家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される   作:めろんちゃん

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第18話宿題と海の約束

 

 夏休みに入って二日目

 

 照りつける日差しの中、リシェルはエレノアの家を訪れていた。

 

「いらっしゃい、リシェル!」

 

 玄関を開けたエレノアは、リシェルの姿を見て思わず言葉を失った。

 

 今日のリシェルは学院の制服ではなく、先日隣町で買った淡い水色のワンピースを身にまとっていた。

 

 風に揺れる白銀の長い髪。

 

 涼しげな色合いの服は、透き通るような白い肌によく映え、どこか儚い雰囲気をより一層引き立てている。

 

見るのは二度目のはずなのに慣れる気がしなかった。

 

「……どうしたの?」

 

 不思議そうに首を傾げるリシェル。

 

「えっ!? な、なんでもない!」

 

 慌てて顔を逸らすエレノア。

 

(か、かわいい……。)

 

(制服姿も素敵だけど、私服だとまた違う……。)

 

 胸がどきどきと高鳴り、顔が熱くなる。

 

「お邪魔します。」

 

「う、うん! 入って!」

 

     ◇

 

 二人はエレノアの部屋へ向かい、机を並べて宿題を広げた。

 

「今日は午前中でできるところまで終わらせよう。」

 

 リシェルは慣れた手つきで問題集を開く。

 

「計画通りに進めれば、あとが楽になる。」

 

「はい、先生……。」

 

 エレノアは苦笑しながら鉛筆を握る。

 

 しばらく部屋には紙をめくる音だけが響いていた。

 

 しかし――。

 

(……集中できない。)

 

 エレノアはちらりと隣を見る。

 

 リシェルは真剣な表情で問題を解いている。

 

 横顔がきれいだった。

 

 時折さらりと揺れる白銀の髪に思わず目がいってしまう。

 

(かわいい……。)

 

(あの服、本当に似合ってる……。)

 

 気付けば問題集ではなく、リシェルばかり見ていた。

 

 そのとき、リシェルが少し身を乗り出す。

 

「エレノア。」

 

「ひゃいっ!」

 

 突然名前を呼ばれ、思わず変な声が出る。

 

 リシェルはきょとんとしていた。

 

「さっきから三分くらい、問題が進んでない。」

 

「えっ?」

 

 机を見ると、一問目の途中で鉛筆が止まっていた。

 

「ほ、本当だ……。」

 

「何か考え事?」

 

 優しく尋ねられ、エレノアは慌てて首を横に振る。

 

「な、なんでもないよ!」

 

(『私服姿がかわいすぎて集中できません』なんて言えるわけないよぉ……。)

 

 心の中で頭を抱える。

 

 リシェルは理由が分からないまま、小さく首を傾げた。

 

「疲れたなら少し休憩する?」

 

「だ、大丈夫!」

 

「今度こそ頑張る!」

 

 そう言って問題集に向き直る。

 

 ……五分後。

 

 また視線がリシェルへ向かってしまう。

 

 リシェルは少し体をずらし、エレノアのノートを覗き込むように近づいた。

 

「ここ、さっきの式と同じ考え方。」

 

 その瞬間、距離が一気に縮まる。

 

 肩が触れそうなほど近く、リシェルの髪がふわりとエレノアの頬にかかる。

 

「……っ。」

 

(ち、近い……!)

 

 エレノアの心臓が跳ねる。

 

 さらにリシェルは無意識のまま、指でノートの一点を示すために体を少し前に傾けた。

 

 結果、顔がすぐ目の前に来る。

 

 真剣な瞳。

 

 静かな呼吸。

 

 ほんのりとした距離。

 

(む、無理……!)

 

 エレノアは慌てて視線を逸らす。

 

「エレノア?」

 

「は、はい!」

 

「また止まってる。」

 

「うぅ……。」

 

 リシェルは少しだけ笑みを浮かべた。

 

「今日は調子が悪い日?」

 

「そ、そうかも……。」

 

 エレノアは苦笑するしかなかった。

 

     ◇

 

 昼前。

 

 宿題は思った以上に進み、エレノアは大きく伸びをした。

 

「終わったぁ!」

 

「思ってたより進んだ!」

 

「お疲れ様。」

 

 リシェルは温かい紅茶を二人分用意する。

 

「ありがとう。」

 

 甘いお菓子を食べながら、一息つく。

 

「リシェルって、本当に教えるの上手だね。」

 

「そう?」

 

「うん!」

 

「難しいところもすぐ分かるし。」

 

 リシェルは少し照れくさそうに微笑んだ。

 

「役に立てたなら良かった。」

 

     ◇

 

 窓の外では、青空に入道雲が浮かんでいる。

 

 エレノアはその景色を眺めながら、ぱっと顔を上げた。

 

「そうだ!」

 

「宿題もこんなに進んだし、ご褒美にどこか遊びに行こうよ!」

 

「遊び?」

 

「うん!」

 

「この前買った水着もあるし……。」

 

 エレノアは目を輝かせる。

 

「明日、海に行かない?」

 

 その言葉に、リシェルは少し驚いた表情を見せる。

 

「海……。」

 

「行ったことある?」

 

 静かに首を横へ振る。

 

「ない。」

 

「じゃあ決まり!」

 

 エレノアは嬉しそうに笑った。

 

「明日はリシェルに、夏の海を案内するね!」

 

 リシェルは窓の向こうの青空を見つめ、小さく微笑む。

 

「……うん。」

 

「楽しみ。」

 

 その穏やかな笑顔を見たエレノアは、胸の奥が温かくなるのを感じていた。

 

 こうして二人は、新しい夏の思い出へ向けて、小さな約束を交わすのだった。

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