余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
お隣の39号との交渉が成立し、俺はその勢いで他のウィッチクラフトとも会話を試みた。
……が、大いに当てが外れてしまった。ウッドマンは話が通じるやつだった。他のウィッチクラフトとは全然会話が成立しない。
『回答の必要性を感じない』
『
ユナニマス処理に異論はない』
『……機体のコントロール権が得られる以上
ユナニマス処理は当機体の利益となる。
なぜそこに疑問が出るのだ?』
『……回答不能』
『すみませんわかりません。
良いか悪いかもわかりません。
とにかく戦闘で死にたくないです。
死ななければなんでもいいです。
できれば実戦も出たくないです。
え、無理? そうですか……』
ほとんどが「難しいこと言われても困る」みたいな感じだ。自分の
例外としては「実戦に出たくない」と泣き暮らしてる43号ウィッチクラフトだろうか。他のウィッチクラフトより自我の芽生えは早そうだし注視するとして……。
そろそろ自分のボディに意識を戻すか。
コックピットを見れば、今日も元気にシンデレラがゲームをプレイしている。楽しそうだ。
『ただいまー』
「へあっ!? あっ、おっ、おかえりっ!
早かったね!?」
シンデレラが慌てて自分の体で画面を隠してゲームをサスペンド状態にした。
ママキタボタンでも実装してやろうかね。
『調子はどうだ?』
「調子ぃー? 悪いと思う?」
シンデレラがにやっと笑いながらゲームのスコアを見せてきた。
これは……。
『爆勝ちしてる……つーかもうシリーズ3作目に進んで……タンク足でクリアしてんの!?』
シンデレラは朝から「バルチャーズ・キング」の次回作、「バルチャーズ・キング ~プロジェクトミラージュ~」を起動してすぐさまクリアしたようだ。ストーリーモードをクリアした実績マークを自慢げに見せてきた。
そして今は「バルチャーズ・キング ~マスター・オブ・コロッセオ~」をプレイ中である。
これは前作、前々作の大味な部分を改良した他、敵バルチャーと1対1の戦いを通してランキングトップを目指すコロッセオモードを実装した、名作と名高いゲームだ。
実際、シンデレラもめちゃめちゃハマっている。
更に今回、独自に疑似的なネット対戦機能を付けた。2対2のチーム戦や、4対多数のパーティープレイもできる。どういう対戦をしてるかは見ない約束なのでもどかしいが、楽しそうな姿を見る限り上手くいっているようだ。
『お友達はできたか?』
「うん! 004ちゃんと協力プレイして
003と006と戦った!」
oz-004か。シンデレラに優しく気風の良い一方で言葉が少し乱暴なところが心配なんだが……oz-003は冷静でoz-006は気性が穏やかだし、うまくバランスとってくれてるだろう。
「あとねーあとねー、ワタリガニとマツバガニと
ヤドカリ倒したよ」
『おっ、やるじゃないか!』
ワタリガニは歩兵、そしてマツバガニは重装歩兵といったところだ。まあ中堅ウィッチクラフトなら単機での撃墜はあるだろう。そこまではわかるが、ヤドカリを倒したのは凄い。
ヤドカリは、正確にはカリディアン・タイプ:ナイトと呼ばれる種で、機動力も攻撃力も他の種と比べて段違いに強い。
こっちも相応に武装強化した上位のウィッチクラフト1体、あるいは標準装備のウィッチクラフト5~10体でようやく渡り合える強者だ。
『じゃあ協力プレイも慣れてきたんだな』
「最初は協力プレイだったけど、
単騎でもいけたよ」
『マジで!?』
「あー、疑うんだー。傷つくぅ―」
口を尖らせてぷいっとそっぽを向く。かわいい。
自我がある。
「え、なんでちょっと嬉しそうなの?」
