余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
シンデレラと人魚姫は仲直りして、親友になって。
そしてまた喧嘩が勃発した。
「もう人魚姫とは絶交だし!」
『落ち着いて聞いてほしい、シンデレラ。
この世に二種類の人間が存在するのは、
仕方のないことなんだ。
いちごフレーバーが好きな人間と、
そうでない人間だ』
「いちご嫌いなんて信じらんない!」
『理解し合えなかったつらさはわかる。
だが……』
「なによ!」
『今は任務中だ』
現在、俺とウッドマンは
旧産業集積クラスタにカリディアンの卵が投下されていたことの対策として、哨戒任務を命ぜられたのだ。
俺たちが担当している範囲は、残念ながら旧産業集積クラスタとは反対方向。灰色の砂で覆われた穴ボコだらけの荒野で、月面みたいな雰囲気の場所だ。
そこをあてどなく目視確認しながら飛び回るのは正直、退屈だ。なので訓練中と同じく通信やログを偽装して真面目に任務についているフリをしながら、シンデレラと人魚姫を交流させていた。
『オズ。人魚姫のお腹の調子がよくない。
できれば早めに任務を終わらせたいのだが』
「あ、ウッドマン! それ言っちゃダメ!」
「ん? お腹痛いの?」
「べ、別に痛くないですけどー?
自分のことじゃないですかぁ?」
人魚姫があからさまな嘘をついた。
だが、そこまで顔色が悪いというわけではない。ウッドマンの言葉から察するに、水を飲みすぎたのだろう。いつぞやのシンデレラと同じように。
『……心配してあげたんじゃん!』
『心配してなんて言ってないですー!』
絶世の美少女同士が、これまたすんごい顔であっかんべえをしている。写真撮っとこ。
『オズ。もう少しで探索予定エリアを
網羅できるが……なぜか隣接エリアを
探索しているウィッチクラフトが接近中だ』
『なんだって?』
ウッドマンが示す方向を見ると、確かにウィッチクラフトがいた。それも二機だ。
当然、俺たちとまったく同じ姿……ということもないな。ちょっとだけ装備が豪華だ。
つまり101期小隊ではない。先輩たちだ。
『いよーう、新入り!』
『初出撃でマツバガニとヤドカリを倒したのは
お前で間違いないか』
ずいぶんとかったるいご挨拶だ。
間違いなく厄介事だろうな。
だがしかし……予想外だ。こんな喋り方をしてるってことはこいつら、『自我』がある。
『こちらは101小隊38号機と39号機だ。
所属を答えてくれ』
『ギャハハ! 所属を答えろ、だってよ?
見りゃわかんだろぉ?』』
『通信ログとIFFを確認すれば済む話だ。
無意味な質問をするな』
……せせら笑ってやがる。財布持ってないって言ったらその場でジャンプさせるタイプだ。
ともあれ、相手が誰かなんてのは通信が来た時点でわかる。ちゃらついた話し方をするのが95期15号。高圧的な方が94期07号。
ロールアウト期は異なるようだが、恐らく欠員の穴埋めなどで小隊が統合されたってところか。
『今は任務中だ。会話のログも保存している。
そこを理解した上でのコミュニケーションって
ことでいいんだな?』
『安心しろよ。ここから基地までは距離がある。
ログ提出までの微妙な時間差を利用すりゃ
改竄なんていくらでもできるってわけよ』
『お前たちのような訓練上がりのひよっこには
できないことだろうがな』
ハッ、通信タイムラグを利用しないと会話ログも改竄できねえクソ雑魚じゃねえか。
……と煽りたいところではあるが、こちらの手の内を明かすこともない。
『聞かれちゃ困る話をしたいってわけだな?』
『話がわかるねぇ。俺はジャベリン。
こいつは俺の相棒、ガントレット』
『……自分で名前を付けたのか?』
101期のウィッチクラフトはほとんど自分を番号で認識している。俺のように名前を付けるのはイレギュラーだと思っていたが……。中堅のウィッチクラフトには名前の文化はありそうだ。
『
欲しくなるものだ。
お前はどうだ? 名前をつけてやろうか?』
『お前だってもう食っちまったんだろ?
そんだけ喋る自我があるんだ、わかってらぁ』
てめーと一緒にするな……と言い出しかけたが、なんとか堪えた。
堪えられなかったのはウッドマンの方だ。
『……IFF削除してよいだろうか』
『落ち着け、お前の気持ちはすげえわかる』
ウッドマンは俺以上に
まるでお姫様を守る騎士のようだ。
『へっ、弱いやつほど言うことが
でけえんだよな。知ってるんだぜ?』
『知ってる? 何のことだ?』
『つい先日の防衛作戦の戦績を見れば
わかることだ。ほとんど一機でカリディアンを
倒し、味方を守り抜いた。
逆に言えば、38号は弱者に搾取されている』
『ほんと寄生されてるって感じだよなぁ。
ギャハハ! できるやつはつらいねぇー』
『無能の尻拭いが嫌になったら転属願いを出せ。
こちらは歓迎する用意がある』
『あ、もちろん39号には言ってねえよ?
