疎遠だった親友がTSして家に転がり込んできた話 作:you are not
「―――へ?」
庇《ひさし》の下で、僕は固まっていた。
あまりのことに脳の理解が追い付かないとはこういうことをいうのかと、頭の冷静な部分で判断する。
僕の名前はネフェリム。18歳で、魔法大学でキャンパスライフを謳歌してる大学生だ。うん、記憶は正常。
じゃあ、これは何さ?
「………久しぶり」
自分の腕をつかみ、気まずそうに目線を斜め下に反らす少女。そう、少女だ。
金髪を背中まで伸ばした、小柄な少女だった。問題なのは、それが見覚えしかない顔だということ。服装も特別変わったところはない。
「……ベル?」
だが、目の前にいるのが僕の幼馴染の親友ベルフェゴールーー彼は同い年の男友達だったはずだ。
「っっっ……」
コクコクと小さく彼?いや、彼女は頷く。
え、なに?性別偽ってた?女装?素材はよかったから似合うよね?いや、それにしてはいい匂いする。頭くらくらするもん。
あーもう、わっっかんね。
「えっと、久しぶりだね」
「お、おう……一年ぶり、だな」
「すぅー……そういう趣味に目覚めたんだね。親友として応援するよ」
「んなわけねぇだろバカかテメぇ!?」
玄関先にベルの怒鳴り声が響く。
「じゃあ、どうしたのさ?自分の顔の良さを生かして女装に目覚めたんじゃないの?」
「なにをどう考えたらそうなる。目、見えてんのか?」
「残念ながら、僕の視力は10.0だよ」
「マサイ族かお前は」
うん、心地いい会話のテンポ。この打てば響く感じ。間違いなく、ベルだ。
「何で女の子になってるのさ、君……」
「それを今から説明するから、とりあえず中に入れてくれ……!」
「あぁ、ごめんごめん」
そういえば、ずっと玄関先で話していた。雨が降る中で立ち往生もかわいそうだ。
僕が身体を横にずらすと、ベルは小さく頭を下げて家の中へ入ってくる。
その横を通り過ぎた瞬間、またふわりと甘い香りがした。
「……甘い匂いがする」
「キモ……」
「え?」
ベルは耳まで赤くしながら、靴を脱いだ。
右足から脱いで、土間に放り据える。昔、何度言っても僕の家では靴を揃えなかったのを思い出す。何気ない仕草まで昔と同じで、なんだかホッとしてしまう。
「ほら、ベル。座って」
「おう」
リビングまで案内すると、ベルはファの右端へ腰を下ろした。
……昔から変わらないベルの定位置だった。そのことに気づいて、僕は少しだけ笑う。
「なんだよ?」
「ううん、なんでもないよ」
「……ホントか?」
「気のせいだって。お茶入れてくるから待ってて」
キッチンへ向かい、棚からティーカップを二つ取り出す。
ポットに湯を注ぎ、茶葉を蒸らし、ジャムをスプーン一杯分混ぜる。ベルは紅茶が好きだった。二人の両親がコーヒー派だったからその反動らしい。
特に好んでいたのが、少し渋めの茶葉にイチゴジャムを入れる飲み方。僕もこの一年それなりの頻度でジャム入りの紅茶を結構飲んでいた。
「はい」
テーブルにティーカップを置いて、ベルの前に紅茶を差し出す。
「……覚えてたのか」
「当たり前じゃん」
「もしかしてお前、俺がいなくなってからもそれ飲んでたの?」
「うん。普通に美味しいし」
「…………そう」
ベルはそれだけ言うと、僕から目をそらしてカップを両手で包み込む。
「……うまい」
「お粗末様」
アチチ、と言いながらチロチロと猫のように紅茶をすすりだす姿を僕は見守りながら、一緒に紅茶を飲んだ。
場にはしばらく沈黙が続いた。
「……」
こうして見ると、本当に変わってしまった。
髪も長くなったし、身体も丸くて柔らかい感じになった。声だって高く。
昔のベルを知っている僕でさえ、こうして座っている姿だけを見れば別人にしか見えない。
なのに、紅茶を飲むときに少しだけ眉を寄せる癖も、カップを置くときに小指が立つことも、昔と何一つ変わっていなかった。それが何より嬉しい。
「あのさ、そろそろ聞いていい?なんでそんなかわいこちゃんになっちゃったのさ?」
ベルの手が止まった。
「……どっから話そうか。家で積んでたゲーム消費してたら、親父が斧で扉ぶっ壊してきて、俺に女体化魔法かけてきて、お前の住所書いた紙だけ渡して家から追い出された」
「待って待って情報量多い」
「だから言っただろ。今から説明するって」
ベルは紅茶を一口飲んだ。
それから、ぽつりと語りだした。
面白かったら、感想、評価、お気に入り登録してくださると幸いです