余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~   作:富士伸太

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ラブリーヒール記念日 03

 

 

 

旧市街地クラスタ。

 

小惑星ケレス全体が一つのコロニーとして成立していた頃のベッドタウンである。

 

かつては都市全体が気密ドームに覆われていて、多くの人々はここで生まれ、地球の地を踏むことなく死んでいったのだろう。

 

だが200年前、外来宇宙生物との何度目かの衝突によって完全に廃棄され、吹き曝しの姿を晒している。今ここを訪れる者は少ない。ウィッチクラフトや導者(ロードランナー)のような兵隊、あるいはカリディアンのような侵略者だけだ。

 

『うひー、おっかなくねえんスかセンパイ。

カリディアンか幽霊しかいねえっすよ』

 

俺=シンデレラ、ウッドマン=人魚姫、そしてライオンハート=ピノキオの三人は、旧市街地クラスタの哨戒任務のためトレーラーでドナドナと運ばれていた。

 

本来であればライオンハート以外にもう二機のウィッチクラフトが哨戒任務をするはずだったが、二機ともヤドカリ出現ポイントの哨戒任務にびびっていたらしい。任務を交代してくれという交渉は即座に成立した。むしろ恩を売る形になっただろう。

 

『ライオンハート、幽霊って概念を

理解してるんだな』

 

『ホラー系の漫画も読んだんで……。

 煉獄先生きょーべーとか』

 

『懐かしいところ突くな……。

ピノキオには見せたのか?』

 

シンデレラや人魚姫もホラー作品はハマりそうな気がする。女児向けアニメのホラー回とかも怖がりながらも楽しんでいたし。

 

『あー、対象年齢層が高めなんで

様子見してるところっす』

 

それもそうか、煉獄先生きょーべーはホラーであると同時に男性向けサービスシーン多めの作品である。親目線で二の足を踏むのも納得だ。

 

『導者(ロードランナー)は肉体の成長と精神の成長が

千年前の人類とは異なる。

当時の人間と同様に文脈を理解できるとは

考えにくい』

 

ウッドマンの的確なコメントに頷くしかない。

しかもいい感じにセンシティブワードを避けている。でかしたぞ。

 

「それ面白い漫画なの?」

 

『あー……怖いやつだ。

幽霊とかお化けとか出る』

 

「じゃあ別にいいや」

 

「私はちょっと読みたいです」

 

「えー、人魚姫ってホラー好きなの?」

 

「えー、シンデレラは怖いんですかぁ?」

 

「は!? 怖くないけど!?」

 

『ほらほら落ち着いた。

みんな、そろそろ仕事に入るぞ』

 

自動運転のトーレラーが減速していき、やがてガコンという音と共に停車した。

 

車から降りると、そこは以前戦闘があった食品工場の近くだ。戦闘の後が未だ生々しく残っている。

 

というか元から人なんて住んでないのだから整備されないのは当たり前か。悲しいものだ。

 

「ねーねー、コックピットから

降りてもいいの?」

 

『ダメ。

降りるとしても、ドローンで探索して

安全が確認できてからだ』

 

「ちぇー」

 

『カメラを同期してドローンでの映像を

出してやるから我慢してくれ』

 

「あ、それはアリなんだ。やったぁ!」

 

旧市街地クラスタの哨戒任務は、今日を含めて三日間行われる予定だ。

 

今日は工作用ドローンを操作して、以前の戦場となった工場を捜索することになる。

 

表向きの目的は当然、カリディアンの卵がまだ旧市街地クラスタに眠っていないかの確認だ。

 

カリディアンの孵化は同類の孵化に触発されて連鎖的に起きるらしいので発見可能性は薄いと思うが、それでも警戒は必要だろう。

 

「警備用ドローンって、なんだかちっちゃい

ウィッチクラフトみたい」

 

『まあ実際その通りだが』

 

持ち込んだ工作用ドローン4機は、ほぼ人間サイズで人間の形状だ。

 

身長1.7メートル。

 

工作兼自衛用のビームピストルと、その他ロープやジャッキなどの非常用の道具類を装備。

 

またバックパックには、この警備用ドローンでも操作できない探索するため、全長10センチの、車両型の小型ドローンが格納されている。

 

この工作用ドローンをウィッチクラフトの操作と同じく導者(ロードランナー)が操作して、AIである俺たちが補助する……という形だ。

 

『センパイセンパイ!

すごい発見したッス!』

 

『どうしたライオンハート』

 

『バックパックのミニカーでレースしたら

ミニ四駆みたいで面白くないスか!?』

 

『仕事する前から遊びの話をするな!』

 

『ウッス! すみません!』

 

「ちょっとやりたいかも……」

 

と、ピノキオがぽつりと言った。

そしてシンデレラと人魚姫が乗っかってきた。

 

「レースゲームみたいな車、動かしたい!」

 

「あ、『はばたけ! ラブリーヒール』でも

闇医者のTETSUMIお姉ちゃんが

車を運転してたです」

 

むむむ……子供たちに言われると俺は弱い。色んな体験をさせてあげたいという気持ちはあるし。

 

それに、珍しく意欲を見せたピノキオに、ライオンハートはウズウズしている。

 

『お仕事が優先!

