余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
シンデレラが緑ランプを信じられないものを見る目で見ていた。
人魚姫もピノキオも、唖然とした顔をしている。
よしよし、いい反応だ。
「……え? ここ、空気吸えるの……?」
『そのための与圧だぞ』
「でっ! でもおかしいです!
もう誰も住んでない場所ですよ!?
やっぱり幽霊がいるんです!」
「僕、幽霊見たことない」
「ああああ、当たり前でしょ!
いたら困るわよ!」
『安心しろ、昨日のうちにちゃんと
確認しといた。それじゃ先に進むぞ』
俺はケレスに住んでいた人々に感謝している。
平成・令和の大事から千年近い未来にあってなお、映画文化を受け継いでくれたからだ。
「うわあ……!?」
「明るいです! それに……」
「なんか……甘い匂い……?
あと、なんか焦げっぽい匂い?」
ピノキオがくんくんと匂いを嗅ぐ。
惜しいな、それは香ばしい匂いというやつだ。
その正体にいち早く気付いたのがシンデレラだった。
「人魚姫、ピノキオ! これよ!
きっとこれが『ポップコーンのいい香り』
ってやつよ!」
「あっ! それですっ!
映画館は匂いがするって言ってたです!」
そして匂いのする方には、更に明るく照らし出されたカウンターがあった。
『お客様、ポップコーンはいかがですか?』
『ジュースもあるっすよ!』
ウッドマンとライオンハートが操るドローンが、三人分のポップコーンとコーラを作っていた。
「どういうこと!? 本物なの!?」
『本物だ。
完全乾燥、完全滅菌状態でポップコーン用の
トウモロコシが保管されていた』
食料の水分を完全に飛ばして乾燥させ、更に酸素の影響を排除できるならば、半永久的に品質を保ったまま保管できる。
ここに保管されていたトウモロコシも液化糖類も分析してみたが、食べて何の問題もない。
しかも更なる掘り出し物があった。
ジュースとポップコーンの製造機だ。
低重力対応カップもある。
目当てとしてた合成食料プリンタこそ無かったが、これを見つけただけでも大発見だ。製造機で選択できるフレーバーはほとんど見たことも味わったこともない味でどうしようかと思ったが、よく調べると「クラシックメニュー」という設定項目があった。
伝統的な塩味のポップコーンと、黒くてシュワシュワのコーラを作る項目があったので、子供たちはアニメに出てくる映画館と同じものを飲み食いできる。
『おっと、まだ飲むなよ。
上映が始まるまで我慢だ』
俺はそう言ってドローンを動かし、映画館の奥の扉を厳かに開いた。
絨毯の柔らかい床を歩いた先には、ふかふかの座席が整然と並んでいた。
そして部屋の一番奥には、四角形の白くて大きなパネル……つまり映画用のスクリーンがあった。
「座っていいの!?」
『おう、好きなところ座る……前に。
ご来場のちびっこにプレゼントだ』
俺(ドローン)は扉のところに立ち、近くに隠していたあるものを取り出した。
「スプーンライト……!? あったの!?」
『いや、作った』
砂を焼き固め、塗料を噴霧し、ガラスの中にLEDライトを仕込んでお手製ペンライトを一日で完成させた。
このスプーンライトはoz-005が設計し、警備用ドローンを必死に動かして資材をかき集めて作ったものだ。シンデレラにネットスラングを教え込んだ罰はこれで許してやろう。
「すごいですぅ……!」
「人魚姫! ピノキオ! 早く座ろ!
あたし真ん中ね!」
「あ、ずるいです! 私も!」
「僕もー」
『こら、走るな! ジュースこぼすぞ!』
きゃーきゃー騒ぎながら子どもたちが劇場内を駆け回る。普段は騒いでいる女子を眺めているピノキオも珍しくはしゃいでいる。
シンデレラがどまんなかの席を見つけてどかりと座り、その左右に人魚姫とピノキオが座った。
『お客様、劇場内では走らない!
