家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される 作:めろんちゃん
猫と遊んだ日から数日後。
夏休みはまだ中盤に差しかかったばかりで、街にはのんびりとした空気が流れていた。
エレノアは歩きながら、ふと空を見上げる。
「もう夏休みも、半分くらい終わっちゃったね」
「……そうだね」
リシェルは小さく頷く。
エレノアは少しだけ間を置いてから続けた。
「でもさ、まだやりたいこといっぱいあるよね」
「……うん」
その返事を聞いて、エレノアは少しだけ笑う。
「実はね、お父さんとお母さん、今日から旅行なんだ」
「だから今日と明日、家に一人でさ」
少しだけ視線を落としてから、エレノアはリシェルを見る。
「……もしよかったら、また泊まりに来ない?」
リシェルは一瞬だけ目を瞬かせた。
すぐに、以前の夜のことを思い出す。
静かで、少しだけ温かかった時間。
「……うん」
「行く」
「ほんと?」
エレノアの声が少し弾む。
「うん」
「じゃあ決まりだね」
◇
夕方、二人はエレノアの家へ向かう途中、商店街に寄った。
「晩ご飯どうする?」
「外で食べる?」
エレノアがそう聞くと、リシェルは少し考えてから首を横に振る。
「……作ってみたい」
「え?」
エレノアは思わず足を止める。
「リシェルが?」
「うん」
「本で少し見たから」
「できるかは分からないけど」
その言葉に、エレノアはぱっと笑顔になる。
「いいじゃん、それ!」
「一緒に作ろうよ!」
◇
買い物を終え、二人はキッチンに立つ。
「じゃあシチューにしよっか」
「私は野菜切るね」
「じゃあ私はお肉担当!」
包丁を持つリシェルの手つきは、思ったより落ち着いていた。
「意外と慣れてる?」
「……一人のとき、簡単なのは作ってた」
その言葉に、エレノアは一瞬だけ言葉を止める。
「そっか」
それ以上は何も言わず、にこっと笑った。
「じゃあ今日は二人だから、もっとおいしくなるね!」
「……うん」
◇
「いただきます」
二人で手を合わせる。
「おいしい!」
「リシェル、ほんとに上手!」
「……エレノアも」
「一緒に作ったから、美味しいのかも……」
その言葉に、エレノアは嬉しそうに笑った。
◇
夜。
片付けとお風呂を終え、部屋には静かな時間が流れていた。
「ねえ」
エレノアがふと思い出したように顔を上げる。
「今日さ、パジャマパーティーしない?」
「……パジャマパーティー?」
「うん」
「前はバタバタしててちゃんと見てなかったし」
「せっかくだし!」
リシェルは少し考えてから、小さく頷く。
「……分かった」
◇
先に出てきたのはエレノアだった。
ふわふわしたピンクのパジャマを着て、少しだけ落ち着かない様子で立っている。
「ど、どうかな?」
リシェルは少しだけ見てから答える。
「……似合ってる」
「かわいい」
「っ……」
エレノアは一瞬固まってから、顔を赤くする。
「そ、そういうの急に言わないでよ……」
「じゃ、じゃあ次リシェル!」
◇
扉が開く。
白いシンプルなパジャマ姿のリシェルが静かに立っていた。
濡れたような白銀の髪が肩に落ちている。
「…………」
エレノアは一瞬、言葉を失う。
(……なにこれ)
(かわいいとかじゃなくて……きれいすぎる)
「エレノア?」
「えっ、あ、うん!」
慌てて首を振る。
「すごく似合ってる!」
「ほんとに」
「……ありがとう」
リシェルは少しだけ視線を逸らす。
「エレノアも、似合ってる」
「っ……!」
「そ、そういうの……普通に言うのやめてよ……!」
部屋に小さな笑い声が広がる。
窓の外では、夏の夜風が静かに揺れていた。