混沌の王は何処か見覚えのある異世界で迷子をしながら無双する~TSもあるよ~   作:鬼豆腐

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二話


旅は道連れ

レイラはひとつひとつ丁寧に言葉を選びながら語った。

 

まず自分の生まれた地は大陸から見て南方にあるとのこと。

種族間の対立が激しく争いの絶えない獣人種のあり方。

次に大陸の中心に位置しその大半を治めているという人間種の統一国家――ヴァルス連合王国のこと。

北方については詳しくないとのこと、ただ、険しい山脈が連なり、凶暴な存在が徘徊する危険な地域だという。

西の方と東の方も王国領らしいがどうなっているかはレイラ自身の知識もほとんどないとのことだった。

ケイオスもまた、聞くばかりではなかった。

 

「アルカディアって名前に聞き覚えはあるか?」

「いや…ないな、全く知らない」

 

アルカディアの詳細こそ伏せたもののかつて自分がいた場所にはこの世界とはまるで異なる様相の種族や勢力が存在していたことを話した。

だが、レイラの反応は芳しくなかった。

精霊、ドラゴン、魔導城、そういった話については存在そのものを疑いはしないもののどこか御伽噺を聞くような表情を浮かべていた。

 

「冒険譚や夢物語でならばまあ聞いたことがあるな」

「実際にはないのか?」

「ああ族のご老体が語ってくれるのを聞いたことはあるが…現実味は無いな正直」

(俺には目の前のお前だって十分現実味が無いんだけどな…)

 

ケイオスは改めて目の前にいる彼女を見る。

 

全身を覆う柔らかな毛

人間の輪郭を残しながらも猫を思わせるように前へ伸びた耳と猫と人をそのまま掛け合わせたような顔立ち

そして腰の後ろから伸びる豊かな毛量の尾

ケイオスがアルカディアのゲームで知る獣人種そのまま

リアルでは存在しないはずの存在がはっきりと目の前に居た

 

「どうした?」

「いやなんでもない」

「………?」

 

次に機の世界の事だがこちらはさっぱりだった。

高度な兵器、ロボットやアンドロイドはレイラは全く知らないようで困惑した表情を浮かべるばかりだった。

 

「すまない、ちょっとよく分からない」

「そういや、機械のことを口頭で説明しろって結構難しいな」

「…………」

「…………」

「俺のNPCの一人にルナっていうアンドロイドがいるんだが、そいつがいれば分かりやすいんだがな」

「えぬぴいしいとはなんだ?技の名前か?」

「…………」

「…………」

 

それ以上の説明は無理だと判断し、この話題はそこで打ち切りとなる。

 

 

 

 

一通り言葉を交わし終えたところでケイオスは深く息を吐いた。

ここが自分にとって全く見知らぬ場所なのだということを改めて実感する。

アルカディアと似たものはいくつもある。

だが、知っているはずの世界とはどこかが違う、帰る方法も分からず、手掛かりすらほとんどない。

 

「久しぶりに、大きな冒険になりそうだなこりゃ」

かつてアルカディアで幾度となく冒険を繰り返してきたケイオスにとってもこれほど先の見えない旅は久しぶりだった。

 

「ありがとよ、大体知りたいことは聞けた」

「………………」

「俺のこれからの目下の目的はひたすら探索だ」

「そうか」

「だからついでだ、この情報の対価という事で依頼を受けよう、お前の妹を探してやる」

 

レイラは一瞬目を丸くした。

そして、何度も確かめるように大きく頷く。

 

「よろしく頼む」

「早速だがここからどこに向かう当てはあるか?言っておいてなんだが俺はこの辺りの事は何も知らんぞ」

「………それはそうだろうが、まあ、いい」

 

探すと言ってその答えはどうなんだ、ケイオスの正直な答えに呆れつつもレイラは記憶を辿るように語り出した。

 

