余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
大混乱の戦闘が落ち着いてきたので、そろそろ俺という存在と、シンデレラとの出会いについて落ち着いて語らねばなるまい。
まずは俺についてだ。
俺は小津翔一という、平成生まれで令和時代を生きたサラリーマンだった。
趣味はゲーム配信。
職業は自動車部品を作る工場での工程管理。人手不足のため現場を手伝うこともあるし、客先での会議に引っ張りだされることもある。もっとも、俺が呼ばれるのは大抵「納期短くならない?」と客が圧を掛けてくるときなので会議は嫌いだ。
ウチの会社はなんでもやらさせるし残業も長い。ほんとしんどい……と思いながら朝起きて電車に揺られ、駅から降りて会社までの15分の徒歩区間を歩いてると意識を失い、次に目が覚めると俺は巨大ロボになっていた。
いや、冗談でもアニメでもない。本当のことだ。
そして神様のいたずらでもない。
運命のいたずらではあるが。
俺が通勤中に倒れたのは、きわめて稀な病気を発病したためだ。一千万に一人という確率で起きる奇病で、筋肉が硬直してまるで石化するように生命活動が止まる……というものだった。
同時にその頃、アメリカNASAにおいて奇妙な粒子が発見された。物理学者たちがN粒子と名付けたそれは量子コンピュータの計算精度を安定させて性能を飛躍的に向上させる性質を持っていた。
こうして量子コンピュータが実用化されて俺の入院先の病院にも医療・研究用とに導入され、難病患者の遺伝子情報や脳活動を保存して未来の研究に活かす……という実証実験に昏睡状態の俺が参加することとなった。
つまり俺が奇病に陥ったことで、俺の記憶や人格、あるいは魂とでも言うべきデータは記録媒体に保存されたわけだ。
その後、俺の魂は――魂と言うのも語弊があるが、面倒なので魂と呼称する――、医療研究用ではなく文化保全用に転用された。
2200年代に宇宙開拓時代が幕を開けたためだ。
宇宙開拓という華々しい言葉の響きに話して、戦争は起きるわ、宇宙人との敵対的接触が起きるわで、「このままでは地球の文化が死に絶える」と危機感を抱いたお偉いさんがいたらしい。
そこで俺のデータと、ついでに俺が生きていた「平成中期から令和中期にかけての文化」と、「その時代を生きた人間の人格」が、特殊な超高性能ストレージ……通称『機人核』に大事に保管されることとなった。
更に時は進み、人間は木星圏まで版図を広げ、その過程で三つの人種に別れた。
一つは
遺伝子改造を施されていない人類だ。今の体になってから会ったことはない。そういう生き物がいるらしい……という噂の珍獣やUMAに近い。
次に、
遺伝子改造によって宇宙環境に適合した人類だ。俺のパイロットである『天蓋の塔』の
また、宇宙空間への適合に加えて動物の遺伝子をミックスした人種もいるらしいと、『天蓋の塔』の公開ライブラリに書かれていた。
最後に、
つまるところAIであり、俺はここに属する。機人核は生成AIとは違って人間の脳の活動を電子回路上に再現するという設計だ。まさに人間のような思考と、人間の数倍の思考速度や並列処理が可能なわけだ。
また人間の脳に近いためか「人間のような体」を持つことでスペックが向上すると同時に、自意識や目的意識、つまりは「人格」を持つ。どんなに文明が発展しても人間は人間っぽい体からは逃れられない……ということだな。
さて、その機人核だが……そこそこ高い。
導者100人を培養して育てるのと同じくらいだそうだ。てか人間が安い。
よって機人核はリサイクルが推奨され、古代文明……つまり俺にとっての現代文明の遺跡から機人核の保管庫でも見つけたら大儲けだ。
そんな感じで俺という機人核は『天蓋の塔』によって回収されて、ウィッチクラフトとしてついこないだ目を覚ましたのだった。
以上、ここまでが俺、小津翔一の略歴である。
ここからは『天蓋の塔』
俺はウィッチクラフトとして目覚めた後、自分の状況の把握に努めた。
まず時代は、西暦換算で3000年くらい。宇宙開拓時代の動乱期に別の暦に変わってしまったので、正確に西暦何年とは言い難い。
