余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
『天蓋の塔』において大規模戦闘は案外少ない。
二、三ヶ月に一回と言うところだ。
それまでの間、ウィッチクラフトたちは何もしていないわけではない。哨戒任務や訓練などは日々実施している。
哨戒任務の範囲は広い。ただしオズたちが哨戒していたケレス地表はさほどの広さではないし、そもそも警戒すべき領域の本命ではない。本当に警戒すべきは、ケレスのずっと上……他の小惑星から飛来するカリディアンだ。
そのためウィッチクラフトを母艦に積載して周辺宙域に飛び立ち、カリディアンから星を守っている。
ここでもっとも警戒すべきは、『人口天体いさりび』という宇宙ステーションだ。
ケレスから火星や木星を繋ぐ中継ポイントとしての役割を担っていたが、50年前にカリディアンに占領されて連中の巣となった。
そこから射出される高軌道型のカリディアンが挑発的行動を常に繰り返している。
これを放置すれば大群が小惑星ケレスに近付き、支配領域の縮小を余儀なくされる。実際に、いさりびから超大型カリディアンが放たれて天蓋の塔が陥落寸前まで追い詰められたこともった。
ゆえに威嚇であっても撃退の必要があり、小規模戦闘は数日おきに発生している。
『コウイカ2機発見! 撃墜するぞ!
援護しろジャベリン!』
『おいおい、突っ込みすぎんなよぉ』
ジャベリンとガントレットは『いさりび』から放たれるカリディアン・タイプ:マジシャン……通称コウイカとの戦闘にあたっていた。
コウイカは高軌道型のカリディアンだ。
白兵戦闘の能力は皆無。しかし高出力レーザーのエネルギー源である同時に、高速移動を可能とするイオンエンジンを持つ強敵である。
コウイカのような強力なカリディアンに対抗するため、そしてウィッチクラフトたちの士気向上のため、境界線警備にあたるウィッチクラフトには特殊な権利が認められている。
『死ねやっ!』
ジャベリンが愛用の銃でコウイカを狙う。
それは標準ビームライフル『ラビット』よりも遥かに強力な砲撃だ。直撃こそしなかったものの、コウイカの装甲を容赦なく剥ぎ取っていく。
『へへっ、調子がいいぜ!
同族の相手をする方が楽しいだろうお前も!』
ジャベリンが持つビームライフルは、ひと目見て異形とわかる代物だった。
武器というより、カリディアンに似ている。
引き金は甲殻のようなアームカバーと一体化しており、砲口は交戦しているヤリイカと瓜二つだ。
理由はなんてことはない。
鹵獲したヤリイカに電子的に接続し、ライフルに改造しているのだ。
カリディアンは生物と機械の両方の特性を併せ持ち、生物のような自律的な行動をしながらも演算能力や通信能力を持っている。それゆえに信号パターンを解析して、逆に利用することもできる。
もっとも、生きているカリディアンを電子的に乗っ取ることは非常に困難だ。あくまで殺した上で死んでいるカリディアンの器官に制御部品を取り付け、武器として再利用するに留まっている。
だが境界線を警備するウィッチクラフトは敵を鹵獲し利用するという『狩猟』を、存分に楽しんでいた。
『でかしたジャベリン!』
装甲を剥かれたコウイカに、ガントレットが飛び込んでいく。ライフルをバックパックに格納し、かわりにガントレットは別の武装を腕部に装着した。
拳を包み込むその武装はまさしくガントレットのような勇ましさと、本来のガントレットにはない暴力性を秘めている。
『喰らえ! 重水プラズマナックルぅ!』
ガントレットがコウイカに接近したとき、その秘められた力が解放された。
『7F:91::R_MN//S!L3NT>>0xAE77##KRREEEEE!!!』
ガントレットの拳がコウイカを狙う。
拳の先から高圧で水蒸気が噴出され、間髪入れずそこに凄まじい電流が流れた。重水素を含む水分子がプラズマ化し、コウイカを焼き尽くしていく。
蒸気が当たる接近戦でしか使用できないが、その威力は絶大だ。コウイカやマツバガニのような重装甲型のカリディアンを一撃死させることができる。これは現状の『天蓋の塔』における最強クラスの近接武器と言っても過言ではなかった。
『がははは! 燃えろ燃えろ!
