余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
ヘルムとの通信を終了した。
思った以上の情報を入手することができた。後はこれを基地のストッカーに入れておけば無事に依頼は完遂だ。
だが一番の収穫は、古参兵からこうした激励がもらえたことかもしれない。
ここは残酷な世界だ。機人たちの多くは世界に適応し、残酷を「それが当たり前なのだ」という常識にすり替えて生きているのだろう。だがその世界に抗おうとする仲間の存在は心を震わせる。
……って、あれ?
物思いにふけっていると、シンデレラが何か人魚姫とひそひそ話をしながらなんかやってる。
『シンデレラ、何を調べてるんだ?』
「ひえっ!? いやっ、なんでもないけど!?」
見ると、シンデレラが勝手にレーダーの設定をいじって色々と調べ物をしていた。他に使えそうな素材がないか調べたかったから別に構いはしないんだが。いたずらしてたわけでもなさそうだし。
『あ、食料を探してるな?』
「ご、ごめん……」
『別に謝る必要なんてない。
レーダーを好きに使えって言ったのは
俺だしな。何か面白いものあったか?』
その言葉にシンデレラは安堵して、ホッと息を吐いた。自分の意思、自分の裁量で隙な行動をするというのはまだまだシンデレラにとって勇気がいる行動のようだ。
「んー、あったっていうか……ありすぎ?」
『ありすぎ?』
「微妙に生きてる電源とかバッテリーとか
たくさんあって、何が何やらって感じ」
『あー……それがあったか』
旧産業集積クラスタは廃棄された都市だ。それも計画的な廃棄ではなく、戦場となったために人々は着の身着のまま逃げたのであろう。
都市を稼働させる電源そのものは喪失しているが、各地に存在している非常用のジェネレーターや発電機は眠っているだろうし、太陽光などで発電してギリギリ生きてる設備もあるのだろう。
だからこそ探索する価値はあるんだが……。
『探し尽くすにはちょっと時間と人員が
足りないな……』
「前に言ってたドローンの探査とかは?」
『残存カリディアンの脅威なしってことで基地のドローンは撤収しちまったんだよ。撮影した画像は確認したが、多機能食品プリンタは発見できなかった』
「なーんだ、ガッカリ。
面白そうなところもあったのに」
『面白そうなところ?』
「うん。ここなんだけど……」
シンデレラがコックピット内画面の、とある場所を指で示した。
『……何の反応もないぞ?』
カリディアン反応ゼロ。
電磁波や熱源も周囲と比べて微弱だ。
特に珍しいところはないように思うが。
「うん。反応がたくさんありすぎるから、
反応が少ないところを探してみようって
人魚姫が言ったの」
「そしたらシンデレラが、音響センサーで
調べてみようって言ったんですぅ。
そしたらこんな感じになりました」
シンデレラが、反応がない箇所に、音響センサーの結果を重ね合わせた。
音響センサーには様々な使い道があるが、シンデレラは恐らくこれを使って、橋梁やビルの非破壊検査のようなことをしたのだ。結果として、コンクリートの駐車場のような場所の地下に四角い空洞があることがわかった。
旧産業集積クラスタ地下に空洞があることそのものは珍しくはない。地下通路を使って物資をケレス内のいろんな場所に運んでいたからだ。だが、地下っていうのは常に非常灯や脱出設備といったものがある。仮に何もないとしたら、破壊されて生まれた瓦礫による音響ノイズが出るはずだ。綺麗な空洞の存在が検知できて、何の反応もないのは……
『静かすぎる。逆におかしいな』
「でしょ?」
いや、冴えてるな。
シンデレラたちはゴミみたいな反応だらけの場所をスキャンして、絶妙な強度と様々な種類の探査結果を組み合わせ、あえて反応の弱い箇所を調べ出したのだ。ウィッチクラフトでさえ見逃しそうな情報を導き出した。
『助言はしていないぞ、この子たちが
自分たちの力で結論を導き出したのだ』
ウッドマンがどこか誇らしそうに言った。
「そっか……凄いな二人とも」
シンデレラと人魚姫が、俺たちに褒められてご満悦の表情をしていた。
これはご褒美をあげなきゃいけないな。
『距離もそんなに遠くないな……。
ちょっと行ってみようぜ』
「「うん!」」
◆
「ごめん……つまんないのしかなかった」
発見したのは、ある建物の地下に隠されていた避難用シェルターだ。恐らく電磁波や核攻撃等に耐え、そして敵に発見されないよう電波を遮断していたのだろう。レーダー探知に引っ掛からなかったわけだ。
出入口をハッキングしてこじ開けると、幸いにも人間のミイラ死体とかはなかった。そもそもシェルターはあくまで戦争時の籠城とか、あるいは大規模災害とか、「ここを復旧させる」という前提で使用されるものだ。ここで働いていた人々は避難シェルターではなく避難船などを使って別のコロニーや惑星に逃げたのだろう。
で、ここに残されていたのは電源を落とされた人間サイズの警備用のドローン、そして「非常用食料 50日分」と書かれた、米袋みたいなクソデカパッケージだ。
俺たちは喜び勇んでドローンの支配権を掌握して操作し、非常用食料の内容物を確かめた。これがもしも日本の非常食だったら味付きアルファ化米の可能性がある。お湯を入れて5分で出来上がるカレーピラフとか五目ごはんか。
現代アメリカの災害用パッケージであったならばもっと素晴らしい。マッケンチーズとかパンケーキミックス、水で溶かすタイプのエナジードリンクが入っている。
そうだったらよかったのになぁ……。
「いつものじゃん」
「いつものですぅ」
……はい、いつものやつです。
これを食べていれば常に健康、戦闘糧食です。
『食料は……うん、まあ、残念だった。
だが全然つまんなくないぞ。
人型ドローンが手に入ったのは大収穫だ』
「えー、そう?
