余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
俺たちは工場の倉庫に侵入した。
建物の天井は完全に壊れて吹きさらしになっているが、資源を保管したと思しきコンテナが詰み上がってそのまま残されていた。
ここで稼働してたと思しきEVフォークリフトが横倒しになっており、前職を思い出してちょっと悲しくなる。
バックすると赤ランプが回転してキンコンキンコン鳴るうるさいタイプだ。ダイマツくんもヨツビシくんも宇宙世紀まで活躍したんだなぁ……。
「みんな遅くなーい?」
『煽るな煽るな、てか俺たちが前に出すぎだ。
もうちょい仲間との距離を詰めよう』
「だってさっきのフィールドキャンセラーで
カニが混乱してる今がチャンスだもん。
30分しか効かないって話だし、さっさと
倒すのが的確な判断ってやつだし」
『ぐぬっ……それはそれで正解だが……』
果断な行動は間違っちゃいないが、問題は味方との連携が取れるかどうかだ。全員が新兵で、命令に従ってはいるがどこか及び腰な雰囲気がある。最悪、孤立しかねない。
ちなみに101期小隊に小隊長はいない。
ここに限らず、すべての小隊においてリーダー不在だ。高位AIから大雑把な大方針、命令、そして配置指示が届き、そこから先は状況に応じて細かい作戦指示がAIによって自動生成される。
仮にシンデレラがスタンドプレーをしても、それが有益ならばシンデレラをフォローするような作戦指示が味方機に提示される。
『オズ、大丈夫か』
そのときウッドマンが話しかけてきた。
話が通じそうな味方がいるのは頼もしい。
『あんまり大丈夫じゃない。
38号機より各機へ!
なんか引っ掻き回しちゃってすまん!
バックアップを頼む!』
『了解!』
ウッドマンが即座に支援行動に移ってくれて、他の機体も右に倣えとばかりに支援してくれる。
今のところ「ちっ、調子に乗りやがって」と文句を言われたりもしなさそうだ。助かった。
「ザコは消毒! 消毒ゥ!」
シンデレラは倉庫に潜伏中のカリディアンを5匹補足し、物騒なことを言いながらも正確に狙撃していく。3匹ヘッドショットで即殺し、撃ち漏らした2匹はウッドマンたち味方機が倒した。
「っしゃ! 楽勝ぅ~!」
再び倉庫内に沈黙が下りた。
俺たちの駆動音だけが響き渡る。
『ところでシンデレラ、もうちょっと……
言葉遣いは穏やかにしない?』
「えー、もーいーよぉ。
どーせオープンチャンネルで口調とか
ぜんぶ聞かれちゃったしぃ」
『開き直りはよくないぞシンデレラ。
てか北辰の拳のザコキャラみたいなこと
言われると解釈違いなんだよぉ……』
「なにそれ、マンガ? アニメ?」
『そのうち見せてやるから……って、まずい!
緊急回避! シールド起動!』
そのときだった。
床に亀裂が入ったと思いきやそこからカリディアンが飛び出て、右腕部のブレードでこちらの首元を狙ってきた。
ディストーションシールドで起動を逸らすが避けきれず、ヘッドアンテナの先端が切断された。
「ヤドカリだ!」
右腕と一体化した長剣。
ヤドカリの殻のような巨大な盾。
ワタリガニの多脚戦車や重機のようなフォルムとはまったく異なる、まさしく騎士のような風格あるスマートなシルエット。
正式名称、カリディアン・タイプ:ナイト。
通称ヤドカリ。
近接攻撃に特化しているために射程は短いが耐久力、機動力、そして攻撃力の三拍子が揃った強敵だ。
『38号を支援しろ!』
ウッドマンが叫ぶ。
だがそれは悪手だ。
『待て、撃つな! 盾がこっちを向いてる!』
シミュレーター上でヤドカリを撃破できた
そもそもこいつ、単独で相手をするような敵ではない。複数で囲みながらトリガーフィッシュなどの実弾兵器で爆殺するのがセオリーだ。
近距離での撃ちあいや斬り合いはヤドカリに圧倒的な分がある。
『伏せろ!』
ヤドカリの強さの秘訣は、右腕部の剣ではない。
貝殻のような螺旋模様の描かれた盾だ。
ビーム兵器のエネルギーを吸収すると同時に入射角を正確に読み取り、自分のエネルギーを上乗せして撃ち返すカウンター型の武装だ。流石に物理弾頭までは反射できないが、トリガーフィッシュを撃つにはあまりにも狭すぎる。
『ぐわっ!?』
ヤドカリの盾が輝いてビームが放たれた。
味方機が何機か喰らう。即死は免れたようだがこれでは行動不能だ。まずい、戦力が減っていく。
『シンデレラ!』
「退くとか言わないでよ!」
『わかってる!