場所は、火星と木星の間の小惑星帯にある小惑星セレス。その小さな星に建造された基地の地下35階だ。ちなみに星の外には大気がない。宇宙船の発着も二年に一度という低頻度なので脱出は困難だ。
俺を目覚めさせたであろう管理者は地上層にいるのだろうが、会ったことはない。
ここを支配する高位のAIから『お前を
ちなみに他のウィッチクラフトは俺ほどハッキリと自意識に目覚めているわけでもなさそうで、命令に黙々と従うつもりのようだ。
ハッキング戦を仕掛けてここを乗っ取るという手もあるが、高位AIのいる上層のセキュリティはかなり堅牢な雰囲気がある。時間を掛けてゆっくりと解析するしかないだろう。
それに、電子戦で勝ったところでここから別の星に逃げる方法、そして襲い掛かるカリディアンに勝つ方法を確保しなければ犬死まったなし。
……社畜よりひでえわ。
しかたねえ、しばらく大人しく従うフリでもしますか……と割り切ったところで、高位AIから追加の通達が来た。
俺のパイロット……つまり
その
ろくに手入れもしていない銀髪の痩せっぽっちで、表情は能面かってくらい固まってた。
比喩表現ではない。
表情筋がまるで発達していない。
カプセルホテルみたいな半個室の、これまたカプセルみたいなベッドで寝起きし、完全栄養食らしき流動食を飲み、ろくに髪も整えずに俺のコックピットに潜り込んで淡々とカリキュラムに挑む。
そんな機械的な共同生活が始まった。
そして他の少年少女たちもアリや群体生物のごとく、何もしゃべらず黙々と日々を送っている。
この環境における一般的なライフスタイルだ。
……本当にライフかこれ?
ライフって呼んじゃいけねだろうがよこれ。
ライフワークバランスじゃなくてワークワークアンバランスじゃねえの?
……そういう怒りを抱きつつも、俺は自分のコックピットに潜り込んできた少女を観察し続けた。
他の少年少女と同じようで、僅かな差異がある。
一言で言えば成績優秀だが不安定。他の
だが意図せぬ出来事が起きるとフリーズした。指一本動かせなくなる。たまにゲロ吐く。恐らく、自分の中にたまったフラストレーションをどう吐き出せばいいかまったくわかっていないのだ。
呼びかけても、カリキュラム失敗を示すアラートが鳴っても、一切の反応も見せず、ただただ失敗した。一時間ほど経てば復帰するし、失敗は学習して次に生かす知恵もあるが、それでもトラブルには極めて弱い。どんなに優秀なステータスを持っていたとしても、決して見逃せない欠点だ。
恐らくその成績を閲覧したであろう高位AIから連絡が来た。
『カリキュラム5%消化した段階における評価として、38号
まるで工場で不良が発生したときのような、淡々としたメッセージだった。
◆
次の日。
俺は少女が乗り込んできたところで語り掛けた。
『なぁ、お嬢さん。今日は休もうぜ。
もう練習とかめんどくせーわ』
無反応。
いつものようにシステムを起動。
訓練カリキュラムをスタートしようとする。
でもダメです。
カチッとVRパネル上のボタンを触ろうとするがスカっている。何度も何度もスカる。何度も何度も何度も何度もスカる。十回やっても百回やってもダメと気付いて少女はフリーズした。
『あー、成績のことなら心配するな。
ダミープログラムを走らせてる。
上位者には普通に訓練してるようにしか
見えてねえよ』
「……あなた、なに?」
『誰、じゃなくてナニと来たか。
なんだろうな? 小津って名前はあるんだが』
「なまえ……? 38号、でしょ?」
『……そういえば名前の文化がないんだよな。
パートナー同士でさえナンバリングだけって、
囚人よりひでえ』
「それって、ひどいの?」
『だって味気ないじゃないか』
俺の言った言葉は、何も分からなかったようだ。
それも、まあ、仕方あるまい。美味しいとか楽しいとかを知らなければ、味気ないという概念などわかるはずもない。
「……わたし、もしかして食べられるの?」
『……どこでそれを聞いた?』
「みんな」
『他の仲間と雑談とかするのか?』
「普通はしない」
『なら、どうやって知ったんだ?
