら、