家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される 作:めろんちゃん
朝日が学院の白い尖塔を黄金色に照らす。
王都随一の名門――アルセリア魔法学院。
この国で最も優秀な魔法使いを育成する学び舎であり、貴族や平民という身分に関係なく、実力さえあれば誰でも入学を許される場所だ。
朝の中庭では、生徒たちの明るい笑い声が絶えない。
「おはよう!」
「昨日の課題やった?」
「放課後、新しくできたカフェ行かない?」
楽しそうな会話があちこちで弾む。
そんな賑やかな空間の中を、一人の少女が静かに歩いていた。
白銀の長い髪。
雪のように白い肌。
透き通る蒼い瞳。
その美貌は「王都一」と噂されるほどで、すれ違う生徒たちは思わず振り返る。
けれど、彼女が誰かと目を合わせることはない。
声を掛けようと近づいた生徒も、彼女の静かな雰囲気に、結局言葉を飲み込んでしまう。
「……リシェルだ。」
「今日も一人だね。」
「氷の白姫って呼ばれてる子でしょ?」
「綺麗だけど……なんか近寄りづらいよね。」
そんな囁き声が背後から聞こえる。
リシェル・アルヴェインは振り返らなかった。
ただ、いつも通りの歩幅で学院の廊下を進んでいく。
誰かに呼び止められることもない。
誰かを待つ必要もない。
それが、彼女の当たり前だった。
◇
教室へ入ると、リシェルは迷うことなく一番後ろの窓際の席へ向かった。
鞄を置き、机の上に一冊の本を開く。
周囲では、クラスメイトの楽しそうな会話が続いている。
「帰りにうち寄って遊ばない?」
「お昼、一緒に食べようよ!」
そんな声を聞きながらも、リシェルはページをめくる。
視線を上げることはない。
「おはよう、リシェル。」
担任教師が声を掛ける。
「……おはようございます。」
短い返事。
それでも教師は優しく微笑んだだけだった。
リシェルが必要以上に会話を苦手としていることを、学院の教師たちは知っている。
彼女は優秀だった。
筆記試験では常に一位。
魔法理論も実技も、同年代の中では飛び抜けていた。
授業中に質問されれば完璧に答え、課題は誰よりも早く提出する。
けれど、休み時間になれば必ず一人になる。
誰かが隣の席へ近づけば、リシェルは少しだけ姿勢を正し、距離を取る。
話しかけられれば返事はする。
けれど、自分から話題を出すことはない。
まるで透明な壁を一枚隔てているようだった。
その理由を知る者はいない。
幼い頃、彼女が家を追い出されたことも。
帰る場所を失った日のことも。
ただ、時折見せる小さな仕草だけが、彼女の過去を物語っていた。
誰かが大きな声を出せば、ほんの少し肩が揺れる。
優しく声を掛けられれば、一瞬だけ戸惑ったように目を伏せる。
けれど次の瞬間には、いつもの無表情へ戻っている。
◇
午前の実技授業。
訓練場に生徒たちが整列する。
「今日は魔力制御の試験を行う。」
教師の号令とともに、生徒たちが順番に魔法を披露していく。
炎。
風。
雷。
水。
それぞれの属性魔法が訓練場を彩る。
「最後、リシェル・アルヴェイン。」
「……はい。」
名前を呼ばれると、彼女は静かに前へ出た。
周囲の視線が集まる。
期待。
憧れ。
少しの緊張。
それらすべてを受けても、リシェルの表情は変わらない。
杖を軽く掲げ、小さく詠唱する。
「《クリスタル・ブルーム》」
瞬間。
透き通る氷の花が無数に咲いた。
一輪。
二輪。
十輪。
百輪。
青白く輝く花々は空中でゆっくりと回転し、陽光を反射して宝石のような輝きを放つ。
まるで冬の妖精が舞っているような幻想的な光景だった。
