余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
訓練場の東端。
ジャベリンが狙撃の姿勢を解き、やれやれと肩をすくめた。
『ちっ、これじゃ当たんねーな』
『膠着状態に持ち込んで無駄弾を
撃たせるつもりだろう。
近接格闘に持ち込めば勝てるという
希望に縋ってな』
その隣でオズたちを観測していたガントレットが冷静に分析する。
『そのくれーしか勝ち目はねえだろうな。
だがそれでも連中の行動は、こっちを
予測してたみてーに速い。
……情報を流したやつがいるぜ』
『誰かは知らんが、無駄なことだ。
性能差も練度の差も埋まらんよ。
こちらがどれだけカリディアン相手の
戦闘を重ねたと思っている』
ガントレットのせせら笑いに、
ジャベリンもまた面白がって答えた。
『連中も無い知恵絞って考えたんだろうよ。
だが……ビームを必死に避けてるってこたぁ
根本的な性能差は埋められなかった。
そういうこった』
『慌ててマツバガニの角を
回収したんじゃないかと警戒したが……。
兵装化はできず、徒手空拳で模擬戦闘に
来たということだ。愚かな』
ジャベリンとガントレットが真に警戒したのはオズたちではない。オズを支援しようと余計な工作をする古参兵がいないか、であった。
結果を出した新人ウィッチクラフトというのは出る釘だ。同時に、味方に引き入れたい存在でもある。たとえ同じ基地に所属し、カリディアンという敵と戦っているとしても思惑は様々だ。
高位AIに忠誠を誓う者。
逆に疎んじ、そして疎まれている者。
そのどちらにも与せずに利益を追求する者。
ジャベリンとガントレットは、ひたすらに自己の利益を追求するタイプだ。勢力争いに積極的に参加することはないが、疎んじる者がいないわけではない。そして恨む者は当然いる。そんな彼らがカリディアン兵装の知識をオズたちに提供する……あるいはそれを超えて、処罰覚悟で兵装そのものを渡す者がいてもおかしくはない。
だがそんな支援者はいなかった。いたとしても、無力な存在だった。ガントレットたちはそう結論づけた。
『くく……そこまで努力した褒美に、
連中の得意分野に付き合って
やろうじゃないか。先輩として』
ガントレットの言葉は喜びに彩られていた。
相手を粉砕し焼却させる瞬間を想像し、機械知性でありながもエクスタシーを感じていた。
『じゃ、こっちからお出迎えするとして……
どっちからやる? 39号か?』
『ああ、39号は間違いなく支援役だ。
そこから潰すぞ。
そして38号機は……二人でなぶり殺しだ』
『おいおい、わざと殺しちゃいかんでしょ。
ま、事故が起きねえとも限んねえけどな?』
『これは少々不安定だ。
出力セーブ機能が外れることも、
もしかしたらあるかもしれん』
ジャベリンが狙撃姿勢を解いて立ち上がり、ガントレットは、武装の暖機運転を始める。そして38号と39号のいる方向へと移動を開始した。
狩りが始まった。
◆
二機が瓦礫だらけの荒野を駆け、獲物がいる砂煙に近付いていく。
視界が利かない範囲は百メートルもない。接近して様々なレーダーを駆使すれば位置の予測は容易だ……とジャベリンが思いながら距離を詰めていると、ふたたび爆発音が鳴り響いた。
『ちっ、訓練場を何だと思ってやがる!』
『落ち着けジャベリン。
相手が逃げ惑ってる証拠だ』
『わかってまさぁ。
んじゃ分断工作といきやしょうか』
ジャベリンが愛用のビームライフルで、砂煙を上げている場所を乱雑に数発撃つ。
『おい、無駄弾を撃つな、思う壺だぞ』
『無駄弾を撃ってんのはあっちさ。
トリガーフィッシュの弾だって
そう多くはねえ。
燻り出しちまえばこっちのもんよ。
……ほらきた』
生意気にもこっちの射線を読んで撃ち返してくる。まだ向こうは土煙の中だが、互いに位置情報が露見した。
しかも、二体どちらも撃ち返してきている。
ジャベリンはその稚拙な行動に失笑を覚えた。
『ほら、命中精度でわかるだろ?
