家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される   作:めろんちゃん

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第10話暖かな夜と優しい朝

 

 夜の帳が下り、エレノアの家は穏やかな静けさに包まれていた。

 

 夕食の片付けを終えたエレノアの母は、優しく微笑む。

 

「二人とも、ゆっくり過ごしてね。」

 

「はーい!」

 

 元気よく返事をするエレノアの隣で、リシェルも小さく頭を下げた。

 

「ありがとうございます。」

 

 そんな何気ないやり取りでさえ、リシェルには新鮮だった。

 

 誰かと同じ家で夜を過ごす。

 

 それだけで、胸の奥が少しだけ落ち着かない。

 

     ◇

 

「リシェル、お風呂空いたよ!」

 

「……うん。」

 

 リシェルは着替えを持って浴室へ向かった。

 

 しばらくして――。

 

 髪を軽くタオルで拭きながら部屋へ戻ってくる。

 

 白銀の長い髪はまだ少し濡れていて、水滴がさらりと肩へ流れ落ちる。

 

 ゆったりとした部屋着に身を包んだ姿は、普段の制服姿とは違う柔らかな雰囲気をまとっていた。

 

「お、おかえり……。」

 

 エレノアは思わず言葉を詰まらせる。

 

「……どうしたの?」

 

 首をかしげるリシェル。

 

「いや、その……。」

 

 エレノアは耳まで真っ赤になりながら慌てて目を逸らした。

 

(かわいい……。)

 

(なんで部屋着姿までこんなに可愛いの……。)

 

 心臓がどきどきと音を立てる。

 

「顔、赤いよ。」

 

「な、なんでもない!」

 

「ちょっと暑いだけだから!」

 

 慌てて両手で頬を押さえるエレノア。

 

 その反応を見て、リシェルは不思議そうに瞬きをした。

 

「変なの。」

 

「うぅ……その言い方まで可愛い……。」

 

「?」

 

 意味が分からず首を傾げるリシェルだった。

 

     ◇

 

 やがてエレノアもお風呂から戻ってくる。

 

 二人は部屋で並んで座り、窓から見える星空を眺めていた。

 

 静かな時間が流れる。

 

「ねぇ、リシェル。」

 

「なに?」

 

「その……お願いがあるんだけど。」

 

「お願い?」

 

 エレノアは少し照れたように笑う。

 

「髪、梳かしてみたい。」

 

「髪?」

 

「うん。」

 

「すごく綺麗だから……。」

 

「一度だけでいいから梳かしてみたくて。」

 

 リシェルは自分の白銀の髪へ手を添える。

 

 誰かに髪を触れられた記憶は、ほとんどない。

 

 少しだけ迷う。

 

「……嫌だったら断ってね!」

 

 エレノアは慌てて付け加えた。

 

「無理にとは言わないから。」

 

 その言葉を聞いて、リシェルは静かに首を振る。

 

「……少しだけなら。」

 

「ほんと!?」

 

「うん。」

 

 エレノアは嬉しそうにブラシを手に取った。

 

「じゃあ、失礼します。」

 

 後ろへ回り込み、そっとブラシを通す。

 

 さらり。

 

 白銀の髪が月明かりを受けてきらめいた。

 

「……すごい。」

 

 エレノアは思わず息を呑む。

 

「絹みたい。」

 

「そんなことない。」

 

「あるよ。」

 

「本当に綺麗。」

 

 優しく丁寧に梳かしていく。

 

 ブラシが引っかかることは一度もない。

 

 長く美しい髪は、指の間を滑るように流れていく。

 

「気持ちいい?」

 

「……うん。」

 

 リシェルは静かに目を閉じる。

 

 誰かにこんなふうに髪を梳かしてもらうのは初めてだった。

 

 不思議と安心する。

 

「ありがとう。」

 

 ぽつりと零れた一言。

 

 エレノアは嬉しそうに微笑んだ。

 

「こちらこそ。」

 

「梳かさせてくれてありがとう。」

 

     ◇

 

 二人はベッドへ腰掛け、お揃いの星形のキーホルダーを並べる。

 

「こうして見ると、本当にきれい。」

 

 エレノアが笑う。

 

「うん。」

 

 リシェルも小さく頷いた。

 

「明日はどこへ行こうか?」

 

「エレノアが決めて。」

 

「じゃあ、昔私がよく行ってた遊園地に行こう!!」

 

「……楽しそう。」

 

 その言葉に、エレノアは目を丸くする。

 

「今、自分から『楽しそう』って言った!」

 

「……言った?」

 

「うん!」

 

 嬉しそうに笑うエレノアを見て、リシェルもつられて微笑んだ。

 

 誰かと明日の予定を話しながら眠りにつく夜。

 

 そんな当たり前の幸せを、リシェルは初めて知った。

 

     ◇

 

 翌朝。

 

 窓から差し込む朝日で、エレノアはゆっくりと目を覚ました。

 

「……ん。」

 

 まだ少し眠気の残る目で隣を見る。

 

 そこには、まだ眠っているリシェルの姿があった。

 

 普段は誰よりも落ち着いていて、何でも一人でこなしている彼女。

 

 けれど今は、少しだけ無防備な表情で眠っている。

 

「……かわいい。」

 

 思わず小さく呟く。

 

エレノアは無防備なリシェルの頬を突っついて遊んでいた。

 

(もちもちしてる)

 

 すると、リシェルがゆっくりと目を開けた。

 

「……エレノア?」

 

「おはよう、リシェル。」

 

「……おはよう。」

 

 返事はしたものの、まだ完全には目が覚めていないらしい。

 

 ぼんやりとした表情のまま、リシェルはエレノアの方へ少し近づく。

 

「……もう少しだけ。」

 

「え?」

 

「まだ眠い。」

 

 そう言って、リシェルはエレノアの肩へそっと寄りかかった。

 

 一瞬、エレノアの思考が止まる。

 

「リ、リシェル……?」

 

「……五分だけ。」

 

 いつもの冷静な声とは違う、少し甘えるような声。

 

 エレノアの胸が大きく跳ねる。

 

(こんなリシェル、私しか知らないのかな……。)

 

 そう思うと、嬉しくて仕方なかった。

 

「うん。」

 

 エレノアは優しく笑う。

 

「五分だけね。」

 

 しばらくして、リシェルははっとして顔を上げた。

 

「……私、今。」

 

「うん?」

 

「……。」

 

 自分が甘えていたことに気づき、少しだけ頬を赤くする。

 

「忘れて。」

 

「無理!」

 

 エレノアは嬉しそうに笑った。

 

「絶対忘れない!」

 

「……。」

 

 リシェルは困ったように目を逸らす。

 

 けれど、嫌ではなかった。

 

     ◇

 

 二人は一緒に朝食を囲み、身支度を整える。

 

 鞄には、お揃いの星形のキーホルダー。

 

 それを見たエレノアは嬉しそうに笑った。

 

「今日もお揃いだね。」

 

「……うん。」

 

 リシェルは小さく頷く。

 

 それだけで、胸が少しだけ温かくなった。

 

「それじゃあ行こう!」

 

「うん。」

 

 こうして二人は、新しい休日の思い出を作るため、並んで家をあとにするのだった。

 

 ――休日デートは、まだ始まったばかりだった。

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