邪魔だから帰っていいぞ。
あっ、一人じゃ帰れないかなぁー?』
……こいつらぶち壊すか。
俺を馬鹿にしたのならば工程管理マンだった過去を思い出して、すんません納期は短くなりませんのでと愛想笑いだけで帰してやった。
だがこいつらは、仲間を馬鹿にしてきた。この孤独な宇宙の果てで見つけた友達を罵倒されて黙ってると思うなよ。というわけで、手始めにハッキングを……。
と思ったときだった。
「……違うもん」
『うん? なんだ今の声?』
「違うもん! ウッドマンは弱くないもん!
弱いのは私だもん!」
人魚姫だ。
怒りに燃えた瞳で、チンピラどもを睨んでいる。
この子には、しっかりとした自我がある。
大事な人を馬鹿にされて怒る義侠心がある。
自分の弱さを恥じる尊厳がある。
『なんで
こんな自我を持ってんだよ……?
実戦も一度だけの、ほぼ訓練機じゃねえか!
しかもネーミングまでしてやがる……!』
『不良品……? いや、違う。
これは掘り出し物かもしれないぞ』
不穏な言葉が出たな。
いや、今もっとも不穏なのは人魚姫の方だ。
自我の発達に喜んでいる場合じゃない。初めてぶつけられる純粋な悪意にパニックを起こし、怒りで自制心がブッ飛んでいる。
その証拠に、人魚姫はトリガーに指をかけている。人魚姫が射撃命令を出したら、ウッドマンは抗えない。
「ふぅーっ……ふぅーっ……!」
『人魚姫、やめるんだ。
悪意ある言葉に惑わされてはいけない』
「だって……こいつら許せないです……!」
ウッドマンが諭すが、人魚姫の興奮は一向に収まる様子を見せない。
流石に味方同士の打ち合いはまずい、即時処分命令が来る。破壊に至ってしまうともっとまずい。小隊全員が異分子と見られかねない。
「お、オズ、どうしよ……!?」
『シンデレラ、まず人魚姫を落ち着かせて……』
この場は撤退しよう……と言おうと思った瞬間に気付いた。
シンデレラも、トリガーに指をかけている。
「オズとあたしは褒められてるのに
人魚姫が怒ってると……胸がむかむかする。
頭がカーってなる……どうすればいいの……!」
心拍、呼吸数、ともに上昇。交感神経優位。
シンデレラは人魚姫に共感し、怒りを燃やしている。
「こんなことやっちゃダメってわかってるのに、
あいつらぶっ壊したい……」
『やっ、やめろ!
お前たち自分が何しようとしてるのか
わかってんのか!?』
ジャベリンと名乗ったウィッチクラフトが慌てて制止してきた。
てめーが挑発したからだろうがよ。ったく。
『……おい、チンピラロボ1号と2号』
『え、俺たちのことか?』
『お前たちは俺が素直にスカウトに応じるとは
思ってなかったんじゃないか?』
唐突な話の切り替えに、人魚姫もシンデレラも困惑してこちらの話に耳を傾けた。
チンピラロボどもも、話の流れが変わったことに安堵したのか俺の質問に答えた。
『……へぇ、なんでそう思うんだ?』
俺は、その問いかけに声で答えなかった。
そのかわりにメッセージを送る。ここから先の会話は、シンデレラと人魚姫に聞かせたくはない。
少しばかり、嫌な予感がする。
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oz-admin:
ったく、余計な真似をしてくれたな
お前らの身の安全は保証できない
慎重に口を利くんだな
Javelin:
てめえ、偉そうに……!
Gauntlet:
よせ、ジャベリン
こちらも
望んでいるわけではない
話の続きをしてやろうじゃないか
oz-admin:
なぜ最初からメッセージじゃなくて
音声で話しかけてきた?
挑発したかったのなら逆効果だったな
誰かが発砲して全員処分されるだけだぞ
Gauntlet:
……すでに導者を食ったと思っていたからな
だがそれよりも本題だ
こちらの小隊に来るならば歓迎するという
提案に虚偽はない
受け入れるか拒否するか、答えろ
oz-admin:
断ったときにどうするかまでは
説明がないな
交渉決裂でサヨナラってわけじゃあるまい
Gauntlet:
カンがいいな
模擬戦闘訓練を申し込む
お前たちに拒否権はない
Javelin:
ま、コックピットと機人核の破壊は
模擬戦じゃ禁止だから安心しろよ
本物のラビットのトリガーを引くバカがいたら
話は別だがなぁ
oz-admin:
子供の暴走にいちいち目くじら立てんなよ
大人げねえな
ウッドマンもそう思わないか?
woodman:
まったくだ
前提を勘違いして挑発をするなど、
機械知性にあるまじき振舞いだ
驚きを禁じ得ない
バグチェックを提案する
Javelin:
てめえ、ぶっ殺されてえようだな……!
Gauntlet:
ふん、新兵どもがそんな口のきき方を
していいのか?