輸送される最中、監視の兵たちが交わしていた会話をレイラはずっと聞き耳を立てていた。

この辺りで規模の大きい農村が一つある、輸送隊はそこを中継地として利用すると。

 

「オルディン村、あの部隊はその村に行くつもりだったと言っていた、会話の様子からして距離もそう遠くないはずだ」

「決まりだな」

 

ケイオスは迷うことなく答えた。

どうせ何も分からない世界どこへ行こうと手掛かりを探すことになるなら今ある情報に乗るほうがいい。

それに。

 

「久しぶりに冒険らしい冒険になりそうだ」

 

小さく笑う、アルカディアは長く遊んでいたケイオス。

効率のいい道順も出現するモンスターも何をすれば何が起こるのかも、大抵のことは知っていた。

しかし今は違う、何が待っているのかも分からない、効率など全く解らない。

遠い記憶の初心者の記憶それが妙に懐かしく、同時に少しだけ楽しみにも思えた。

 

「さあいくか」

 

ケイオスとレイラはオルディン村のある方角へゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

オルディン村は辺境にしては珍しいほど賑わいのある集落であった。

周囲に点在する農村の多くが粗末な柵と家屋だけに対しこの村には宿屋の看板が掲げられ、商店らしき建物まで軒を連ねている。

国の兵の駐屯施設も設けられており単なる農村という枠には収まらない規模を持っている。

 

このオルディン村を境に王都側へ向かえば開拓の進んだ土地が徐々に増えていく。

中央と辺境その狭間に位置する中継地、それがこの村の役割だった。

その村の広場に、ただならぬ空気が漂っていた。

 

普段であれば行商人や旅人が行き交う場所に傷だらけの兵士たちが次々と担ぎ込まれてきている。

中には自力で歩いてきたものの放心したような顔でその場に座り込む者もいた。

 

―何があった、報告しろ!」

 

駐屯施設の前で指揮官らしき男が声を荒らげている。

 

「そ、それが……輸送隊が、何かに襲われて……生存者もほとんど気を失っていて、詳しい話が……」

「ふざけるな、輸送隊は正規の護送部隊だぞ! 一体何に襲われればあそこまで……!」

 

集まってきた兵たちの証言は、どれも要領を得なかった。

頭のない巨躯の化け物に襲われた事、窮地ではあったがなんとか勝てそうだった事、

しかしそこで届いた強い衝撃、そこからは誰もが記憶が途切れまるで見当がつかないらしい。

 

村の広場は次第に混乱と苛立ちが渦巻く場所へと変わりつつあった。

捕虜として運ばれるはずだった獣人たちの行方も掴めていない、機を見て逃げ出したのかあの化物とグルだったのか疑心暗鬼が深まる。

 

「至急王都へ報せを送れ、未確認の化け物による輸送隊壊滅だこれは只事じゃない」

 

その声を最後に、村の空気は一層張り詰めたものへと変わっていった。

 

 

 

 

ケイオスとレイラは草原を歩き続けるうちに彼方の地平線に人の営みらしき影を確認する

 

「見えて来たな」

 

徐々に近づくにつれ遠くにぽつぽつと立ち並ぶ屋根や、薄く立ち上る煙が視界の端に映り始める。

村までの距離がある程度縮まったところでケイオスはふと足を止めた。

 

「とはいえこのまま入ってく訳にはな」

 

隣を歩いていたレイラも、それに合わせて足を止める。

妹を探すためには人と情報が集まる場所へ近づく方が理に適っている。

とはいえ無策のままこの村に足を踏み入れられるはずもない。

 

ケイオスの巨躯、顔立ちに至ってはどんな種族とも似ても似つかない。

レイラもまた獣人だ、先の騒動もあるのに身元不詳の自分が堂々と行くのは正気ではない、どちらもこの国の人間が集まる村に素顔のまま入っていける存在ではなかった。

 

「何か策があるのか?」

 

