家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される 作:めろんちゃん
午前最後の授業。
魔法理論学。
担当教師が黒板いっぱいに魔法陣を書きながら説明を続けていた。
「この術式では魔力の流れを三方向へ分岐させることが重要だ。次回の小テストにも出題するから、しっかり復習しておくように。」
「はーい。」
教室から返事が返る。
その中で一人だけ、机に突っ伏しそうになっている少女がいた。
「うぅ……。」
エレノアだった。
「また難しくなってきた……。」
授業が終わると、彼女は机に突っ伏したまま大きくため息をつく。
「魔法実技は好きなのに、理論だけは全然頭に入らないよぉ……。」
その様子を見たリシェルは、本を閉じて静かに立ち上がった。
「……エレノア。」
「へ?」
名前を呼ばれ、エレノアは顔を上げる。
「分からないところ教えてあげる」
「え、うん。でも迷惑じゃない?」
「別に。」
リシェルはエレノアのノートを手に取る。
そこには途中まで書かれた式と、大きく書かれた『???』の文字。
思わず口元が少し緩む。
「ここ。」
リシェルはペンを取り、ノートへ丁寧に図を書き始めた。
「魔力は一度に全部流すんじゃない。」
「まず一つに集めてから分ける。」
「あ……。」
「水路を想像すると分かりやすい。」
「大きな川から三本に分かれる感じ。」
エレノアの目がぱっと輝く。
「そういうことだったんだ!」
「先生の説明より分かりやすい!」
「……それは先生に失礼。」
少しだけ呆れたように言うリシェル。
その表情は、以前よりずっと柔らかかった。
◇
それから数日間。
放課後になると、二人は図書館で勉強をするようになった。
「ここは?」
「違う。」
「じゃあこっち?」
「惜しい。」
「やった!」
エレノアは間違えても諦めない。
リシェルも、そんな彼女に根気よく教え続けた。
「リシェルって先生になれるよ。」
「向いてない。」
「えー? 私は好きだけどな。」
その一言に、リシェルは少しだけ照れたように視線を逸らした。
◇
小テスト前日。
「ねぇ、リシェル。」
「なに?」
「もし私がいい点取れたら、褒めてくれる?」
期待に満ちた瞳。
リシェルは少しだけ考え、小さく息を吐く。
「……そうね。」
「八十点以上取れたら。」
「うん!」
「何か一つ、あなたのお願いを聞いてあげる。」
一瞬、エレノアの動きが止まる。
「えっ、本当に?」
「約束。」
「やったー!」
エレノアは拳を握り締めた。
「絶対に八十点以上取る!」
その瞳は、今までで一番輝いていた。
◇
そして迎えた小テスト当日。
教室には緊張した空気が流れる。
「それでは始め。」
教師の合図で一斉に問題を解き始める。
エレノアは何度もリシェルと勉強したことを思い出しながら、一つひとつ丁寧に答えを書いていった。
◇
数日後。
「返却するぞ。」
教師が答案を配り始める。
エレノアは恐る恐る紙を裏返した。
「……え?」
大きく書かれた数字。
九十二点。
「やったぁ!」
思わず立ち上がってしまう。
「エレノア、座りなさい。」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
教室に笑いが広がる。
リシェルも小さく微笑んでいた。
◇
放課後。
中庭で待っていたエレノアは、答案を嬉しそうに見せる。
「見て! 九十二点!」
「……頑張ったね。」
リシェルは静かに頷いた。
「約束、覚えてる?」
「覚えてる。」
「お願い、何でも一つ聞いてくれるんだよね?」
「私にできることなら。」
エレノアは少しだけ頬を赤く染める。
「じゃあ……。」
深呼吸を一つ。
「今度のお休み、一緒に王都へ遊びに行ってほしいな。」
その言葉に、リシェルは少し驚いたように目を見開く。
誰かと休日を過ごす。
そんな経験は一度もなかった。
「嫌……だった?」
不安そうなエレノアの声。
リシェルはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷く。
「……約束だから。」
「行く。」
一瞬の静寂。
そして。
「ほんと!?」
エレノアの顔が満開の花のような笑顔になる。
「ありがとう、リシェル!」
その笑顔を見たリシェルも、ほんの少しだけ口元を緩めた。
初めての休日。
初めて誰かと出かける約束。
それは二人にとって、忘れられない一日の始まりになろうとしていた。