お前以外に雑談してる子でもいたのか?』
「うん」
ほう……驚いたな。
恐らく同期は皆、この少女と同じ年齢だろう。
やはり子供みたいなところがあるんだな。
「廊下とか共用部でうるさくしてると
異常個体って見られて廃棄されちゃうから
普通は誰もしゃべらない。
でも、食われるって決まった子だけは
廃棄されないからおしゃべりになる」
ん……?
「廃棄」と「食われる」って同じじゃないか?
なんか認識がわからないな。
『なあ、食べられるってことについて
どう認識してる?』
「えっと……あなたがわたしになるんでしょ?」
『……間違っちゃいないが』
この子の脳の主導権を握る。
つまり脳や体を乗っ取るようなものだ。
「あなたにとっても、その方がいいんでしょ?」
『いやだよ』
少女がぎょっとして驚いた。
「食べたいから話しかけてきたんじゃないの?」
『最初に言ったろ。休もうぜって』
「死んでもいないのに?」
休むときは死ぬときか。
そんな人生観捨ててしまえ。
『さっき言っただろ。ダミーのプログラムを
走らせてるって。ほら、表示見てみろ』
「……え?」
画面を起動してこの子に見せつける。そこには今日やるはずだったカリキュラムが実行されている。少女は一切操縦していないのに、だ。
つまるところ俺がこの子のかわりに訓練プログラムを勝手に実行して、ごく普通にクリアしている。
「うそ……なんで……そんなことできるの?」
言ってしまえば、俺は特別な存在だ。
祖父にとっての特別とかじゃなく本当にレアだ。
具体的には機人の中でも非常に特殊な、『
情報処理技術や工業生産技術が極まってた時代に作られたもので、地球文化を保全するため、通常の機人核を凌駕する演算能力や隠蔽能力を持っている。
恐らくこの時代の情報処理技術は、俺という機人核が製造された2200年代よりも劣っているのだろう。戦闘訓練のカリキュラムやシミュレータを解析や改造するのに何の苦労も要らなかった。
もっとも、上位者がどれだけの演算能力を持っているかはわからないし、ソフトウェアで無双したところでハードウェア的に……つまり物理的に爆破でもされたら俺は普通に死ぬので安易に無双はできない。高位AIに意見を具申したいところだが、現状では慎重に動く必要はある。
なので誤魔化すことにしました。
『俺はサボるのが得意でな。
大学のときは出席数を計算してギリギリまで
サボって無事に単位を落とした。
社会人になってからも客先で会議が
長引いてるフリして駐車場でゲームしてて
課長にバレた』
何を言ってるんだこいつみたいな顔された。
つまんないとかじゃなくて、言ってる意味がわからないのだろう。単語の意味もわからなければ、「サボる」という概念すらあるまい。
「あなた……すごくおしゃべり」
『お前は無口だな』
「そんなにおしゃべりなら……
どうして、食べてくれないの?」
『食べて……くれる?』
きょとんとした顔で少女が言った。
食べるってのは直接的な意味ではない。えっちな意味でもない。俺が、こいつの体を、乗っ取るという非人道的行為のことだ。だと言うのに……この子はさっきから、「食べる」ことがまるでありがたい行為のように語っている?
『あなたどこでそんな言葉聞いたのかしら。
はしたないわねぇ……。
あたしはそんな子に育てた覚えないわよ!』
「育てられたっけ……?」
少女が、不思議そうに首を傾げた。
確かに育ててないけどさ。
しかし、ここまで冗談がすべると悲しい。
『お嬢さん、ちょっと勘違いしてないか?
お前の本来の脳が機能停止するってことは、
なんていうか……死ぬに等しいんだぞ?』
「え、何言ってんの?