「まあな、実はこれに関しては自慢の奴が、な」

 

ケイオスは少し自慢げに胸を張る、レイラの前でゆっくりと目を閉じた。

 

「見てて驚くなよ」

 

次の瞬間、その巨躯の輪郭が揺らぎ始めた。

 

幾重にも重なっていた重厚な鎧が、黒と赤の怪しい光に包まれていく。

光は鎧の表面を這うように広がり、やがて全身を覆い尽くした。

 

蛙と猫を足したような異形の顔立ちも、その黒と赤の光の中で輪郭ごと歪み、縮んでいく。

骨格が軋むような音と何かを作り替えるような奇妙な音が聞こえる。

ただ黒い光が影を塗り潰し、赤い光がその輪郭をなぞるたび、巨大だった身体が急速に小さくなっていった。

 

 

やがて音と光が弾けるように消える

 

そこに立っていたのは先ほどまでの巨躯とは別物だ、十歳ほどの黒髪の少女

 

艶やかな髪が肩にかかり纏う衣装もどこかの良家の子女を思わせる上品な仕立てのものへと変わっている

 

可憐という言葉がそのまま当てはまるような、小柄で華奢な姿だった

 

 

「……は?」

 

レイラの口から、間の抜けた声が漏れた。

目の前で起きたことが、にわかには信じられなかった。

あの異形の巨躯がなんともか弱そうな人間の少女に成り代わっている。

声を失ったままレイラはその姿をまじまじと見つめ続けた。

 

「な、な……お前、な、なんだその姿……?」

 

「擬態ってやつだ姿を変えられる、まあキメラ種の特権だな」

 

少女の姿になったケイオスは、いつもと変わらぬ調子で淡々と答えた。

声色こそ幼い少女のものに変わっているが、口調のぶっきらぼうさだけは変わらずだが。

 

「ただこの姿は色々と制約があるんだけどな…ともあれ今はそれはいい、レイラ今からお前はどこかの偉い令嬢の護衛だ、装備は今から渡す」

 

「装備?お前そんなもの何処に」

 

レイラは衝撃に戸惑いながらもさらに突っ込む、

しかしその言葉を言う前にいつ何処から出したのか気づけばケイオスは幾つかの装備を手に持っていた

 

「???」

 

「さっき移動しながら確認してたがアイテムボックス…まあ荷物が残ってたんだ、これで多少は融通が利く」

 

レイラはそれ以上考えない事にした。

小さな戦った事もないような手から装備を受け取りつつ思考を止める。

この化け物は自分の理解の外に居ると。

 

 

 

 

それからしばらく後

夜の色に染まるオルディン村の門の前にやがて二つの影が姿を現した。

 

一人は上質な衣装を纏ったどこか貴族令嬢を思わせる黒髪の少女。

そしてもう一人その傍らに寄り添うように立つ、上質な装備で全身を固めた護衛の女。

 

村の門番たちはその組み合わせに怪訝そうな視線を向けながらもゆっくりと二人を迎え入れようとしていた。

 

 

オルディン村の門は丸太を組んだ簡素な防壁で囲われていた。

門の脇には見張りの兵が二人退屈そうに槍を携えて立っていた。

 

そこへ貴族令嬢めいた黒髪の少女と護衛らしき女が近づいてくる。

見張りの兵の一人が胡散臭そうに眉をひそめた。

 

「……こんな辺境に、ずいぶんとお上品な組み合わせだな」

「身分証は?どこのご令嬢か、一応聞いておきたいが」

 

もう一人が槍の柄で軽く地面を叩きながら問いかける。

とはいえその口調にそこまでの緊張感はなかった。

ここはあくまで辺境の中継地、王都の関所のような厳格な取り調べが行われる場所ではない。

多少の身元不明な旅人程度日常的に出入りしているのだろう。

 

少女の姿をしたケイオスは特段構えもせず答える。

 

 