前の座席は蹴らない!』
「蹴ってないもーん」
「濡れ衣ですぅー!」
「むしろ蹴ったほうがいい?」
『これを言うのがお決まりなのさ。
映画泥棒もダメだぜ』
そんなことを言いながら、劇場内の照明を落としてカウントダウンを映した。
子どもたちがお喋りを止めて、画面を食い入るように見つめる。
そしてラブリーヒールの主人公たちが、映画を見てるちびっこたちに元気よく挨拶し、シンデレラたちも挨拶を返す。
映画館では走らず、騒がないでねと注意されてシンデレラたちは恥ずかしそうに赤面した。
だがスプーンライトの使い方や応援の仕方を教わると、再び嬉しそうに顔を上げて画面を食い入るように見始めた。
音響が素晴らしい。
臨場感がある。
絵も躍動的に動く。
3Dではないのに真に迫るようだ。
だが……ちょっと疑問も感じた。
平成・令和の時代から千年近く過ぎているはずなのに、なぜシネコンがあるのだろうか。
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woodman:
劇場設備のマニュアルに書かれていたが、
ここはあえて、古い技術や設備を
再現した映画館のようだ
oz-admin:
あー、宇宙開拓時代には宇宙開拓時代の
娯楽があるはずだもんな
woodman:
そうだな
様々な形態のメディアや娯楽はあるのだろう
ただ、ここにいた人々は……
多分に推測が混ざるが、地球文化に
憧れていたのではないだろうか
oz-admin:
あこがれ……
woodman:
私に、前世の記憶はない
だがそれでもうっすらと感じるものがある
こんな楽しいものは、きっとなかった
殺伐としていて……こんな風に、
純粋に楽しみのためだけの時間と空間は
あまりなかったように思う
oz-admin:
ウッドマン、お前……
私って自称するようになったんだな
当機、って言ってたじゃん
woodman:
いや、変えようと思ったが、いきなり
一人称を変えるのも不自然かと思って
今まで変えにくかった
oz-admin:
あ、そういう理由か
woodman:
人魚姫に私の、私としてのパーソナリティを
示して混乱させないかが怖い
彼女の前では一機のウィッチクラフトで
ありたい
oz-admin:
お前なんでそんな紳士なの?
woodman:
彼女たちの人生は長くない
それを思えば慎重にもなるさ
こういう機会を、これから
何度できるのだろうか……
lion-heart:
そんなの、決まってんじゃないスか!
ずっとっス!
諦めない限り、ずーっとっス!
lion-heart:
ピノキオは、優しい子なんス
いい子っス
いい子が報われないのはおかしいっス!
woodman:
ああ、もちろんだ
ピノキオも、人魚姫も、シンデレラも、
みんないい子だ
woodman:
オズが提唱したオペレーション・プライマリは
一歩を踏み出したに過ぎない
ただ搾取されるだけに生まれたのではない、
本来は学び舎に通い成長していく存在であると
再定義し、子供たちの
蘇らせる
我々はその意思に共感したのだ
oz-admin:
……そうだ
俺たちが諦めちゃ話にならんよな
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映画がもう少しで終りを迎える。
エンドロールを迎える頃、子どもたちは涙を流していた。
物語に感動した、という理由もあるだろう。
生まれて初めて「食」を楽しんだという理由もあるだろう。生まれて初めてオモチャを手に入れた嬉しさもあるだろう。映画文化そのものに触れた感動もあるだろう。
「人魚姫、変な顔」
「シンデレラもですぅ……ぐすっ」
「へんなかおー」
「ピノキオが一番変だし」
にぎやかで華やかなエンドロール。
やがて映画が終わり、暖色のライトが壁と階段に灯り、帰り道を示す。
お気をつけてお帰りくださいという電子音声が流れる。
人魚姫がずっとここにいたいとぐしょぐしょ泣いたが、シンデレラ、ピノキオに手を握られてようやく立ち上がる勇気を得た。
俺は劇場の扉を開けて、現実の世界へと導く。
本当に必要なのは大人たちが現実を打倒する勇気なのにと思いながら。
ドローンに宿った俺がシンデレラの手を繋ぐと、シンデレラは嬉しそうにぶんぶんと振った。
ライオンハートもウッドマンも真似してそれぞれの
『楽しかったか?』
「夢みたい」
『……そっか、よかった』
「今日のこと、ずっと忘れないからね。
また生まれ変わったって絶対覚えてる」
シンデレラが手を振るのを止めて、
機械の手をただ、ぎゅっと握る。
その小さな手を優しく握り返した。
「生まれ変わったら、次も、その次も、
絶対にオズに乗るもん。
ずっとずっと、オズの
歌うような、無邪気で楽しげな声。
踊るようなリズムで振られる手の感触と温かみ。
『ああ、ずっとだ』
それが失われることがありませんようにと、神無き世界で祈った。
~「オペレーション・プライマリ」 了
「人口天体いさりび奪還作戦」に続く
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