家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される 作:めろんちゃん
遊園地での休日から数日。
ついに体育祭前日を迎えた。
学院中がどこか浮き足立ち、生徒たちは最後の調整に励んでいる。
「よし! 最後の練習だ!」
グラウンドには元気な声が響いていた。
◇
リシェルとエレノアも、魔法障害物競走のコースに立っていた。
「始めよう。」
「うん!」
合図とともに、二人は同時に駆け出す。
エレノアは以前よりもずっと滑らかな動きで障害物を越えていく。
魔法障壁を風魔法で吹き飛ばし、高い壁も勢いよく飛び越えた。
「やった!」
ゴールすると、嬉しそうに振り返る。
「どうだった?」
リシェルは静かに頷いた。
「うん。」
「もう教えることは、ほとんどない。」
「えっ、本当に!?」
エレノアは目を丸くする。
「ここまで上達したのは、エレノアが努力したから。」
その一言に、エレノアは照れくさそうに笑った。
「えへへ……。」
「でも、それもリシェルが教えてくれたおかげだよ。」
リシェルは首を横に振る。
「私は少し手伝っただけ。」
「違うよ。」
「リシェルがいてくれたから頑張れたんだもん。」
真っ直ぐな言葉に、リシェルは少しだけ頬を染める。
「……ありがとう。」
◇
練習を終えた二人は、木陰で休憩していた。
夏の風が心地よく吹き抜ける。
「いよいよ明日だね。」
「うん。」
エレノアは空を見上げながら、小さく笑った。
「実はね。」
「少しだけ緊張してる。」
「緊張?」
「うん。」
エレノアは照れたように頭をかく。
「お父さんとお母さんが見に来てくれる予定なんだけど……。」
「ちゃんと活躍できるかなって。」
「応援してくれる人の前で失敗したくなくて。」
何気ないその言葉に――。
リシェルの表情が、少しだけ曇る。
「……。」
その変化は一瞬だった。
けれど、エレノアは見逃さなかった。
「リシェル?」
「どうしたの?」
「……何でもない。」
そう答えたものの、その声はどこか力がなかった。
エレノアは少し考える。
遊園地で家族連れを見た時も、同じ表情をしていた。
そして今も。
(もしかして……。)
胸の中で、一つの考えが浮かぶ。
家族の話になると、リシェルは悲しそうな顔をする。
何かがあったのかもしれない。
きっと、自分の想像よりずっと大きな出来事が。
でも――。
エレノアは何も聞かなかった。
聞けば、リシェルを傷つけてしまう気がしたから。
「明日は私、頑張るね。」
あえて話題を変えるように笑う。
「リシェルに教えてもらった成果、ちゃんと見せるから!」
その笑顔に、リシェルも少しだけ表情を和らげた。
「……うん。」
「楽しみにしてる。」
「任せて!」
エレノアは元気よく胸を張る。
「リシェルに『すごい』って言ってもらえるくらい頑張る!」
「……もう十分すごいよ。」
「え?」
思わぬ言葉に、エレノアは目をぱちぱちと瞬かせた。
「今まで、たくさん努力してきた。」
「だから、自信を持って。」
優しい声だった。
その言葉を聞いたエレノアは、思わず笑みをこぼす。
「ありがとう。」
「その一言だけで、明日は何でもできる気がする。」
リシェルも小さく微笑んだ。
◇
帰り道。
夕日に照らされながら並んで歩く二人。
エレノアはリシェルの横顔をそっと見つめる。
(家族のこと……。)
(いつか話してくれる日が来るのかな。)
無理に聞くつもりはない。
話したくなった時に、隣で聞いてあげられる存在になりたい。
それが今のエレノアの願いだった。
一方のリシェルは、静かに空を見上げる。
明日は体育祭。
今までなら、ただの学院行事でしかなかった。
けれど今年は違う。
隣には、自分を信じてくれる人がいる。
その事実が、少しだけ心強く感じられた。
夏空の下、二人は明日に向かって歩き続ける。
それぞれの想いを胸に抱きながら。