こっちがシールドで防ぐしかなかったのが
38号機。
見当違いな方に撃ってるのが
39号機だろうさ。
下手くそな方から仕留めるとしようや』
『いい考えだ……いくぞっ!』
ジャベリンが再び移動を始めた。射撃は控えスラスターも最小限。静かに、だが迅速に砂煙の巻き上がる方に突入していく。
ガントレットも牽制の射撃をしながら細かく位置を変え敵に接近していく。
そもそもこの二機にとって、遠距離からの射撃はそこまで趣味ではない。ライフル性能を比較するならばカリディアンから奪った資源で開発したもの……カリディアン兵装よりも、『天蓋の塔』開発の武器の方が強い。カリディアン兵装は出力こそ高いが安定性に欠けるためだ。一定以上の規模の作戦行動での使用はまず許可されない。
だがそれでも二人はカリディアン兵装にこだわった。
獲物を狩り、その爪や牙、皮を剥ぎ取って身に纏うという原初の喜びを無自覚に感じ、愉悦に浸っていた。あらゆる自由が奪われた環境での数少ない愉しみを、二機は存分に味わっていた。
『ハハッ、間抜けめ!
我慢できず燻り出されたな!』
砂煙が晴れていく中で、うっすらと動く姿が見えた。ガントレットが一気にスラスターを吹かせて距離を詰め、10メートルにまで接近する。
そして、自慢の右拳を繰り出した。
『喰らえ! 重水プラズマナックルぅ!』
重水素を含んだ水蒸気を外に噴霧すれば一瞬で微細な氷の粒となり、更に舞い上がる砂埃と混じり合う。
不純物に溢れた訓練場は、宇宙空間よりも遥かに強力なプラズマが生み出される。カメラアイを焼くような光と莫大な熱量が生み出され、39号機を飲み込んだ。
訓練のために焼き殺せないことだけが残念だ……とガントレットは思ったが、おかしなことに気付いた。
計算より熱量が大幅に増大。制御系への負荷が生じてセンサー類精度低下。そして……微弱なカリディアン反応。現れるはずがないものが現れている。
『これは……マツバガニ!? バカな!?』
だが、砂煙が晴れる同時に視界に入ったばちばちと迸る電磁パルスは、間違いなくマツバガニのバリアのものだ。そしてバリアの奥から、角を頭部に無理矢理接続したウィッチクラフトが現れる。
『バカな、だと?
奇妙な質問だ。自分が扱っている武器を
考えれば、「想定外の事態」などとは
とても言えないのではないか?』
『ありえん!
ならば、なぜジャベリンの狙撃を……!』
そこまで言いかけて、ガントレットはようやく気付いた。
自分がブラフに掛けられていたこと。マツバガニの電磁フィールドは使えない。そう思い込まされて誘き出されたという這う事実に。
『お察しの通りだ! 行くぞ!』
39号機、ウッドマンが
◆
ま、大げさなトリックじゃない。
俺はヘルムに与えられたヒントをもとに、ほぼ完璧な形でジャベリンとガントレットの持つ武器性能を把握していた。
同時に、それに対抗する防具も手に入れた。マツバガニの角……電磁フィールド発生器官だ。
角を向けている方向に電子機器を破壊しビーム兵器を遮断する電磁フィールドを発生させることができる。よって重水プラズマナックルも、コウイカのビームライフルも防げ……ない。
角は、一度使えばオシャカになる。
制御プログラムの生成には成功したが、それでもウィッチクラフト側から電力を角に流し込んで起動させると角自身が耐えられない。これは一回きりの消耗品だ。
4本中1本はヘルムに渡した。そして1本は実験の犠牲となった。残る角は2本。これをどう使うかが問題だった。
順当に考えればコウイカのビームライフルを防いで、次にプラズマナックルを防いでしまえばいいが……ビームライフルを防いだ時点で警戒されるだろうし、その時点で角が消耗品であることが露見してしまう。
だから、ライフルは根性で避ける。
最悪の場合は角を取り出して防ぐことも考えたが、なんとか軌道予測とディストーションシールドだけで目的は果たした。そして俺たちに対抗手段がないと思わせて煙幕、そしてちょっとした罠を張り……敵が近付いてくるのを待った。
そして、一度でもプラズマ攻撃を一回防げるならば勝機はある。俺は角1本と動作プログラムをウッドマンに預け、賭けた。
そして自慢のプラズマを防がれて驚いているガントレットに、ウッドマンは
『ガントレット! 何やってんだ馬鹿野郎!』
『やかましい! 援護をしろ!』
『位置が重なって難しいんだよ!
