家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される   作:めろんちゃん

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第12話言えない過去

 

 遊園地での休日から数日。

 

 ついに体育祭前日を迎えた。

 

 学院中がどこか浮き足立ち、生徒たちは最後の調整に励んでいる。

 

「よし! 最後の練習だ!」

 

 グラウンドには元気な声が響いていた。

 

     ◇

 

 リシェルとエレノアも、魔法障害物競走のコースに立っていた。

 

「始めよう。」

 

「うん!」

 

 合図とともに、二人は同時に駆け出す。

 

 エレノアは以前よりもずっと滑らかな動きで障害物を越えていく。

 

 魔法障壁を風魔法で吹き飛ばし、高い壁も勢いよく飛び越えた。

 

「やった!」

 

 ゴールすると、嬉しそうに振り返る。

 

「どうだった?」

 

 リシェルは静かに頷いた。

 

「うん。」

 

「もう教えることは、ほとんどない。」

 

「えっ、本当に!?」

 

 エレノアは目を丸くする。

 

「ここまで上達したのは、エレノアが努力したから。」

 

 その一言に、エレノアは照れくさそうに笑った。

 

「えへへ……。」

 

「でも、それもリシェルが教えてくれたおかげだよ。」

 

 リシェルは首を横に振る。

 

「私は少し手伝っただけ。」

 

「違うよ。」

 

「リシェルがいてくれたから頑張れたんだもん。」

 

 真っ直ぐな言葉に、リシェルは少しだけ頬を染める。

 

「……ありがとう。」

 

     ◇

 

 練習を終えた二人は、木陰で休憩していた。

 

 夏の風が心地よく吹き抜ける。

 

「いよいよ明日だね。」

 

「うん。」

 

 エレノアは空を見上げながら、小さく笑った。

 

「実はね。」

 

「少しだけ緊張してる。」

 

「緊張?」

 

「うん。」

 

 エレノアは照れたように頭をかく。

 

「お父さんとお母さんが見に来てくれる予定なんだけど……。」

 

「ちゃんと活躍できるかなって。」

 

「応援してくれる人の前で失敗したくなくて。」

 

 何気ないその言葉に――。

 

 リシェルの表情が、少しだけ曇る。

 

「……。」

 

 その変化は一瞬だった。

 

 けれど、エレノアは見逃さなかった。

 

「リシェル?」

 

「どうしたの?」

 

「……何でもない。」

 

 そう答えたものの、その声はどこか力がなかった。

 

 エレノアは少し考える。

 

 遊園地で家族連れを見た時も、同じ表情をしていた。

 

 そして今も。

 

(もしかして……。)

 

 胸の中で、一つの考えが浮かぶ。

 

 家族の話になると、リシェルは悲しそうな顔をする。

 

 何かがあったのかもしれない。

 

 きっと、自分の想像よりずっと大きな出来事が。

 

 でも――。

 

 エレノアは何も聞かなかった。

 

 聞けば、リシェルを傷つけてしまう気がしたから。

 

「明日は私、頑張るね。」

 

 あえて話題を変えるように笑う。

 

「リシェルに教えてもらった成果、ちゃんと見せるから!」

 

 その笑顔に、リシェルも少しだけ表情を和らげた。

 

「……うん。」

 

「楽しみにしてる。」

 

「任せて!」

 

 エレノアは元気よく胸を張る。

 

「リシェルに『すごい』って言ってもらえるくらい頑張る!」

 

「……もう十分すごいよ。」

 

「え?」

 

 思わぬ言葉に、エレノアは目をぱちぱちと瞬かせた。

 

「今まで、たくさん努力してきた。」

 

「だから、自信を持って。」

 

 優しい声だった。

 

 その言葉を聞いたエレノアは、思わず笑みをこぼす。

 

「ありがとう。」

 

「その一言だけで、明日は何でもできる気がする。」

 

 リシェルも小さく微笑んだ。

 

     ◇

 

 帰り道。

 

 夕日に照らされながら並んで歩く二人。

 

 エレノアはリシェルの横顔をそっと見つめる。

 

(家族のこと……。)

 

(いつか話してくれる日が来るのかな。)

 

 無理に聞くつもりはない。

 

 話したくなった時に、隣で聞いてあげられる存在になりたい。

 

 それが今のエレノアの願いだった。

 

 一方のリシェルは、静かに空を見上げる。

 

 明日は体育祭。

 

 今までなら、ただの学院行事でしかなかった。

 

 けれど今年は違う。

 

 隣には、自分を信じてくれる人がいる。

 

 その事実が、少しだけ心強く感じられた。

 

 夏空の下、二人は明日に向かって歩き続ける。

 

 それぞれの想いを胸に抱きながら。

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