家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される   作:めろんちゃん

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第11話笑顔の向こう側

 

 休日の朝。

 

 青空がどこまでも広がり、絶好のお出かけ日和だった。

 

待ち合わせ場所へ向かう道で、エレノアはどこか懐かしそうに微笑んだ。

 

「そういえば、この遊園地に来るのは久しぶりなんだ。小さい頃は、お父さんとお母さんによく連れてきてもらってたんだけど、最近は全然来られてなくてね。」

 

 そう言って少し照れくさそうに笑う。

 

「去年から大規模な改装があって、新しいアトラクションや魔法を使ったパレードも増えたらしいの。だから今日は、昔とは違う遊園地をリシェルと一緒に回れるのがすごく楽しみ!」

 

 その笑顔を見つめながら、リシェルは静かに口を開く。

 

「……私は、遊園地に来るのは初めて。」

 

「えっ、本当に?」

 

 驚くエレノアに、リシェルは小さく頷いた。

 

「こういう場所に来る機会は、一度もなかったから。」

 

 その一言にエレノアは少しだけ表情を曇らせるが、すぐに明るく笑った。

 

「じゃあ今日は、リシェルにとって一番楽しい思い出を作ろうね!」

 

 その言葉に、リシェルも柔らかく微笑み、小さく「……うん」と答えた。

 

    ◇

 

 大きな門をくぐると、そこには色とりどりの世界が広がっていた。

 

 観覧車。

 

 メリーゴーランド。

 

 ジェットコースター。

 

 屋台から漂う甘いお菓子の香り。

 

 あちこちから聞こえる楽しそうな笑い声。

 

「すごーい!」

 

 エレノアは目を輝かせる。

 

「まず何に乗ろう!」

 

「エレノアが決めて。」

 

「じゃあ、メリーゴーランド!」

 

「……うん。」

 

 二人は並んで木馬に乗る。

 

 ゆっくりと回り始める景色。

 

 風に揺れる白銀の髪を見ながら、エレノアは思わず見惚れてしまう。

 

(やっぱり綺麗……。)

 

「エレノア?」

 

「あっ、ごめん!」

 

「ぼーっとしちゃった。」

 

 リシェルは少しだけ首を傾げ、それから小さく笑った。

 

     ◇

 

 その後も二人は園内を歩き回った。

 

 次に向かったのは、お化け屋敷だった。

 

「ここ、面白そう!」

 

 エレノアは楽しそうに入口を見る。

 

「暗い場所を歩いて、魔法仕掛けの幽霊を避けるんだって!」

 

「……そう。」

 

 リシェルは平静を装って頷く。

 

 しかし、入口から聞こえる不気味な音に、ほんの少しだけ肩が揺れた。

 

「リシェル?」

 

「何でもない。」

 

「今、少し驚いた?」

 

「驚いて、ない。」

 

 即答だった。

 

 けれど、エレノアには分かってしまった。

 

「もしかして……怖い?」

 

「違う。」

 

「私は魔法学院首席。」

 

「この程度の仕掛けで怖がるわけがない。」

 

 いつも通りの無表情。

 

 でも、歩く速度が少しだけ速い。

 

 エレノアは思わず笑ってしまう。

 

「ふふっ。」

 

「……何。」

 

「ううん。可愛いなって思っただけ。」

 

「……。」

 

 リシェルは少しだけ頬を膨らませる。

 

「可愛くない。」

 

「怖くない。」

 

「……本当に?」

 

「本当。」

 

 そう言いながらも、館内に入ってすぐ。

 

 突然現れた魔法仕掛けの人形に――。

 

「……っ。」

 

 リシェルの足が止まる。

 

 無意識にエレノアの服の袖を掴んでいた。

 

「リシェル?」

 

「……これは。」

 

「予想外の演出だっただけ。」

 

「怖いわけじゃない。」

 

 必死に強がる姿に、エレノアは優しく笑う。

 

「うん。」

 

「怖くないんだね。」

 

「……そう。」

 

「じゃあ、私が隣にいるから大丈夫。」

 

 エレノアはそっとリシェルの手を握る。

 