基地にもあるじゃん」
『基地のドローンは作戦にしか使えないだろ。
俺たちの裁量で使える人間サイズのドローンを
手に入れられたのはかなりの成果だ。
旧市街地クラスタで使えば探索可能な範囲が
相当広がるぞ』
そもそも人間にとって必要なものは、人間が出入りできる場所にしか隠されていない。10メートルを超える巨大ロボでは、街中をくまなく探すなんて不可能なのだ。だが人間サイズのドローンがあればそれができる。
そして、もしもシンデレラたちが「コックピットから出て街を歩いてみたい」と言ったときに俺やウッドマンがドローンを操作して護衛することも可能だ。夢が広がる。
『ドローンは回収して、俺たちの
プライベート用に保管しておこう。
非常用食料は……』
『持ち運ばない方が良いのではないか?
この食料が必要になるとしたら、
基地が危機的状況にあるときだ。
持ち帰るメリットは薄い』
と、ウッドマンが提案してきた。
『ふむ……確かにシェルターの中ならば
もしカリディアンがまた襲来しても
食われる心配はないか』
緊急用の食料はここに残しておこう。
様々な収穫を得た探索だった。
こうして俺たちは、基地に帰投した。
◆
素材をストッカーに格納した後、いつもの基地内のガレージに戻った。準備は整いつつある。後は、模擬戦闘の本番に備えて練習を進めるだけだ。
特にヘルムから知り得たデータや、とある情報を元にして作り上げたジャベリン、ガントレットの模倣データは限りなく精巧な本物に近付けたと思う。問題は、連中がどういう思考ロジックや戦闘スタイルをするかだ。
だが何度もシミュレータ戦を繰り返した結果、シンデレラと人魚姫には俺たちの疑似人格の戦闘行動パターンが見抜かれてしまった。難易度を上げてもパターンを把握されてしまって、まっとうな練習にならなくなった。
この域に達した時点で練度は十分なのかもしれないが、以後もこの調子ではよくない。マンネリ化して緊張感が薄れてしまう。
そこで俺は、この模擬戦闘に関わらない、とある第三者に練習相手を頼むことにした。
「……なんかこのシミュレータの疑似人格、
やりにくいっていうか……なんだろ……?」
「強いっていうか……やりにくいですぅ。
いたら嫌だなってところにいるし、
ここにいるはずってところにいないし」
「ぬるぬる動くと思ったらガツンと
殴ってくるし、読みにくい……。
勝てないわけじゃないんだけど」
そして二人は、けっこう手こずっていた。
勝てないわけではない。だが、リズムが崩されて思わぬダメージを食らってしまったり思い描いた作戦通りに進まなかったり、エネルギーが切れてやむなくブレード戦の力技で押し切ったり……と、綺麗に勝てなくなった。
「ねーねー、この疑似人格って誰!?
新しい子作ったの!?」
『秘密だ』
「オズの意地悪!」
「ケチですぅー!」
この中身が誰なのかバラしたら二人とも驚くだろうな。早く紹介したい。
……っていうか別に秘密にする必要は特にないと思うのだが、当人から「ぼくも会いたいけど練習の邪魔になるし、あとでネタ晴らしした方が面白そうだから」と言われて伏せることとなった。
「よっし、勝った! 次は一対一でやるわよ!」
「あ、私もそれやりたいです!」
シンデレラたちは白熱しながらも技量を磨き上げ、そしてまたたく間に時間は進んでいき……。
模擬戦闘訓練の日が来た。