余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
……というわけで、話は最初に巻き戻る。
突然の防衛任務に動員されたシンデレラはパニックを起こしながらも、獅子奮迅の活躍をして数十体のカリディアンを撃破。こうして俺たちは無事に戦場を生き延びたのだった。
しかし……マツバガニを単機で撃破できるとは予想以上だ。それも、最低ランクの標準装備だけで倒したのは問答無用の大戦果と言えよう。
ついでにめちゃめちゃ口が悪くなったが……。
恐らく……いや、確実に疑似ネット対戦の影響だ。疑似人格たちが平成・令和時代のネトゲのロビーの会話を参照してフリーダムな罵倒が飛び交う空間を作り出したのだろう。
あいつらには後で説教をしなければならない。
シンデレラは……!
人をざぁこざぁことか言わない……!
「ねーオズ。このあとどーするの?」
などと考えていたところ、シンデレラがそんな質問をしてきた。
周囲のカリディアンの反応はゼロで、警戒態勢を取り続けたまま30分が過ぎている。戦闘の興奮も過ぎ去り、バイタルも安定してきたようだ。
『何らかの指示が来る頃とは思うんだが……』
司令部の公開データにアクセスして戦況を確認。
恐らく他の戦場は、こちらの主力を惹きつけるための囮のようなものだったのだろう。全体的に、天蓋の塔の方が優勢だ。
……と思ったら、近くに危うい戦場がある。ここから西にある旧市街地クラスタだ。
ここは過去に住宅地や娯楽施設があった場所のようだが、旧産業集積クラスタ同様、放棄されて久しい。
天蓋の塔からは遠く、監視の目も薄いのでカリディアンの卵を投擲するのもここよりは容易だったはずだ。もっとも、戦略的な価値もさほどないので卵の数もここよりは少なかったのだろう。30程度のカリディアンが生まれただけのようだ。
とはいえ警戒網の薄さゆえか、カリディアンたちはすくすくと元気に育ち、我らウィッチクラフトに対して奮戦しているようだ。
『旧市街地クラスタの防衛部隊が劣勢だ。
恐らく支援要請が出るだろうな』
「飽きたんだけど、しょーがないなぁー」
シンデレラは不満げな様子だが、実際のところは戦闘の疲労感だろう。外での活動自体が初めてだし、飽きと疲労の区別がまだあまり付いていない。
『もう少しだ、がんばれ』
『ちぇっ、オズが言うならやるけどぉ』
『オズの
戦績も凄いが、確立した自我もある』
そのとき、一機のウィッチクラフトが通信で語りかけながらこちらにやってきた。
みんなまったく同じ武装、同じカラーリングだが
俺をオズと呼ぶのは1機しかいない。
『ウッドマン、無事だったか』
『ああ。おかげで助かった』
『こちらこそ火力支援感謝する』
ウッドマンもマツバガニに襲われていた集団の一機だった。
こっちが助けたにしても、俺たちの勝手な指示に従ってくれて事がうまく運んだ。助け合いができる仲間がいるのは純粋に嬉しい。
「オズ、誰ですか?」
シンデレラがいきなりメスガキくさい口調をやめて、愉快に歪んでいた表情を仏頂面に変えた。
『シンデレラ』
「なんですか」
『今更取り繕っても無駄だ。
お前の笑い声と罵倒はオープンチャンネルで
響き渡った』
「うっそでしょ!?」
『自分の戦闘に手一杯でみんながみんな
聞いてたわけじゃないとは思うけどな……。
導者はみんなパニック状態だっただろうし』
「や、やだやだ! 消して!
記憶とかログから消して!」
『101期小隊、戦闘可能な各員に告ぐ。
輸送車両に乗り込み旧市街地クラスタへ移動。
そこで100期小隊を支援せよ。
同時に航空支援も行われる予定である。
支援と同期してカリディアン掃討に移れ。
繰り返す、旧市街地クラスタに……』
っと、作戦指示が来た。
『シンデレラ、移動するぞ』
「ちょっともー帰りたいんだけど!」
『今日一日でだいぶワガママになったな……』
「悪い!?」
『お前にその口調を教えたやつについては
後で小一時間問い詰めたいところだが……』
シンデレラは、初実戦という試練を潜り抜けた。生き残ったという結果は何物にも代えがたい。
『……よく生き残ってくれた。本当によかった』
「そんなの当たり前でしょ」
『ま、お前の腕前をもってすれば……』
「オズが色んなこと、教えてくれたんだもの」
シンデレラがぷいっとそっぽを向く。
その頬が朱色に染まっていたのを、俺は見逃すことはなかった。
◆
旧市街地クラスタ。
本来なら気密性を保ったドーム状の宇宙都市だ。
300年前ならばここにはたくさんの人間がいて、学校や会社に通い、友だちと遊び、恋人と逢瀬を重ね、マンションを借りるか買うかして家庭を築いたのだろう。
だがそんな人の営みと空気を守るドームは無惨に破れ、ふきっさらしの無惨な姿を晒している。
マンションや一部の大型建造物はこんな状況でも幾つかは形を保っていて、だがそれゆえに廃棄されたという悲惨な歴史を雄弁に物語っている。
そして今は、カリディアンたちが元気にハサミからビームをぶっぱして俺たちが載っているトレーラーを撃破しようとしてるが、それはディストーションシールドによって阻まれた。
「マツバガニが成長しちゃってるじゃん。
うざー、めんどくさー」
『膠着状態みたいだな』
ここのポーンもルークに進化したためか電磁フィールドによって厚い防御を張っている。
しかも旧市街クラスタに食料資源が残されていたようで共食いをせずに進化をしているようだ。
確かにこれはちょっとめんどくせーな……。
「揺れるしうるさいし最悪! どーにかなんないの!?」
電磁フィールドがゆっくりと拡大してこちらの電子機器に微弱なダメージを与えつつある。ここにいたところでジリ貧だ。
『もう少しで航空支援が来るはずだ。
我慢だシンデレラ』
「でも、さっさと倒さないとヤバくない?