周囲に危険がないかちゃんと調べる!』

 

と、俺は厳しい声で言った。

 

「「「はぁーい」」」

 

しぶしぶといったお返事が合唱する。

 

『……けど捜索が終わって安全が

確保できたら、ちょっとくらいなら

遊んでもいいから』

 

「「「はーい!!!」」」

 

そして喜びのお返事が合唱する。プールの授業で自由時間を与えたときの小学校教師の気分だ。

 

ライオンハートがウッドマンに「この人ツンデレっスね」と余計なことを囁いていた。

 

 

 

◆

 

 

 

『こちらオズ=シンデレラ。

工場倉庫入口、異常なし』

 

『ウッドマン=人魚姫。後ろ異常なし。

ピノキオは大丈夫ですか?

緊張したなら少し休むですか?』

 

『ライオンハート=ピノキオ、異常なし。

だ、だいじょぶ』

 

『うん。がんばるです。

それじゃシンデレラ、こっちで

バックアップするからお先どーぞです』

 

『ありがと。それじゃ行くよ』

 

俺=シンデレラが操作するドローンが地下の倉庫内に足を踏み入れた。ここは以前、俺たちがヤドカリと戦った場所だ。

 

あのときは焦ったもんだが、シンデレラの鮮やかなブレードさばきでヤドカリを撃破した。この経験からシンデレラは「自分が最強」という自信につながっている。

 

人魚姫やピノキオに対する良い意味での親分気質や姐御肌になっていて、三人の中でリーダーの風格を備えている。

 

保護者としてはその自信の高さがシンデレラ自身を追い詰めないか注視する必要はあるが、今のところ上手く回っているのだろう……。

 

と、思ったが、シンデレラがちょっと無口だ。

緊張してる……というか顔が赤い。

 

恥ずかしがっているのか?

 

『シンデレラ、どうしたんです?』

 

『え? あ、いや、なんでもないけど……。

とにかく警戒!』

 

やっぱりちょっと様子が変だ。

 

『あ、もしかしてあのとき叫んでたの

思い出してるですかぁ?

ぷぷー、今更ですよぉ』

 

あっ、それか。

 

すんごい罵倒語をヤドカリにぶつけていた。

 

しかも今のようにオープンチャンネル状態だったから味方機全員に聞こえていたはずだ。

 

「うん! すごい強そうだった!」

 

ピノキオの純朴な言葉がまたシンデレラに刺さり、顔から湯気が出そうなくらい恥ずかしがっている。

 

「やめてよーもー!

アレは思い出したくないの!」

 

「別にいいじゃないですかぁ」

 

「なんで? かっこよかったのに?」

 

人魚姫がくすくす笑う。

ピノキオは、なんで恥ずかしがっているのか純粋に理解していなさそうだ。

 

「それより、なんか面白いものあった!?

ちゃんと探しなさいよ!」

 

「はぁーい。お姉ちゃんが怒ってるから

真面目に働きましょー」

 

「はぁーい」

 

「こらっ!」

 

人魚姫のドローンが、ピノキオを連れて逃げていく。

 

『あんまり離れるなよー』

 

「わかりました……ん?」

 

人魚姫が機のない返事をした……と思いきや、急に止まった。思わず後ろから追いかけていたシンデレラのドローンがぶつかりそうになる。

 

「急に止まらないの!」

 

「……ねえ、シンデレラ」

 

「ん? どうしたの、人魚姫?」

 

普段よりもトーンの低い人魚姫の声に、シンデレラが不思議そうに聞き返した。

 

「なんか……変なのありました」

 

「変なの?」

 

シンデレラがドローンのカメラを広角にしてきょろきょろと周辺を見回す。

 

するとそこには、確かに変なものがあった。

 

ソフトボールくらいのサイズの、少し暖色が混ざった白い球体の殻が割れて5、6ヶくらい転がっている。

 

例えるならば、卵の殻。

 

いや、比喩表現とかじゃない。

まさに卵の殻そのものだろう。

 

『これがカリディアンの卵か……』

 

ウッドマンの言葉に、子どもたちに緊張が走った。たとえ本体がいないとしても、確実にその痕跡がある。

 

「かるそう」

 

「ピノキオ、いきなり触ったら

ダメじゃない」

 

「だめだった?」

 

首をこてんとひねる。

二人に比べて純朴なところがあるな。

 

「だめってわけじゃないけど……

よく平気で近づけるわね?」

 

「だってドローンだし。

それに、鳥の卵もこんな感じなのかなって」

 

その言葉に、シンデレラと人魚姫が虚を突かれたような表情を浮かべた。

 

「カリディアンも、生まれて死ぬんですね」

 

「そうね……」

 

人魚姫の素朴な言葉に、シンデレラが静かに頷いた。

 

「ねえオズ」

 

