余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~   作:富士伸太

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特訓

 

 

 

「ごめんなさいです……」

 

哨戒任務を終えて、人魚姫は意気消沈していた。

 

基地のガレージに帰る道すがら、人魚姫は今回の件でウッドマンにこう諭されていた。もし射撃がチンピラロボに当たっていたら、自分どころかシンデレラまでも巻き込んで処分されていた、と。

 

当然、人魚姫は死ぬほど凹んでいた。

 

実際は味方を自動ロックオンすることはできないのでチンピラロボが避けるのは簡単だっただろうし、連中も高位AIを巻き込んだエスカレーションは望んでいない。あくまで「誤射」として処理できただろう。

 

それでもトリガーに指を書けていた瞬間の人魚姫の殺意は、確実に本気だった。

 

「でも……人魚姫が怒ってなかったら、

あたし撃ってたかも」

 

『やめてくれシンデレラ』

 

「だって! あいつらムカつくんだもん!」

 

『確かにあいつらは挑発的な言動をした。

俺も滅茶苦茶イラっとしたよ。

けど一時の怒りで行動しても、自分を

滅ぼすことになる。

……お前が処分されるなんて、俺は

絶対に嫌なんだよ』

 

「……ごめん」

 

『怒るなって言ってるわけじゃない。

その気持ちを訓練でぶつけるんだ』

 

「……うん!」

 

『なら二人とも。

どうすればいいか、わかるな?』

 

「「練習!」」

 

『そうだ。特に今回は2対2のチーム戦。

まずはバルチャーズ・キングで人魚姫が組んで、

疑似人格と対戦プレイして連携を強化してみる。

どうだ?』

 

「わかった!」

 

「わかりました」

 

シンデレラが元気に答える。

対照的に、人魚姫は神妙な顔で頷いた。

 

とりあえず対戦モードをプレイしてもらいつつ、人魚姫の習熟度に応じたプログラムを裏で組むとするか……。この子の練度を上げるのが勝利の鍵になるだろう。

 

と、そのときウッドマンが話しかけてきた。

 

『オズ、二人が練習してる間、相談がある』

 

『わかった』

 

内密の話ということか。

 

というわけで、俺はメッセージのやりとりでウッドマンとの相談を始めた。

 

 

 

---

 

oz-admin:

色々とすまない、目立ちすぎたようだ

 

woodman:

謝罪の必要はない

 

旧産業集積クラスタでお前とシンデレラが

攻勢に出なければ、小隊どころか基地が

全滅していてもおかしくはなかった

 

結果として狼藉者に目をつけられたのも、

模擬戦闘訓練を拒否できないことも、

やむを得ないことだ

 

oz-admin:

そう言ってもらえるなら助かる

 

woodman:

だがそれはそれとして、資源供出要求には

絶対に応じられない

 

oz-admin:

もちろんだ

勝ちに行く

 

woodman:

ただ、こちらには戦力面で不安がある

装備も向こうの方が上だろう

技術面ではシンデレラに分があるとは

思うが……

 

oz-admin:

人魚姫も決して劣ってるわけじゃないさ

練習次第だが、十分に勝算はあると思っている

 

woodman:

本当か?

さほど飛びぬけた数字はないが……

 

oz-admin:

裏でシンデレラを鍛えた訓練カリキュラムを

組んでいるところだ

あいつらを仮想敵にしたシミュレータも作ろう

 

woodman:

了解した

何としても敗北だけは避けたい

 

しかし……

 

oz-admin:

どうした?

他に何か心配事でもあるのか?

 

woodman:

あの子たちは、導者(ロードランナー)を賭ける意味を

正しく理解しているのだろうか

 

oz-admin:

……してないな

 

むしろお姫様扱いで喜んでるフシがあるぞ

 

woodman:

あの二人に身柄を取られるということは

すぐさま食われることを意味する

 

……説明すべきだろうか?

 

oz-admin:

いや……流石にそこはわかってるだろう

 

頭ではわかっていても体感としては

わかってないだけで、懇切丁寧に説明しても

「どーせ勝つし!」と流される懸念がある

 

woodman:

そうだな……

二人には自分の人生や自分の身の安全を

もう少し真剣に考えてほしいのだが

 

oz-admin:

なんであれ人魚姫はお前から離れたくないさ

シンデレラもそうだ

だが……

 

woodman:

だが、なんだ?