マツバガニからヤシガニになったら流石に
あたしだって手ぇ出せないよ」
公開情報によれば、カリディアンは旧市街クラスタに放置されていた糖質結晶やタンパク質粉末などを補給して進化した。
共食いをしてないので数は減っていないし、ここから時間が経てばシンデレラの言うようにカリディアンたちはさらなる進化を遂げるだろう。
『確かにそれはヤバいな……。
つか、もったいねえ……』
「もったいない? どーゆーこと?」
『あいつらが食ってる糖質結晶ってのは、
砂糖をギュッと押し固めて数百年間だろうと
保管できるようにしたものなんだよ』
「お砂糖?」
シンデレラの表情が固まった。
俺が言ってる言葉の意味を理解し始めた。
ちょっとよだれ出てるし。
『旧市街地クラスタの公開情報を見てみろ。
地図には食料生産設備って書かれてて、
カリディアンはそこを占領してる。
あいつらはここに備蓄されてた糖質結晶を
発見してもりもり食べて進化したってわけだ』
「………………………………は?」
シンデレラの顔がすごいことになった。
目が座っている。さっきの戦闘中よりも怖い。
やべっ、シンデレラの逆鱗に触れてしまった。
「え? なに? あいつら砂糖食べ放題なの?
導者がドロドロ味無しペースト食べてるのに
あいつら甘いもの食べてるの?
しかも勝手に人の家に入って盗んでるわけ?」
『落ち着こうシンデレラ。ステイ、ステイ』
オープン回線オフ。
ここから先は味方には聞かせられない。
「てゆーか航空支援が来たら食料ごと
燃えるじゃん!
どーすんの!? おかしいよ!
おかしいよねぇ!? ねえ!?」
こ、これはまずい……シンデレラの食欲が凄いことになっている。
ジュースの甘みを体験してしまったせいか本当の食べ物や飲み物の甘みがどんなものなのか期待が膨れに膨れ上がってるのだ。
『落ち着け、糖質結晶やアミノ酸結晶みたいな
食料資源は基地にもたくさんあるんだ』
「……そーなの?」
驚きのあまり、顔の険しさが取れた。
少々安堵しながら俺は話を続ける。
『ただ天蓋の塔ではそれを全部、戦闘糧食に
変換してるんだよ』
「あ、そっか、毎日食べてるんだもんね……」
『だから食料資源そのものは、ある。
ただ戦闘糧食以外に変換する機械がないことが
致命的な問題だな』
「変換する機械?」
俺という機人核が作られた当時の時点で宇宙レベルの食料安全保障は大きな課題だったらしい。
宇宙コロニーやこの旧市街クラスタのような宇宙都市において、地球と同じように米や麦を作るのはめちゃめちゃ大変だし効率が悪いからだ。
そこで宇宙世紀の開始時期の人間たちは、とある食料調達を考案した。
まず農業専用のコロニーや宇宙都市を作って糖質結晶やアミノ酸結晶などをドカドカと大量生産する。
そうして得た原料を再合成して、シンデレラが毎日食べているような完全栄養食をこれまたドカドカ大量生産する。
また『完全栄養食を合成する』という単一機能に絞れば機械を作ることも機械をメンテするのも楽だ。食料調達問題はひとまずこれで解決。
……ってわけにはいかない。
人間には日々のごはんの愉しみが必要なのだ。
『食料調達プリンタには二種類あるんだ。
皆が食べてる戦闘糧食だけをひたすら生産する
戦闘糧食プリンタ。
そして様々な食材や料理をオーダーメイドで
単品で出力する、多機能食品プリンタ』
「たきのーしょくひんぷりんた……」
『それがなきゃ食料資源があっても、いつもの
戦闘糧食しか食えない』
「…………それ、ここにあったりする?」
『大昔はあったんだろう』
というか、今俺たちがいる場所がまさに食品製造工場だ。正確には工場の職員用駐車場で、普通車が百台くらい停められる広さのところにウィッチクラフト輸送用トレーラーが駐車している。
そしてカリディアンがいるのは工場倉庫。
ここで盗み食いをもりもりしながら電磁フィールドをぶりぶり出している。
で、施設マップを見てみると、倉庫の奥の方にはオーダーメイドの食料生産設備があったと地図に記載されてる。食品の直売所とレストランもあったっぽい。
「探そ! ね! いいよね!?
私がんばったしさー、このくらいのご褒美が
あっていいよね!?」
『そうしてやりたいが……一歩遅かった』
遥か上空に、一機の飛行機らしきものが見える。
「え?」
その飛行機が、一本の槍のような物を投下した。
槍らしきものはブーストのようなもので加速して凄まじい速さで落下し、マツバガニの体を貫通。更に地面にめり込んでいき、マツバガニは串焼きのごとき哀れな様相となった。
やや遅れて、マツバガニの発電器官が発火。
爆発を引き起こした。
「ほわーーーーーー!!!!????」
シンデレラの哀しみに満ちた絶叫が、コックピット内に響き渡った。