『どうした、シンデレラ?』

 

「カリディアンって、カリディアンの

高位AIみたいなのっているのかな」

 

『……わからない。

だが計画的に生み出され、戦略的に

動いている以上は統率している存在が

いる……と考えるのが自然だろう』

 

「そっか……」

 

『どうして気になったんだ?』

 

「カリディアンも導者(ロードランナー)みたいに

生まれ変わってるならいいのになって」

 

『シンデレラ……』

 

「そうじゃなきゃ、ただ戦って

ただ死んじゃうだけなんて、すごく寂しい」

 

その言葉に、心が苦しくなる。

 

お前たちは兵士だ。

 

神々に守られた輪廻で永久に生きる神話はお前たちがお前たち自身の命に意味あるものだと思わせるための、一種の宗教だ。

 

すべてが明かされた上で教えを守る信徒であることを選ぶなら、それもいいだろう。

 

何も信じずに生きられるほどこの宇宙は暖かくはない。

 

けれど上位者は欺瞞であり方便であることを理解した上で、子供らを子供らのまま使い捨てている。

 

お前たちが騙されていることが許せない。

 

お前たちがいつか欺瞞に気付いて絶望する日が訪れるかもしれないと思うと、怖くてたまらない。

 

「きっとみんな、戦った後にはどこか遠くで

幸せになってるですよ」

 

「うん……そうだよね……」

 

人魚姫とピノキオが、寂しげな顔をしながらも静かに頷いた。

 

「って、ああああーーー!?」

 

と、しんみりした空気の中でシンデレラが突然絶叫した。

 

『ど、どうした? 何かあったか?』

 

「だから棚の箱が空っぽになってるんだ!

全部こいつらが食ったのね!?」

 

「あー! そっか!

あるはずの食べ物がなくなってるですぅ!」

 

そう言えばヤドカリと戦ってるときに小麦粉の箱を銃撃し、それを目眩ましにしたおかげで有利に立ったのだ。

 

さらに言えば、ここに食料があるからこそカリディアンは孵化した後に大きく成長し、ワタリガニやマツバガニ、ヤドカリに進化した。

 

ここには食料がある。いや、あった。

 

目に映る範囲の箱の大半が食われるか、あるいは戦闘で破けるかして無惨な有様だ。

 

「あ、あたしのせいじゃないもん!」

 

「シンデレラのせいなんて言ってないですぅ」

 

「そーだけどぉ」

 

「戦闘中の映像見たけど、かっこよかった」

 

ピノキオの素朴な言葉にシンデレラが照れながらそっぽを向き、人魚姫がくすくすと笑った。寂しげな空気はどこへやら、笑い声が響くことほっと安心してしまう。

 

が、ちょっと違和感に気付いた。

 

『あれ……でも、おかしくないか?

カリディアンの卵は宇宙空間から少しずつ

投擲されて孵化したんだろう?

どうして屋内にあるんだ?』

 

俺の疑問に、ウッドマンが答えた。

 

『多分だが……ワタリガニのような

戦闘用カリディアンと、卵や幼体の

リディアンを保護して育てる保育用の

カリディアンの二種類がここに

いたのでは?』

 

『保育用カリディアン……

タイプ:ナーサリーっスね。

データ上でしか見たことはないスけど』

 

『そいつがケレス地表に投擲された卵を

確保して育てた……って感じか?』

 

タイプ:ナーサリーを戦場で見かけることはまずない。そもそも戦場に出る必要がないからだ。

 

カリディアンたちが前線基地を作ったときにごく稀に見かける程度らしい。だがその姿もまちまちで、ワタリガニのようだったりマツバガニのようだったりで、これがタイプ:ナーサリーだという確定情報がなく、公開データ上であっても噂話のレベルを出ないだろう。

 

『タイプ:ナーサリーの捜索命令とか

捕獲命令とか出されたッスか?』

 

『出てないな……。

むしろ俺たちの調査結果を報告して

タイプ:ナーサリー存在の可能性を

進言しなきゃ、命令は出ないだろう』

 

『だが、あくまで推測に過ぎない。

ここに卵の殻があった……という事実以上の

憶測をするのも危険だろう。

まず物的証拠を集めなければ』

 

『それもそうだな。

状況証拠以上のものはないわけだし……』

 

それに本音を言えば、余計な推測を交えて報告しても色々と藪蛇になるような気がする。

 

俺たちには別の目的……シンデレラたちのプレゼントを作るという計画があるのだから。

 

『何をどうするにしても、まずは調査だ。

もっと広い範囲を捜索して、他にも食料が

荒らされてないか、カリディアンが

いた形跡がないかを調べるべきだ』

 

と、会話のまとめに入ったあたりでシンデレラが嬉しそうに口を挟んできた。

 

「あ、じゃあ食べ物の調査していいんだ!」

 

『OKだ。だがこれは真面目な調査だから

気を付けてやるんだぞ』

 

「「「はーい!」」」

 

三人とも元気よく言葉を返した。

 

 

 

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