家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される   作:めろんちゃん

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第3話知りたい気持ち

 

 翌日。

 

 いつものようにリシェルは誰よりも早く教室へ入り、一番後ろの窓際の席で本を開いていた。

 

 ページをめくる音だけが静かに響く。

 

 そこへ、教室の扉が勢いよく開いた。

 

「リシェル、おはよう!」

 

 明るい声。

 

 昨日も聞いた声だった。

 

「……おはよう。」

 

 短い返事。

 

 それだけでエレノアの顔はぱっと明るくなる。

 

「今日はちゃんと『おはよう』って言ってくれた!」

 

「昨日も言った。」

 

「でも今日は昨日よりも自然だったよ!」

 

「……そう。」

 

 リシェルは首を傾げる。

 

 何がそんなに嬉しいのか、本当に分からない。

 

 エレノアはそのまま隣に立ち、楽しそうに話し始めた。

 

「今日は実技の授業のあとは自由時間だよね?」

 

「……うん。」

 

「リシェルってよく本を読んでるけど図書館とかよく行くの?」

 

「まあ、行くよ」

 

「そっか。」

 

 また短い会話。

 

 それでもエレノアは満足そうだった。

 

     ◇

 

 休み時間。

 

 エレノアが飲み物を買いに廊下へ出ると、同じクラスの女子生徒たちが話しかけてきた。

 

「またリシェルに話しかけてるんだ。」

 

「やめといた方がいいよ。」

 

「何考えてるか分からないし。」

 

「誰とも仲良くしない子だから。」

 

「冷たいしね。」

 

 エレノアは足を止めた。

 

「違うよ。」

 

 思わず声が出た。

 

 女子生徒たちが驚いて呟く。

 

「え?」

 

「リシェルは冷たいんじゃない。」

 

「え、でも……。」

 

「ちゃんと返事してくれるもん。」

 

 みんなが顔を見合わせる。

 

「それだけ?」

 

「うん!」

 

 エレノアは笑った。

 

「返事してくれるってことは、お話するのが嫌なわけじゃないんだよ。」

 

「ただ、どう話せばいいか分からないだけじゃないかな。」

 

「だから私は諦めない。」

 

 その言葉に、女子生徒たちは困ったように笑った。

 

「エレノアらしいね。」

 

「でも頑張って。」

 

「ありがとう!」

 

 そう言ってエレノアは軽く手を振る。

 

(噂なんて関係ない。)

 

(私は私が見たリシェルを信じたい。)

 

     ◇

 

 放課後。

 

 学院の図書館。

 

 高い本棚が並び、静寂が広がる場所。

 

 リシェルは一冊の魔法書を手に取り、窓際の席へ座った。

 

 しばらくして、小さな足音が近づく。

 

「やっぱりここにいた。」

 

 リシェルは顔を上げる。

 

「……」

 

「隣、座ってもいい?」

 

「図書館だから静かに。」

 

「うん!」

 

 エレノアは小声で返事をすると、向かいの席へ腰掛けた。

 

 本を開く。

 

 ……が。

 

 数分後。

 

 ちらっ。

 

 また、ちらっ。

 

 何度も視線を感じる。

 

「……何。」

 

「えっ!? ばれてた?」

 

「さっきから見てる。」

 

「ご、ごめん。」

 

 エレノアは照れくさそうに笑う。

 

「本を読んでるリシェルも綺麗だなって思って。」

 

「……。」

 

 リシェルは返事に困った。

 

 綺麗。

 

 そんな言葉を向けられても、どう受け止めればいいのか分からない。

 

「その本、面白い?」

 

 エレノアが話題を変える。

 

「魔力制御の理論書。」

 

「難しそう……。」

 

「読む?」

 

「うーん……たぶん三ページで寝る!」

 

 思わず、リシェルの口元がほんの少しだけ緩んだ。

 

 本当に、一瞬だけ。

 

 だが、その変化をエレノアは見逃さなかった。

 

「……今、笑った?」

 

「笑ってない。」

 

「笑ったよね?」

 

「気のせい。」

 

「絶対笑った!」

 

 嬉しそうに声を弾ませるエレノア。

 

 その声は、静かな図書館の中では少しだけ響いてしまった。

 

「……こほん。」

 

 その時。

 

 近くの本棚の影から、控えめな咳払いが聞こえた。

 

 二人が振り向く。

 

 そこには、腕に本を抱えた図書委員の少女が立っていた。

 

「ごめんなさい。楽しそうなのはいいんだけど……ここ、図書館だから。」

 

 図書委員は困ったように微笑む。

 

「少しだけ静かにしてもらえると助かるかな。」

 

「あっ……!」

 

 エレノアは慌てて口元を押さえる。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 小声で謝るエレノア。

 

 リシェルも続いて謝った。

 

「……すみません。」

 

「ううん。仲が良いのはいいことだから。」

 

 そう言って図書委員は去っていく。

 

 その背中を見送りながら、エレノアは小さく笑った。

 

「怒られちゃったね。」

 

「あなたが騒ぐから。」

 

「リシェルも笑ってたじゃん。」

 

「……。」

 

 反論できない。

 

 確かに、少しだけ楽しかった。

 

 そんな自分に、リシェル自身が一番驚いていた。

 

 誰かと一緒にいて。

 

 誰かと話をして。

 

 少しだけ心が軽くなる。

 

 そんな感覚は、いつ以来だろう。

 

 胸の奥が落ち着かない。

 

 けれど、不思議と嫌ではなかった。

 

 エレノアはそんなリシェルを見つめながら、静かに思う。

 

(やっと見つけた。)

 

(あなたの小さな笑顔。)

 

 その笑顔を、もっと見たい。

 

 もっと近くで。

 

 もっとたくさん。

 

 そんな想いは、昨日よりも少しだけ大きくなっていた。

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