こうなったら仕留めるつもりでやれ!
味方各機! 近距離の火力支援は不要だ!
倉庫外に出てトリガーフィッシュの
準備をしといてくれ!』
ヤドカリは盾に蓄えたエネルギーを後方に噴出してブーストを掛けて前進できる。俺たちが背中を見せた瞬間に追いつかれて斬られるのがオチだ。やるしかない。
「上等ゥ!」
シンデレラ=俺がオイスターナイフを抜き払うと同時にヤドカリが猛ダッシュで距離を詰める。
剣と剣がぶつかりあい、甲高い音が響く。
どちらも超振動で切断力を増すブレードだ。鍔迫り合いによって火花が散り、眩しい光が倉庫内を照らした。
『鍔迫り合いはまずい! 折られるぞ!』
『仕方ないでしょあっちが
合わせてくるんだから!
てか狭いし避けらんない!』
『そりゃそうだが!
いずれ折られる! そんときゃプランBだ!』
『わかった!』
ブレード戦は剣道の試合でもなければ剣客同士の斬り合いでもない。適切な入射角で物体を切断する工具の延長上にある兵器だ。切っ先の鋭さに比して、剣そのものの耐久性はそう高くはない。
相手の剣を受ける角度を少しでも間違えればその瞬間に叩き折られる。
だから避けるのが鉄則だが……シンデレラも、ナイトも、斬り合いが続いている。
技量が拮抗しているがゆえに互いに入射角を誤らず、剣が折れないのだ。
『しっつこい! このクソ!
なんなのよもう!』
薄氷を踏むような戦いが続く。
周囲には様々な障害物がある。一瞬でも空間把握を怠ればその瞬間、障害物に剣が接触してコンマ秒の遅延が生じ、眼前の敵に切り裂かれる。
だが互いに的確にブレードを振るい、最小限の動きで回避し、それでも避けられないときは相手のブレードに折られないよう最適な角度で相手の剣を受ける。
『F!N4L-W4RN//R3S!ST>>D4NG3R_Y0U//5URR3ND3R::PR0T3CT//GRRRAAA』
『ずりゃあああああ!』
咆哮が響き渡り、鍔迫り合いの形になり、やがてどちらの剣も耐久力の限度を迎えた。
衝撃のあまり折れた刃が高速回転しながら倉庫の壁を抉る。ヤドカリが半端に折れた剣で襲い掛かり、シンデレラ=俺は鍔だけのブレードを投擲しながらラピッドのトリガーを引いた。
この判断が勝負の分かれ道だった。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!
なーにがナイトよ!