模擬戦闘訓練に拒否権はない
高位AIはウィッチクラフト同士で
研鑽し技量を高め合うことを推奨している
oz-admin:
それがどうした
Gauntlet:
ここで問題になるのは、戦闘訓練の
参加義務そのものではない
こちらの資源供出要求に応じる義務が
出ることだ
oz-admin:
資源供出要求?
Javelin:
そういうことよ
たとえば、勝者がてめーのところの導者を
寄越せって言ったら、敗者は逆らえねえのさ
Gauntlet:
資源を融通し合うことは、どの小隊同士でも
発生することだが、当然、要求された側に
拒否権が存在する
だが小隊や隊機の間に明らかに強弱、優劣が
ある場合、拒否は通らん
強者が生き残り、より多くのカリディアンを
撃滅しなければならないのだからな
oz-admin:
その資源ってのは具体的に何のことだ?
トリガーフィッシュの弾薬や
ブレードの予備がほしいわけじゃ
ないだろう。
そもそも、装備類は新米の俺たちよりも
手前らの方が潤沢にあるはずだ
Gauntlet:
ふん……
頭が鈍いか、気付かないふりをしているのか?
お前が持っていて、もっとも価値があるものだ
oz-admin:
……うちのお姫様を欲しいってわけか
お目が高いね
Gauntlet:
そうだ
あれだけの戦果を叩き出した
さぞ素晴らしい演算力を持ってるのだろう
oz-admin:
ぶち殺す
Javelin:
おうよ、かかってきやがれ
つーわけで白黒つけようぜぇ
Gauntlet:
三日後、野外射撃訓練Dにて2on2の
チーム戦を提案する
回答せよ、38号ウィッチクラフト
Javelin:
ま、聞いたところで
お前らに拒否権はねーんだけどな!
---
ふぅん……。
いや、考えてみれば不思議じゃない。コックピットの中の人間を資源として捉えるならばウィッチクラフトにとってこれほど役立つものはない。
機械の体を起動させるイグニッションキーであると同時にメモリを倍増させるアイテムだ。仮に中の導者が寿命を迎えたり、何らかの理由で演算ができなくなったとしても交換すればいい。
合理的な考えだ。
反吐が出るね。
「オズ、大丈夫?」
シンデレラが不安そうに聞いてきた。
人魚姫も、怒りは落ち着いたようだが同じく不安な表情をしている。
『
なあに、話はシンプルだ。
三日後の模擬戦闘訓練で勝った方が
お前らをもらい受けるってわけよぉ!』
『てめえっ……!』
ジャベリンがわざと音声を伝えてきた。
動揺させようというミエミエの魂胆だ。
『なんだよ、文句あるのか?
ビビってんならもう遅いってもんだぜ?』
決闘自体に文句はないし負ける気もしない。
だが、
と、俺がこいつらの口をどう塞ぐか考え始めたとき、シンデレラがぽつりと呟いた。
「模擬戦闘訓練……。ってことは、
シミュレータで対戦するってこと?」
『いいや、実機での戦闘だぜ。
火薬量やビームの威力は多少セーブするし、
コックピットや機人核を直接狙っちゃいけねえ。
勝利判定は行動不能か頭部の破壊。
とはいえ……事故が起きないという保障は
ねえんだけどな』
『持ち込んでよいのは、自身が使用可能な
装備のみに限る。新兵は標準装備しか
使えないだろうがな』
と、ガントレットたちが自慢げにのたまう。
なるほどな。戦績を上げてより烈しい戦闘領域にぶちこまれる兵隊には良い武器が支給される。ママに買ってもらった新品のラジコンで公園のガキどもに無双するってわけだな。
苛立ちが募る……が、シンデレラはむしろこの展開に喜びを抱いていた。
「ふぅん? ぶちのめしていいんだ?」
この子の魂には
実戦を経て、再び目を覚ましたのだ。
『
『かなりイレギュラーじゃねえか……。
だが自我の強いやつは副脳も強い。
食う前に使い潰してやるから覚悟しとけよ』
今にも舌なめずりが聞こえそうな人食いどもが興奮している。
「やだーこわーい。人魚姫ぇ、聞いたぁ今の?
脅し文句がすっごくモブっぽーい。
こーゆーの真面目に言っちゃう人いるんだぁ」
シンデレラがせせら笑う。
だがその挑発的な瞳の奥には、泣くな、挫けるな、戦えと、この世界にただ一人の友にエールを送っている。
人魚姫はそれを真似て、恐怖に染まりそうになるのを堪えながら精一杯煽った。
「声が聞き取りににくくって
よくわかりませんでしたぁ。
錆臭い旧型だからでしょうかぁ?」
「ほんと古そー。
油とか交換してないんじゃないの?」
シンデレラの強気な振る舞いが人魚姫を奮い立たせ、そしてトリガーから指を外させるに至った。今ここではない、本当に戦うべき瞬間のために。
『ふざけんなよ不良品の
手前らまとめてぶち壊してやらぁ!』
『やってみろ。
その前に、お前たちがスクラップに
なってるだろうがな』
この人食いどもを破壊するために。