「色々とお忍びでな…でしてよ」

 

 

それだけで多くを察したのか兵たちは互いに顔を見合わせた。

貴族の子女が事情あって身分を隠して旅をしていると、さして珍しい話でもない。

しかしそれだけで通しますとは流石に門番としては即答できない。

 

 

返答に戸惑う様子を見てケイオスは懐に手を入れる素振りをしながら、こっそりとアイテムボックスから貨幣を取り出した。

 

先程レイラにお古の装備を渡したようにこの機能は使えていた。

相変わらずアルカディアの頃のようなUIは全く見えず大半の機能が失われている

だがスキルと魔法、そしてこのアイテムボックスは感覚で使える事を理解していた。

どういう仕組みかは解らないが今はただありがたく使わせてもらうだけだった。

 

取り出した硬貨を、兵の手にそっと握らせる。

 

「これで目を瞑ってくれ…ませんこと」

 

(ま、あの兵隊連中から失敬したもんだけど)

 

文字も道具も理解不能だったケイオスだが貨幣だけは見た目から判断がついていた。

他の物は全部投げ捨てたがそれだけは拝借していたのだ。

兵の表情が途端に緩んだ。

 

「……そういうことなら。どうぞ、お通りください」

 

ゲームでの経験と知識だけの賄賂作戦だったが想定通りに上手くいったケイオスは

内心ガッツポーズをしつつ表面上は優雅のままに。

そうしてケイオスとレイラは何事もなかったかのように、そのまま村の中へと足を踏み入れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

村の中に足を踏み入れると、思っていた以上の光景が広がっていた。

 

村の外側は見渡す限りの畑だったが門をくぐった先は賑やかな街並みが続いている。

石踏み固められた道の両脇には宿屋、雑貨を扱う商店、旅装束を売る店、酒場らしき建物までが軒を連ねていた。

行き交う人々も農夫だけでなく、旅装の商人や武具を携えた冒険者風の男たちの姿が目立つ。

 

物資と人が集まる中継地が景色そのものから伝わってくるようだった。

もっとも、そんな事情をケイオスが理解しているはずもなかったが。

 

「へえ、思ったより賑わってるんだな」

 

呑気な声で辺りを見回しながらまるで観光でもしているかのような足取りで歩いている。

店先に並んだ見慣れない品々を物珍しそうに眺め、時折足を止めては首を傾げる姿は、見た目通りの幼い少女だった。

 

その隣を歩きながら、レイラは静かに考え込んでいた。

 

巨躯の正体や実力は元より、今自分が来てる装備、獣人と解らぬよう素肌を隠す形のフルプレートに近い装備。

見るからに重そうだが外見に反してひどく軽い、動きを阻害する重さなど、微塵も感じさせない。

装備すると体に合わせサイズが変わる見た事も聞いたこともない技術も使われていた。

 

「あ、店主…さん、その果物…名前解んないけど多分知ってるから、その辺の全部まとめて頂戴、腹減って…お腹が空いてましてよ」

 

門をくぐる時のやり取りもそうだ。

貨幣を一つ握らせる賄賂、手慣れた仕草、迷いのない振る舞い、とっさにできることではない。

改めて何もかもが規格外だった。

 

(本当に何者なんだろうな、こいつは)

 

 

 

レイラが思案している中、呑気に観光しつつ果物をかじりながら歩くケイオス

ふと、ここまで歩いて気づいたことがあった。

 

(そういや獣人を一人も見てないな)

 

門番も店の商人も道行く旅人も、目に入った顔は全て人間種ばかり。

獣人は戦争奴隷として攫われ各地に流通しているという話、ならば村にも獣人の労働者や奴隷が居てもおかしくない。

だというのにその気配すら見当たらなかった。

 

「ちょっとちょっと、いいか」

 

ケイオスは商店の店主の老爺に声をかける。

少女の声、少女の見た目のまま、あくまで無邪気な体で問いを投げる。

 

