家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される   作:めろんちゃん

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第5話約束のご褒美

 

 午前最後の授業。

 

 魔法理論学。

 

 担当教師が黒板いっぱいに魔法陣を書きながら説明を続けていた。

 

「この術式では魔力の流れを三方向へ分岐させることが重要だ。次回の小テストにも出題するから、しっかり復習しておくように。」

 

「はーい。」

 

 教室から返事が返る。

 

 その中で一人だけ、机に突っ伏しそうになっている少女がいた。

 

「うぅ……。」

 

 エレノアだった。

 

「また難しくなってきた……。」

 

 授業が終わると、彼女は机に突っ伏したまま大きくため息をつく。

 

「魔法実技は好きなのに、理論だけは全然頭に入らないよぉ……。」

 

 その様子を見たリシェルは、本を閉じて静かに立ち上がった。

 

「……エレノア。」

 

「へ?」

 

 名前を呼ばれ、エレノアは顔を上げる。

 

「分からないところ教えてあげる」

 

「え、うん。でも迷惑じゃない?」

 

「別に。」

 

 リシェルはエレノアのノートを手に取る。

 

 そこには途中まで書かれた式と、大きく書かれた『???』の文字。

 

 思わず口元が少し緩む。

 

「ここ。」

 

 リシェルはペンを取り、ノートへ丁寧に図を書き始めた。

 

「魔力は一度に全部流すんじゃない。」

 

「まず一つに集めてから分ける。」

 

「あ……。」

 

「水路を想像すると分かりやすい。」

 

「大きな川から三本に分かれる感じ。」

 

 エレノアの目がぱっと輝く。

 

「そういうことだったんだ!」

 

「先生の説明より分かりやすい!」

 

「……それは先生に失礼。」

 

 少しだけ呆れたように言うリシェル。

 

 その表情は、以前よりずっと柔らかかった。

 

     ◇

 

 それから数日間。

 

 放課後になると、二人は図書館で勉強をするようになった。

 

「ここは?」

 

「違う。」

 

「じゃあこっち?」

 

「惜しい。」

 

「やった!」

 

 エレノアは間違えても諦めない。

 

 リシェルも、そんな彼女に根気よく教え続けた。

 

「リシェルって先生になれるよ。」

 

「向いてない。」

 

「えー? 私は好きだけどな。」

 

 その一言に、リシェルは少しだけ照れたように視線を逸らした。

 

     ◇

 

 小テスト前日。

 

「ねぇ、リシェル。」

 

「なに?」

 

「もし私がいい点取れたら、褒めてくれる?」

 

 期待に満ちた瞳。

 

 リシェルは少しだけ考え、小さく息を吐く。

 

「……そうね。」

 

「八十点以上取れたら。」

 

「うん!」

 

「何か一つ、あなたのお願いを聞いてあげる。」

 

 一瞬、エレノアの動きが止まる。

 

「えっ、本当に?」

 

「約束。」

 

「やったー!」

 

 エレノアは拳を握り締めた。

 

「絶対に八十点以上取る!」

 

 その瞳は、今までで一番輝いていた。

 

     ◇

 

 そして迎えた小テスト当日。

 

 教室には緊張した空気が流れる。

 

「それでは始め。」

 

 教師の合図で一斉に問題を解き始める。

 

 エレノアは何度もリシェルと勉強したことを思い出しながら、一つひとつ丁寧に答えを書いていった。

 

     ◇

 

 数日後。

 

「返却するぞ。」

 

 教師が答案を配り始める。

 

 エレノアは恐る恐る紙を裏返した。

 

「……え?」

 

 大きく書かれた数字。

 

 九十二点。

 

「やったぁ!」

 

 思わず立ち上がってしまう。

 

「エレノア、座りなさい。」

 

「あっ、ご、ごめんなさい!」

 

 教室に笑いが広がる。

 

 リシェルも小さく微笑んでいた。

 

     ◇

 

 放課後。

 

 中庭で待っていたエレノアは、答案を嬉しそうに見せる。

 

「見て! 九十二点!」

 

「……頑張ったね。」

 

 リシェルは静かに頷いた。

 

「約束、覚えてる?」

 

「覚えてる。」

 

「お願い、何でも一つ聞いてくれるんだよね?」

 

「私にできることなら。」

 

 エレノアは少しだけ頬を赤く染める。

 

「じゃあ……。」

 

 深呼吸を一つ。

 

「今度のお休み、一緒に王都へ遊びに行ってほしいな。」

 

 その言葉に、リシェルは少し驚いたように目を見開く。

 

 誰かと休日を過ごす。

 

 そんな経験は一度もなかった。

 

「嫌……だった?」

 

 不安そうなエレノアの声。

 

 リシェルはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷く。

 

「……約束だから。」

 

「行く。」

 

 一瞬の静寂。

 

 そして。

 

「ほんと!?」

 

 エレノアの顔が満開の花のような笑顔になる。

 

「ありがとう、リシェル!」

 

 その笑顔を見たリシェルも、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

 初めての休日。

 

 初めて誰かと出かける約束。

 

 それは二人にとって、忘れられない一日の始まりになろうとしていた。

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