余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
模擬戦闘は野外訓練場にて行われる。
訓練場と言っても大した設備があるわけじゃない。小さい隕石による小規模なクレーターや、戦闘の爆発によって穴だらけになった灰色の荒野だ。
『ライオンハートとその
メッセージが来たぞ。
がんばれ、だってよ』
『順調に自我を獲得しているようだな。
改めて会うのが楽しみだ』
『ああ、そのためにも……』
俺たちの遥か視線の先、10キロ遠方にチンピラロボ2体がかったるそうに待機している。
『連中をぶっ倒さないとな。
シンデレラ、人魚姫、準備はいいか?』
「もっちろん!」
「万端です!」
女児二人が元気よく返事をした。
事実、シンデレラと人魚姫はこちらが想定した以上のコンビネーションを練り上げてきた。少なくとも、相手がこちらの想定通りであるならば問題ないだろう。ないと思うが……。
『大人げねえ武器を持ち込むこたぁ
予想してたさ』
映像をズームアップすればよくわかる。
ガントレットの右拳には、まるでボクサーグローブのような謎の武装がある。
ジャベリンは、ラピッドとは異なる巨大なライフルを装備している。
「何あれ、KURIKOMAのパクリ?」
KURIKOMAとは、バルチャーズ・キングに出てくる高威力のレーザーライフルのことだ。
エネルギー消費は激しいが攻撃力が段違いに強く、前世の頃の俺は友達相手に無双しまくって、ついには対戦中における禁忌兵器に指定された。
『高出力レーザーライフルか。
俺がデータキャラならメガネがパリンと
割れてパソコンぶっ壊すところだったぜ』
「オズってそーゆーキャラじゃなくない?」
「違うと思うですぅ」
『オズは……近距離パワー型だろう』
『そんなことねえって!』
おかしい……。このチームじゃ一番のインテリと思ってたのだが……。
仕方ない、頭脳パワーを発揮するとしよう。
『真面目な話、ジャベリンの武器はやはり
コウイカのビーム器官をそのままライフルに
改造した奴だな。
ガントレットは重水素プラズマ発生装置だ。
くそ、贅沢なもん使いやがって』
『ヘルムの情報は正しかった、ということか』
『だな、裏を取る必要もなかった』
ヘルムの話からほぼ8割方、ジャベリンたちの兵装は予想できていた。が、鵜呑みにして負けましたでは洒落にならん。俺は情報に間違いがないか確かめるため工廠部と呼ばれる部門にアクセスして幾つか質問をしたところ、こんな答えが返ってきた。
【正規の武装が故障し、修理が次の作戦に
間に合わない場合、代用の武装を
認可することもありえる】
【その場合は当部門が製造をするが、
素材と設計情報はウィッチクラフト側が
用意すること】
【既存の代要武装の設計情報は、設計者と
なっているウィッチクラフトの許可を
得ること】
【一定レベル以上の作戦行動において
代要武装の使用は許可されない。
通常の哨戒任務や、迅速性が求められる
緊急任務、その他、代用武装の使用許可を
得た特別作戦行動でのみ許可される】
【なお訓練機、あるいは実戦機となって
1ヶ月未満のウィッチクラフトは
代要武装は使用不可能であり情報開示も
されない。
しかし38号ウィッチクラフトは
すでに実戦を経験しているため、
特例的に情報を開示する】
……なるほどねぇ。
ま、新兵に教えない理由はわかる。全員一律の装備、一律の性能があってこそ部隊として成り立つのだから。変な武装を先に習熟しては部隊の質が落ちる。
一方でこんな『抜け道』がある理由もわかる。戦争というのは物資や補給があって初めて成り立つが、この小惑星という環境では、物資調達は地球よりも遥かに困難だ。ペンペン草も生えないような環境でさえ湧き出してくるカリディアンの死体を利用できるならば、そりゃ利用するだろうさ。
けど。
けどな。
情報と物資の格差がある兵隊同士の決闘なんて認めてんじゃねえよバカがよ! 不正だ不正! やってられっか!
