家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される 作:めろんちゃん
夏休みに入って二日目
照りつける日差しの中、リシェルはエレノアの家を訪れていた。
「いらっしゃい、リシェル!」
玄関を開けたエレノアは、リシェルの姿を見て思わず言葉を失った。
今日のリシェルは学院の制服ではなく、先日隣町で買った淡い水色のワンピースを身にまとっていた。
風に揺れる白銀の長い髪。
涼しげな色合いの服は、透き通るような白い肌によく映え、どこか儚い雰囲気をより一層引き立てている。
見るのは二度目のはずなのに慣れる気がしなかった。
「……どうしたの?」
不思議そうに首を傾げるリシェル。
「えっ!? な、なんでもない!」
慌てて顔を逸らすエレノア。
(か、かわいい……。)
(制服姿も素敵だけど、私服だとまた違う……。)
胸がどきどきと高鳴り、顔が熱くなる。
「お邪魔します。」
「う、うん! 入って!」
◇
二人はエレノアの部屋へ向かい、机を並べて宿題を広げた。
「今日は午前中でできるところまで終わらせよう。」
リシェルは慣れた手つきで問題集を開く。
「計画通りに進めれば、あとが楽になる。」
「はい、先生……。」
エレノアは苦笑しながら鉛筆を握る。
しばらく部屋には紙をめくる音だけが響いていた。
しかし――。
(……集中できない。)
エレノアはちらりと隣を見る。
リシェルは真剣な表情で問題を解いている。
横顔がきれいだった。
時折さらりと揺れる白銀の髪に思わず目がいってしまう。
(かわいい……。)
(あの服、本当に似合ってる……。)
気付けば問題集ではなく、リシェルばかり見ていた。
そのとき、リシェルが少し身を乗り出す。
「エレノア。」
「ひゃいっ!」
突然名前を呼ばれ、思わず変な声が出る。
リシェルはきょとんとしていた。
「さっきから三分くらい、問題が進んでない。」
「えっ?」
机を見ると、一問目の途中で鉛筆が止まっていた。
「ほ、本当だ……。」
「何か考え事?」
優しく尋ねられ、エレノアは慌てて首を横に振る。
「な、なんでもないよ!」
(『私服姿がかわいすぎて集中できません』なんて言えるわけないよぉ……。)
心の中で頭を抱える。
リシェルは理由が分からないまま、小さく首を傾げた。
「疲れたなら少し休憩する?」
「だ、大丈夫!」
「今度こそ頑張る!」
そう言って問題集に向き直る。
……五分後。
また視線がリシェルへ向かってしまう。
リシェルは少し体をずらし、エレノアのノートを覗き込むように近づいた。
「ここ、さっきの式と同じ考え方。」
その瞬間、距離が一気に縮まる。
肩が触れそうなほど近く、リシェルの髪がふわりとエレノアの頬にかかる。
「……っ。」
(ち、近い……!)
エレノアの心臓が跳ねる。
さらにリシェルは無意識のまま、指でノートの一点を示すために体を少し前に傾けた。
結果、顔がすぐ目の前に来る。
真剣な瞳。
静かな呼吸。
ほんのりとした距離。
(む、無理……!)
エレノアは慌てて視線を逸らす。
「エレノア?」
「は、はい!」
「また止まってる。」
「うぅ……。」
リシェルは少しだけ笑みを浮かべた。
「今日は調子が悪い日?」
「そ、そうかも……。」
エレノアは苦笑するしかなかった。
◇
昼前。
宿題は思った以上に進み、エレノアは大きく伸びをした。
「終わったぁ!」
「思ってたより進んだ!」
「お疲れ様。」
リシェルは温かい紅茶を二人分用意する。
「ありがとう。」
甘いお菓子を食べながら、一息つく。
「リシェルって、本当に教えるの上手だね。」
「そう?」
「うん!」
「難しいところもすぐ分かるし。」
リシェルは少し照れくさそうに微笑んだ。
「役に立てたなら良かった。」
◇
窓の外では、青空に入道雲が浮かんでいる。
エレノアはその景色を眺めながら、ぱっと顔を上げた。
「そうだ!」
「宿題もこんなに進んだし、ご褒美にどこか遊びに行こうよ!」
「遊び?」
「うん!」
「この前買った水着もあるし……。」
エレノアは目を輝かせる。
「明日、海に行かない?」
その言葉に、リシェルは少し驚いた表情を見せる。
「海……。」
「行ったことある?」
静かに首を横へ振る。
「ない。」
「じゃあ決まり!」
エレノアは嬉しそうに笑った。
「明日はリシェルに、夏の海を案内するね!」
リシェルは窓の向こうの青空を見つめ、小さく微笑む。
「……うん。」
「楽しみ。」
その穏やかな笑顔を見たエレノアは、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
こうして二人は、新しい夏の思い出へ向けて、小さな約束を交わすのだった。