「……すごい。」
「綺麗……。」
「同学年の魔法とは思えないな。」
思わず漏れる声。
教師も感嘆したように息を吐く。
「見事だ、リシェル。」
「ありがとうございます。」
彼女は一礼すると、すぐに列へ戻った。
周囲から向けられる視線にも気づいている。
けれど、それに応えることはない。
褒められても、どう反応すればいいのか分からない。
昔なら、きっと嬉しかったのだろう。
誰かに認めてもらえることを、喜べたのだろう。
けれど今の彼女は、ただ静かに杖を握り直すだけだった。
◇
昼休み。
校舎裏の大樹の下。
リシェルはいつもの場所で昼食を広げていた。
小さなサンドイッチと
温かい飲み物。
それだけ。
周囲には誰もいない。
風が木の葉を揺らす音だけが響いている。
リシェルは黙々と食事を進める。
その時。
少し強い風が吹き抜けた。
白銀の髪がさらりと揺れる。
太陽の光を受けた髪は淡く輝き、まるで雪の結晶のようだった。
その姿を、偶然通りかかった一人の少女が見つめていた。
栗色の髪。
琥珀色の瞳。
明るく、人との距離を縮めることが得意な少女―エレノア・フォルテス。
彼女は足を止める。
「……誰、あの子。」
知らない少女だった。
名前も知らないし
話したこともない。
なのに、なぜか目が離せなくなった。
白銀の髪。
静かな横顔。
誰もいない場所で、一人で昼食を取る姿。
その姿が、胸の奥に引っかかった。
「……かわいい。」
思わず口からこぼれた言葉に、エレノア自身が驚く。
そして、小さく笑った。
「ふふ……なんだろう、この感じ。」
胸元に手を当てる。
鼓動が、いつもより少しだけ速い。
「私……あの子のこと、もっと知りたいな。」
孤独の中で静かに生きる少女。
そして、その姿に心を奪われた少女。
まだ名前を呼び合うことすらない二人の物語は朝日が学院の白い尖塔を黄金色に照らす。
王都随一の名門――アルセリア魔法学院。
この国で最も優秀な魔法使いを育成する学び舎であり、貴族や平民という身分に関係なく、実力さえあれば誰でも入学を許される場所だ。
朝の中庭では、生徒たちの明るい笑い声が絶えない。
「おはよう!」
「昨日の課題やった?」
「放課後、新しくできたカフェ行かない?」
楽しそうな会話があちこちで弾む。
そんな賑やかな空間の中を、一人の少女が静かに歩いていた。
白銀の長い髪。
雪のように白い肌。
透き通る蒼い瞳。
その美貌は「王都一」と噂されるほどで、すれ違う生徒たちは思わず振り返る。
けれど、彼女が誰かと目を合わせることはない。
声を掛けようと近づいた生徒も、彼女の静かな雰囲気に、結局言葉を飲み込んでしまう。
「……リシェルだ。」
「今日も一人だね。」
「氷の白姫って呼ばれてる子でしょ?」
「綺麗だけど……なんか近寄りづらいよね。」
そんな囁き声が背後から聞こえる。
リシェル・アルヴェインは振り返らなかった。
ただ、いつも通りの歩幅で学院の廊下を進んでいく。
誰かに呼び止められることもない。
誰かを待つ必要もない。
それが、彼女の当たり前だった。
◇
教室へ入ると、リシェルは迷うことなく一番後ろの窓際の席へ向かった。
鞄を置き、机の上に一冊の本を開く。
周囲では、クラスメイトの楽しそうな会話が続いている。
「帰りにうち寄って遊ばない?」
「お昼、一緒に食べようよ!」
そんな声を聞きながらも、リシェルはページをめくる。
視線を上げることはない。
「おはよう、リシェル。」
担任教師が声を掛ける。
「……おはようございます。」
短い返事。
それでも教師は優しく微笑んだだけだった。