……だがまあ、許してやろうじゃないか。勝利を確信してるやつに吠え面をかかせるのは、悪い気分じゃないからな。
『……装備は明らかに向こうの方が上だ。
だがそれでも付け入る隙はある』
「そーなの?」
『向こうは旧産業集積クラスタのときの
俺たちのことしか知らない。
一戦こなしただけのルーキーと思って
ナメてかかってきてる……多分な』
「多分じゃん」
『ま、対策は練られるだけ練った。
あとは気楽にやろう』
「オズってこーゆーとき無責任だよねー」
シンデレラがぷくーとほっぺを膨らませてご不満の表情を浮かべる。
その様子は普段ゲームやってるときとさほど変わらない。つまり……いい調子だ。肩肘に力が入ってない証拠だ。
人形姫の方は……ちょっと緊張気味で口数が少なくなっている。
だが、このくらいのバランスがよいのかもしれない。それに、ここまで来たら出たとこ勝負だ。
【こちら主計管理AIマントリ。
9107号機、9515号機と、
10138号機、10139号機の
模擬戦闘を60秒後に実施します】
ウィッチクラフトを統括するAIのマントリが試合開始のカウントダウンを開始した。
コックピット内に無機質な声と共に数字のカウンドダウンが表示される。60あったカウントがどんどん目減りしていき、30切ったあたりで全員、無言になった。
シンデレラの表情が研ぎ澄まされていく。そこに、一ヶ月前の表情筋さえろくに動かせなかった頃の面影はない。面白いものに触れて笑い、他人と接して羞恥心を抱き恥ずかしがり、そして友を侮辱されて怒りを覚え、今の厳しい表情へと結実している。
20になった。人魚姫は祈るように目をつぶり、深呼吸をしている。シンデレラよりも少し遅れて絵本や漫画に触れたが、それよりも先に彼女が覚えた執着はシンデレラだった。シンデレラとの練度の差を埋めようと、シミュレータでの練習で必死に食らいついてきた。
今やシンデレラは当たり前のように人魚姫を相棒のように扱っている。そこに至るまでの道程は、短い間であったとしても決して容易くはなかっただろう。理解者たるウッドマンも根気よく育ててくれた。
カウントが10を切り、二人の敵を見つめる。
二人に対しては怒りがあり、哀れみがあり……そして二人を成長させる糧となったことと、ヘルムと出会うきっかけを生んでくれたことに感謝さえ覚える。刃を持って返礼してやろう。
ゼロとなった。
【模擬戦闘、開始】
開始を告げるブザーが鳴り響くと同時に、俺たちのいる場所に高出力レーザーが放たれた。
『やっぱり初手でぶっ放して来やがったな!
それに、反応速度も速い……!』
ビームの威力は加減するって話だったが、あくまで「本来の威力から2割か3割減らす」って程度の話だ。
結果的に事故で死んでも不問にされちまう。俺は必死に発射タイミングと狙撃位置の予測をしてシンデレラに伝えるしかない。
「人魚姫! 付いてきなさいよ!」
「わかりました!」
シンデレラ=俺が灰色の荒野を疾駆し、その後ろを人魚姫=ウッドマンが追う。
普通なら分散して相手にどっちを撃つか迷わせ、どちらかが生き残るのが戦術というものだ。だがこの模擬戦闘ではどちらが狙われるかはすでにわかりきっている。
ウッドマン=人魚姫だ。
そして相手の目論見通りに分散して各個撃破されたらすぐさま試合終了だ。だからあえて分散はせず俺=シンデレラのぴったり後ろに張り付いてもらう。
そして俺=シンデレラが完璧な回避行動を取り、ウッドマン=人魚姫が俺の動きを完璧にトレースする。
俺=シンデレラが右に行けばウッドマン=人魚姫も右に。左に行けば左に。二身同体となればダメージゼロで接近できる。仮に命中するとしても前衛がディストーションシールドで防ぎ後衛を守ることができる。
もっとも、俺の回避予測とシンデレラの判断力、そして万が一のシールド防御が成功するって前提の根性論だがな!
『シミュレータより反応がシビアだ!
気を付けろ!
接近戦に持ち込むまでが勝負だ!』
「わかってるってーの!」
『オズ、そろそろ目標ポイントだ!』
訓練場は灰色の砂漠のようなフィールドだ。
平坦のように見えて、数メートル程度の起伏差がある。小隕石によるクレーターもあれば、これまでの射撃訓練による爆破の痕跡があり、ビームの射線上から逃れられる程度の障害物がある。
相手の極太ビームを避けるポイントにもう少しで到達する。
「トリガーフィッシュ、撃ちます!」
人魚姫がトリガーフィッシュを発射し、前方の小高い丘に着弾。砂煙が盛大に舞い上がって視界が大きく乱れる。
惑星ケレスの重力は月よりも弱い。そして大地は冷え切って乾燥している。トリガーフィッシュの着弾地点によっては数十メートルの砂煙を立たせることも決して難しくはない。もうもうと上がっていく砂煙に俺たちは突っ込んでいく。
「さぁ……作戦開始よ!」
シンデレラの、猛禽のような瞳が輝く。