家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される   作:めろんちゃん

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第16話初めて待ち遠しい夏休み

 体育祭が終わってから一週間。

 

 学院には再び穏やかな日常が戻り、生徒たちは夏休みを目前に浮き足立っていた。

 

 教室では授業が終わるたびに、あちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。

 

「今年こそは海へ行くぞ!」

 

「私はおばあちゃんの家!」

 

「みんなで花火大会にでも行こうよ!」

 

 そんな会話が飛び交う中、エレノアは机に突っ伏した。

 

「うぅ……。」

 

「どうしたの?」

 

 隣の席のリシェルが首を傾げる。

 

「宿題……。」

 

 エレノアは教師から配られた分厚い冊子を持ち上げる。

 

「こんなの終わる気がしないよ~。」

 

 教室中から笑いが起きた。

 

「毎年そう言ってるじゃん!」

 

「エレノアは最終日に泣くタイプだよね」

 

「違うもん!」

 

 頬を膨らませるエレノア。

 

 そんな様子を見て、リシェルは小さく笑った。

 

「計画的にやれば終わる。」

 

「リシェルだから言えるんだよ……。」

 

「私は毎年ギリギリなの。」

 

「じゃあ、一緒にやる?」

 

 何気ない一言だった。

 

 エレノアは目を丸くする。

 

「え?」

 

「宿題。」

 

「一緒なら、早く終わると思う。」

 

「ほ、本当!?」

 

 リシェルは静かに頷いた。

 

「うん。」

 

「教えられるところは教える。」

 

 エレノアは思わず立ち上がる。

 

「やったー!」

 

「今年の夏休みは勝ったね!」

 

 教室中から笑い声が上がる。

 

     ◇

 

 放課後。

 

 二人はいつものように並んで帰っていた。

 

 夕日に照らされた石畳を歩きながら、エレノアが楽しそうに話し始める。

 

「夏休みって楽しみだよね。」

 

「家族で旅行もあるし、家でゴロゴロも出来るし〜。」

 

「リシェルは毎年どんな夏休みを過ごしてるの?」

 

 その問いかけに、リシェルの足が少しだけ止まる。

 

「……私?」

 

「うん!」

 

 少しだけ沈黙が流れた。

 

「毎年……。」

 

 リシェルは遠くを見るような目をした。

 

「家で本を読んだり。」

 

「魔法の勉強をしたり。」

 

「庭で魔法の練習をしたり。」

 

「それだけ。」

 

 エレノアは少し驚く。

 

「友達とは?」

 

「……いない。」

 

「旅行とかは?」

 

 リシェルは静かに首を横へ振った。

 

「したことない。」

 

「夏祭りも、花火大会も……。」

 

「行ったことない。」

 

 その言葉に、エレノアは胸が締め付けられた。

 

「じゃあ……。」

 

「ずっと、一人?」

 

「……うん。」

 

 リシェルは小さく微笑む。

 

「慣れてるから。」

 

 その笑顔は、どこか寂しそうだった。

 

「昔から、夏休みは静かだった。」

 

「誰とも話さなくても、一日が終わることもよくあった。」

 

「朝起きて、本を読んで、ご飯を食べて、また勉強して……。」

 

「気が付いたら夜になってる。」

 

 淡々と語るその日常は、本人にとっては当たり前だった。

 

 けれど、エレノアにはとても寂しいものに聞こえた。

 

「……そっか。」

 

 リシェルは空を見上げる。

 

「だから、夏休みは好きでも嫌いでもなかった。」

 

「ただ、長い休みっていうだけ。」

 

     ◇

 

 二人は学院近くの公園へ立ち寄り、ベンチに腰掛ける。

 

 蝉の鳴き声が、夏の訪れを知らせていた。

 

 エレノアは少し考え込んだあと、ぱっと笑顔になった。

 

「じゃあ!」

 

「今年の夏休みは違うね!」

 

「え?」

 

「一人じゃない!」

 

「宿題は一緒にやるし、街にも遊びに行こう!」

 

「夏祭りも、花火大会も、かき氷も!」

 

「やりたいこと全部やろう!」

 

 勢いよく並べられた予定に、リシェルは思わず目を瞬かせた。

 

「そんなに……?」

 

「もちろん!」

 

「今年は私がリシェルを連れ回すから!」

 

 胸を張るエレノアに、リシェルはくすっと笑う。

 

「……大変そう。」

 

「あっ、笑った!」

 

「今笑ったよね!」

 

「……少しだけ。」

 

「その笑顔、もっと見たいな。」

 

 真っ直ぐな言葉に、リシェルは少し照れたように目を逸らした。

 

「……努力する。」

 

「うん!」

 

 エレノアは嬉しそうに頷いた。

 

     ◇

 

 帰り道。

 

 夕焼けに染まる街を歩きながら、リシェルは胸の奥の小さな変化に気付いていた。

 

 今までの夏休みは、ただ時間が過ぎるのを待つだけだった。

 

 けれど今年は違う。

 

 誰かと約束がある。

 

 誰かと会う予定がある。

 

 「一緒に過ごそう」と言ってくれる人がいる。

 

 そんな夏休みは、初めてだった。

 

 自然と口元が緩む。

 

 ――夏休みが待ち遠しい。

 

 その気持ちを抱いたのも、きっと初めてだった。

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