 

oz-admin:

そもそも導者(ロードランナー)は、『食われる』って事態を

素直に受け入れている

 

単に、みんないずれそうなるものって

人生の通過点としか考えてない

 

woodman:

それは……残念ながら事実だ

 

それ以外の選択肢がない

 

oz-admin:

いや、あるはずだ

 

俺達に与えられた知識には、機人以外の

人間が生存していることを示唆している

 

何より人間が生きていなけりゃ

基地の存在意義が成り立たない

 

この宇宙のどこかにあるはずだ

人間が平和に暮らしている世界が

 

woodman:

……であれば、勝利するしかない

 

仮に存在していても我々ではアクセスが

できない領域にある知識だろう

 

その手がかりを掴めるとしたら、基地の

仕組みを熟知している彼らだ

 

現に我々は、模擬戦闘訓練を利用して

資源の奪い合いをするシステムを

知らなかった

 

oz-admin:

確かに

この基地は完全に機械化されて一部の隙も

ないように見えるが、それは一面に過ぎない

 

あんなチンピラどもがいるってことは……

 

woodman:

天蓋の塔は必ずしも完璧な組織では

ないということだ

 

どこかに隙はある

苛立ちは覚えたがチャンスでもある

 

oz-admin:

……方針は決まったな

模擬戦闘訓練に勝利して、あいつらから

情報を搾り取る

 

oz-002:

ちょっとちょっとお二人さん

真面目に話してるところ悪いんだけどさ

 

woodman:

髪の結び方を教えてくれた疑似人格か

 

あのときはありがとう

どうしたんだ?

 

oz-002:

ケンカしてるけどいいの?

 

oz-admin:

え?

 

---

 

 

 

「だから言ったじゃん!

あたしが突っ込むから援護してって!」

 

「言ったけど合図も何もなしに行くのが

おかしいですぅ!」

 

「そこは空気読んでよ!

敵側が動いたんだから早めるしか

なかったじゃん!」

 

「はぁー!? 意味わかんないんですけど!」

 

「実戦だったら細かく言うヒマとか

あるわけないもん!」

 

バルチャーズ・キングでのタッグマッチでめちゃめちゃ揉めていた。

疑似人格側の難易度を超絶難易度に設定したためか、一瞬の油断でゲームオーバーとなったようだ。

 

しかも、敵側となったoz-003やoz-004に煽られたようでイライラが高まっているらしい。

 

oz-005を謹慎したと思ったら今度はお前らか……。まあ邪悪なネットミームを学習させなかっただけよしとするか……。

 

『ケンカすんなよもー』

 

「だってぇー!

人魚姫が援護してくれなかったんだもーん!」

 

「違いますぅー

シンデレラが闇雲に突っ込んだんですぅー」

 

『チームで動いている以上、連帯責任だ。

チーム内で有責度や貢献度を比較しても

弊害が上回る』

 

「ウッドマンの『私はいつも正しい』

って態度、私、嫌いです!」

 

『そんな……!』

 

ウッドマンが凄まじくショックを受けていた。

ケンカをするのも心無い発言をうっかりしてしまうのも自我の現れではあるんだが……。

 

『はい、ゲームおしまい!

反省会は明日にするからケンカやめ!』

 

「「ええー! もっとやりたい!」」

 

二人からぶーぶーと文句が出る。

まったくもう……結局楽しんでるじゃないか。

 

『ウッドマン、気にするな。

自我が発達してお前に甘えてる証拠だよ。

それより成績を見ろ』

 

『うむ……これは……』

 

ショックを受けているウッドマンにスコアを見せた。

 

『自慢か?』

 

ウッドマンが少々恨めしそうに言ってきた。

こいつも皮肉を理解し始めている。

 

『違う、そうじゃない』

 

映し出されているのはシンデレラのスコアだ。

 

近接格闘による撃破率がおかしい。ワタリガニに対してはほぼ100%で致命傷を与えている。ウィッチクラフトの近接戦闘なんてやむなくやるもので、明らかに異常値と言える。

 

ここで大事なのは「シンデレラって凄いでしょ!?」というマウントではない。

 

『一人で訓練しているときのシンデレラに

こんなスコアは出せないんだ』

 

『……ほう?』

 

風向きが変わったことを察したのか、ウッドマンが神妙な様子で話に耳を傾けた。

 

『一方、人魚姫の場合、狙撃能力が

平均値を上回っている。

撃破速度や被弾時レスポンスといった

機敏な反応を求められる項目では

やや標準を下回る。

総合評価としてはごく平均的ってところだ』

 

『そうだ。だから今回の模擬訓練において

不利は否めない……』

 

『だが援護役として見ると評価は一変する』

 

俺は人魚姫のスコアを、少し加工して表示した。

数値を改竄したとかではなく、見せ方をちょっと変えてみた。

 

『……この数値はなんだ?