「この辺りって獣人の人はいない…のかしら?」

 

老爺は少し驚いたように眉を上げたが、すぐに合点がいったように頷いた。

 

「ああ、そりゃあお嬢さんが見かけないのも無理はないよ」

「そうなの?」

 

「あいつら人より頑丈で力も強い、下手に働かせようもんなら道具を武器に変えて暴れられかねん、だから内みたいな村じゃ使われることはないのさ」

 

老爺は肩をすくめながら続けた。

 

「もっと厳重に管理できる大きな街とか、専用の施設がある場所に集められるって聞くね。

ここに回ってくるのは、せいぜい荷運びの手伝いにごくたまに大人しい奴が回されるくらいだよ。」

 

その言葉に、ケイオスは内心で小さく頷き老爺に礼を言って離れながら頭の中で情報を整理し始めていた。

 

 

 

 

宿の一室、ケイオスは椅子の背もたれに寄りかかりながら老爺から聞いた話を頭の中で反芻していた。

 

(単なる労働力なら別に同じ人間種で事足りるからな)

 

これならば獣人がどこへ集められているのかはある程度絞り込めるということだ。

専用の施設あるいは相応の規模を持った都市、探す範囲は思っていたよりも狭まったかもしれない。

 

 

(どのみち、この世界のことを知るためにも、いずれ首都には入らなきゃならない、都合はいいな)

 

ケイオスは頷きながら、向かいに座るレイラへと視線を向けた。

 

「レイラも聞いてたと思うが、獣人はこういう村じゃ居ないんだとさ、ちゃんとした管理ができる大きな街とか専門の施設に集められるってよ」

 

レイラの表情がわずかに強張った。

 

「……つまり王都か、それに準じる大きな街か」

「ああ手掛かりが少ないのは変わらないが、探す目標は大分減らせた」

 

ケイオスの言葉にレイラは小さく息を吐いた。

安堵と緊張が入り混じったような複雑な吐息だった。

 

「私たちは王都に向けて進む…という事でいいんだな?」

「他に当てもないからな、お前もそのつもりだったんだろ」

「ああ」

 

短く答えるとレイラは膝の上で拳を握った。

王都に行けば危険はこれまで以上に増えるだろう。

もし捕らわれてしまえば今度こそ自分は戦争奴隷から逃れられなくなる。

しかし引き下がる訳にはいかなかった。

 

 

「私の妹はな、私と違って戦いに向いてる方じゃなかった。優しい性格で争いごとを好まない奴だった」

 

ぽつりと、レイラが呟く。

 

「だからこそ、変な扱いを受けてないか心配だ。力が弱いってだけで粗雑に扱われてる可能性だってある」

「…………」

 

レイラは一度深く息を吸い込むと、顔を上げてケイオスを見据えた。

 

「絶対に見つけ出すどんな目に遭っていようと必ずだ」

 

その声には迷いも揺らぎもなかった。

ケイオスは薄い身体を反らし胸を張る。

 

 

「何、依頼を受けたからには安心しろ。これでも冒険者だからな。依頼は達成してやるさ」

「ふっ、そうか」

 

レイラは思わず小さく笑った。

 

改めて目の前の姿を見ると妙な違和感が込み上げてくる。

あの巨大な鎧の化け物、それが今は幼い少女の姿をしている。

それが平然と「冒険者」などと言っている。

 

「今の姿でそう言われると、なんだかおかしいな」

「何がだ?」

「いや…というよりケイオス、お前は冒険者だったのか?」

「冒険者だぞ…まあ俺の居た世界での話だけど、間違いなく冒険者だ」

 

即答だった。

 

「そうか」

 

レイラは苦笑する。

 

結局のところ、ケイオスについては分からないことばかりだった。

あれほどの力を持ちながら何故か妹探しまで引き受けた、ついでとは言うが自分が渡した情報だけでは釣り合わないとは思う。

どこから来たのかも分からない、何者なのかも分からない。

 