「怖くてもいいんだよ。」

 

「無理して強がらなくても。」

 

 その言葉に、リシェルは少し目を伏せる。

 

 誰かに弱いところを見せること。

 

 それは、今まで一度もできなかったことだった。

 

「……。」

 

 しばらくして、小さく呟く。

 

「……少しだけ。」

 

「え?」

 

「少しだけ、苦手かもしれない。」

 

 エレノアは嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、最後まで一緒に行こう。」

 

「私がいるから。」

 

「……うん。」

 

 リシェルは小さく頷く。

 

 その後は、エレノアの手を握ったまま、お化け屋敷を進んでいった。

 

 出口に着く頃には、リシェルの表情も少し柔らかくなっていた。

 

「楽しかったね!」

 

「……まあ。」

 

「また強がってる?」

 

「違う。」

 

 そう言いながらも、リシェルの口元には小さな笑みが浮かんでいた。

 

 その後も二人は園内を歩き回った。

 

 的当てではリシェルが見事に景品を当てたり。

 

 焼き菓子を半分こして食べたり。

 

 気づけば自然と笑い合う時間が増えていた。

 

「今日は本当に楽しいね。」

 

 エレノアが笑う。

 

 リシェルも静かに頷く。

 

「……うん。」

 

 その一言だけで、エレノアは嬉しくなった。

 

     ◇

 

 昼過ぎ。

 

 二人はベンチで少し休憩することにした。

 

 その時だった。

 

「パパー!」

 

「待ってー!」

 

 近くを、小さな女の子が笑顔で走っていく。

 

 その後ろを父親と母親が笑いながら追いかける。

 

「転ばないようにね。」

 

「今日は好きなもの、いっぱい乗ろうか。」

 

「うん!」

 

 楽しそうな家族の笑い声が、青空へと響いた。

 

 その光景を見つめたまま、リシェルの表情が曇る。

 

「……。」

 

 瞳が揺れる。

 

 胸の奥に、忘れたはずの記憶が静かによみがえってくる。

 

 ――もう必要ない。

 

 ――出て行きなさい。

 

 冷たい言葉。

 

 閉ざされた扉。

 

 振り返ることなく去っていった家族の背中。

 

 知らず知らずのうちに、リシェルは手をぎゅっと握り締めていた。

 

「リシェル?」

 

 エレノアが心配そうに声をかける。

 

「顔色、悪いよ。」

 

「……大丈夫。」

 

 短い返事。

 

 けれど、その声は少しだけ震えていた。

 

「本当に?」

 

「……。」

 

 リシェルは答えられなかった。

 

 エレノアは少しだけ困ったように笑い、それ以上は何も聞かなかった。

 

 代わりに、リシェルの隣へそっと腰を下ろす。

 

「少し休もうか。」

 

「急がなくても、遊園地は逃げないし。」

 

 その優しい言葉に、リシェルはゆっくりと目を閉じる。

 

「……ごめん。」

 

「謝らなくていいよ。」

 

「誰だって、元気が出ない時はあるもん。」

 

 その一言が、胸にじんわりと染み込んでいく。

 

 理由を聞かない。

 

 無理に笑わせようともしない。

 

 ただ、隣にいてくれる。

 

 そんなエレノアの優しさが、リシェルには何よりも嬉しかった。

 

     ◇

 

 しばらくして、リシェルは小さく息を吐いた。

 

「……もう大丈夫。」

 

「ほんと?」

 

「うん。」

 

 まだ少し寂しそうな笑顔だった。

 

 それでも、先ほどより表情は柔らかくなっている。

 

「じゃあ、次は観覧車に乗ろう!」

 

 エレノアが明るく言う。

 

「上から街を見たら、きっと気分も変わるよ。」

 

 リシェルはその言葉に、小さく頷いた。

 

「……行こう。」

 

 二人は並んで歩き出す。

 

 その背中を、夏の優しい風がそっと押していた。

 

 リシェルはまだ、自分の過去を話す勇気はなかった。

 

 けれど、一人で抱え込まなくてもいいのかもしれない。

 

 そんな小さな希望が、心の中で静かに芽生え始めていた。

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