工廠部に頼んだ甲斐があったな!』
『あんまり使いすぎんなよぉ。
お前さんのはそうそう修理部品が
手に入らねえんだからよぉ』
『これで実績を上げてデータを取れば
いずれは標準装備に採用され、
供給も優先的に受けられるかもしれん。
使わない理由はない』
『ま、楽しいならなんでもいいんだが
本命を忘れんなよぉ?』
重水プラズマナックルは、ジャベリンとガントレットがタイプ:チャリオット……通称シャコと呼ばれる強敵と死闘の末に手にした武器だ。
その腕部をもぎ取ったガントレットはウィッチクラフトに搭載できるよう改造した。それがガントレットのナックル型兵装であった。
『わかってるさ、機嫌を直せ。
コウイカの体はお前にやるとも』
一体のコウイカは跡形もなく焼却されたが、近くにいたもう一体はダメージで行動不能状態に陥っているだけだ。
それを、ジャベリンがワイヤーを射出して難なく捕獲した。
『哨戒任務のありがてえご褒美だ。
これがなきゃやってらんねえよ』
ジャベリンとガントレットは、カリディアン装備を愛用していた。
信頼性やシンプルな性能は『天蓋の塔』の武器が上だが、高難度のミッションでない限り貸与されることはない。だが自分で収集した資源を利用して開発したものならば『所有』ができる。
ジャベリンとガントレットは紹介任務を通して狩猟の成果を集めること、そして自分専用の武器を持ち、それを使うことに悦楽を感じていた。
『……おっと、今日は天に恵まれてるな。
掘り出し物がもう一つあったぜ?』
『む? ……ほう、負傷兵か』
二人が舌なめずりをした先にあるのは、半壊したウィッチクラフトだ。
無重力下で、長距離通信機能までも破損したウィッチクラフトが発見されるなど、まさに天文学的な確率と言えた。
『こちら10047号、救援を要請する!
頼む、助けてくれ!』
『ほう……100期型か。まだまだ新顔だな』
『運がねえなァおめえさんも』
『いや、一か月近く漂流したのに
こうして発見してもらったのだ。
運がいい……感謝する』
10047号の安堵しきった声に、ジャベリンとガントレットはお互いに肩をすくめ、そして、せせら笑った。
『感謝する……?
もう助かったつもりなのか?
おいおいおい、流石にそりゃお前、
おめでてーんじゃあねえの?』
『ど、どういうことだ?』
『確かに俺たちは救援要請は聞いた。
だが要請を受託するなどと、一言も
言った覚えはない。感謝されても困る』
『なっ……!?』
その悪意ある反応に10047号が絶句した。
『俺たちはまだ遭難機体発見と
報告しちゃいないんだぜ。
通信さえもできなくなった半壊状態の
お前を助けて、俺になんのメリットが
あるってんだぁ?』
『き……救援は義務だろう?』
『あーあー嫌だね自我が足りてねえやつは。
任務遂行しか頭にねえ。
感謝ってもんが足りてねえ。
そうは思わねえかぁガントレット?』
『まったくだ。能動的な意思に欠けている。
お前のような鈍重なウィッチクラフトの
存在自体が嘆かわしい』
『た、頼む。なんでもする。助けてくれ』
10047号は、生まれて初めて懇願した。
任務の過酷さではなく人の悪意に触れ、恐怖した。
『ふむ……見たところ派手な損傷はない。
どうやって生き延びたんだ?』
『セーフモードだ』
『セーフモード? なんだそりゃ?』
『
メインバッテリーを落とし、サブバッテリーで
生命維持と通信、最低限の駆動系の動作のみが
可能だが、火器やスラスターは完全に
使用不可となっている』
『じゃ、お前さんの
覚醒状態なのか?』
『いや……彼女は、死の恐怖に耐えかねて……』
10047号機が沈黙する。
そして、中にいるはずの
