疎遠だった親友がTSして家に転がり込んできた話 作:you are not
暗い部屋の中で、パソコンのキーボードを叩く。
カタカタ、カタカタと無機質な音だけが響く。マウスをせわしなく動かしながら、俺は部屋で唯一の光源であるディスプレイを凝視していた。
俺の名前はベルフェゴール、18歳。実家で自宅警備員やってる。え?ニート。知らないな、そんな言葉。
一応、高校には通ってた。ちゃんと成績は次席で卒業した。進路は決めてなくて、こうして実家に引きこもってる。
正直、自分でも何やってんだろってたまに考える。でも、どうにも頑張りたいと思えない。だって、頑張ったところで報われないのだから。
「あー、石炭掘るの楽しいなぁ。経験値の音がクセになる」
画面の中で、俺の分身が黙々とツルハシを振るう。
カン、カン、カンと石炭を掘る。経験値が入れば、また掘る。
素晴らしい。
誰にも邪魔されず、誰とも競わず、ただひたすら洞窟を練り歩く。努力すれば、努力した分だけ経験値になる。誰かに横から追い抜かれることもない。
これが理想の人生だ。きっとそうだ。
「……現実もこれくらい孤独で単純だったらいいのにな」
ぼそりと呟きながら、Wキーを押していた時だ。
「うぇーい!息子ちゃん息してるぅー?」
「…………」
聞き間違いだ。そうに違いない。
俺の部屋には今、俺しかいない。だから、今の声は幻聴だ。
「ゲーム楽しい?」
「…………」
無視してゲームに戻る。
箱庭ゲームは俺を裏切らない。システムも俺を裏切らない。現実だけがクソだ。
「パパも混ぜてほしいなぁ」
「……帰れ」
「ここ、俺ちゃんのローンで建てた家なんだけど」
「帰れ」
くそ、いつもならすぐ帰るのに今回はしつこいな。
「なぁ、ベルフェ。君が外に出たのはいつだったかなぁ?」
「……あー、たしか先月」
「そうそう、ずっと実家暮らしだった長男の結婚式。いやぁ、あの子もようやく独り立ちかと思うと感慨深いよ……で、ベルフェが家出るご予定は?」
「ない」
「働く気も?」
「ない」
「OK、なるほどね」
父親の声が妙に明るい。嫌な予感がした。
「ちょっと、扉から離れてな」
―――ドガァンッ!!
「うわぁぁぁぁぁ!?」
突然、扉が吹っ飛んだ。俺は思わずゲームチェアから離れて、壁に手をついた。
扉には大穴が開いていた。その向こうから、満面の笑みを浮かべた父親が顔を覗かせている。
「ハーイ、ベルフェくーん」
「何やってんだ親父!!」
「いやぁ、最近ぜんぜん外に出ないからさぁ」
そう言って父親は扉の穴から腕を突っ込んだ。
ガチャリと、内側から鍵が開く。
「いや、だからって扉壊すなよ……」
「いやぁ、開けてくれないし。鍵とかそっち持ってるっしょ?」
父親は何事もなかったかのように部屋へ入り、手にした斧を肩に担いだ。
「でさ、ベルフェ。ちょっと相談なんだけどさ」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないじゃん」
「親父が俺に相談を持ちかけるときは、ろくなことにならない」
「ひどくなぁい?」
父親は肩をすくめると、斧を光の粒子に変えて消滅させた。相変わらず意味わからん魔法使う。
「それでさぁ、ベルフェはこれからどうするの?」
「どうもしない」
「大学は?」
「行かない」
「就職は?」
「しない」
「タイムマシーンで世界を救う大冒険も?」
「行かない」
そう答えると、父親は押し黙った。
「うーん、思ったより重症だなこれ」
さっきまでのヘラヘラした笑みが、ほんの少しだけ消える。
「……何だよ」
「いやぁ。俺ちゃん、こういう時のためにちゃんと考えてたんだよね」
「何を?」
父親が、パンッと手を叩いた。
「おーい、博士ちゃんー!」
「呼んだかい?」
「うわっ!?」
いつの間にいたのか、部屋の入口に母親が立っていた。
くせっ毛な灰色の髪をした白衣に黒ぶちの四角い眼鏡をしたいつものファッション。片手には、見るからに怪しい液体の入った小瓶。
「母さん、いつからそこにいたんだよ!?」
「呼ばれたから、一階から急いできたわ」
「すげぇ地獄耳」
「旦那君に呼ばれたのなら当然さ」
母親は俺の言葉を軽く流しながら、小瓶を親父に渡す。
すると、親父は小瓶で俺の頭を叩いた。
「しゃおらぁっ!」
「あべし!?」
避けることも間に合わず、小瓶は破損し、中身の液体が全身にぶちまけられる。
「普通飲ませるとかじゃないのかよ……」
数秒間は何も起こらなかった。
しかし、突如として視界が揺れ、身体の感覚が、一気に変わっていく。
「なっ、にが……」
風邪を引いたような熱が全身を襲い、立っていられず倒れ込む。
やがて、収まった時。すぐに変化に気づいた。
「おやじ、何を……は?」
声が高い。そして、なぜか俺は全裸だった。
「俺の息子がぁぁぁ!?」
自分の身体を見下ろす。
まず、男として大事なものがなくなっていた。あと、手が小さかった。
腕も細い。身体の重心も違う。立ち上がろうとして、今までとはまるで違う感覚に思わずよろめいた。
そして、嫌でも気づく。
「……女になってる?」
「そゆこと」
父親は満足そうに頷いた。
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