脳の主導権があなたに移るだけで死なないよ?」
少女が、さも当たり前のことのように答えた。
この子たちは脳に機械を繋げることでウィッチクラフトをまるで生身の体のように扱うことができるが、それにも限界がある。
結局、ウィッチクラフトを起動するかしないか、銃のトリガーを引くか引かないかという導者の判断や決心がなければ絶対に機体が動かない。俺のようなウィッチクラフトは武器である以上、使い手が決断してくれなければ動けないという基本設計があるからだ。
だが導者をウィッチクラフトが食ってしまえばその判断までの微妙なタイムラグをすっとばし、ウィッチクラフト自身が、自分を自由自在に操作できる。
単に反応速度がどうこうという問題ではない。自分の体を自分のものにできるという権利を得られる……というわけだ。
もっともそれは、導者が脳の支配権を奪われて生命活動が終わるまでの期間でしかない。生命活動が終わればウィッチクラフトは再び誰かに動かしてもらう武器に成り下がり、導者の肉体は廃棄される。
脳の支配権を奪われるということは自分の肉体を維持しようとする力さえも衰えるのだから生命維持装置がどんなに優秀であっても「死」以外の結論はありえない。
というか、死なないにしても自分の意思で指一本さえ動かせない状態が長く続くわけで……。
端的に言って、地獄じゃないのかこれは?
『いや、喰われたら死ぬのと同じだって。
物を食べる力さえもなくなるんだぞ』
「え……そんなことも知らないの……?」
常識を説いているはずがドン引きされた。
なんでやねん。
『すまん少女。もっと詳しく教えてくれるか?』
「えっと……私たち
死んでもちゃんと副脳は回収されるんだよ。
副脳は修理もできて半永久的に使えるから」
副脳とは、生身の脳に外部情報を入出力するため脳に埋め込まれるチップのことだ。
このチップには記憶領域も備わっていて、カリディアンとの戦闘経験を蓄積したり、計算や演算を補助する機能がある。
『ほうほう。それで?』
「新しい体には回収された副脳が移植される。
だから私たちは古い体を乗り捨てて、
何度でも復活するんだよ」
この子は、本気で言っている。
天動説の時代の人間が、地球の周りを太陽が回っているのだと説明するかのように。
だが……副脳には、
脳をCPUと見たとき、副脳はパソコンのグラボやサウンドカード、あるいはそれらが一体化したマザーボードと言える。多少のメモリ領域はあるが、記憶や人格を転写することはできない。
仮にあったとしてもそれは脳活動を模倣してるだけで、復活や転生などと呼べるものじゃない。
「細かい記憶は忘れちゃうけど、私たちは
他の宇宙の人類と違って永遠なんだ」
表情筋は動いていないが、それでもわかる。
この子は自分が楽園にいる選ばれた存在だと信じ、誇りを持っているのだ。
俺は、それを否定できないでいた。
理屈ならいくらでも反論できる。
だがこれは理屈じゃない。
信仰だ。
『……今の体のまま、生まれ変わることなく
長生きしたいとか思わないのか?』
「長生き……って、どれくらい?」
『百年とか二百年とか?』
「えっ……キモ」
少女の口が嫌悪で歪んでいる。
こ、こいつ、本気でキモがっている。
「あたしたち、耐用年数2年だよ……?
そんなに活動しなきゃいけないの……?