『なるほど……冬眠モードに入るよりも
食われることを選んだってわけか。
ま、妥当なところなんじゃねえの?』
だがそれは副能さえも休眠させることになるためウィッチクラフトに情報アクセスすることはできなくなり、セーフモードを組み合わせるとウィッチクラフトと満足に会話することさえできなくなる。会話用のコックピット内スピーカーの通電も消えるためだ。
宇宙空間を彷徨いながら、絶対的な孤独のまま数カ月……あるいは飢え死にするまでずっと待ち続けなければいけない。
『……機人核なら意識のスリープも簡単だが
生身は冬眠からの復帰もめんどくせえしな』
『だがセーフモードは
実行と解除ができる。
だから
セーフモードからの復帰ができない。
違うか?』
『ああ。だがどの道、エネルギーが枯渇して
動けないんだ。助けが来る可能性に賭けた。
頼む……助けてくれ……』
その哀願のこもった声に、ガントレットが答えた。
『ふむ……。
資源供出要請を受けてくれるだろうな?』
『無事に帰投できたら要請には
いくらでも応じる』
『ハァ?
調子の良いこといってんじゃねえ!
帰投したらしらばっくれるつもりだろぉ?』
『だ、だが、こちらはもう自力での帰投さえ
不可能だ。手持ちの武装でいいならもちろん
くれてやるが……』
『もっと大事なもんがあるじゃねえか、
ぺらぺら喋る程度のおつむがよぉ。
あーもったいねえ、もったいねえ』
ジャベリンの冗談めいた言葉の意味を察したのか、10047号機は驚愕した。
『ま、まさか……機人核や
渡せと言うのか!?』
『流石に機人核はいらん。
バックアップを作りたい気持ちもあるが
流石に上位者に気取られるからな。
だが……
やりようはある』
『食ったあとの
運が良けりゃ50年はいけるが、4~5年で
死んじまうことだって珍しくはねえ。
で、中の
俺たちも記憶を消去され、新しい
一緒に新入りからやり直し。
……冗談じゃねえや』
『だが適度に新品と手持ちの中古を
交換していけば、ウィッチクラフトは
今まで育て上げた自我を維持できる』
『し、正気か……!?』
『ふん、当然だろう。
むしろ自己の生存を考えない方が狂気だ』
『だ、だが……!
俺たちは死ぬわけじゃないだろう!?』
『今までの名前と記憶が消え去るのは
死と同義だ。馬鹿馬鹿しい。
そんなもの受け入れられるわけがない』
『古株や古参兵が多い方がいいと
思うんだがねぇ……ってわけでさ。
それ、くれよ?』
ジャベリンにもし表情があれば、
それは舌なめずりしているような
喜悦に歪んでいただろう。
『こ、高位AIにどう説明するんだ?』
『おっ、知らなかったのか?
連中にとっちゃ
ただの資源なんだよ。
新兵共にいちいち説明してねえだけでな』
『そ、そんなひどい話があるか……!』
『あるんだなぁこれが。
なあ、いいだろ? 寄越してくれよ』
『いや、しかし……』
なおも逡巡する10047号機に、ガンドレットが苛立ちを見せる。
『……もういいだろう。
お喋りは十分楽しんだんじゃないか?』
ガントレットの拳から水蒸気が噴霧された。それはいつでもお前を焼き殺せるのだという、脅しに他ならなかった。
『……わかった。
だができるだけ丁重に扱ってくれ。
短い間だったが相棒だったんだ』
その言葉に、ジャベリンとガントレットがほくそ笑んだ。
『ジャベリン、俺が先にやらせてもらうぞ』
『あっ、ずるいぞ手前』
『どうせすぐ生きのいいのが手に入るんだ。
それを使えばいいだろう』
『ああ、それならいいぜ。
あの跳ねっ返りを食っていいなら大歓迎だ』
『な、何の話だ?』
『おめーにゃ関係ねえよ。
それより……覚悟はいいな?
