家族に捨てられた天才少女は、人懐っこい同級生に溺愛される 作:めろんちゃん
初めての休日から数日後。
アルセリア魔法学院には、夏の訪れを感じさせる暖かな風が吹いていた。
朝のホームルーム。
担任教師が教壇に立ち、一枚の大きな紙を掲げる。
「さて、みんな。今年もこの季節がやってきた。」
教室が少しざわつく。
「来た来た!」
「体育祭だ!」
「今年こそ優勝するぞ!」
生徒たちが一斉に盛り上がり始める。
リシェルは静かに窓の外へ視線を向けていた。
体育祭。
興味はない。
勝っても負けても、自分には関係のない行事だと思っていた。
「今年の競技を発表する。」
教師は黒板へ次々と種目を書いていく。
・魔法障害物競走
・魔力玉入れ
・騎士団対抗綱引き
・魔法騎馬戦
・属性リレー
・借り人競走
・学年対抗リレー
「なお、一人最低二種目は参加すること。」
その一言に教室中から悲鳴が上がる。
「えぇー!」
「去年より増えてる!」
「先生、それは鬼ですよ!」
教師は苦笑しながら名簿を広げた。
「では希望を聞いていく。」
◇
「私は障害物競走!」
「俺はリレー!」
「騎馬戦も面白そう!」
次々と希望が決まっていく。
そして。
「リシェル。」
名前を呼ばれる。
「……。」
少し考えた後、小さく答えた。
「属性リレーと、魔法障害物競走で。」
「了解。」
やはり実力者らしい選択だった。
教室のあちこちから感心する声が聞こえる。
「リシェルなら優勝候補だな。」
「障害物競走も圧勝しそう。」
一方――。
「エレノア。」
「は、はい!」
「何に出る?」
エレノアは悩みながら黒板を見つめる。
「うーん……。」
その時だった。
ちらり、とリシェルの方を見る。
「……じゃあ。」
にっこり笑って答えた。
「私も魔法障害物競走!」
教室が少しざわつく。
「え?」
「同じ種目?」
教師も首を傾げた。
「もう一つは?」
「借り人競走!」
「決まりだな。」
席へ戻るエレノアを見て、リシェルは小さく尋ねる。
「……どうして?」
「ん?」
「障害物競走。」
「ああ。」
エレノアは照れくさそうに笑う。
「リシェルと一緒に頑張りたかったから。」
「……。」
「それに同じ競技なら応援もできるでしょ?」
あまりにも真っ直ぐな理由だった。
リシェルは返す言葉が見つからない。
「……変な人。」
「また言った!」
エレノアは楽しそうに笑う。
その笑顔を見ていると、リシェルも少しだけ口元が緩んだ。
◇
昼休み。
二人はいつもの木陰で昼食を取っていた。
「リシェルって運動も得意なんだよね?」
「普通。」
「普通で首席なんだから普通じゃないよ。」
「……そう?」
「うん!」
エレノアは笑いながらお弁当を食べる。
「私は走るのは好きなんだけど、魔法障害物競走って途中で魔法も使うでしょ?」
「ちょっと自信ないなぁ。」
「練習すれば大丈夫。」
リシェルが静かに言う。
「魔力の使い方は、勉強より得意でしょう?」
「それはそう!」
「じゃあ問題ない。」
短い言葉。
それでも、不思議と安心できた。
「……ねぇ、リシェル。」
「なに?」
「放課後、一緒に練習しない?」
少し期待したような表情で尋ねるエレノア。
リシェルは少しだけ考え、小さく頷いた。
「……いいよ。」
「ほんと!?」
エレノアは嬉しそうに立ち上がる。
「やったー!」
その大きな声に周囲の生徒たちが笑う。
「はっ!」
慌てて座り直す姿に、リシェルは思わず吹き出した。
「……ふふっ。」
「あっ!」
エレノアが目を輝かせる。
「今、笑った!」
「……。」
「最近、笑ってくれること増えたね。」
その言葉に、リシェルは少しだけ照れたように視線を逸らした。
気づけば、エレノアと過ごす時間が当たり前になっていた。
放課後に一緒に勉強をして。
一緒に昼食を食べて。
休日には街へ出かける。
ほんの少し前までは考えられなかった毎日。
それでも、不思議と悪くないと思える。
そんな自分の変化に、リシェルはまだ気づいていなかった。
夏空には、眩しい太陽が高く昇っていた。
そして体育祭へ向けた二人の新たな日々が、静かに始まろうとしていた。