絶対どこか壊れてるじゃん……気持ち悪……」
『……き、気持ち悪いか。
なるほど、そういう認識か』
「あ、それ、
やつでしょ……? こわい……やだ……」
だがその言葉で一つ理解できた。
いや、誤解が解消したといった方がいいか。
喰われると決まった子がお喋りになるっていうのは、やけっぱちになるとかじゃない。
肉体が老いるという現象から解放されて新たにやり直すというチャンスが巡ってきた幸運に、ハイになっているのだ。受験に合格したとか、試練をクリアしたとかで希望を与えられたからおしゃべりになるのと同じで。
そしてどういう振る舞いをしたところで「喰われる」という決定は覆らないのだろう。このシステムを運営する上位者にとってはどうでもいいことだからだ。
『くそっ、そういうことかよ』
「な、なに……? なんか怒った?」
怒りを感じる。
いらつく。
反吐が出る。
『……すまん、お前に怒ってるわけじゃない』
俺が怒っているのは、こんな偽りの死生観を与えて戦闘に駆り出す環境だ。
地獄に落ちろクソ野郎。
『……まあ、長話して悪かったな。
そろそろ訓練に戻りたいか?』
「うん」
VRパネルを出現させる。
だがこの子は、不審そうに俺に質問した。
「……なにこれ?」
『……お前が訓練中にフリーズしたり操作が
安定しないのは、情緒が安定してないからだ。
お前が俺に喰われたいんだとしても、
まず安定した成績を出し、戦場を生き延びて、
結果を出してからやるべきなんじゃないか?』
だが悔しいことに、俺はまたまだ地獄に叩き落すべき連中の顔も素性もわからない。
だから俺は、当初の考えを実行することにした。
「だから、これなに?」
当然、この子は不服そうだ。
お叱りと捉えられても仕方なのない言葉が放たれた上に質問には何も応えてないのだから。
『これは絵本だ』
「絵本?」
の世界の標準文字体系に翻訳した上で、VRパネルにはこう書かれている。
シンデレラと。
◆
この子たちの生活には何の潤いもない。
訓練し、戦い、死んでいく。
そんな馬鹿げた話があるかよ。
そして俺の中には生活必需品ではないが日々の慰めになるデータがより取り見取りだ。少しでもこの子の情緒に働きかけて幸福に生きてくれたらと思ってまずは絵本を選んだ。
『お前これで通算1053回目だぞ!?
他のも読みたくならないのぉ!?』
「ならない。もっかい読んで」
めちゃめちゃハマった。
『悪くはない……いや、ほんとに悪くはない。
のめりこんでくれたのは素直に嬉しい。
でもさぁ、たまには他のも……』
「やだ。読んで」
今の俺は、上位者から伝えられたカリキュラムをAIに代行させてほどほどの成績を出しつつ、少女に絵本を読み聞かせていた。
最初は特に苦労も無かった。シンデレラとか、赤ずきんとか、桃太郎とか、
泣いた赤鬼とかド定番の絵本を読ませて、シンデレラはただ聞いていた。
理解できないのかと思っていたが、二百冊くらい読んだあたりで「もう一度シンデレラを読みたい」と言われた。
そして読み返すと、ワンフレーズごとに「これってどういう意味?」と尋ねられ逐一答えた。
ダンスってなに?
靴ってなに?
ドレスってなに?
馬車ってなに?
お掃除って人間がやることなの?
シンデレラの父と母と姉ってなに?
家族ってなに?
絵本の世界は、この子の知らないものだけで構成されていた。最初読んだときはあまりにも異文化すぎて、どう質問すればいいかさえわからなかったのだろう。そして質問と答えのキャッチボールを重ねて絵本への理解が急速に深まり、好き嫌いが出てきたのだ。
あれを読んで、これを読んでとお願いされて読み、読んだ内容を反芻してまた質問をして、最終的にシンデレラが一番のお気に入りとなった。
そして何度も何度も……本当に何度もシンデレラを読み返すことになったわけだ。
『わかったわかった。
じゃ、読み終わったら訓練に戻るぞ』
「えー」
『えーじゃない。AIにごまかすのも限界がある』
いや、限界なんてないんだがな。
だがこの世界で生きるためには訓練は必要だ。
「点数低かったら……読んでくれないの?」
この子の瞳に、怯えの色が浮かんだ。
『……心配するな、ちゃんと読んであげるから。
こういうのは「良い点取らなきゃダメだ」
みたいな考えじゃなくて、めんどくせーけど
やらなきゃいけないからやるかーくらいで
いいんだよ』
俺の言葉にこの子はあまり納得していない。
表情はまったく動いていないが、それでもなんとなくこの子の感情がわかるようになった。
だから、反論が来るか……と思ったら、この子の口から妙な質問が出てきた。
「……オズは魔女なの?」
『魔女? なんで?』
「なんでもできるから」
『なんでもはできないな。
つーか俺が魔女だとしたら……』
俺はかぼちゃの馬車を召喚して、お前を素敵な舞踏会に連れてってやることはできない。
嘘と幻でその場をやり過ごすだけのオズの魔法使いがいいところだ。
だがいつか、馬車だって召喚してここではないどこか、幸せな世界へと連れてってやる。
そんな思いを込めて。
『お前がシンデレラだよ』