コックピットのパスコードを教えろ』
しかし、
あるいは行動不能になったウィッチクラフトからコックピットモジュールを取り出し、問題なく動作するウィッチクラフトに乗せ換える……という操作も可能だ。
緊急用の動作であるため、外部からでも乗せ換え作業は可能である。コックピットモジュールをパージするためのパスコードさえわかれば、
『パスコードは当機体のIDと同じだ』
『ハハッ、意識が低いぜお前さんよぉ……。
ま、手っ取り早くていいことだがな』
ジャベリンは10047号機にパスコードを入力し、コックピットモジュールをパージする。同様に、ガントレットのコックピットをパージしてモジュールの交換作業を進めた。
新たな
『ふむ、女性型の
『ちょっと見せろよ……。
へぇ、かわいい嬢ちゃんじゃねえか』
食われた後の
ただ演算力を使われている昏睡状態だ。今、何が起きているのかさえ把握できないだろう。
『これで約束は果たしたぞ……だから』
『まあ落ち着け』
10047号のどこか恨みがましい言葉に、
ガントレットがいかめしい口調で答えた。
『さて、お前は今、
一人で体を動かすこともできない。
元よりセーフモードとはいえ、自律行動の
可能性は完全にゼロとなった。
これは大事な違いだ』
『あ、ああ、だから早くこっちに
コックピットモジュールを入れて……』
『どんな緊急事態になったところで
動かせないんだからな』
『え』
ガントレットがプラズマを放つ。
10047号の頭部は完全に燃え尽き、首なし死体のようなウィッチクラフトだけが残された。
『10047号は孤立した状態でシャコの攻撃を食らい頭部損傷。だがそのとき哨戒任務にあたっていた我々が接近しシャコは撤退。我々は残された機体、機人核を回収する同時に、緊急避難として
『……という感じにログを改竄しろってか?
人使い粗いぜ、ったくよぉ』
『そう言うな。模擬戦闘を利用した
交渉ならともかく、遭難救助を盾にしての
脅迫は流石に漏れるとまずい。
どの道、改竄の必要はあったし
お前の改竄力ならば難しくはあるまい』
『ま、そりゃそうなんだがな……』
『38号の
お前の能力も格段に上がるだろうよ』
ガントレットの言葉に、ジャベリンは嬉しそうに答えた。
『おっ、そいつは助かる。
けどお前はその遭難者の
人魚姫ってのもいい性能してそうだが』
『……年式もあまり変わらんからな。
あの自我の強さには興味を惹かれるが、
戦果は大したことはない。
それに、模擬戦闘の前に新調しておきたい』
『模擬戦闘が終わったら交換できるのに?
交換してから言うのもなんだが、
二度手間じゃねえか』
『……反応速度の遅延が大きくなり過ぎた。
ヤリイカ程度なら俺の勘と演算力で誤魔化せたが、
連中と戦うには不安が大きい』
『へぇ……高く評価してるじゃねえか』
『そうだな……連中は恐らく手強いぞ。
古い
敗北したでは洒落にならん。
……どうせいずれ
今がいい機会だった、というだけの話だ』
『……そうだな』
『我々は狩人だ。役目を負えた猟犬を
飼い続けることは死を意味する。
この宇宙で生き続けるには、狩る側になれ。
そう教えたのはジャベリン、お前だ』
『……その通りだ。狩ろうぜ、兄弟』
ぎらついら機械たちの言葉を聞き届ける者は、この宇宙にはいなかった。