食い逃げのくせに恥ずかしくないわけぇ!?」
ヤドカリはとっさに盾で防ぎながら後退していく。しかし罵倒の勢いに反してエネルギー最小限の威嚇射撃。反射されたビームを受けたところで表面が軽く熱を帯びるだけに過ぎない。
本当の狙いは、すぐ横のコンテナだ。
そこに中程度の砲撃を放ち、小さな穴を開けた。
『A77N::JUV-??//CMBTNT//C3A5E?F!R3::N0_H4RM//CRYYYYY』
空いた穴から、中に保管されたものが弾丸のように飛び出してヤドカリに襲い掛かった。
「ばーかばーか! 食らってやんの!」
コンテナにはバーコード付きのタグが印字されていて、それを読み取ると保管日と重量、そして内容物が表示される。
そこには確かに「小麦粉」と記載されていた。
このコンテナを密封したのは数百年前で、恐らくそのとき工場は真空状態の吹きさらしではなく、空気に満たされていた。ゆえにコンテナ内には微量の空気が混ざっており、真空状態の周囲とは大きな気圧差となっている。
その気圧差は、ごく僅かな穴を開けられた瞬間に爆発的なエネルギーを生む。
『5T0P-R3S!5T//L!F3::N0_D4NG3R//R35CU3>>4PPR04CH//GRURRRR』
怒りの咆哮。
傷ついたままヤドカリは突進して中折れした剣でこちらの首を狙う。シンデレラ=俺はブーストで後方ダッシュしながら周囲の構築物をラビットで破壊し、ヤドカリの進路を阻んでいく。
やがて倉庫から脱出した俺たちは味方機と合流して合図を送った。
『ウッドマン!』
『わかっている!
各機、トリガーフィッシュ発射!』
各機から放たれたミサイル兵器がゆるい放物線を描きながらヤドカリを狙う。
そしてやや遅れて、爆発音が鳴り響いた。
『GRAA?//7F:91::R_MN//S!L3NT>>0xAE77##KRRRRAAA!!!!』
断末魔のような信号が響き渡る。
やがて、その信号も完全に途絶した。
『……味方各機へ、ヤドカリ撃破に成功。
支援感謝する』
新兵だけでヤドカリを倒したのは大金星だろう。精神的にかなり疲れたが……。
さっさと帰りたいところだが、こういう緊急案件の仕事ほど後始末が大事だ。
『今のうちに取りこぼしがないか確認しよう。
小隊長AIから同じ指示が来るだろうが、
先にやっておいて被害を防ごう』
『ウッドマン了解』
『43号、了解しました』
生き残った全機からお返事が返ってくる。
以前話しかけたときは塩対応のウィッチクラフトも何機かいたのだが、今回は反応がいい。勝利は何にも勝る口実というわけだ。
まー、これ以上の戦闘はないだろう。公開情報にアクセスすると、他の戦場でも続々と制圧や勝利の報告が上がっているのがわかる。撤収の命令が来るまでは落ち着いて作業を……。
『きゃーっ!?』
と、そのとき、味方機から悲鳴が響いた。
小さいワタリガニが一匹残っていたようで、あるウィッチクラフトがしがみつかれている、さっさと撃ち殺し……いや、まずい!
『撃つな! 引火するかもしれん!』
俺と同じことに気付いたウッドマンが叫んだ。
ワタリガニの体には何か油のようなものがべっとりと付着している。恐らく工場の残留物によって汚染されたのだろう。残留物によって成長が阻害され、反応も小さかったのかもしれない。
とはいえウィッチクラフトを組み敷く程度の成長はしている。このまま放置すればコックピットがチェーンソーでこじ開けられてしまう。
『俺とウッドマンで腕部をもぎ取る!
襲われているのは……43号だな!
隙を作るからとどめを刺すんだ!』
『や、やってみます!』
俺とウッドマンが接近して、43号に覆いかぶさっているワタリガニの腕の付け根にオイスターナイフを差し込む。
ワタリガニが絶叫して意味不明な通信がオープンチャンネルで響き渡るが、無視して腕部をねじ切る。
くそっ、なんかベトベトする! グリスとか機械油にでも突っ込んだのかこいつ?