距離を取れ!』
ウッドマンは
ガントレットもプラズマでは不利と気付いたのだろう。3ートルから10メートルくらいならば相当な強さを誇るが、ゼロ距離で放てば自分自身も巻き込んで焼き尽くす自爆攻撃に近い。
『格闘戦はお前の十八番だろうが!
何手こずってやがる!』
『馬鹿なっ……!
エースに寄生するだけの無能がぁっ……!』
ガントレットが、ウッドマンのブレードをブレードで受けて火花を散らした。
ははーん、さてはシロウトだな?
木刀や竹刀じゃあない。使用者が安全のための適切な使い方ってもんがある。
剣を受けるってのは、目的外使用なんだよ。高い技量を持つ者同士じゃないと、鍔迫り合いなんて成立しない。
『誤った角度で加えられた衝撃に
ブレードはひどく脆い。
ヤドカリ戦の記録を見ていなかったのか?』
『ふっ、ふざっ、ふざけるなぁー!』
ガントレットの方のブレードが、たった一撃で叩き折られた。
いかに数多の戦場を潜り抜けたウィッチクラフトと言えども、ウッドマンの
『くそっ……ふざけるな……この俺を……
ガントレットを舐めるなよ……!』
ブレードが叩き折られても、ガントレットは諦めていなかった。ほんの1メートルだけスラスターを吹かせて後退し、拳を唸らせる。
それでもまだ適切な射程距離ではない。
ただ相手が無傷でいることは許せないという、相打ち狙いの自爆だ。相手の技量は自分より劣っているはずという思い込みがもたらした粗雑な動き。
『重水プラズマぁ……!』
『やらせるわけがないだろう』
ウッドマンは、ガントレットの後退にぴったり合わせて前進していた。
一切タイミングのズレがなく、まるでダンスを踊っているかのような完璧な機体制御とブレード操作。
ウッドマンのブレードがガントレットの右腕を切断した。
飛ばされた腕がくるくると中空を回転しながら飛んでいき、そして間髪入れずにガントレットの頭部もまた切り落とされる。
【9407号機、戦闘不能】
無慈悲な宣言が下され、ガントレットは強制的に行動停止状態に陥った。
ガントレットたちはきっと優秀だった。
狩人としては。
少なくともシャコやヤリイカを倒したのだ。
決して技量が劣っているはずがない。
だが対等な相手と、生死を賭けた戦いに全力を出し尽くした経験はそう多くはないだろう。それなりに空気を読むことを熟知し、死線を避けるノウハウを得たことで弱くなったベテランの類だ。
俺自身は連中の戦績にアクセスすることは叶わなかったが、それでも間接的に集めた情報で推定はできる。
だからきっとこの瞬間まで気付けなかった。
シンデレラも、人魚姫も、そして俺たちも、狩られるだけの哀れな鹿や野兎ではないことに。
『おかしい……
貴様にそんな動きできるはずがない……!』
『ふふっ……』
ガントレットのマイクが、
ウッドマンの中の
いや、声だけではない。足さばき、近接格闘性能、果断な判断力。それらすべてが別人を指している。
『……誰だ、お前は?』
『ようやく気付いたんだ? ほんとざこ。
負ける瞬間までわからなかったなんてさぁ』
少女特有の甲高い声の哄笑が響き渡る。
『おいガントレット!? 嘘だろ!?
ざっけんなよ……!』
というわけで、観戦しながらゆっくり移動してた俺もそろそろ仕事をするとするか。
『人魚姫、行こうぜ』
『わかりました……!』
俺たちが張った罠は二つ。
まず一つは、カリディアン兵装を使えないと思い込ませたこと。
もう一つは、ウッドマン単独でガントレットと戦わせることだ。
連中はウッドマンと人魚姫を見下し、俺とシンデレラのことは高く評価していた。無論、挑発である以上鵜呑みにはできないが、ウッドマンを格下認定していたことに間違いはない。
だが連中は忘れている。中で動かす
そしてウッドマン=シンデレラが上手く立ち回って二体を引き付けてくれた……それどころか、二人で追い詰めるはずのガントレットを単騎で撃破してしまった。
そのおかげで、砂に埋伏しながら静かに移動してジャベリンの背後を取り……その隙だらけの頭部に、ビーム砲撃を命中させることができた。
『があっ!? 馬鹿なっ!?』