家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される 作:めろんちゃん
体育祭が終わって数日。
捻挫をしたリシェルの足もすっかり回復し、学院にはいつもの日常が戻ってきていた。
放課後。
担任教師が教卓を軽く叩く。
「今日は体育祭お疲れ様ということで、希望者だけで街のレストランを貸し切って打ち上げをする!もちろん俺の奢りだ!」
教室中から歓声が上がる。
「やったー!」
「絶対行く!」
「二位だったけど最高だったもんな!」
そんな中、エレノアは隣の席を見た。
「リシェル、一緒に行こう!」
リシェルは少しだけ困ったような表情を浮かべる。
「……大勢は少し苦手。」
「でも、エレノアが行くなら。」
その返事に、エレノアは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一緒に楽しもう!」
◇
夕方。
貸し切りのレストランは、生徒たちの笑い声でいっぱいだった。
「乾杯!」
「体育祭、お疲れ様ー!」
グラスが触れ合う音が店内に響く。
エレノアはクラスメイトと話しながらも、時折リシェルの様子を気にしていた。
最初は静かに料理を食べていたリシェルだったが――。
「あのさリシェル!」
「氷の花の魔法、本当に綺麗だった!」
「お願い!私に勉強を教えて!」
「今度、一緒に図書館行かない?」
「首席って普段どれくらい勉強してるの?」
次々とクラスメイトが集まってくる。
普段は話しかける機会が少ないからか、みんな興味津々だった。
「……ありがとう。」
「……そう、ですか。」
「……時間があれば。」
リシェルは一人ひとりに丁寧に返事をする。
けれど、その笑顔はどこかぎこちない。
相槌を打ちながらも、肩には少しずつ力が入っていく。
無理をしている。
エレノアには、それがすぐに分かった。
(リシェル……。)
笑っているように見えて、本当は困ってる。
それは、一緒に過ごしてきたエレノアだから気付けたことだった。
◇
エレノアはそっとリシェルの隣へ近付く。
「リシェル。」
「……なに?」
「ちょっと外の空気、吸いに行こ?」
その一言だけで、リシェルはすべてを察した。
「……うん。」
エレノアはクラスメイトへ笑顔を向ける。
「ごめんね! リシェルと少し散歩してくる!」
「また戻ってくるかも!」
「いってらっしゃーい!」
誰も引き止めることはなかった。
二人は静かに店をあとにする。
◇
夜風が心地よく頬を撫でる。
喧騒から離れた通りを並んで歩くと、リシェルは小さく息を吐いた。
「……助かった。」
「やっぱり。」
エレノアは優しく笑う。
「少し苦しそうだったもん。」
「分かった?」
「もちろん。」
「リシェルのことだもん。」
その言葉に、リシェルは少し照れたように目を伏せる。
「……ありがとう。」
「無理してる時の顔、私には分かるよ。」
「だから、遠慮しなくていい。」
リシェルは静かに頷いた。
誰かが自分の気持ちを察してくれる。
そんな経験は、これまで一度もなかった。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
◇
「ねぇ!」
エレノアが突然立ち止まる。
「せっかく抜け出してきたんだからさ。」
「私たちだけで打ち上げしよう!」
「二人だけ?」
「うん!」
「小さな打ち上げ!」
リシェルは少し考えたあと、小さく笑う。
「……いいね。」
「でしょ!」
二人は近くの小さなカフェへ入った。
店内は落ち着いた雰囲気で、人も少ない。
窓際の席に座ると、それぞれ好きな飲み物とケーキを注文した。
「乾杯!」
ジュースの入ったグラスを軽く合わせる。
「体育祭、お疲れ様!」
「……お疲れ様。」
二人は顔を見合わせて笑った。
「結局、優勝はできなかったね。」
エレノアが少しだけ残念そうに呟く。
「でも。」
リシェルが続ける。
「私は今年の体育祭が、一番楽しかった。」
「えっ……?」
エレノアは驚いたように目を見開く。
「本当?」
「……うん。」
「エレノアと一緒だったから。」
その言葉に、エレノアの胸は高鳴る。
「私も。」
「今までで一番楽しかった!」
二人は笑い合いながらケーキを口に運ぶ。
クラスのみんなと賑やかな打ち上げも悪くない。
けれど――。
リシェルにとっては、この静かな時間の方がずっと心地よかった。
隣には、自分の気持ちを何も言わなくても分かってくれる人がいる。
それだけで十分だった。
夏の終わりを感じさせる夜風が窓を揺らす。
体育祭は終わった。
けれど、二人の物語はまだ始まったばかり。
今日という思い出もまた、二人の心に優しく刻まれていくのだった。