家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される   作:めろんちゃん

15 / 22
第15話2人だけの打ち上げ

 

 体育祭が終わって数日。

 

 捻挫をしたリシェルの足もすっかり回復し、学院にはいつもの日常が戻ってきていた。

 

 放課後。

 

 担任教師が教卓を軽く叩く。

 

「今日は体育祭お疲れ様ということで、希望者だけで街のレストランを貸し切って打ち上げをする!もちろん俺の奢りだ!」

 

 教室中から歓声が上がる。

 

「やったー!」

 

「絶対行く!」

 

「二位だったけど最高だったもんな!」

 

 そんな中、エレノアは隣の席を見た。

 

「リシェル、一緒に行こう!」

 

 リシェルは少しだけ困ったような表情を浮かべる。

 

「……大勢は少し苦手。」

 

「でも、エレノアが行くなら。」

 

 その返事に、エレノアは嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、一緒に楽しもう!」

 

     ◇

 

 夕方。

 

 貸し切りのレストランは、生徒たちの笑い声でいっぱいだった。

 

「乾杯!」

 

「体育祭、お疲れ様ー!」

 

 グラスが触れ合う音が店内に響く。

 

 エレノアはクラスメイトと話しながらも、時折リシェルの様子を気にしていた。

 

 最初は静かに料理を食べていたリシェルだったが――。

 

「あのさリシェル!」

 

「氷の花の魔法、本当に綺麗だった!」

 

「お願い!私に勉強を教えて!」

 

「今度、一緒に図書館行かない?」

 

「首席って普段どれくらい勉強してるの?」

 

 次々とクラスメイトが集まってくる。

 

 普段は話しかける機会が少ないからか、みんな興味津々だった。

 

「……ありがとう。」

 

「……そう、ですか。」

 

「……時間があれば。」

 

 リシェルは一人ひとりに丁寧に返事をする。

 

 けれど、その笑顔はどこかぎこちない。

 

 相槌を打ちながらも、肩には少しずつ力が入っていく。

 

 無理をしている。

 

 エレノアには、それがすぐに分かった。

 

(リシェル……。)

 

 笑っているように見えて、本当は困ってる。

 

 それは、一緒に過ごしてきたエレノアだから気付けたことだった。

 

     ◇

 

 エレノアはそっとリシェルの隣へ近付く。

 

「リシェル。」

 

「……なに?」

 

「ちょっと外の空気、吸いに行こ?」

 

 その一言だけで、リシェルはすべてを察した。

 

「……うん。」

 

 エレノアはクラスメイトへ笑顔を向ける。

 

「ごめんね! リシェルと少し散歩してくる!」

 

「また戻ってくるかも!」

 

「いってらっしゃーい!」

 

 誰も引き止めることはなかった。

 

 二人は静かに店をあとにする。

 

     ◇

 

 夜風が心地よく頬を撫でる。

 

 喧騒から離れた通りを並んで歩くと、リシェルは小さく息を吐いた。

 

「……助かった。」

 

「やっぱり。」

 

 エレノアは優しく笑う。

 

「少し苦しそうだったもん。」

 

「分かった?」

 

「もちろん。」

 

「リシェルのことだもん。」

 

 その言葉に、リシェルは少し照れたように目を伏せる。

 

「……ありがとう。」

 

「無理してる時の顔、私には分かるよ。」

 

「だから、遠慮しなくていい。」

 

 リシェルは静かに頷いた。

 

 誰かが自分の気持ちを察してくれる。

 

 そんな経験は、これまで一度もなかった。

 

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 

     ◇

 

「ねぇ!」

 

 エレノアが突然立ち止まる。

 

「せっかく抜け出してきたんだからさ。」

 

「私たちだけで打ち上げしよう!」

 

「二人だけ?」

 

「うん!」

 

「小さな打ち上げ!」

 

 リシェルは少し考えたあと、小さく笑う。

 

「……いいね。」

 

「でしょ!」

 

 二人は近くの小さなカフェへ入った。

 

 店内は落ち着いた雰囲気で、人も少ない。

 

 窓際の席に座ると、それぞれ好きな飲み物とケーキを注文した。

 

「乾杯!」

 

 ジュースの入ったグラスを軽く合わせる。

 

「体育祭、お疲れ様!」

 

「……お疲れ様。」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。

 

「結局、優勝はできなかったね。」

 

 エレノアが少しだけ残念そうに呟く。

 

「でも。」

 

 リシェルが続ける。

 

「私は今年の体育祭が、一番楽しかった。」

 

「えっ……?」

 

 エレノアは驚いたように目を見開く。

 

「本当?」

 

「……うん。」

 

「エレノアと一緒だったから。」

 

 その言葉に、エレノアの胸は高鳴る。

 

「私も。」

 

「今までで一番楽しかった!」

 

 二人は笑い合いながらケーキを口に運ぶ。

 

 クラスのみんなと賑やかな打ち上げも悪くない。

 

 けれど――。

 

 リシェルにとっては、この静かな時間の方がずっと心地よかった。

 

 隣には、自分の気持ちを何も言わなくても分かってくれる人がいる。

 

 それだけで十分だった。

 

 夏の終わりを感じさせる夜風が窓を揺らす。

 

 体育祭は終わった。

 

 けれど、二人の物語はまだ始まったばかり。

 

 今日という思い出もまた、二人の心に優しく刻まれていくのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。