「なんかこいつばっちい!」
『ちょっとだけ我慢だ! 43号!』
「はい!」
43号がおっかなびっくりにオイスターナイフを抜刀し、ワタリガニの首に突き刺した。
やがて目から光が失われて、暴れまわる足や胴体の動きが停まる。
『ふう……なんとかなったな』
『きゅ、救援感謝します……』
『気にするな。
それより他のカリディアンを警戒して……』
『いえ、恐らくこれが最後です……。
他の工場内はサーチ済みで、カリディアンの
反応はまったくありません』
『サーチは済ませてたから最後の一匹を
見つけたってところか。なんにせよいい仕事だ』
『いえ……38号が動かなければ私たちは
全滅してましたし……助かったのはこちらです。
本当、死ぬところでした……』
43号の口調に、どことなくしょんぼりしたものを感じる。そういえば以前話したときは『実戦に出たくない』って泣き言を言ってたっけな。
だがワタリガニを倒して無傷で生還したのだから、もう少し誇ってもいいとは思うのだが。
『まあ、元気出せよ』
『べとべとになりましたけどね……うええ……』
あっ、汚れを気にしてたのか。
43号はどこか女性的な口調やしぐさをしている。機人核になる前は女性だったのだろうか。
そんな機体がグリスまみれになっているのは流石に……ちょっと可哀想だな。
『基地に戻れば洗浄してくれるから、
あと少しの辛抱だ。何より生き延びたんだから
お前もよくやったよ』
『そうですね……。
ユナニマス処理も避けられましたし……』
『そういえば、ユナニマス処理にまで
追い込まれた機体は……今のところは
いないみたいだな』
味方各機のデータにアクセス……残念ながら5体が最初の襲撃で戦闘不能になってしまった。
だが完全に破壊される前に無事に基地に回収されたようだ。助かってほしいものだ。
しかし43号、こいつもユナニマス処理をしたくなさそうな雰囲気だな。あとでもう一度話をしておきたい。
『作戦も終了だ。基地に戻ろう。おつかれさん』
『了解です。ではまた後で』
ウィッチクラフトを運搬するトレーラーが俺たちのところに到着し、各機乗り込んでいく。
俺たちは、生き残った。
これから幾度の戦いに出向くことになるかはわからない。
だがこうして勝利を重ねながら、シンデレラが
自由になる道を……。
「ねーオズぅ……。
ちょっとだけでいいからさぁ……。
お願いがあってさぁ……」
と、決意を新たにしていたところでシンデレラが妙に甘えた声でお願いをしてきた。何を頼むつもりなのかは完全にわかりきってるけどな。
『大丈夫だ。残党探しって名目で
調査用ドローンを放った。
ただ、見つかるかはわからんし、
見つかってもすぐに回収はできないぞ。
焦らず作戦を立てよう』
お前が何が欲しいかなんてわかってるさ。
多機能食品プリンタだ。
俺だって食育をさせてやりたいし、稼働する機械があればぜひとも入手したい。
その気持ちが通じたのか、シンデレラが満面の笑みを浮かべて言った。
「さっすがぁ! オズ様は話がわかるゥ!」
『それダメ! ネットミーム会話をするな!』
「え、なんで? oz-005がよく言ってたよ?」
『あ、あの野郎……修正してやる……!』
子どもになんてネットミームを教えやがる。
てか口が悪い、悪すぎる。ネットに触れたばかりの子どもじゃあるまいし……いやネットに触れたばかりの子どもだったわ。
だが淫夢語録を使ってないだけまだマシなのかもしれない。あれは永遠に封印しておこう……。
そんなことを思いながら、トレーラーに揺られ帰途につく。
小惑星ケレスには大気がない。昼だろうが夜だろうが空は深淵の黒さの姿をしていて、きらめく星々が見える。なんとなく夜空を見上げていると意外なことに気付いた。
北極星だ。近くには柄杓の形の北斗七星。明るい星が3つ並んだオリオンの腰ベルトもある。地球で見るよりもはっきりと輝いて見えるくらいだ。
『……北極星も他の星も、地球から見るのと
同じじゃないか』
「ほっきょくせー?」
『後で教えてやるよ。ただ……こうやって
星を眺めるのも悪いもんじゃないだろう?』
「えー、つまんないよ。アニメの方がいい」
『いいじゃないか、たまにはこういう
静かな大人の楽しみも』
「オズがどーしてもって言うならいいけどさ」
シンデレラはぶつくさ言いながらもシートを倒し、体重を背もたれに預けて空を見上げた。基地に着くまでの短い間、静かに星を眺めていた。