リシェルが必要以上に会話を苦手としていることを、学院の教師たちは知っている。
彼女は優秀だった。
筆記試験では常に一位。
魔法理論も実技も、同年代の中では飛び抜けていた。
授業中に質問されれば完璧に答え、課題は誰よりも早く提出する。
けれど、休み時間になれば必ず一人になる。
誰かが隣の席へ近づけば、リシェルは少しだけ姿勢を正し、距離を取る。
話しかけられれば返事はする。
けれど、自分から話題を出すことはない。
まるで透明な壁を一枚隔てているようだった。
その理由を知る者はいない。
幼い頃、彼女が家を追い出されたことも。
帰る場所を失った日のことも。
ただ、時折見せる小さな仕草だけが、彼女の過去を物語っていた。
誰かが大きな声を出せば、ほんの少し肩が揺れる。
優しく声を掛けられれば、一瞬だけ戸惑ったように目を伏せる。
けれど次の瞬間には、いつもの無表情へ戻っている。
◇
午前の実技授業。
訓練場に生徒たちが整列する。
「今日は魔力制御の試験を行う。」
教師の号令とともに、生徒たちが順番に魔法を披露していく。
炎。
風。
雷。
水。
それぞれの属性魔法が訓練場を彩る。
「最後、リシェル・アルヴェイン。」
「……はい。」
名前を呼ばれると、彼女は静かに前へ出た。
周囲の視線が集まる。
期待。
憧れ。
少しの緊張。
それらすべてを受けても、リシェルの表情は変わらない。
杖を軽く掲げ、小さく詠唱する。
「《クリスタル・ブルーム》」
瞬間。
透き通る氷の花が無数に咲いた。
一輪。
二輪。
十輪。
百輪。
青白く輝く花々は空中でゆっくりと回転し、陽光を反射して宝石のような輝きを放つ。
まるで冬の妖精が舞っているような幻想的な光景だった。
「……すごい。」
「綺麗……。」
「同学年の魔法とは思えないな。」
思わず漏れる声。
教師も感嘆したように息を吐く。
「見事だ、リシェル。」
「ありがとうございます。」
彼女は一礼すると、すぐに列へ戻った。
周囲から向けられる視線にも気づいている。
けれど、それに応えることはない。
褒められても、どう反応すればいいのか分からない。
昔なら、きっと嬉しかったのだろう。
誰かに認めてもらえることを、喜べたのだろう。
けれど今の彼女は、ただ静かに杖を握り直すだけだった。
◇
昼休み。
校舎裏の大樹の下。
リシェルはいつもの場所で昼食を広げていた。
小さなサンドイッチと
温かい飲み物。
それだけ。
周囲には誰もいない。
風が木の葉を揺らす音だけが響いている。
リシェルは黙々と食事を進める。
その時。
少し強い風が吹き抜けた。
白銀の髪がさらりと揺れる。
太陽の光を受けた髪は淡く輝き、まるで雪の結晶のようだった。
その姿を、偶然通りかかった一人の少女が見つめていた。
栗色の髪。
琥珀色の瞳。
明るく、人との距離を縮めることが得意な少女――エレノア・フォルティス。
彼女は足を止める。
「……誰、あの子。」
知らない少女だった。
名前も知らないし
話したこともない。
なのに、なぜか目が離せなくなった。
白銀の髪。
静かな横顔。
誰もいない場所で、一人で昼食を取る姿。
その姿が、胸の奥に引っかかった。
「……かわいい。」
思わず口からこぼれた言葉に、エレノア自身が驚く。
そして、小さく笑った。
「ふふ……なんだろう、この感じ。」
胸元に手を当てる。
鼓動が、いつもより少しだけ速い。
「私……あの子のこと、もっと知りたいな。」
孤独の中で静かに生きる少女。
そして、その姿に心を奪われた少女。
まだ名前を呼び合うことすらない二人の物語は―――この日、静かに始まった。