『ドン引きしないでくれ、それは普通に傷つく』
自分の快不快を示しつつも本気で怒ってるわけでもない……という複雑な情緒を示したことは素直に嬉しいんだよ。
でもまあ、見られる側がキモいって思うのも当然だ。もう少し大人扱いしてやらなきゃな。
『リプレイ見せてもらってもいいか?』
「あ、そこは確認するんだ」
『お前が活躍してるところは見たいんだよ』
俺の言葉に、シンデレラが嬉しそうに頷いた。
「いーよ、見せてあげる」
シンデレラが俺に戦闘シーンのリプレイを見せてくれた。
これは……本当に単騎だ。
しかも相手はレイブンス・キングのモブ的やバルチャーではなく、こっちが独自に設定したワタリガニやマツバガニが多数。
それをシンデレラは限られた武装で撃破していく。
本来の訓練カリキュラムの難易度に換算するならば訓練生レベルなどではない。実戦を経た2年目末期の導者でさえこのスコアが出せるかどうか。
「あっ、ダメ! 音声ダメ! ミュートして!」
『ん? ああ、わかった』
ゲーム中に叫んだり独り言を言ったりはあるもんな。言われた通り聞かないでやろう。
しかし……凄いな、こんなにも上手いとは……。
だが孤独なエースになるのもそれはそれで心配だ。ここまで実力があると、否が応でも他の導者やウィッチクラフトから注目されるだろう。おともだち作りは、やはりやるべきだ。
『ところでシンデレラ、他のウィッチクラフトや
導者って興味ないか?』
お隣の39号、ウッドマンとはいい関係が築けそうだ。いずれ子供同士を引き合わせてお友達になれるか探っておきたい。
「……うーん」
が、シンデレラはちょっと不安そうだ。
『あんまり興味ないか?』
「他の導者の子、話したことないし。
話してて変な子って思われるのヤだし……」
うーむ、人見知り発動してしまうか……。
シンデレラたち導者は生活ルーチンが完璧に定められていて、誰実が規律正しい生活を送っている。生まれて月齢1か月程度だというのにだ。
それは、導者は様々な情報をやり取りできるためだ。そして情報とは「文字」「音」「映像」ばかりではない。「実行命令」が含まれている。例えば俺は導者の副脳にアクセスすることで「味」を送り込んでいるが、「起きろ」「眠れ」という命令を出すことだってできる。
ゆえに機械やプログラムのような異常なまでに画一的な生活をノンストレスで受け入れており、廊下での立ち話やおしゃべり程度でさえ「ルーチンから外れた異常行動」となっている。
お喋りのような異常行動ができるのは、ユナニマス処理が決定した「人生上がり」の子だけだ。
「それに、どーせザコでしょ?」
『えっ、どこでそんな言葉覚えたんだ?』
こんな言葉教えてないわよあたし。
いや、まあ、罵倒語としての雑魚というフレーズはあんこもちマンにも出てくるか。
よくないネットミームでは、ないよな……!?
「えっと、あの……ほら、ウイルスマンも
やーいザコとか言ってたし?」
『あー、確かに言ってたな……。でも導者に
ザコとか言っちゃだめだぞ?』
「わかった。でも導者と話すことないし」
『でも、あんこもちマンには仲間がいるだろ?
きなこもちマンとかずんだもちマンとか』
「オズいるじゃん」
『俺は納豆おじさん枠だよ』
納豆おじさんは、あんこもちマンの顔となる餅つきを仕事としているおじさんだ。
『作戦行動中なら連携しなきゃいけない状況も
ありえる。仲間がいるに越したことはない』
「でも裏切るやつじゃないの?
お前はやりすぎたんだ! みたいな」
バルチャーズ・キングは僚機が普通に裏切ってくる。しかも裏切ってこない僚機はだいたい役立たずだ。僚機を生かしてクリアするのってけっこう難易度が高い。もうちょっとNPCとの協力プレイが楽しいゲームにしときゃよかったか……?