導者(ロードランナー)の評価値とは別項目のようだが』

 

『シミュレータに無い項目を捻り出した。

戦術アシスト達成率とか間接撃破率、

といったところか』

 

人魚姫はあえて命中を狙わず、弾幕を張るために乱射している場面が幾つかあった。

 

シミュレータ上のワタリガニの進路を妨害している。そしてやむをえずシンデレラの前に出てきて難なく撃破される……という場面が多い。

 

また、シンデレラの背後に回り込もうとした瞬間に敵の足を狙い撃ちして足止めをしたり、シンデレラが多方面から攻撃に晒されるリスクを未然に防いでいる。

 

シンデレラというエースを100%、……いや、120%に引き出すための完璧な振る舞いだ。

 

『人魚姫のサポートが効果を発揮している。

チーム戦において、これは心強い数値だ。

ウッドマン、人魚姫にこういう戦い方や

役割分担を教えたのか?』

 

『……いや、教えてはいない』

 

『そうか。なら自然とそういうスタイルが

身に付いたんだろうか……』

 

『ただ、思い当たるフシはある。

人魚姫はシンデレラに助けられたこと……

いや、助けられておきながら、

大した援護ができなかったことをずっと

気に病んでいた』

 

『そうなのか?』

 

人魚姫はシンデレラと屈託なく遊び、ケンカし、そしてまた仲直りしている。

傍目からはフラットな親友同士にしか見えない。

 

『自分を恥じているんだ。

そしてシンデレラを尊敬しているんだ。

それを表に出していないだけで』

 

『なぜ、表に出さない?』

 

『ありのままを出しすぎると、

シンデレラとお友だちになれないと

思ったからだ。

あの子が真に必要としているのは

崇拝の対象ではない。

シンデレラが必要としているのも

言うことを聞く子分ではないだろう。

対等な、友達だ』

 

『ウッドマン……お前……。

よくそこまで深い理解を……』

 

『ん? お友達つくりをさせたいと

言ったのはオズだろう?』

 

『それはそうだが』

 

ウッドマンはなんてことのないように言うが、こんな的確で優しさに溢れた大人の判断力を示してくれるとは思わなかった。ありがたい……むしろ俺の方が社会人経験で負けてないか?

 

『恩人に感謝し、卓越した技量を

称賛するのは素晴らしいことだ。

だがそれが極端な上下関係や隷属となれば

関係の破綻を招く』

 

『そうだな。ましてやフォローしたり

されたりはきっとこれからもあるだろう』

 

『そうだ。同じ部隊にいる以上、

腕を磨いていけばいつかシンデレラを

助けてあげられる日が来る。

そのとき高慢になることもなく

普通の友達でいてあげれば、十分に

恩返しになると伝えた』

 

人魚姫に渡したアニメや絵本のデータを通して、ウッドマンの自我も確実に成長している。

 

あるいは成長というより、抹消された前世が呼び起こされているのかもしれない。こいつは俺が思っている以上に善人で、そして子どもを守る大人を体現している。

 

『それから人魚姫はシンデレラの戦闘中の

データを何度も何度も見返していた。

あのときああしていれば、こうしていればと

ずっと考え続け、そして訓練していた。

モチベーションが生まれたのだ』

 

『それが実を結びつつある……ってわけか』

 

『自我の確立にせよ操作技能にせよ、

シンデレラに比べたら劣っているところは

まだまだ多いだろう。

それでも、人魚姫にはプライドがあるんだ。

一人の友達として振舞いたいと。

共に戦う仲間でありたいと。

それが報われたなら……当機は嬉しい』

 

『……おいおい、まだ本番じゃないぜ。

喜ぶのは勝ってからだ』

 

『そうだな。その意味では雪辱を晴らす

チャンスが訪れたことに感謝している』

 

ウッドマンも人魚姫も、やる気十分だ。

こっちもやれることをやらないとな。

『話は変わるが、ウッドマン。

敵を知り、味方を知れば百戦危うからず、

……って言葉があってな。

俺たちには知らなきゃいけないことがある』

 

『ジャベリンとガントレットの詳細だな』

 

『あのポンコツどもがどんだけ強いのか

調べてやろうじゃないか……む?』

 

俺は、あの二人のIDを元に出撃した履歴や

戦績情報、装備などを調べようとして……弾かれた。

 

『くそっ! あのポンコツロボどもめ……!