それでも不思議と先ほどまで張り詰めていた緊張は少しだけ薄れていた。

少なくとも目の前の存在が自分を害するつもりがないことだけは分かっている。

 

「……本当に、変な奴だな」

「……そうか?俺は元居た場所ならむしろ真っ当なプレイヤーでな」

 

そうしてとめどない会話を二人は続けていった。

窓の外では、日はすっかり沈み、オルディン村の灯りが夜の帳の中にぽつぽつと浮かび始めていた。

 

 

 

 

翌朝、二人は早々に宿を発つつもりでいた。

 

「んじゃ行くか」

「ああ」

 

余計なやり取りもなく荷物らしい荷物もない身軽な二人はさっさと村を後にしようと歩き出していた。

だが、村の様子がどうにも落ち着かない。

朝から表通りに人だかりができ商人や村人たちが額を寄せ合って何やら話し込んでいる。

宿を出てすぐ聞くともなしにその会話が耳に入ってきた。

 

「兵隊が来るんだとかなりの数らしいぞ」

「なんでも、輸送隊が壊滅させられた件の調査だってさ得体の知れないモンスターに襲われたとか」

「そんなのがこの辺りをうろついてるってのか?おっかない話だな…」

 

ケイオスとレイラは思わず顔を見合わせた。

輸送隊壊滅、得体の知れないモンスター、他ならぬケイオスが引き起こした一件のことだ。

 

「へーこんなに早く動くのか、結構しっかりした国なんだな王国」

「関心してる場合か?」

「まあしょうがない、やっちゃったことは戻らんし」

 

ケイオスは少女の声のまま他人事のように呟いた、合わせてポーズまで取っている。

レイラは眉をひそめよく解らない姿勢を取っているケイオスを睨んでいた。

 

 

そうこうしているうちに、遠くから地響きにも似た振動が伝わってきた。

村人たちがざわめきながら道の端へと寄っていく。

視線の先街道の向こうから、統率の取れた蹄の音が近づいてくる。

 

砂埃を上げながら現れたのは鎧に身を固めた騎兵の一団だった。

整然とした隊列を組み先頭には旗を掲げた騎士が一人。

その数ざっと見て三十騎はくだらない。

物々しい空気を纏いながら騎兵たちはまっすぐにオルディン村の中心へと進軍してきていた。

 

 

 

 

 

村の広場に、緊張した空気が広がっていた。

村長らしき初老の男が恐縮した様子で騎兵の一団を出迎えている。

そしてもう一人、そこに居たのは壊滅した輸送団の隊長のガルドだった。

昨日の一件からまだ日も浅く、その顔には隠しきれない疲労と苛立ちの色が見て取れる。

 

 

「して、事の詳細を今一度伺いたい」

 

 

対応に当たっているのは騎兵団を率いてきたらしい指揮官だった。

装備で顔は見えないが冷ややかな声音にガルドは僅かに顔を強張らせながら答える。

 

「は……輸送隊は、正規の護送手順に従い進んでおりました。

しかし何者かも判然としない怪物の襲撃を受け、瞬く間に部隊は壊滅。

捕獲用の道具まで投入したものの、及ばず……」

「言い訳は結構だ、貴殿の落ち度がどこにあったかは、本国が精査の上で判断する」

 

指揮官の言葉は取り付く島もなかった、ガルドは唇を噛みながらも、それ以上反論する術を持たなかった。

 

「今回の輸送隊が運んでいた獣人たちは、いずれも選定を経た良質な戦争奴隷だった。

捕獲、輸送、管理に要した費用も相応のものだ。

それが一夜にして丸ごと失われたとなれば貴殿の評価に、無視できぬ影響が及ぶことは覚悟しておくことだ」

 

その言葉に、ガルドの顔から完全に血の気が引いた。

一方で指揮官は別にガルドを追い詰める気もないのかそのまま話題を切り替える。

 