いや、ここからでも入れる保険はあるはずだ。機動武士キンダミのゲームで、6対6のチームバトルできるゲームがあったな。それをウィッチクラフトの感覚で操作できるように改造すれば……。
いや、操作方法よりもまずはモチベーションか。まず機動武士キンダミを全話見せるところから入らないといかん。ここはキンダミ沼に……。
【総員に次ぐ。エマージェンシーケース06。
カリディアン接近中により警戒態勢発令】
そのとき、施設内の警告灯が紅い輝きを放ちながら無機質な音声と警告音が大音量で流れてきた。
エマージェンシーケース06ってなんだ。えーと、確か……。
「……カリディアンだ」
シンデレラが、声を震わせてぽつりと答えた。
『エマージェンシーケース6。
カリディアンが防衛ラインを突破して
惑星に飛来の可能性あり……だったか』
本部を守るために実戦機だろうと訓練機だろうと死ぬ気で守れよってことだ。
【101期ウィッチクラフト及び
C35ブロックより中層A05ゲートに移動し、
18分後にウィッチ・トレイラーにて
旧産業集積クラスタに移動。旧産業クラスタにて
警戒任務に着け。詳細は追って通達する】
防衛しろ、ではなく警戒任務に付け、か。
となると、現時点ではカリディアンが惑星内部に入り込んだ……ってわけではなさそうだ。
無論、いつどうなるかはわからんが実戦にならない可能性もある。
『シンデレラ……』
「えっ……あっ、あ……えっと……あの……
わた、私、何すれば」
シンデレラはがたがたと震え、動揺している。
呼吸は浅く心拍は速い。パニックの兆候を示している。出撃前に嘔吐しかねない。
まずいな……このまま実戦投入されたところで右も左もわからないまま時が過ぎるだけだ。
警戒態勢だけで終わるならそれはそれで構わないし次があるのだが、もしも本当にカリディアンが飛来してきたらそれこそ危うい。
なす術なく死ぬ……の前に、上位者が次善の策としてユナニマス処理を命令する可能性さえある。
『落ち着け。まだ出撃まで時間がある。
いちごジュース飲むか?』
「う、うん……んげほっ!?」
ストローで勢いよく吸い過ぎてむせた。
しまった、パニックが加速してしまう。
『ほら、タオル。咳が落ち着いたら深呼吸だ。
何も怖いことはない』
「でっ、でも、でも……私たち、まだ、
訓練生で……むぎゅ」
不安を口にするシンデレラの口をタオルで拭った。
人間の生態を無視したこの環境で唯一素晴らしいのは、このタオルだ。吸水性、速乾性、肌ざわりのすべてが完璧で、汗拭きにも口を綺麗にするのにもオールマイティに使える。今治産タオルより凄い逸品と言える。
『装備、技量、すべてにおいて問題ない。
ラビットもオイスターナイフも
ピカピカの新品だ。
トリガーフィッシュも30発搭載される。
何よりシンデレラ、お前がいる』
「わたし……?」
『いいか、訓練生を動員するってのは
訓練生でもできる程度の仕事ってことでもある。
それにお前は、101期の中で一番優秀だ』
「……そーなの?」
きょとんとして聞き返してきた。
まあ、成績データは改竄して「ほどほど」にしている。他の導者との本当の違いなどわからないか。
『どーせザコでしょとか言ってたじゃないか』
「そっ、そーだけど!」
『同期にも、現役兵士にもカリディアンにも、
お前が負けるわけがないだろ。
生き残る。絶対に』
「どうして」
そんなの信じられない、信じられるわけがないと、シンデレラの瞳は訴えている。
本物の戦場を前にして、自分自身を信じられないのも当然だろう。お前がこの世界に生まれ落ちて一か月に満たない。俺とお話するようになったのも三週間程度。知識と共に刻みつけられた生き方を盲目的に追いかけているに過ぎない。
生まれてたったの二年でウィッチクラフトに体を預け、そしてまた転生して戦い続けているという架空の神話を信じ、シミュレーター上のカリディアンを華麗に撃破する。理想とされる
お前はこれからすべてを学び、積み上げていくんだ。お仕着せの理想ではない、自分だけの理想を見出せるはずだ。自分を信じられる自分になれるはずだ。そのために今を生きていかなければならないんだ。
やがて自分というものに自信を得たとき、お前は気付くだろう。
ここが可能性の閉ざされた牢獄であると。
絶望に直面する日がきっと来る。それでも今ここにない幸福に手を伸ばすために、お前の可能性はある。絶望が待ち受けてるとしても、絶望で終わる人生などさせやしない。
こんなところでお前を死なせない。絶対にだ。
『俺が守るからだ』