やってくれるじゃねえか』

 

『何があった?』

 

『あいつらの戦績にアクセスしようとしたら

弾かれた。模擬戦闘訓練の公平を期すため

事前に対戦相手の情報収集を禁じる

……だとよ』

 

『いったい誰が?』

 

『……主計管理AIマントリ、と書いてあるな』

 

『高位AIだな……。

まさか模擬戦闘に直接介入してくるとは』

 

ウッドマンが驚愕した。

俺もびっくりだ。この基地の支配者の一角が名前を出して作戦行動以外にこうした干渉をしてくるなど、今までになかったことだ。

 

まず、機械化幼兵大隊(ナーサリーバタリオン)は3つのAIによって統治されている。

 

戦略会議AIラタ。

 

資源開発AIガジャ。

 

最後に、基地内部の管理……つまりウィッチクラフトや導者(ロードランナー)を直接的に支配する、主計管理AIマントリ。

 

マントリめ……。アンフェアな試合ってことをわかっているんだろうな?

 

『模擬戦闘訓練もマントリが管理している、

というわけか』

 

『ああ。そして連中はマントリに申請して

情報封鎖したってわけだ。やってくれる』

 

『相手の情報を把握できる状況の方が稀だ。

実戦を想定するのであれば辻褄は合うが……

それは相手も同じ条件であればの話だ。

こちらはすでに注視(フォロー)されている。

何が公平性を期す、だ』

 

ウッドマンが悔しそうに言った。

 

『ま、相手のこれまでの参戦経験くらいは

すでに記憶していた。問題ない』

 

『本当か』

 

『ただ、実際の模擬戦でどんな武器を

持ち出し、どういうフォーメーションを

組んでくるかまでは予想しづらいな』

 

『どうする、オズ』

 

『まず把握できた情報だけでシミュレータ上の

仮想敵を作って戦わせて、練度を上げよう。

ウッドマン、難易度調整や導者(ロードランナー)のケアを

頼めるか?』

 

『了解した』

 

『頼んだ。俺はその間、作戦を練るのと……

調べたいことがある』

 

現状、俺たちは情報と装備の差で負けているだろう。

それを埋めるために、そして何より子供を守るため、あらゆる手を尽くさなくてはならない。

 

『調べたいと言っても、アクセス制限が

かかっているのだろう?』

 

『ふっ……。

大人の戦い方ってやつを見せてやる』

 

確かにアクセス制限こそ掛かったが、それはジャベリンとガントレットだけの話だ。他の古参の兵隊の情報を見ることは何ら制限されていない。

 

そして、俺たちの模擬戦闘を注視しているウィッチクラフトは絶対にいるはずだ。ジャベリンやガントレットに味方するやつもいるだろうが、こんなチンピラめいた決闘など中立がほとんどだろう。あるいは心情的にこちらの味方になってくれる古参兵もいるかもしれない。

 

そして頼るべき古参兵の条件。

 

それは強そうな装備を持っていて、あの二人と同じ参加した経験が少なく、なおかつ戦歴から良心的な人格を見出すことのできるウィッチクラフトだ。人魚姫のように直接的な戦果からは見えないがサポート役としてのスコアを出しているような、そんなウィッチクラフトが……いた。

 

82期12号、85期49号、98期3号……このあたりはバランスがいい成績をしてるな。友軍を見捨てず救助活動をした履歴も多い。

 

特に82期12号は良い。参戦した戦場で目立った撃破率などはないものの参加した戦場での勝率は高く、何より味方機の被害が非常に少ない。部隊のエースとしていい立ち回りをしている証拠だ。

 

まずこの機体にお手紙を送ってみよう。外見もなんかユニークな武装を付けてて格好いいし。

 

『文面を考えなきゃな……』

 

『文面?』

 

『はじめまして、私は101期小隊38号ウィッチクラフト、オズと申します。公開情報を参照し、82期12号様の大変の素晴らしいご活躍を拝見いたしました。特にその美しいフォルムをしたライフルや、古代の甲冑のような勇ましい頭部カバーは素敵で、ぜひ一度お話させて頂くことはできますでしょうか。当方はまだ右も左もわからない未熟者でございまして、どうかご指導ご鞭撻の程をお願いしたく存じます……と』

 

『うん……うん?』

 

大人の戦い方。

 

それはつまり。

 

『営業とゴマすりだ』

 

 

 

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