「もっとも我々がこの地に来たのは、その一件のためだけではない」

「と、申しますと」

「この一帯に潜んでいるとされる悪名高い盗賊団――『閃光の旅団』の討伐だ、かねてより精鋭部隊を編成し掃討に当たる予定であった、その我々がこの近辺に展開していたところに貴殿の一件が重なっただけのこと」

 

指揮官は淡々とそう告げると、後方に控える精鋭らしい騎兵たちへ一瞥をくれた。

統率の取れた佇まい隙のない装備、先の輸送隊の兵たちとは明らかに練度の違う気配を纏っている。

 

その様子を、人だかりに紛れたケイオスとレイラは、じっと聞き耳を立てながら見守っていた。

 

「盗賊団の討伐、か」

「物々しい話だな…お前が暴れた件もあるし、早くここを出よう」

 

レイラがそっと話しかける、ケイオスは顔を向けてこともなげに返す

 

「いいや出発するのは延期だ」

 

レイラは驚く、あの正規団とは関わり合いにならない方がまずいいはずだ。

しかしケイオスはまるでこんな機会を逃すはずもないと言わんばかりに楽しげに笑っていた。

 

「せっかく国の精鋭と出くわせたんだ、ここでお別れ何て勿体ないぜ」

 

 

 

村の混乱をしり目に出発を延期したケイオスとレイラは酒場の隅で情報収集をしていた。

昼間から酒精を煽っている常連客たちの会話を聞いたり時には話しかける。

話題は自然と村に来た騎兵団とその討伐対象である盗賊団の噂に集まっていた。

 

「『閃光の旅団』か、大層な名前まで付けて暴れてたからな最近は、こうなると本国から精鋭を差し向けられるのも当然だよな」

 

「ここら辺はな、とにかく広くて昔人が住んでた場所とかもあちこちにあったりな、ああいう連中が居つくには事欠かねえんだお嬢ちゃん」

 

「一箇所に居着かねえのも厄介なんだよな、あっちの拠点、こっちの拠点って渡り歩いて、しぶとく生き延びてる」

 

「団員も厄介だが何より団長がとんでもねえって噂だぜ、討伐に向かった冒険者や衛兵がことごとく返り討ちにされてるらしい」

 

「そりゃ本国も本腰入れるわけだ……」

 

 

 

そんな会話を終えてケイオスは黙ってグラスを傾けながら聞いていた。

隣のレイラも、表情は変えないまましっかりと耳を澄ませている。

やがて酒場の店主が席にやってきて水を注ぎ足しながらぽつりと声をかけた。

 

「お嬢ちゃんたちも、今日はもう出かけない方がいいよ」

「なんで?」

 

少女の声でケイオスが小首を傾げる、店主は困ったように笑いながら答えた。

レイラの隠れた顔が僅かに眉を寄せる。

ケイオスはこの姿の時は取ってつけたような態度をちょくちょくと取る。

 

(油断させる、相手から情報を得る、姿に合わせた正しい振舞いではある…よくやるものだ)

 

ケイオスの正体を知るレイラは微妙な気持ちのままそれを見守っていた。

ちなみにケイオスは単に今の姿に相応しい可愛らしい言動をするのが趣味なだけである。

 

「盗賊討伐で兵隊は殺気立ってるし、もしかしたら盗賊団がこの辺りに流れてくるかもしれない、

おまけに例の化け物騒ぎもあるだろう、こんな物騒な時に、嬢ちゃんみたいな子が出歩くのは危ないさ」

 

「…そうだな、そうね」

 

ケイオスは曖昧に頷きながら答えた。

い。

 

盗賊団『閃光の旅団』

本国の精鋭部隊

もう少し情勢を見極める価値はありそうだと

 

グラスを両手で持って可愛らしく飲みつつケイオスは微笑むのだった。

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